2025年秋冬コレクション
Image by: JIL SANDER
クリエイティブディレクターに就任して以来、「ジル サンダー(JIL SANDER)」の地位を確固たるものにしたルーシー・メイヤー(Lucie Meier)&ルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻。ソリッドな素材使いとコンテンポラリーなシルエットを得意とする両氏のクリエイションは時代に愛され続けてきたが、2025年秋冬で契約は終了となり、メイヤー夫妻のジル サンダーとして最後のコレクションとなった。
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ジル サンダーの歴史は、ドイツ出身のジル・サンダーが1968年にドイツ・ハンブルグに、ブティック「ジル サンダー」をオープンし、ジル サンダー社を設立したところから始まる。1973年に、パリファッションウィークに進出してデビューを果たし、1985年に活動拠点をミラノに移行。ジル・サンダーの無駄を削ぎ落とし素材やカッティングを引き立てる「装飾のないデザイン」は、シンプルの先にあるミニマルの次元まで衣服を押し上げ、多くの人を魅了した。その後、ミラン・ヴィクミロビッチ(Milan Vukmirovic)、ラフ・シモンズ(Raf Simons)、ロドルフォ・パリアルンガ(Rodolfo Paglialunga)がクリエイティブディレクターに就いた後、メイヤー夫妻が率いることとなった。2017年4月のことだ。
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メイヤー夫妻の「ジル サンダー」と言えば、随所に見られるプロダクトクオリティへのこだわり。ファブリックファーストで、主に上質なイタリアや日本のテキスタイルを用いてきた。中でも、恐らく日本の尾州で作られたものであろう目の詰まった硬質なウールギャバジン地のコートやジャケットは人気の商品で、定番化されている。
自然や職人技を思わせる色使いと有機的なシルエットで、ミニマリズムに新しいニュアンスを加え、無機質ではなく、感情や温かみを感じさせるエモーショナルな服作りが両氏の特筆すべき点。近年のジル サンダーのキャンペーンヴィジュアルの作りを見ても明らかだが、メイヤー夫妻は血が通いづらいミニマルなデザインに、時代の感覚に左右されるファッション性をしっかり担保してきた。
真摯なプロダクトへの向き合いがある一方、メイヤー夫妻はさまざまな新しい試みにも挑戦してきた。2018年には、月曜日から日曜日まで、1週間のライフスタイルに合わせてさまざまなシャツを纏うことをコンセプトにした「7 DAYS SHIRTS COLLECTION」をローンチし、2019年秋冬シーズンにはメインコレクションを補う新ライン「ジル サンダー+(Jil Sander+)」を立ち上げ。ジル サンダーとして強化ポイントであったアクセサリーカテゴリーも、ハンドメイドストラップが付属する「タングル(TANGLE)」やアイコンバッグ「カンノーロ(CANNOLO)」が人気を集めるなど、着実に売り上げを伸ばしてきた。
功績をあげると枚挙に遑がないメイヤー夫妻だが、2025年秋冬コレクションショーを最後に、クリエイティブディレクターから退く。最後のジル サンダーで、両氏が表現したものは、美しく、華やかで、洗練されたものでありたいという優しい願いだった。
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Image by: JIL SANDER
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Image by: JIL SANDER
ピンクのライトに照らされた会場に、英国のDJ Benji Bによって再構成されたサウンドとボイスが流れてショーがスタート。黒を中心カラーにストラップレスドレスやトレンチコート、ラップスカートなどに黒いフリンジをあしらった一連のルックが続き、衣服全体に施された鋼のスタッズやアイレット、そしてブラック、ホワイト、レッドに染まるポインテッドトゥのシューズやブーツなどで深黒の中に浮かび上がる光を表現した。これは、メイヤー夫妻が「闇という、今日の時代に浸透するような色合いを、光へと変えること、その輝きを手に入れるよう私たちを誘うこと」を意図したもの。終盤ではボタニカル柄が黒へとグラデーションで変わるデザインを取り入れ、光と闇の対比をより鮮明に表現。また、艶があり滑らかな梳毛ウールのジャケット、一方でソリッドで硬さのあるロングコートなど、ファブリックファーストによる高品質な素材使いは今季も健在で、レザーやフェイクファーをあしらったアイテムもあった。一見、パンクが着想源と思われるアイテムの数々は、タフタやシルク素材のドレス、リボンをあしらったワンピース、レースを用いたスカートなどで情緒を加え、相反するもの、異なる質感と触感の間に生じる緊張感を描いてみせた。
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約8年、ビジネス、クリエイション両面でジル サンダーの発展に貢献してきたメイヤー夫妻は今後、まだ小さい子どものためを想い、さまざまな国を転々とする計画があるという。引く手数多の両氏の動向にも注目しつつ、まだ発表されていないジル サンダーのクリエイティブディレクターの後任についての続報を待ちたいところだ。
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