Image by: 横堀良男
東南アジアの最新情報を綴るコラム「ジャラン ジャラン アジア」。1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごし、契約バイヤーのほか、ポップアップショップ、展示会出展、ファッションショーの代理店などを行う横堀良男氏が現地の情報をレポートします。
(文・横堀良男)
今週はシンガポールにいます。いよいよあっちこっちへ渡航できるようになりました。先週末、前にも紹介したシンガポールの空港に併設されたモール「Jewel Changi」に行ってきたのですが激混みでした。人口が600万人に満たないこの国に、コロナ前は人口の3倍以上となる年間1900万人の観光客が来ていました。それが復活しつつあるわけですから、そりゃあ混むわけです。
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空港に併設されたモール「Jewel Changi」のアイコニックな滝の周りではたくさんの人が写真を撮っていました。
◇ ◇ ◇
先週、「ユニクロ(UNIQLO)」がシンガポールの旗艦店にリペアサービスやリメイクサービスを提供する「リ・ユニクロ スタジオ(RE.UNIQLO STUDIO)」を開設したというニュースを見ました。2020年9月に始動した不要になったユニクロの服を回収し新たな価値を与えるプロジェクト「リユニクロ(RE.UNIQLO)」の一環で、シンガポールでの本格展開は初めてだそうです。
このニュースを見て、ふと何故シンガポールなのだろうかと疑問を持ちました。私は「サステナブル」といえば、フィリピンのブランドが浮かびます。フィリピンのサステナブル事情についてはまたの機会にご紹介しますが、シンガポールのファッション市場はサステナブルな取り組みをしているイメージがありません。
もちろん、コンビニやスーパーでエコバッグを推奨したり、余計なプラスチック包装をなくしたりと、日本でもよく見るような取り組みはあります。しかし、ファッションの分野ではサステナブルについての話を聞いたことがなかったので、友人たちに聞いてみることにしました。
すると、私が一緒に仕事をしているセレクトショップでインターンをしている大学生の女の子が「ちょうど今そのレポート書いてますよ!」と声を掛けてくれました。彼女の名前はKatさん。大学の課題で「サステナブルな取り組み」というテーマでレポートを作っているそうです。そんな彼女は、シンガポールのサステナブルなファッションブランドとして2つのブランドを教えてくれました。
1.Our Second Nature
素材にリサイクルのコットンやリネンを積極的に使っている若い世代に人気なファッションブランド。ウェブサイトが一般的なブランドと違い、オウンドメディアのようなページ作りで、それがZ世代にウケているそうです。特にこのジャーナルのページが素敵です。
ショップにも行ってみました。「Great world」というモールにの1階にショップがあります。Great Worldモールは、シンガポールの銀座・オーチャード通りをはじめ、シンガポールのど真ん中からバスですぐに行ける距離なので住むには最高で高級住宅街にあるモールです。ショップの外観はシンプルでクリーンなイメージ。隣にはユニクロが出店しています。お客さんは近辺に住んでいるらしき地元のお金持ち&駐在さん達という印象。日曜の午後にショップに行ったのですが混み合っていました。
シンプルでクリーンなイメージのショップ外観。
2.Rye
Ryeは力強い女性像をコンセプトに掲げているファッションブランドです。ショップの場所はボタニックガーデン(シンガポール植物園)の駅前のクリュニーコート(Cluny Court)という小さな商業施設にあります。ショッピングエリアからは少し外れたところにありますが、とても良い立地です。昔から裕福な層や、外国人が多く住んでいるエリアだそうで、実際に行ってみたらほとんどが外国人でした。
リサイクルコットンなどは使っているそうですが、このブランドはサステナブルなことを売りにしているわけではありません。ただ、ロゴ入りのウォーターボトルが、サステナブルなことに関心を持つ人たちから密かに人気を集めているそう。このブランドが掲げる女性像に共感し、ウォーターボトルをアイコン的に持つ女性が増えているみたいです。
どちらのブランドもサステナブルな取り組みをしているところを売りにしてるわけではなくて、ファッション性とサステナビリティを上手く共存させているところが支持されているようです。それができていないと今の市場には合わないのかもしれないですね。
もう一つ、面白い話を聞きました。それが「サステナブル・テクノ・パーティ」です。え?サステナブルテクノ?
