2021-21年秋冬コレクション
Image by: LOEWE
【特報】ロエベ ファッションショーを中止ーー(THE LOEWE SHOW HAS BEEN CANCELLED)。「ロエベ(LOEWE)」2021-21年秋冬コレクション発表日の3月5日、編集部にはこのキャッチーなヘッドラインが大きく印字された新聞が届いた。
ブランドは前シーズンの2021年春夏コレクションで「Show in a box(箱の中のショー)」と題した、箱の中に同封された生地のスワッチや型紙、レコードなどで五感を刺激する新しいコレクション発表の形を提案。数日前に発表された「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」2021-22年秋冬コレクションでも巨大ポスター19枚が大きな筒状で届くなど、クリエイティブディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は、観客を集めてのショーの開催が困難なこの時期でも、デジタル上で完結しないフィジカルなコネクションをサプライズと共に見る側に提供してくれる。そして今シーズンは、オーディエンスの対象をぐっと広げ、人々の生活に身近な「新聞」という媒体を用いて新作の発表を試みた。
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■朝の一杯のコーヒーと共に楽しむコレクション
「Show in the News(ニュースの中のショー)」と名付けられたこの発表形式。新聞は別冊として、フランスの「ル・フィガロ」や「ル・モンド」、スペインの「エル・ムンド」、ロンドンの「ザ・タイムズ」、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」など名だたる世界の新聞社のほか、日本では「朝日新聞」の朝刊に挟み込まれ、同時多発的にそれぞれの読者へ届けられた。読者の属性上、ファッションはもとよりロエベというブランドを知らない層も少なからず一定数はいるはず。この一連のプロジェクトは「『今』の記録としての機能を担う日刊紙という物質性な存在感を与えることで、人々が新聞を手に取り、ページをめくりニュースの中のファッションを知る」という考えのもと、ジョナサンが試みた大規模な実験のようにも見える。新聞の一面はロエベを知らない人にもわかるように、コレクションについて、ブランドの成り立ちやジョナサン・アンダーソンについて、ルックが撮影された場所やスタイリスト、フォトグラファーなどの情報が事細かく記載され、とてもインフォマティブな作りになっている。
ブリキ缶の中に入った新聞(英字版と日本語版)。冊子は一部の都内朝日新聞購読者に同梱されたほか、オリジナルのタブロイドはロエベ 表参道店、CASA LOEWE TOKYO店、ロエベ 渋谷PARCOで配布している。(無くなり次第終了)
読み物としての完成度も高い。冊子の中にはアメリカ人ベストセラー作家ダニエル ・スティール(Danielle Steel)による新小説「The Affair(情事)」の第一章を収録。ファッション界の最有力誌の一つ〈モード・マガジン〉に25年間在籍し続ける伝説的な編集長ローズ・マッカーシーという架空の人物が主人公のフィクションノベルで、ストーリーもさることながら、組み立て式のミニ冊子は付録感覚で楽しむことができる。
どこかで聞いたことのありそうなキャラクター設定だが、4人いる娘の末っ子の夫が浮気をしているという情報を聞きつけ、娘を心配するところで<続く>続きが気になる...。
同封されたジョナサンからの手紙には、「理想的には、朝の一杯のコーヒーと共にお楽しみいただければ」の一文が。新聞を読むという多くの人のモーニングルーティンにコレクション発表を絡めたことは、「ファッションはニュースである」というジョナサンの持論と、ファッションをシリアスに捉え過ぎず、ある種楽観的なマインドで楽しんでほしいというジョナサンからのメッセージにも思えてくる。今回のユニークな発表形式について、紙面では下記のように説明している。
