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歩けない怪我からウォーキングシューズ開発、キーン「WK400」のソールが曲線の理由

KEEN「WK400」

Image by: FASHIONSNAP

KEEN「WK400」

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歩けない怪我からウォーキングシューズ開発、キーン「WK400」のソールが曲線の理由

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 「キーン(KEEN)」では、市場にない新しいプロダクトを“ソリューションモデル”と位置付けている。創業モデルで不朽の名作として知られるファーストソリューションの「ニューポート」、靴作りの方法をゼロから見直して完成したセカンドソリューションの「ユニーク」。これらに続くサードソリューションとして初のウォーキングシューズ「WK400」が発売された。最大の特徴は、曲線を描いたソールで、シューズの表現としては耳馴染みがない「転がるような」履き心地という点。「ウォーキングをより楽しいものにできないのだろうか?」という考えから製作されたWK400の開発秘話に迫る。

 キーンの歴史は、2003年に多くのスニーカーブランドのOEMを手掛けてきた創業者のローリー・ファースト(Rory Fuerst)が「サンダルは、つま先を守ることができるのだろうか?」という疑問からニューポートを発明したことでスタート。パフォーマンス性が求められず、安価で楽なフットウェアとして親しまれていたサンダルに靴のディテールを取り入れ、ハイブリッドフットウェアという新たなジャンルを生み出した。ニューポートは汎用性と安全性の高さから高い人気を得ており、固定観念にとらわれず、自問を続けるモノ作りはブランド創設から20年が経った今でもキーンのDNAに刻まれている。2013年に誕生したユニークもその一つで、これまでに存在しない、全く新しいフットウェアを生み出そうとローリー・ファーストの長男ローリー・ファースト・ジュニア(Rory Fuerst Jr.)が開発した。ユニークは「インターロッキングコードシステム」という2本のコードを編み上げて形成する特殊なデザインのアッパーが特徴。足を曲線的に保護するこのアッパーは足の動きに合わせて変形する特性から、平面の素材で形成する従来のシューズのアッパーに比べて優れたフィット感を有するほか、製造過程において余分な素材が発生しにくいといった面もある。

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 今回発売されたWK400は、ユニークと同じくローリー・ファースト・ジュニアによって開発された。誕生のきっかけは、趣味のスキーを楽しんでいた際に半年以上も歩けないほどの大怪我を負ったことからスタートしている。長いリハビリ生活で外出できない日々が続いたことで気が滅入り、生気を失ってしまった同氏は、歩行ができるようになり、リハビリも兼ねて屋外を歩き始めた際に、「重苦しい霧が晴れ、人間らしさを手に入れることができた」と感じたという。こうした経験から“歩くこと”の大切さを実感し、多くの人に歩く喜びを知ってもらおうと「ウォーキングをより楽しいものにできないのだろうか?」という考えのもとウォーキングシューズの開発に取りかかった。

黄色のウォーキングシューズ

 開発において、物理学と環境科学の博士号をもつ友人のチーロ・フスコ(Ciro Fusco)と共に“歩行”を科学的に掘り下げたところ、生体力学的実験室の研究の過程で、人は歩く動作の際に足が自転車のペダルを漕いでいるような一定の弧を描いていることを突き止めた。弧を描く歩行動作をよりスムーズにするため、平らなソールではなく特許出願中の「キーン・カーブ(KEEN.CURVE™)」テクノロジーを発案。カーブを一定に保ちながら足の着地から蹴り出しの動きにおける左右のブレを抑制するナイロン製のプレートや、高反発とクッション性を両立し、歩行時の快適性と推進力を向上させるミッドソールなどを組み合わせたもので、これによって歩行時のエネルギー効率を最適化して“転がるような”歩き心地を実現した。ソールの曲線は半径400ミリメートルの円に沿うデザインで、一般的な歩行サイクルにおいてエネルギー効率を最大限活用できる円の大きさだといい、その数値を商品名にも採用している。