新しい音楽ジャンルかと思いましたが、古着のフリマやワークショップがあるクラブイベントだそうです。カフェに集まって、受付で25ドル(約2500円)を支払って、アルコールやスナックを飲み食いしながら古着のフリマをワイワイ楽しむそうです。ちなみに今月は10月なのでハロウィン。古着を自分でリメイクしたり、不要なものを再利用したユニークな仮装で来てね!と言われているそうです。
イベントの告知。
サステナブルについてのレポートを書いている彼女の話を聞いてわかったのが、新しいブランドや小さな企業は徐々にサステナブルな取り組みを始めているみたいです。ただ、やはりシンガポールのファッション業界で大きなサステナブルな取り組みはまだまだ少ないのが現状です。
シンガポールは他の東南アジア諸国よりもメディアが多いですし、進んでいる印象を持たれることが多いです。そう考えると、あくまで個人的な見解ですがユニクロの取り組みは東南アジア全体に向けた布石なのかもしれません。シンガポールで展開することで他の東南アジア諸国にも情報が発信され、良い印象を受けることでしょう。
◇ ◇ ◇
シンガポールのファッション業界では、リサイクル生地を開発したり、土に還る素材を作っているなどといった話を聞くことがありません。しかし、生地を分解してもう一度糸にするフィリピンの再生素材や、インドネシアのマッシュルームレザー(きのこから作るレザーような風合いの素材)に投資するといった話はよく聞きます。シンガポール発のサステナブルな取り組みを増やすことよりも、海外のサステナブルな動きをフックアップして東南アジア全体へ発信することがシンガポールの役目なのかもしれません。
日本はサステナブルな素材開発やモノづくりに取り組んでいる企業をよく見かけます。そういった企業は、デジタル発信や活用が得意なシンガポールで展開することでより大きなサステナブルな取り組みになるチャンスがあるかもしれませんよ。
東京都江東区出身。高校在学中からアパレル業界で働き始め、 その後、アッシュ・ペー・フランス株式会社に入社。27歳で若手ブランドの営業代行業、showroom SIDEを設立、代表に就任。 32歳で海外進出、現在は1年間の3分の2以上を東南アジア諸国で過ごし、契約バイヤーとして活動。 日本からアジア・アジアから日本のポップアップショップ、展示会出展、ファッションショーの代理店も行う。
■コラム「ジャラン ジャラン アジア」バックナンバー
・vol.1:そうだ、東南アジアで生きていこう。借金抱えて自分探しの旅
・vol.2:高級モールは世代交代?ジャカルタのアシュタはなぜ成功したのか
・vol.3:なぜ東南アジアでは合同展示会が少ないのか
・vol.4:イスラム教徒のファッションは?人気の新興3ブランドも紹介
・vol.5:シンガポールのストリート事情、人気のブランド紹介
・vol.6:業界人はここに行くべき!シンガポールのおすすめスポット
・vol.7:実は進んでる?フィリピン マニラのファッション事情
・vol.8:夏休みに東南アジアに行く方法
・vol.9:インドネシアの三越?最も歴史のある百貨店がリニューアルしたので行ってみた
・vol.10:海外進出のヒント?インドネシアで寿司を食べてみた
・vol.11:ECで稼ぐならインドネシア?
・vol.12:インドネシアのECを後押ししたスーパーアプリとは?
・vol.13:4日間で8万人が来場、インドネシアのポップアップショップについて
・vol.14:ジャカルタは全盛期の裏原宿?主催者なしのファッションウィーク
・vol.15:3年ぶりのシンガポール、コロナと円安で感じた変化
・vol.16:メイドインジャパンは強みじゃない
・vol.17:お酒やDJも 行政法人主催のイベントに参加してみた
・vol.18:インドネシアのユーズド市場、レコード人気はシティポップからシブヤ系に
・vol.19:ジャカルタで珍しいオシャレ古着のお店「フトラマ」に行ってきた
【最新話はこちら】
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