FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2023」。本年はアフターコロナにシフトする中で各企業に求められている「イノベーション」をテーマにお届けします。
第12回は、化粧品業界NO.1、ロレアル(L'Oréal)の日本法人 日本ロレアル ジャン-ピエール・シャリトン社長。コロナ禍で生まれた新たな需要“マスクビューティ”を追い風に、適切なタイミングで、適切な商品を消費者に提案し、日本でも外資系化粧品メーカーのトップランナーとして成長し続けている。成長へのイノベーションについて、シャリトン社長に聞いた。
■ジャン-ピエール・シャリトン(日本ロレアル代表取締役社長)
1966年3月13日生まれ、フランス・パリ出身。1989年にフランスのEM リヨン経営大学を卒業。1991年に仏・ロレアル本社に入社し、スキンケアブランド「Biotherm」でキャリアをスタート。タイ、韓国、イギリス・アイルランドのロレアル リュクス事業本部長を経て、2008年にロレアル リュクス事業本部「ジョルジオ アルマーニ ビューティ」のグローバルプレジデントに就任。2013年にロレアル アジア太平洋地域(APAC)のロレアル リュクス事業本部ゼネラルマネージャーに就任、2021年11月より現職。
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目次
“マスクビューティ”の幕開け
ー2022年を一言で振り返ると?
“歴史的”な1年でした。その理由は2つ挙げられるのですが、1つは2021年に傘下に入ったプレミアムスキンケアブランド「タカミ(TAKAMI)」の躍進です。そしてもう1つはリテールの成長でしょうか。われわれは市場の3〜4倍の速度で成長を遂げており、日本国内において“外資系化粧品メーカーNo.1”というポジションをより強固にすることができた1年でしたね。
ー“歴史的”と言えるほどの成長を遂げることができた背景をどのように分析していますか?
日本国内の化粧品市場は、インバウンド需要を除いた日本人による消費に目を向けるとコロナ禍以前にまで回復しています。これは未だ回復していない業界もある中でとても興味深いことです。回復の背景には新しいビューティ、つまり“マスクビューティ”の幕開けと定着があると思います。
ー“マスクビューティ”の定着で業界の動向がどう変わったのでしょうか?
まずは髪に意識が向いたと思います。以前よりもヘアカラーを楽しむ人が増え、それによりヘアケアの質にこだわりを持つようになりました。さらに髪色を変えると、眉の色や雰囲気、目元のメイクを変えたいという欲も生まれますよね。
またマスクの常用で肌荒れはもちろんですが、たるみも気になる人が増え、スキンケアニーズが高まったことも大きい。中でも、毛穴やニキビなどマスクの着用による新しい悩みを解決するために美容液に注目が集まりました。
ーさらにコロナ禍の変化として、“おこもり”美容から一気にフレグランスニーズが高まりましたね。
在宅勤務で自宅で過ごす時間が増えたことで、リフレッシュに香りを楽しむ人が増えましたね。マスクビューティの登場は、この3年で、過去100年にわたって変わらなかった日本の消費者の美に対する考え方を一気に変えたと思います。新型コロナウイルスの分類が5類に移行して規制が緩和されても、この3年の間に定着した習慣と、日本の方々の感染予防対策への意識の高さを考慮すると、マスクビューティのニーズは、今後も一定程度継続してあるだろうとみています。
われわれはスキンケアから、メイクアップ、ヘアカラー、ヘアケアまで、全てのカテゴリーの製品、さらには価格帯においても幅広く網羅していることで、適切な製品を適切なタイミングで提案することが可能で、市場ニーズに切り込めた。そういう意味で“歴史的”な1年になったと思います。
日本ロレアル傘下の主なブランド
・ロレアル プロフェッショナル(L’Oréal Professionnel Paris)・ロレアル パリ(L'Oréal Paris)・イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)・ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)・キールズ(Kiehl's SINCE 1851)・ケラスターゼ(Kérastase)・シュウ ウエムラ(shu uemura)・ジョルジオ アルマーニ ビューティ(GIORGIO ARMANI Beauty)・タカミ(TAKAMI)・ヘレナ ルビンスタイン(Helena Rubinstein)・プラダ(PRADA)・メイベリン ニューヨーク(MAYBELLINE NEW YORK)・メゾン マルジェラ フレグランス(Maison Margiela Fragrances)・ラ ロッシュ ポゼ(La Roche-Posay)・ランコム(Lancôme)
ーそんな中、2022年にヒットしたブランドやアイテムは?