歩行サイクルを描いた図

歩行サイクルで上下の重心移動を表した図。赤色の点線の上下が小さいほど効率が良いとされている。

 また、ミッドソールに搭載されているプレートは、ナイロン製を使用している。昨今話題の厚底ランニングシューズでは、反発性を高めるためにカーボン素材を使用したプレートが搭載されていることが多いが、歩行による着地の圧力ではカーボンプレートによる効果が期待できないため、歩行時のスピードに最適なナイロン製にし、推進力ではなく足のブレを抑制するサポートとしての役割を強めた。ナイロンプレートは、ミッドソール全体ではなく靴の中心部のみに配置。人によって足の着地フローや体重をかける箇所にバラつきがあるため、多くの歩行パターンに対応できるよう外周に余白を残した。

靴のソール断面図

ミッドソールに搭載しているナイロンプレート。

 アウトソールは、アウトドアブランドの強みを活かしてトレッキングシューズと同様のラグの深さで製作。舗装路だけでなく、様々な路面に対応する。また、新品のタイヤに付いている「スピュー」のようなヒゲをあしらっており、タイヤと同様に数キロメートル歩くことで削れてなくなるという遊び心あるデザインも取り入れた。

靴の底
靴の底

 アッパーは通気性に優れたエンジニアードメッシュを使用。キーンのシューズは、前足部を大きめにしたゆとりのあるデザインが多いが、WK400では歩きやすさを重視した新しいアスレチックフィットを開発し、甲の高さが親指から小指にかけてなだらかに低くなる足の形でより適したフィット感を提供するため、シューレースを斜めに配した。

黄色のウォーキングシューズ

 ローリー・ファースト・ジュニアの怪我をきっかけに開発されたWK400だが、近年人気のリカバリーアイテムではなくウォーキングシューズとして製作。その理由は、アクシデントがあった際の回復するまでの期間に用いられることが多いリカバリーでは、利用者が限定されてしまうと考えたためだ。多くの人に“歩く楽しさ”を感じてほしいという思いから、普段の移動をはじめとする“歩行”にフォーカスし、日常に寄り添ったアイテムとして展開している。

 こうして完成したウォーキングシューズについて、キーン・ジャパンのマーチャンダイザー中込敦志氏は「コロナを経た日本の市場にもマッチするだろう」と予測する。スポーツ庁が発表した「スポーツの実施状況等に関する世論調査」で「ウォーキングを実施している」と回答した人の割合はランニングやサイクリングを抑えて最も多いのに対して、矢野経済研究所による「スポーツシューズ市場に関する調査」の国内出荷数量推移ではウォーキングシューズはコロナ前への戻りが鈍いことなどから、シェアを広げる余地があると判断したという。特に20〜30代などの若い層がコロナ禍での健康意識の高まりからウォーキングを始めた割合が高い中で、日本ではウォーキングシューズが高齢層向けに展開されていることが多く、デザイン性などの観点からランニングシューズやカジュアルシューズで代用していると分析。キーンの既存顧客で得意としているターゲット層の20〜40代にアプローチすることで、市場の獲得を見込んでいる。

キーンのウォーキングシューズ
キーンのウォーキングシューズ
キーンのウォーキングシューズ

ユニセックスカラー

 実際に販売を開始すると想像以上の反響で、2022年春に発売した厚底のトレイルシューズ「ネクシス(NXIS)」と比較して約2.5倍の売り行きだという。メンズ2色、ウィメンズ2色、ユニセックス2色の計6色を展開しており、メンズはユニセックスで展開しているキーカラーのイエローが最も人気で、ウィメンズはユニセックスも合わせた4色が均等に売れているそうだ。中込氏は「市場分析はしたものの、初のウォーキングシューズで半信半疑だったが、想像していたよりも多くの人に興味を持っていただいたのは自信に繋がった」と話す。今後は素材やカラーなどのバリエーションを増やしていくほか、ウォーキングイベントも積極的に行う予定で、開発者のローリー・ファースト・ジュニアが感じた“歩く楽しさ”を知ってもらうきっかけになることを願っているという。

靴のタン

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