FASHIONSNAPの新春恒例企画、経営展望を聞く「トップに聞く 2024」。アフターコロナにシフトした状況下で各企業に求められている「イノベーション」をテーマにお送りする。
第7回はGU 柚木治社長。2023年8月期でも大幅な増収増益を記録するなど好調を続ける同社は、ニューヨーク・ソーホーにアメリカ初のポップアップを出店中。更なる成長とグローバル化を目指す企業のトップが語る、ワールドワイドで支持を得るために必要なこととは何か。
■柚木治
1965年生まれ。一橋大学卒業後、大手商社などで経験を積んだのち、ファーストリテイリングに入社。事業開発部長やマーケティング担当執行役員などを経て、2010年より現職。ジーユーの社長に就任後、圧倒的な低価格を実現した「990円ジーンズ」を発売し大ヒット。昨年はニューヨークに商品本部を立ち上げ、グローバルブランドへの成長を牽引している。趣味はライブ鑑賞。
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NYのポップアップが好評、入場制限も
ー2023年はどんな一年でしたか?
コロナ禍が本格的に明けて人々のファッションへの関心が高まったことで、会社としても非常に手応えを感じた一年でした。
―昨期の業績やトピックスについて教えてください。
2023年8月期通期でいうと、売上収益が前期比20%増の2952億円。営業利益は同56.8%増の261億円と、大幅な増収増益です。9月にはニューヨークに商品開発拠点を立ち上げるなど、ブランドのグローバル化も推し進めました。日本だけではなく世界的なマストレンドを研究して、より多くのお客様に支持していただける商品の開発を意識してきたつもりです。
ーニューヨーク・ソーホーに長期のポップアップショップをオープンしてから約1年。手応えは?
今は非常に好調ですね。ソーホーという地域の特性上、現地の人以外にもファッション好きの若い観光客が集まってくれることもあり、週末には人数制限をかけているほどです。でも実は、スタート当初はあまり売れ行きが良くなかったんですよ。お客様が期待していた商品と提案した商品にズレがあったり、求められるサイズ感が日本と欧米では全然違ったり。そこで、大急ぎでMDを見直して、2023年春夏シーズンからはフィットも欧米向けに作り変えました。そういった試行錯誤が現在の好調に繋がっているんだと思います。
ーニューヨークで支持されている要因は?
トレンドをしっかりと押さえていて、実用性と機能性を兼ね備えながらある程度の品質を担保し、手に届きやすい価格帯で提供しているブランドというのがニューヨークにはこれまでなかったみたいです。低価格のブランドは他にもありますけどね。生地や縫製の丁寧さはもちろん、例えばパンツだったらドローストリングが裾についていて2通りのシルエットで着用できるなど、アイテムとしての着こなしの幅といった部分もジーユーは評価していただけています。
ー顧客の呼び込みはどのようにして行ったのでしょうか?
ほとんどが口コミでの来店です。フラっと入店して安いから買ってみたら良かったとか、ギフトで渡したら喜んでもらえたから自分も買うようになったとか、そういった口コミがSNSでも多く見られました。ポップアップのスタート当初はジーユーを知っているアジア人のお客様がほとんどでしたが、今では幅広い人種の方が手に取ってくれていて、客層の偏りもなくなってきました。
ジーユーがニューヨークに出店中のポップアップストアの外観
Image by: GU
ーポップアップを通してジーユーの現地での知名度が上がった実感は?
もちろんスタートする前と比べたらブランドを知る人は増えたとは思いますが、元々がほぼゼロからのスタートだったので、まだ満足できるレベルではないですね。ここからどうやって知名度をさらに引き上げていくかがニューヨーク展開の1つの課題になると思います。
ー日本と欧米では市場の傾向や求められるものが違うので難しい部分もありそうです。
一番の違いは服に関する文化でしょうね。日本人は「体型を隠す」という考え方が根底にあるんですが、欧米の人は「体型は隠さない、出すところはしっかり出す」といった考え方なので、真逆なんです。それでもこれまでは日本市場に合わせた商品展開をしていましたが、今後は海外で売ることも考えてグローバルなマストレンドを捉えた商品ラインナップに変えていこうと。今展開している2024年春夏シーズンから軌道修正を開始していますが、グローバルの流れを意識したコレクションは日本人の目にも新鮮に映っているのか、売れ行きは上々です。
ー欧米で受け入れられるファッションの共通項は?
