新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わるビューティは、若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマに、トップ及びキーマンにインタビュー。第7回は花王・カネボウ化粧品の村上由泰・花王 常務執行役員 化粧品事業部門長/カネボウ化粧品 代表取締役社長。「サステナブルな経営は私たちの存在意義」と語る村上社長に、ビジネスの足元の状況を踏まえ、2社の強みを生かしたブランド構築とサステナビリティへの取り組みについて聞いた。
■村上由泰(花王 常務執行役員 化粧品事業部門長/カネボウ化粧品 代表取締役社長)
1986年4月花王株式会社入社。2011年3月に花王マレーシア President&CEOを務めた。2018年1月にカネボウ化粧品の代表取締役 社長執行役員、2020年に花王の常務執行役員に就任し、2021年1月から現職。
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花王とカネボウの強みを融合したブランド戦略
ー2021年1月に花王とカネボウ化粧品の化粧品事業体を一体化させ、ブランド主体に再編しましたが、その狙いは?
まず2018年1月にカネボウ化粧品の社長に就任し、花王の化粧品事業とカネボウ化粧品両方を統括することになりました。組織再編については当初からの構想で、4年目の昨年にようやく実現することができました。
ひと昔前は、百貨店のカウンターや化粧品専門店の売り場などで、お客さまは化粧品ブランドをメーカーで選ぶことが多かったと思いますが、昨今はインターネットの普及によりそれも大きく変化し、個々のブランドが直接お客さまとコミュニケーションを取り、関係性を築いています。例えばですが、「エスト(est)」や「ケイト(KATE)」、「スック(SUQQU)」を、花王やカネボウ化粧品、エキップのブランドだから購入する、という方は少なく、今はブランドを重視し、商品を手に取っていただく方が多いと思います。そう考えると、花王、カネボウ化粧品の名前を前面に出していくのではなく、個々のブランドを尊重し、お客さま一人ひとりの個性と多様性に寄り添うブランドに育てる必要があります。今回はブランド作りをより強化するために、ブランドを中心に据え組織再編をしました。
ー再編で取り組みたいことは何でしょうか?
花王は長年培ってきた高い技術力を持っており、一方でカネボウ化粧品はアイデアや企画力に長けています。これを掛け合わせて、サイエンス的な理性の部分と感性的な部分の両方を活かした面白い事業体を作る。簡単なことではないが、果敢にチャレンジしています。
グローバル戦略ブランド「G11」
・センサイ(SENSAI)・アールエムケー(RMK)・スック(SUQQU)・エスト(est)・カネボウ(KANEBO)・アスレティア(athletia)・ソフィーナ iP(SOFINA iP)・モルトンブラウン(MOLTON BROWN)・ケイト(KATE)・フリープラス(freeplus)・キュレル(Curel)
リージョナル8ブランド「R8」
・トワニー(TWANY)・リサージ(LISSAGE)・アルブラン(ALNLANC)・プリマヴィスタ(Primavista)・ミラノコレクション(Milano Collection)・デュウ(DEW)・アリー(ALLIE)・メディア(media)
事業パーパスは「Celebration of Individuality」
ー再編で力を入れた理性と感性の融合とは?
昨年、化粧品事業部門のパーパスとして「Celebration of Individuality (一人ひとりの人間を、その生き方を、讃える。)」を掲げました。花王とカネボウ化粧品が融合して、例えば白と赤が混ざってピンクになるのではなく、白と赤を駆使して固有の21色(グローバル戦略ブランドG11とリージョナル8ブランド、2つのメイクブランド)をつくりたいという思いがあります。その中でひとつ留意したことは、新しい事業体の風土や文化をいかに構築するか。社員がいかにワクワクできるかがカギです。
ーそのために行ったことは何でしょうか?
まず社内的なことで言えば、リアルとデジタルで2つの「Play Park」をつくりました。リアルでは、本社オフィスに商品を展示するスペースといったギャラリー機能や自由にミーティングなどができるフリースペース、卓球台などリフレッシュできるような場が揃うフロアを導入し、誰もが自由に出入りしてコミュニケーションが取れるようにしました。デジタルでは、美容部員を含む1万人以上いる社員全員が閲覧・参加できるイントラネットを作り、そこで会社のさまざまな状況・情報を把握できるようにしました。化粧品事業の全社員が繋がることで、彼らが同じ方向に向かって動く。このサイトには美容部員の方からのアクセスも良く、非常にうまくいっていると思います。
また商品開発の分野でも“交流”しています。これまでカネボウ化粧品のブランドの開発を担当していた人が花王の化粧品ブランドを担当する、また逆もあります。これまで培った得意分野をもう一方で発揮し、苦手なところを吸収することで、新しい商品が生まれていく。良い例としては、ケイトの「リップモンスター」ですが、これはカネボウ化粧品の感性と花王の技術が融合した商品で、さらにデジタルにおけるUXをうまく構築したことで爆発的な人気を獲得しました。今後、こういったことを積極的に進めていきます。
サステナビリティ・廃棄の削減は「輪を広げる」ことが重要
ーサステナビリティにおいては、これまでさまざまな取り組みを加速しています。化粧品事業で特に重要視していることは?
