ADDICTIONクリエイティブディレクターKANAKO
Image by: TOSHINORI SUZUKI(Point of Action,Inc.)
“今の「アディクション(ADDICTION)」の魅力は?”と聞かれたら、迷わず「突き抜けるほどの抜け感とラグジュアリー、気まぐれな遊び心」だと答える。絶妙な“透け感”と発色、プロのテクニックの組み合わせでこれを叶えているのが、アディクション クリエイティブディレクターのKANAKOさんだ。ニューヨークを拠点に、マガジンやキャンペーン、バックステージと多岐にわたり活動しているKANAKOさんがブランドに加わってから5年。世界のトップクリエイターたちとのコラボレーションで培ったセンスを、日常的にも、ドレスアップにも使えるアイテムに落とし込む彼女の器量に、毎シーズン心を躍らせるファンも少なくないはず。どんな“キレもの”かと思いきや、実際に話してみると、自然体でラフな雰囲気を持っているのが彼女の魅力。「過酷な撮影も絶対にあったはずなんだけど、終わったらすぐに忘れちゃうんですよね」とチャーミングに語る。そんなKANAKOさんが、卒業後ニューヨークに渡り、キャリアを重ね、そしてアディクションでの5年。これまでどんな出来事があったのか、彼女のお気に入りの場所だという葉山で取材した。
目次
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卒業後は“待ちきれずに”渡米、バイト先での出会いがインターンにつながる
ーーまずは、メイクアップアーティストになったきっかけを教えてもらえますか?
私は九州の出身なんですけど、子どもの頃は完全に運動音痴でインドア派。学生の頃に「ジッパー(Zipper)」を読んでいたらバンタンの広告を見つけて、メイクの仕事って楽しそうだなって思って入学を決めました。当時は具体的にこれになりたい!って強く思ってたわけではなくて、「楽しそうだな」が1番でした。当時はメイクアップアーティストの方々の名前もよく知らなかったですし、ハイファッションについても全く知識がありませんでした。
ーーそれは意外ですね。現在は世界のトップクリエイターたちと仕事をしていますが、そういうシーンに興味を持ったきっかけはなんですか?
入学してから、「ヴォーグ(VOGUE)」などのモード誌やラグジュアリーブランドのキャンペーンを見るようになって、「あ、自分はなんとなくこっちだな」って感じるようになったんですよね。でも、「これかっこいいな」と思ったクリエイティブでも、今ほどすぐに調べられない時代でしたから、友達に聞いたり、クレジットを見てみたりして蓄積していきました。色々みていくうちに、自分が興味があるのは海外のシーンだなってなんとなく考えるようになっていました。在学時に、友人がアワードの複勝としてニューヨークの「Art and Commerce(ニューヨーク拠点の芸術プロダクション)」に研修で行って、そのお土産でピーター・フィリップス(Peter Philips/現ディオール メイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクター)のポストカードをくれたことがあったんですけど、そういうのを見て、「いつかピーターに会ってみたいな」と呑気に思っていたような学生でしたよ。私の友⼈たちのほとんどがピーターのアシスタントに⼊ったことがあるのですが、結局私はアシスタントをする機会はなく独り⽴ちしてしまったんです。でも、憧れの存在は憧れのままでもいいのかなと今では思います。
ーー卒業後の進路はどうでしたか?
今思うと完全に勢いだったんですが、誰かのアシスタントや美容室に所属せずに、2007年に卒業して、少し準備をしてから2008年にニューヨークに行くことにしました。基本的にせっかちで、一般的な卒業生のルートとしてある美容室やメイクさんのアシスタントを何年かやって、海外に行って、海外で誰かのアシスタントになって......っていうのが待ちきれなかったんです(笑)。前々からニューヨークのシーンに興味があったし、いつか行くぞと考えてはいましたが、事前に細かく計画を立てていたわけではなくて。「行っちゃえ」っていう気持ちが大きかったです。
ーー思い切って渡米したんですね(笑)ニューヨークでは“今最も世界で有名と言っても過言ではない”パット・マクグラス(Pat McGrath)のインターンを経験していますよね。
これは本当に偶然の出来事でした。たまたま私がアルバイトをしていたイーストヴィレッジのお店に、当時パットのアシスタントをされていたMimi Imanishiさんがいらっしゃったんです。学⽣時代に彼⼥のインタビュー記事で読んだことがあったことを伝えたところ連絡先を交換させていただくことになりました。その後に何度かショーのお⼿伝いに声をかけていただきました。ある⽇、朝の5時くらいに電話が鳴り、「今⽇撮影に来るはずだったアシスタントが来れなくなったから、来れない?」と聞かれ、現場に向かったことも。そうやって何度かチームに参加しているうちに、パットのオフィスに⾏く機会が増えて物の場所や仕様が分かるようになってきて。タイミングよくアシスタントが⼊れ替わる際に、声をかけていただきインターンとして1年間お世話になりました。その後にアシスタントさせていただくことになるヤディム(Yadim Carranza)にパットのチームで出会うことができたことが私のキャリアにとって⼤きな財産となる⼀つの出来事ですね。
パット・マクグラス
1990年代に「i-D マガジン」のファッションディレクター エドワード・エニンフル(Edward Enninful)とのシューティングで知名度を上げ、数多のファッションショーのバックステージやセレブのメイクを手掛けた。SNSでの発信にもファンが多く、2015年にローンチした自身のコスメブランド「PAT McGRATH LABS」は世界中のコスメ好きを唸らせる。2019年にTime誌の「最も影響力のある100人」に選出され、2021年の新年の栄誉で大英帝国勲章のデイム・コマンダーに任命。
ヤディム・カランザ
故郷であるサンディエゴでキャリアをスタートさせ、2004年にニューヨークへ渡る。フォトグラファーのマート・アラス&マーカス・ピゴット、イネズ&ヴィノードなどとのコラボレーションのほか、数々のラグジュアリーブランドでのキャンペーン、モード誌のシューティングに参加。アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)が率いた「グッチ(GUCCI)」でのキャンペーンなどでも知られる。
ーー偶然の出会いとはいえ、“思い切り”がなければ得られないチャンスだと思います!
