「普通」になるまで挑戦し続ける 本当に良い古着屋を求めて。下北沢 sowhat vintage編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第6回

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「普通」になるまで挑戦し続ける 本当に良い古着屋を求めて。下北沢 sowhat vintage編
【連載】本当に良い古着屋を求めて 第6回

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自分らしいファッションとの出会いを探して、人気古着店のオーナー・名物スタッフをたずねる連載「本当に良い古着屋を求めて」第6回。
全国屈指の古着の街である東京・下北沢。自分だけの一着を求めて若者たちが全国から集まり、インバウンド客でも賑わう下北沢駅から徒歩3分という立地ながら、どこか長閑な空気が漂うのが、古着屋「ソーワットヴィンテージ(sowhat vintage)」だ。2020年頃からの古着ブーム以降、古着屋が増え続けている下北沢において、ソーワットヴィンテージの品揃えは異彩を放っている。古着屋というものの、店内に服は一点も見当たらない。取り扱っているのは帽子と花器だけである。なぜ、このような古着屋が生まれたのか。オーナーの加藤太郎さん、佳純さん夫妻に話を伺った。
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以前は煮込みシチューが名物の洋食屋があった物件に店を構える
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目次
古着に魅了されて出会ったふたり
東京都清瀬市生まれで野球少年だった太郎さんは、高校生のときに本格的にファッションに目覚めた。当時、絶大な人気を集めていたファッション誌「チョキチョキ(CHOKiCHOKi)」のストリートスナップで頻繁に登場していた「インパクティスケリー(Inpaichthys kerri)」や、「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」、「ツータックス(2-tacs)」などのブランドを、埼玉県・川越のセレクトショップ「トゥエルブ(twelve)」で購入するようになった。この3つのブランドに共通する要素が「古着」である。ブランドのルーツを辿るように、太郎さんも古着に惹かれるようになり、老舗古着屋「サンタモニカ(Santa Monica)」などに通った。

加藤太郎さん
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佳純さんは神奈川県伊勢原市生まれ。ファッションに目覚めたのは「小学生の時の遠足で、気合を入れるためにおしゃれをしようと考えた」ことがきっかけだと話すが、その後、調理師学校に進学して東京・町田のレストランで働くことになる。そのレストランで、時折2時間という長い昼休みがあり、その時佳純さんが足を運んだ場所が、下北沢の古着屋だ。30分で昼食を済ませ、30分で町田から下北沢に向かい、下北沢で古着を30分物色し、30分で下北沢から町田まで戻る。そんなことを繰り返しているうちに、「自分はご飯を食べるよりも、服を見ているほうが楽しい」ということに気づいたという。

加藤佳純さん
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違う場所で古着に惹かれるようになったふたりは、東京を拠点に全国に店舗を構える古着屋「フラミンゴ(Flamingo)」の下北沢店のスタッフとして出会う。同店スタッフとして1年先輩だった太郎さんは入社当初から独立を目標にしており、2019年に5年間在籍したフラミンゴを退職。その次の日には「ソーワットヴィンテージ」のオンラインストアを立ち上げた。
独立で味わった挫折と転機
「自分が好きなものを集めた古着屋を運営したい」と考えていた太郎さんが満を持してオープンしたオンラインストアには、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」など、以前から好きだったデザイナーズブランドのアーカイヴのほか、「リーバイス(Levi’s®)」の"501じゃない"ジーンズや、1970年代の大きな襟が特徴のシャツ、一般的な古着屋ではアメリカ製が珍重される「コンバース(CONVERSE)」オールスターの日本製のものなど、一癖ある商品を取り揃えた。太郎さんは、自分の「好き」を詰め込んだショップが一番おしゃれだと考え、その品揃えは世間に受け入れられると信じていた。だが、売れなかった。アルバイトを掛け持ちしながら1年間運営してみたものの、「このまま古着屋を続けていても、食えない」と考えるようになったという。

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太郎さんが挫折を味わっていたころ、転機が訪れた。太郎さんは、店名にある「what」から「w」を抜くと、「hat=帽子」となることに気づいた。そんなふとしたきっかけで、オンラインショップのイベントとして帽子を売り出したところ、よく売れた。さらに、友人の店でのポップアップや、下北沢の駅前広場で開催されていた古着イベントに帽子を品揃えの中心にして出店してみると、いずれも売れ行きが好調だったことから、一大決心をする。服の在庫を全て売り払った資金で帽子を買い付け、2020年に帽子専門の古着屋にリニューアル。2021年に今の店を構えた。