環境面では、廃棄をいかに減らせるかが課題です。大量に納品して、売れ残りは返品を受け廃棄する、セルイン重視のビジネスモデルは、化粧品業界の改善すべき課題とも言えます。カネボウ化粧品はメイクアップカテゴリーが強く、メイク商材の比率が高い。メイク商材はトレンドに左右されやすいので在庫の問題が大きく、だからこそ、われわれが率先してその課題に取り組まなければならないと考えています。
ーどういったことを行っていますか?
ブランドで例を挙げれば、G11のモルトン ブラウンの取り組みがあります。同ブランドはサステナビリティの水準が高いヨーロッパ発のブランドで、ヨーロッパ内では容器回収・リサイクルプログラム「ループ(Loop)」に参加し、使用水量を大幅に減らせる水耕栽培のハーブも使用しています。日本では、2020年12月からバス&ボディとハンドの容器を、50%再生PETを使用したボトル容器に切り替えを進めております。2021年4月には、バス&ボディ、ハンド、ヘアケアのコレクションにおいて、ホテルアメニティに新タイプのディスペンサーを採用したことで、ホテル側は年間1万8250本以上の包装容器(137kg)に相当するプラスチック廃棄物を削減することが可能となるなど、サステナビリティの取り組みが進んでいます。こういったことが他ブランドに波及することを期待しています。
ールナソル(LUNASOL)では、1年前からルック提案を春夏秋冬の年4回から年6回の独自サイクルに変更しました。このことがサステナに繋がっていますか?
メイクアップは旬の提案が大切ですので、年6回と定期的に新提案を行ないつつ、シーズンごとに売り切りを目指し廃棄を減らす努力をしています。加えて、eコマースの先行販売も重要な仕組みで、先行発売することで人気の色や商品の動向を分析、本発売に向けて生産数を調整しています。サステナビリティが重視される時代になり、取引先の方々も大量廃棄を減らそうという考えに賛同、協力してくれています。こうやって仲間を増やしていくのが、廃棄を減らす第一歩です。
ーテスターや販促物の削減にも力を入れていますね。
ありとあらゆる部分で廃棄の削減・リサイクルに取り組んでいます。2021年では、店頭テスターの廃棄削減ということで、売り場のQRコードを読み取ると、AR機能を活用したデジタルテスター体験ができる仕組みをKATEで導入しました。こういった取り組みは、他のブランドにも徐々に応用していきたいですね。環境に配慮した素材選びは当然進めていくべきことで、例えばトワニーでは化粧品プラスチックボトルの水平リサイクルにむけた取り組みを進めています。
ー仲間を増やすということで言えば、コーセーとのサステナビリティ領域における包括的な協働は、国内化粧品メーカー大手同士のタッグで大きな注目を集めましたが、進捗は?
サステナビリティ推進で社会をより良くするには1社では限界があります。仲間を増やせば効率的に進められ、結果的に業界全体の良い流れにできる。コーセーさんとの取り組みはその先導として、今年さまざまなことを発表できると思います。
ー例えばどういったことが可能ですか?
例えば、環境に配慮した素材を複数の企業で活用すれば、より負荷は減らせます。
【両社の協働の内容例】
・環境保護および循環型社会の実現に向けた取り組み
→包装容器への環境配慮素材の導入、資源循環/アップサイクル施策の共同推進、環境負荷の少ない原料調達
・社会課題の解決に貢献する取り組み
→スキンケアやUVケアなどの啓発活動および、美容分野で多様な美を尊重した啓発活動の共同推進、連携など
ーサステナビリティ推進とビジネスの拡大の両立は難しいと言われます。御社の考えは?
サステナビリティの推進は、当社の化粧品事業の存在意義に繋がると思っています。世の中には素晴らしい化粧品が沢山あります。その中で、単に商品を作って売るだけであれば、私たちが存在する必要はないのではないでしょうか。社会への還元を含めて事業を行うことが存在意義であり、グループとして取り組むのは当たり前と捉えています。ただ、先ほども言いましたが、環境負荷の削減といった地球規模の大きな問題に直面すると、われわれたちだけでは限界があり、コーセーさんのような仲間を増やす必要があります。
ー実際に、足元の状況はどうでしょうか?
コロナから早く脱却した中国が好調で、ヨーロッパの成長率もとても良い。ヨーロッパはモルトンブラウンやセンサイを中心に、イギリスのロックダウンの緩和もあった中で、「ピンチをチャンスに」とeコマースを強化したことにより、OMOが加速し好調です。中国は敏感肌向けのキュレルやフリープラスにおいてeコマースを強化し、業績を牽引しています。
一方で日本は厳しい状況です。緊急事態宣言が解除された10月以降の第4Qに期待していましたが、第5波もあり思っていたほど市場が回復していないのが現状です。ただ、当社では、明るい材料として、厳しいと言われるメイクアップで、ケイトが好調でした。先ほど述べた爆発的なヒットとなっている「リップモンスター」や、マスク生活において少しでもメイクが楽しめるような仕掛けのあるマスク、ケイトらしいハイカバーのファンデーションなど。これらは、商品そのものに加え、デジタルをうまく活用したマーケティングによる他にはないアイデアも奏功しており、良い事例となりました。
【花王 2021年12月期 連結決算(2021年1〜12月)の業績】
・売上高 1兆4187億6800万円(前期比2.7%増、実質0.3%増)
・営業利益 1435億1000万円(同18.3%減)
・親会社の所有者に帰属する当期利益1096億3600万円(同13.1%減)
化粧品事業
・売上高2393億円(同2.5%増、実質同0.6%減)
・営業利益75億円(同51億円増)
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