「メイベリン ニューヨーク(MAYBELLINE NEW YORK)」、「タカミ(TAKAMI)」、「ラ ロッシュ ポゼ(La Roche-Posay)」、「シュウ ウエムラ(shu uemura)」、「ケラスターゼ(Kerastase)」が2ケタ成長となりました。製品をあげると、メイベリン ニューヨークは昨年秋に発売したマスカラ「スカイハイ」が市場でNo.1となり、品薄が生じてしまうほどのヒットを記録しています。ニキビや毛穴、角質ケアニーズの高まりによって、タカミの角質美容水「スキンピール」や、ラ ロッシュ ポゼの美容液「エファクラ ピールケア セラム」、シュウ ウエムラのクレンジング「クレンジングオイル」もコロナ禍での肌荒れに悩む人を中心に人気を集めましたね。ケラスターゼはヘアケアへの質にこだわる人が増えていることから、最高峰の「クロノロジスト」のオイルが人気です。
またわれわれもフレグランスやアロマ、ハンドフレグランスも好調でした。「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の「レプリカ」のフレグランスやキャンドル、「イヴ・サンローラン・ボーテ(Yves Saint Laurent Beauté)」のアイコンフレグランス「リブレ(LIBRE)」などが支持されていますね。
リピート率の高い「タカミ」の躍進
ー冒頭で“歴史的1年”のひとつとして、タカミの躍進を挙げられています。タカミというブランドはどんなブランドなのでしょうか?
まず、「生涯 美肌のかかりつけ」という理念を掲げた、ブランド哲学です。化粧品を購入する時、その時々のたるみやシワといった悩みに合わせて1〜2回リピートすることが多いと思いますが、タカミは30日ごとのサブスクリプションが主体のビジネスモデルを構築しています。1ヶ月に1本の定期便による継続購入率が高く、毎日スキンピールを使用しているというお客さまが多くいます。一度使うと、その機能性を実感して、継続して使っていただける、“美肌のパートナー”としての地位を確立しています。
そして前社長の岡村雄嗣氏にも、国際的な化粧品会社であるロレアルの一員として、人員や予算、リソースを提供していますが、これまでに積み重ねてきた顧客との信頼感を損なわないやり方を買収後も重視しています。グローバルの環境の中でも日本らしさを守ってもらえるように、マーケティングをある程度委ねながら、連携を取っています。彼の手腕を尊重し、日本発の化粧品会社の質にとても感嘆しています。
ータカミの今後のグローバル戦略は?
1月には中国本土に進出しました。4月までに台湾、2023年度中にはオーストラリアへも導入していきます。また、アジアのさまざまな国際空港でも展開していく予定です。
オフラインとともに成長するEC
ーECが好調です。日本市場においては、他社がEコマースに二の足を踏んでいた10年以上前に、いち早く参入し順調に拡大しています。現在の日本ロレアルのEC化率は?
コロナ禍を経て、「サービスを受けてみたい」「試してみたい」というニーズの高まりから、店頭に消費者が戻りつつありますが、それと同時にEコマースが浸透し、購入チャネルの多様化が進んでいますよね。われわれはオフラインとEコマースともにバランスよく成長させることができました。化粧品市場で2019年に5〜6%と言われていたEC化率が、2022年には18%まで伸長している中で、日本ロレアルのEC化率は37%と、市場の成長スピードを大きく上回り成長しています。
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