いいタイミングが重なってラッキーだったなと思います。「楽しそうだな」「やってみたい」って感じたことは直感に従うというか、逃さないようにしている気がします。
「楽しいことしかしたくない」から「辛いことはすぐに忘れる」
ーーパットのインターンの後、ヤディムの元に行くことはすぐに決まったんでしょうか?
すぐにというわけではないですね。パットのインターンをやめて2、3ヶ⽉ほどグッチ・ウェストマン(Gucci Westman)やアーロン・デ・メイ(Aaron de Mey)、Mark Carrasquilloなどさまざまなメイクアップア ーティストのアシスタントのトライアウトをさせていただいた中で、その間にヤディムの現場にも数回⾏かせていただき、ヤディムが⼀番若⼿でエネルギッシュで⾒ていて楽しいなと思いました。⼀緒に働かせていただいと伝えて、そのまま4、5年ほど⼀緒に働くことになりました。 ヤディムはチームのメンバーに対してリスペクトがあり、アシスタントをしながらも⾃分の仕事も受けていいと⾔ってくれたおかげで、⾃分が独⽴を決めたタイミングでも、すでに⾃⾝のポートフォリオを充実させることができていました。
ヤディムのアシスタント時代(真ん中がヤディム)
ーーヤディムの元で学んだことで印象的だったことはなんでしょうか。
とにかくたくさんのことを彼から学びました。オンセットでの振る舞い⽅や作り上げたものを壊すことに躊躇しない姿勢。フレキシブルにどんな状況も対応する⽅法と⼼の持ち⽅。彼の アシスタントとの向き合い⽅も⼤好きです。ショーのヘアメイクテストや撮影の準備では、最初にテーマや⽅向性の指⽰を受け、ルックを作ってみてと丸投げされます。私が仕上げたメイ クにヤディムのメイクチェックをするんですけど、「ここ、いいね!」と何かを褒めた後、「今回はもう少しこういうテイストにした⽅にしようかな」とアイデアを与え修正してくれていました。その彼の⼀⼿間で⼀気にヤディムのメイクだ!って変化するんです。その修正の仕⽅を⾒ることで私⾃⾝の技術がどんどん上がっていきましたし、それをさせてくれるヤディムは本当に寛⼤な⼈だなと独り⽴ちしてさらに実感しました。 技術を学ばせていただいたこともですが、彼の現場でたくさんの⽅々と出会うきっかけととなり、その出会いが私のキャリアを創り上げているので感謝しても仕切れないです。
ーー独立されてから、2017年の「Dazed 100」や2018年の「BoF 500」に選出されるなど着実にステップアップしている印象です。数々の現場を経験してきたKANAKOさんから見て、シューティングとファションショーのバックステージはどんな違いがありますか?
私にとっては全くの別物です。両⽅ともチームでビルドアップしていくのは同じですが、撮影は都度調整しながら作り上げていくことができます。ライティングや細かい部分を⽌めながら確認し修正していく⼀⽅、ショーは時間が限られていて、リハーサルで全員のモデルの顔をランウェイのライトの下で確認できずに本番を迎えないといけない。何度経験しても、ショーの⼤⼩に限らず、いつもVOGUE RUNWAYのウェブサイトで写真を⾒るまでドキドキしてしまいます。それから、ショーの場合は基本的にはデザイナーとスタイリストが服の⾒え⽅や世界観についてイメージを伝えてくれたり、ムードボードを⾒せてくれたりするので、そこから意図やテイストを読み取っていく作業になります。そういう時のメイクは⾃我というより、ブランドとして描きたいものを助⻑させるために何ができるか、こんなルックがいいんじゃないかと⼀緒に進めていきますね。
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