欧米に限らず日本も含めた世界的な傾向として、今求められているものはコスパですね。今はどこもインフレで物価が高いので、服ばかりにお金を使えない。でも、コロナ禍を通して品質や着心地が良い服へのニーズは高まっているので、より厳しいお客様の期待に合致する商品を提供することが至上命題になっています。もちろん簡単なことではありませんが、そのニーズに応えられる商品を提供できれば一気に世界的シェアを獲得できる可能性があるので、ジーユーにとってこの流れはむしろチャンスだと捉えています。
ー展開地域に合わせてローカライズしていくのではなく、ブランド全体のMDを変えていく?
展開する国によってアイテムを作り分けることは今のところ考えていないですね。でも、作り分けないから各市場を分析する必要がないという訳ではなく、全ての地域の人に喜んでもらえる服を作るためにそれぞれのニーズをしっかり把握することが重要だと考えています。
例えばニューヨークやソウルの人は寒い土地柄もあって習慣としてフードを実際に被るので、被った時のシェイプをすごく気にしますが、そのニーズを満たすために作ったフードのシルエットが綺麗なアイテムは、フードを被る習慣のない日本人にとっても「良い商品」だと言えますよね。アイテムの完成度を極限まで高め、全ての市場のニーズを満たす服を作ることが我々のゴールです。サイズだけは骨格が違うのでどうしてもチューニングが必要ですが。
ー国内だけでも安定して利益を上げていますが、海外進出は国内にはないリスクもあるのでは?
グローバル戦略についてはリスクだとは全く考えていないですね。逆に、日本に閉じこもって何もしないことこそ一番のリスクだと思っています。当たり前ですが世界は繋がっているので、ワールドワイドに良い物を作ってビジネスをしていかないといつか日本でも勝てなくなる。だからニューヨークにも開発拠点を置いて、今後は現地で常設店のオープンも検討していきます。
ー姉妹ブランドのユニクロは2023年8月期で海外の売上が国内を上回りました。ジーユーが国内を上回るような海外売上を作るために必要なことは?
大きく2つあります。1つは商品をグローバル化すること、もう1つは人材をグローバル化することです。まず商品のグローバル化ですが、これは先述したグローバルなマストレンドを捉えた商品を展開していくという話ですね。
人材のグローバル化については、今いる日本人社員にもっと海外で活躍してもらうということが半分。もう半分は日本人以外の社員を積極的に採用するということですね。現状中国や台湾、香港で新卒採用を開始しており、アメリカでも近い将来開始する予定です。そういった方々に自国で活躍していただくだけではなく、他国に出向してもらう機会を増やし、ジーユーをよりワールドワイドなブランドとして成長させていきたいと考えています。
シーインやコンビニも台頭 低価格ウェア市場でどう戦うか
ー低価格かつトレンド路線をいくブランドでは「シーイン(SHEIN)」が国内外で勢いを見せています。
特に意識はしていないです。ジーユーはアイテム数を絞り込んだ上でデザイン、品質、実用性と価格のバランスで世界一を目指していて、そこに自信を持っています。
ーファミリーマートの「コンビニエンス ウェア(Convenience Wear)」もファッションショーを開催するなど話題を集めています。
ビジネスモデルとしては面白いと思いますね。ただ、コンビニエンス ウェアでは比較的ベーシックなアイテムを単体で訴求しているのに対し、ジーユーはスタイリングで着こなしを提案しているので、こちらも競合に当たるとは考えていません。今我々がすべきことは、自分たちのやり方でお客様に求められる服を届けることしかないと思っています。
ー2020年に立ち上げたGUのコスメブランド「フォーミーバイジーユー(#4me by GU)」の進展がありませんが、コスメカテゴリーの今後の計画は?
コスメ事業は2021年秋冬シーズンを最後に生産を終了しており、今のところ再始動の予定もありません。2020年に立ち上げた時も「何事も挑戦」とトライアル的に始めたのですが、我々が考えていたほどコスメに対してお客様のニーズが確認できなかったというのが理由です。ジーユーは価格と価値のバランスを強みにしているビジネスモデルですが、コスメに関してはお客様にしっかりと満足いただける品を提供できなかった。少なくとも今はまだ準備不足、実力不足だなと考えています。今後もアパレル一本でやっていくかどうかは現時点では分かりません。
ー原材料の高騰や円安などで値上げに踏み切る企業も多いですが、値上げの予定は?