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在宅時間で見出した花の大切さ
帽子専門の古着屋としてリスタートした「ソーワットヴィンテージ」が花瓶を扱うきっかけとなったのが、2020年のコロナ禍で増えた在宅時間だ。元々外に出かけることが好きだった佳純さんは、家の中でも季節の移り変わりが感じられる花を飾るようになり、次第に花瓶に惹かれるようになる。

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佳純さんの周囲からも、「家に花を飾りたいけれど、そのための花瓶がない」という声が聞こえるようになっていた。ちょうどその頃は太郎さんが店の品揃えを服から帽子にシフトするタイミングで、帽子以外に店の強みを必要としていたふたりは、花瓶を扱うことを決めた。











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買い付けは、古着屋の個性を生み出す重要な仕事だ。ソーワットヴィンテージでは4ヶ月に一度、2〜3週間ほど、太郎さんと佳純さんのふたりでアメリカに赴いている。一般的な古着屋がアメリカで買い付けをする場合、現地の古着専門ディーラーが集めたアイテムを買い付けることがよくある。だが、帽子や花瓶を専門的に扱うディーラーは存在しないので、ふたりは自動車をレンタルし、アメリカ各都市の古着屋やスリフトショップ、フリーマーケットを周る。

アメリカ買い付けのときに自動車の運転を担当するのは佳純さん。以前は車内で喧嘩をすることもよくあったと、笑顔で話す。
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古着の価格設定の基準として重要なのが、希少性だ。服に比べると古着の帽子は圧倒的に流通量が少ないので、最初は値付けに困ることもあったそうだが、長年取り扱い続けることで、アイテムの市場での価値がわかるようになってきたという。「ちゃんと価値を見出してあげたいので、高くしようとは思っていないが、安すぎるということもないようにしている」と、太郎さんは話す。











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マイルス・デイヴィスとラルフ・ローレンに憧れて
ふたりのインスピレーション源となっているのが、アートや音楽だ。店内にはそのことが垣間見えるアイテムの数々が、さり気なく散りばめられている。











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ソーワットヴィンテージという店名は、モダンジャズの帝王マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー(Kind of Blue)」の1曲目「So What」に由来する。それまでのジャズはコード進行に沿って即興演奏を行うのが主流だったが、同盤でマイルスはコード進行を最小限に抑え、教会旋法(チャーチ・モード)に基づき自由で空間的なアドリブを展開するという、当時の先進的なスタイルを取り入れ、大ヒットする。この手法は 「モード・ジャズ」と呼ばれ、その後のジャズ演奏や作曲に大きな影響を与えることになるが、太郎さんは「新しいことに挑戦して、それが売れて、スタンダードになる」ということを成し遂げたマイルス・デイヴィスに強く惹かれるという。同じ観点で太郎さんが敬愛するのが、ファッションデザイナーのラルフ・ローレン(Ralph Lauren)だ。現在の彼はトラディショナルなアメリカンスタイルを体現するデザイナーとして世界中で愛されているが、そのキャリアの初期にはその頃の常識では考えられないくらい太いネクタイを打ち出し、そのアヴァンギャルドなクリエイションが注目を集めた。太郎さんも、マイルス・デイヴィスやラルフ・ローレンのように「誰もやっていないことに挑戦し、それを継続することで定着させ、“普通だよね”と言われるまでになりたい」と話す。





壁にかけられたショッパーは佳純さんが好きなクエンティン・タランティーノ監督作品の「デス・プルーフ」のヴィジュアルが着想源
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休日は美術館に行くことが多いという佳純さんが特に好きだと言うのが、シュルレアリスムのアーティストだ。「根は真面目だけど、ふざけるのも好き」という、自分自身の性格と重なる部分があるそうだ。現在は買い付けてきた花瓶や雑貨を取り扱っているが、今後は佳純さんオリジナルの「実用的だけど、茶目っ気もある」プロダクトを製作することも考えている。




