ファッションは文化の一部であり、それ自体がポップカルチャーでもある。 多くの場合オンラインやソーシャルメディア上で示されるそれらのイメージは、しかしながら儚いものでもある。それとは逆に、手で触れる新聞の物質性は、ファッションのファンタジーに物理的な存在感を与えるだろう。あなたは新聞を手に取り、ページをめくる。ここであなたが目にするのはニュースの中のファッションであり、ひとつのファンタジー。願わくば、これがあなたに夢見る時をもたらさんことを。
■ファッションは次のページへ>>
一面の最後、大文字の「ファッションは次のページへ」の見出しに誘われるままページをめくると、1ページに1ルックずつ、31のコレクションルック(正式には45)が掲載されている。小説の内容は直接ブランド(コレクション)に関係ないとのことだが、ローズ・マッカーシーという人物像が自然とルックに登場するモデルの姿と重なってしまう。(小説の中で彼女はすでに60代後半であることが判明しているのだが)小説の冒頭、彼女についてこんな記述がある。
エレガンスが身に沁みこんだ人。(以下省略)ふだんの服には黒が多かったものの、ときおり鮮烈な彩りで周囲を驚かせた。並の人間には逆立ちしても真似のできない着こなしだった。朝の九時に―もちろん九時でなくても―登場する彼女の装いのパーフェクトさときたら。オフィスに着いた瞬間にぱっちりと目覚めて弛たゆみなく、その明敏な動きは一日じゅう止まることがない。
もしルックの彼女がローズ・マッカーシーだったら......。もしこれが彼女が作る〈モード・マガジン〉のファッションエディトリアルだったら......。なんて想像するだけでも楽しいものだ。
■「過去のロエベの枠組みからの脱却」
今シーズンは斬新な色の配置や組み合わせ、素材やシェイプまで視覚的にインパクトのあるアイテムが揃い、ジョナサン自身「過去のロエベの枠組みからの脱却を図った」というほどのコレクション。幾何学的なモチーフをベースに、波線と直線、角と曲線、そして流動性と固さという相反する要素を交え、キルティングやプリント、インターシャ、ジャカードなどで表現している。
ブルーやピンク、イエローの斑がカラフルなパッチワークジャケットは、今コレクションの中で色の主張が最も強いピースだ。肩をすっぽり覆うフリンジ付きのボレロに合わせたのは、ギザギザのカラーパネルが目を引く立体的なアシンメトリースカート。
撮影はこれまでにブランドのキャンペーンなどを手掛けてきた日本人アーティストFUMIKO IMANOが担当。撮影パリのガール・ド・リヨンの駅構内にあるレストラン、ル・トラン・ブルーやホテル・デ・ラ・パイヴァ、ロエベのパリ本社などで行われた。 M/M (PARIS)がエディトリアルデザインを担当した。
バックルに布を通したギャザーが特徴のトップスは、本コレクションで繰り返し登場するデザインで、生地を弛ませたり、締めたりすることでボリュームやシルエットを自在に操る。そして裾にビッグフリンジを取り付けたスエードジャケットとパンツ。服のパーツや装飾であるバックルやフリンジを拡大させ、再び服に取り入れることで不思議でユニークな印象を与える。
昨シーズンにも登場した円のモチーフは引き続きシャツのフロントに大きく描かれたり、ボリューミーなキルティングコートのスリーブとして披露された。アイテムはどれもグラフィカルで遊び心に溢れている。
■遊び心をさらに加速させるアクセサリー
ローファーとソックスがドッキングしたようなトロンプルイユ風のウェッジブーツは、ドレスにもパンツスタイルにも幅広く使えそうな一足。ブラック×ブラック、ブラウン×ブラック、イエロー×ブラック、ホワイト×ブラックなどバリエーションも豊富。また、ギャザーやバックルなどウェアと連動したヒールやブーティーは、コレクションに統一感をもたらしている。
バッグはカラフルな「パズル」やXLの「フラメンコ」が披露され、色やサイズが新たにラインナップに加わったほか、新作ではアナグラムがポイントのシンプルなスクエアのフラップバッグ「ゴヤ」が登場。また、1975年に誕生した定番の「アマソナ」はアナグラム ジャカードやナッパカーフスキンの素材で、コーディネートにクラシックで上品なムードを添えた。
「アマソネ」バッグ
円形のスターリングシルバー製のパーツとレザーを組み合わせた大ぶりのアクセサリーは「ブレスレットバッグ」。手首にボリューミーなアクセントを与え、バッグとの合わせ技は手元への視線を一気に引き寄せるほどのインパクトを放っていた。
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