現在値上げの予定はありませんが、原材料や為替の相場に応じて適切に判断していく方針です。もちろんお客様にお買い求めいただきやすい価格で提供することを最優先して、市場における競争力や優位性を維持、強化していきたいと思っています。
ー過去には「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「ビューティフルピープル(beautiful people)」といったデザイナーズブランドとのコラボレーションを実施してきましたが、2024年の新たなコラボプロジェクトの予定について聞かせてください。
今のところ(1月26日時点)お話できることはないのですが、2024年も我々が携わらせていただくことで新たな価値を発掘できるようなブランド、コンテンツと積極的にコラボレーションは実施していく予定です。楽しみにしていてください。
目指すはユニクロ、都市部への出店強化で国内店舗数大幅増へ
ー2024年のファッション市場について、柚木社長の考えを聞かせてください。
上向きだと思いますよ。Y2Kのような自己主張強めのスタイルが定着して年齢関係なく盛り上がりを見せているのもありますし、カジュアルストリート一辺倒だったところからよりファッショナブルなものを求めるトレンドに変わってきているようにも感じる。アウトドアとタウンユースの融合みたいな流れもあるし、外出やイベントも増えてきているのでファッション業界全体としては良い方向に向かうのではないでしょうか。
ーユニクロが古着販売事業をスタートしましたが、サステナビリティもますます重要になってきそうです。
無駄な服を作らない、捨てないということはマストですね。とはいえ、ビジネスである以上一定数は生産しなければならないので、顧客から中古の服を回収してクリーニングして販売するとか、リサイクルを進めるとか、服から服への循環を活発にして環境負荷を減らすという機運が更に高まるでしょう。消費者の視点でいうと、服をたくさん買わずに少ない点数を上手く着こなして楽しむといった考えを持つ人が増えるかもしれません。
ー消費者のサステナビリティへの意識は強まっていると感じますか?
そうですね。国内外問わず、特にZ世代はその傾向が顕著です。服には自分を表現できたり、着ていて笑顔になれたりと内面を豊かにする力がありますが、おそらく若い世代はサステナブルな服でないと内面の豊かさを感じづらくなっているんだと思います。だから今後は「安くて品質も良く、トレンドを押さえていてサステナブル」といったあらゆるニーズに応えられる服を届けていく必要がありますね。
ーサステナビリティ関連でいえば、ジーユーもファーストリテイリンググループとして難民キャンプに古着を送るなどの取り組みを行っていますよね。
そのほかジーユー独自の取り組みでは、2024年に入って「みらいこども財団」という財団法人と協業して、ジーユーの店舗で回収した古着を児童養護施設で暮らす子どもたちに届けるイベントを実施しました。ただ古着を寄贈するだけではなく、服を店舗のように綺麗に陳列しジーユーのコーディネートアドバイザー「おしゃリスタ」にサポートしてもらうことで、ジーユーと子どもたちが一緒にお店で服を選んでコーディネートするような体験を提供することを心がけているんです。こういった経験を通して、少しでもファッションを好きになってもらえたらいいなと。子どもたちに親しみを持ってもらうよう、社員は全員ニックネームでイベントに参加しています。
ーちなみに柚木社長のニックネームは?
僕は「ゆってぃ」です。任せるとどんなニックネームをつけられるか分からないので、自分で考えました(笑)。
ー「ゆってぃ」、可愛らしいお名前ですね(笑)。ジーユーの話でいうと、2024年はどんな1年になりそうですか?
足固めの1年になりますね。これから本格的にアメリカ、中国、香港、台湾への出店を増やしていきたいので、今年はそのための準備や市場研究を進めることになると思います。
ー今後は国内よりも海外での展開を重点的に考えていく?
いえ。もちろん市場規模で言えば国内より海外の方がずっと大きいのでグローバル化は進めていきますが、現在の国内店舗数が約430店舗。ユニクロは国内に800店舗以上あるので、同じくらいまでは増やしていきたいと考えています。特にチャンスがありそうなのは都市部。例えば、東京の山手線沿いにはジーユー店舗がある駅がほとんどないので、こういったロケーションを含め出店を強化していきたいです。柳井さん(ファーストリテイリング グループ 柳井正代表取締役会長兼社長)からも「ジーユーはユニクロと同じか、それ以上に大きくなるチャンスがある」とお言葉をいただいているので、最終的にはユニクロと同程度のブランド規模まで成長することを目標にしています。
ー責任と重圧のある立場だと思いますが、仕事を楽しむために必要なことを教えてください。
自分のモチベーションを見つけることですね。私の場合は、アイデアとチームワークの掛け算で「世の中をあっと言わせる」ことをやりがいにしています。あとは、適度にリフレッシュすることも大切です。
ー柚木社長のリフレッシュ方法は?
ライブに行くことです。最近だとBLACKPINKやユーミン(松任谷由実)、ビリー・ジョエル(Billy Joel)など公演に行きましたし、明日はKing Gnu。来月(1月26日時点)はテイラー・スウィフト(Taylor Swift)のライブに参加します。楽しみですね。
(聞き手:村田太一、伊藤真帆)
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