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帽子は「着用し続けたら慣れるから大丈夫」
帽子と花瓶という、他に類を見ない品揃えであるソーホワット ヴィンテージの接客は、一体どういったものだろうか。佳純さんによると、花瓶を求める客は自宅用とギフト用の半々に分かれるという。自宅用の場合、あらかじめ「家のこの場所にこれくらいのサイズの花瓶を置きたい」と考えているケースが多いので、どういった花を、どれくらいの頻度で飾りたいかをヒアリングする。また、花瓶も服などと同じようにいくつかのテイストにカテゴライズできるので、ギフト用の場合は贈る相手にどういったイメージを持っているのかを聞きながら、商品を提案していく。








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服とは違い、帽子は誰もが四六時中着用するアイテムではないので、自分に似合っているかどうかがわからないという人は少なくないはずだ。だが佳純さんは、「着用している服や靴を見ればある程度テイストが絞られるので、その人にマッチする帽子が提案できる」と言い、明らかにその人とテイストが違うと感じた場合は「他のアイテムにしたほうがいいのでは」と率直にアドバイスする。客が不安を感じていても、客観的に似合っていると感じたときは、「着用し続けていたら、慣れるから大丈夫」と背中を押すという。

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どんな人でも、新しいファッションに挑戦するときは大なり小なり不安を感じるものだろう。だが、続けていくことで、どんどん馴染み、自分と同化していく。このことは、先程触れた太郎さんの「“普通”になるまで挑戦を続ける」という、仕事に対する姿勢にも通じるように思える。新しいファッションでも、新しい仕事でも、挑戦し、それを続けていくことが力になる。
ファッションの世界では、これまで数多くの“革新”が生まれてきた。ココ・シャネル(Coco Chanel)はファッションに「黒」を取り入れ、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)はジェンダーレスファッションという概念を打ち出した。だが、ファッション史の本にトピックスとして掲載されるような大きな革新だけではなく、小さな革新も世界中で無数に生まれているはずだ。そんな小さな革新が続けられ、普通になっているからこそ、ファッションは魅力的であり続けているのではないだろうか。
FASHIONSNAPスタッフがリアルバイ
ここで当連載恒例の、古着を愛するFASHIONSNAPスタッフSによるリアルバイをお届け。








加藤夫妻と以前から親交があるスタッフS
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スタッフS
(商品を手に取って)このレザーのベルト、面白いですね!

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お客様が試着されるとき、スナップバック(キャップのサイズ調節に用いられるプラスチック製のアジャスター)を取ったら折れてしまうということがよくあったんですよ。なので、オリジナルのレザーアイテムを作っている東京・福生の「スタン(STAN)」というセレクトショップに製作をお願いしました。このアイデア、自分でも天才的だと思います(笑)。

加藤夫妻








ツバに乗っかっているこれは…完全にアレですよね(笑)
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スタッフS
ちなみに、最近はどんな帽子が人気なんですか?
この春はカラーもの、特に赤色のキャップがかなり動いています。若者が多い下北沢という土地柄もあるとは思いますが、トレンドは数ヶ月で変わります。4ヶ月ほど前には、これといって人気を集めるアイテムが特にない「空白期間」がありました。

加藤夫妻

スタッフS
最近マイカーを買ったこともあり、車関係のキャップが気になります。








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アメリカの建設機器メーカー「キャタピラー(Caterpillar)」のキャップですね。これはおそらく、レース大会に協賛したときのアイテムだと思います。レーシング系はオススメですよ。

加藤夫妻

スタッフS
刺繍のクオリティが高いですね。キャップはこれにします!あと、これも気になったんですが…ニットでできた花ですね。








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これはタイの作家さんの手編みなんです。タイの北部で姉妹で運営しているハンドメイドニットのお店の作品です。

加藤夫妻

スタッフS
この花もいただきます!











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■sowhat vintage
所在地:東京都世田谷区代沢2-29-12 1F
営業時間:12:00〜20:00
定休日:なし
Instagram
【連載:本当にいい古着屋を求めて】
第1回:祐天寺「Gabber」
第2回:下北沢「ムー」
第3回:学芸大学「ISSUE」
第4回:渋谷「DESPERATE LIVING」
第5回:自由が丘 「EROTIC」
最終更新日:
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