Image by: Olivier Baco
"エンジニアリング"というワードは、近年のファッション業界でときどき目にする言葉だ。例えば、イェ(Ye)ことカニエ・ウエスト(Kanye West)の「YEEZY GAP ENGINEERED BY BALENCIAGA」や、「A-COLD-WALL*(ア コールド ウォール)」のサミュエル・ロス(Samuel Ross)による「SR_A engineered by ZARA」などがそうだ。工学に根ざしたテクノロジーを指すこの言葉は、イッセイ ミヤケ社が打ち出すメンズレーベル「アイム メン(IM MEN)」にも当てはまる。
「アイム メン」は、2020年に休止した「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」の後を継ぐメンズブランドとして、2021年に創業者 三宅一生の構想を基に立ち上げられた。「男性のための新しい日常着」をコンセプトに、三宅の服作りの根幹にある"一枚の布"という思想を発展させた構造や、環境に配慮した素材使いなどが特徴だ。デザインチームの中核をなす河原遷、板倉裕樹、小林信隆の3人は、それぞれエンジニアを自称している。
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"一枚の布"という概念は、三宅一生が服を作り始めた当初からあり、イッセイミヤケを象徴する言葉となっている。イッセイ ミヤケが1973年にパリで初めてコレクションを発表してから50年以上経った今、同じコンセプトのもとにまだ新しい表現を生み出すことができるのだろうか。
これまでは展示会ベースだった「アイム メン」だが、2019年から5年にわたりパリメンズでコレクションを発表し続けてきた「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」に代わり、初のランウェイショーを行った。会場は、パリ6区のレフェクトワール・デ・コルドリエ(REFECTOIRE DES CORDELIERS)。中に入ると、白い空間の中に、黒い大きな正方形のパネルを持ったロボットアームがふたつ鎮座している。これは、アーティスト吉岡徳仁による特別な仕掛けのようだ。
Image by: Thomas Adank
ロボットアームが動き出し、ショーが始まった。ファーストルックは、白いドレープに包まれた僧侶のような出立ちだ。織物の端すらも切り落とさない“一枚の布”でできており、風をきるように歩くと空気をはらんで膨らんだ。遠目から見ても、素材の軽さが伝わる。パッド入りの素材でさえ非常に軽く、空中に浮いているようだった。ロボットアームの機械的な動きや、黒い正方形のオブジェとしての硬さは、衣服の持つしなやかさと対照的に見えた。
素材の探求は、イッセイ ミヤケ・ブランドの使命である。100%植物由来のナイロン、パンチング加工を施したウルトラスエード、人工ムートンなど、多くの素材がエコロジカル。それらのいくつかを手がけた「東レ」は、1963年に三宅一生がカレンダー用に衣装を制作して以来(それは三宅の初めてファッションの仕事だった)、長きにわたるパートナーシップを築いている。"一枚の布"ゆえに、切れ端すらも出ないピースもあり、残布が発生しないという点もサステナブルだ。
"一枚の布"だからこそ、ユニークな形が生まれ、プリーツ加工は新しいシルエットを作り出す(パンツのバリエーションは特筆したい)。ボタンをとめる位置を変えたり、ジップを開閉することで、フォルムが変わり、機能も変わる。素材が衣服として生き、テキスタイルの美しさが伝わってくる。ペールトーン、テラコッタ、ダークグリーンなど、色の出し方も見事で、裂織や絣といった伝統的な技術もモダンに取り入れられていた。すべてはエンジニアリングされたプロダクトでありながら、無機質で温もりに欠けることはなく、感覚に訴えかけるものがあった。
Image by: Frédérique Dumoulin-Bonnet
Image by: Frédérique Dumoulin-Bonnet
Image by: Frédérique Dumoulin-Bonnet
Image by: Frédérique Dumoulin-Bonnet
ショーの翌日からは、同会場にて一般入場可能な特別展示「フライ・ウィズ・アイム メン(FLY WITH IM MEN)」が開催された。このエキシビションは、"一枚の布"が衣服になるための構造や、生地の生産背景などが展示され、ブランドのクリエイティブな意図を伝える上で、ショーと同じくらい重要なものだった。それだけに、ショー終了直後にこの展覧会を見ることができたなら、ショーはまた違った印象を与えただろう。従来のランウェイではなく、新しい発表形態を模索してもいいのかもしれない。"新しい日常着"をエンジニアリングするこのブランドが、これからどのようなクリエイションへと発展を見せるのか楽しみだ。
展示会の様子
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