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挨拶がわりの忌野清志郎 「カナコ サカイ」の核は湿度を含んだ重さと相反する陽気さ

Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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挨拶がわりの忌野清志郎 「カナコ サカイ」の核は湿度を含んだ重さと相反する陽気さ

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 東京コレクション開催において、最初に盛り上がりを見せるのは参加ブランドの発表だろう。今回の「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S」に華を添える面子が発表された際に「知らないブランドが増えた」と、複数人がこぼしているのを耳にした。東京コレクションの夜明けとも言われている1985年から約40年が経ち、参加した若手デザイナーたちの実力が発揮され、多くのブランドが国内、ひいては世界で活躍していることを考えれば、新たなブランドが循環し、新陳代謝が良くなったと捉えることもできる。何も悲観的に捉えることはない。そんな中、今回フィジカルショーのトップバッターを務めたサカイ カナコは、ショー終了後に「東京コレクションのオープニングセレモニー」という名目で挨拶を求められた。彼女は、マイクを渡された瞬間「みなさん。初めましての人も、そうじゃない人も、サカイと申します。ショー、どうでしたか?」と投げかけた。明るい口調で、緊張するそぶりもなく、明確に自己紹介の意思を持って登壇したデザイナーは初めてだったように思う。

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 勝手ながら、過去の「カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)」のルックを眺めながら「ブランド初となる今回のショーは気を衒った演出はなく、実直でクリーンなものになるだろう」と想像していた。だからこそ、会場に足を踏み入れた時に、暗闇の中でランダムに照らされる色とりどりのディスコライトと爆音のダンスミュージックに、面を食らってしまったのは筆者だけではないはずだ。往年の洋楽ダンスナンバーが流れる会場は、海外のナイトクラブすら思わせる(サカイが海外在住経験があることを考えれば尚更だ)。

Video by FASHIONSNAP

 客入れの段階で、明らかに会場の雰囲気が変わったタイミングが二度あった。一度目は、忌野清志郎がフロントマンを務めるRCサクセションによる「よォーこそ」がBGMとして流れた時。それも、ライブ音源を用いているため、当時の拍手やコール&レスポンスがそのまま会場を包む。それまでの客入れBGMが往年の洋楽ダンスナンバーだったこともあり、忌野清志郎の声が「ここは海外のナイトクラブではなく、日本であること」を思い出させてくれる。二度目は、清志郎の演奏が止み、一瞬の静寂が訪れた後に小鳥の囀りが聞こえてきた時だ。

 正直に言えば、爆音で鳴り響くディスコナンバーやロックミュージックと、大自然を思わせる小鳥の囀りは対極に位置するもので、観客はこれから始まるショーをどのような気持ちで見ればいいのかと困惑しかねない。ただ、サカイが冒頭で触れた挨拶で「JFW NEXT BRAND AWARD」のグランプリを受賞したことへの感謝でも、自身初となったショーを振り返った感想でもなく「初めまして、私はサカイカナコです」と真っ直ぐに名乗ったことを思い出せば、彼女は客入れの段階から、ディスコを彷彿とさせるフロアで彼女の陽気で明るい性格を、忌野清志郎のライブ音源で初めて行うフィジカルショーに足を運んだ人への「ようこそ」という気持ちと、日本発である自身のブランドの精神性を、大自然を思わせる小鳥の囀りで「プリミティブなもの」から着想を得たブランドのアティチュードを表現していたと考えるのが自然だろう。サカイは、客入れの段階から「知らないブランドが増えた」と溢す人々に向けて、丁寧に自己紹介を行ってくれていたのだ。サカイが我々を歓迎する気持ちは、ルックにも登場した様々な言語で示される「welcome」という文字で表れている。

 ランウェイには、サテンやラメニットなど全体的に光沢感のあるアイテムが多く登場した。ファーストルックに登場したイエロージャケットは、艶のある生地感と繊細なレースが相まり、照明が当たる角度では限りなくホワイトに見え、昼下がりの木漏れ日を思わせる。モデルが歩くと揺れるフリンジやピアスは煌めく水面を、ハリのある生地を深い緑で染め上げたワンピースは深く濃い海を、暖かみのある赤やしっとりとしたベージュを用いたアイテムは紅葉や落葉を彷彿とさせる。ランウェイ直前に、川のせせらぎや小鳥の囀りを聞いたことも相まって、そのどれもが普段何気なく目にしている自然の一部のように感じたのだ。不思議なことに、それらは海外生活で目に映るカラッとした空気の中に佇む自然ではなく、湿度が高い日本らしい風景を思い出させる。

Image by: FASHIONSNAP(Koji Hirano)

 話は横道に逸れるが、日本人が描く風景画を含む絵画は、どちらかと言えば空気中の水分量の多さを思わせる「重さ」を感じさせる一方、西洋人が描く風景画は乾燥した空気を思わせる軽い質感のものが多い。写真においても、光量や空気に含まれる水分量による屈折の違いからか、日本人が映す風景写真はどこか黒や緑が深く出る傾向がある。同じ海を撮影したとしても、日本人の目を通して生み出された作品はどこか水気を含んだ重さを見る者に感じさせるケースは往々にしてある。

 絵や写真の芸術作品のように、カナコ サカイのコレクションからは、日本らしい湿度を感じさせる。それらは艶やかさとは異なり、西洋発のブランドではなかなか捉えることが難しい「日本らしさ」だ。カナコ サカイの「湿度」や「重さ」を際立たせるのは、サカイ自身が日本全国の産地に足を運びオリジナルで開発した生地の良さだろう。日本で湧く水のほとんどが布作りに適した軟水であることも加味すれば、水が生み出す重さがクリエイションに影響するのも頷ける。今回のコレクションで言えば、元は着物の帯に使われていた貝殻を横糸に使用した透け感のあるコートや、腰から裾にかけて綺麗に広がるAラインシルエットパンツのとろみも、程よい重さをアイテムに与えている。

 サカイが作り上げるアイテムには、日本らしい湿度を含むが、冒頭で触れたカラッとした挨拶やインタビューの受け答えから察するに、明るく陽気な性格なのだろう。この陽と陰が同居しているのが、カナコ サカイらしさなのだと彼女は我々に示した。

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KANAKO SAKAI 2024年春夏コレクション

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