(左から)江角泰俊、隈研吾
Image by: FASHIONSNAP
2021年春夏コレクションを"3Dポートレートショー"として発表した江角泰俊の「エズミ(EZUMi)」。元々建築が好きだった江角が、今年4月に建築家の隈研吾と対談したことをきっかけにコレクションを制作し、発表方法でも建築とファッションの融合を試みたという。
新型コロナウイルスの影響でリアルなショー以外の発表方法を模索するブランドが多く、江角も如何にコレクションの要素や制作までのプロセスを見せることができるかを考えていた。その頃に出会ったのが、建築倉庫ミュージアムの初代館長でARCHI HATCH代表を務める徳永雄太。徳永の協力を得て、3D-VR動画が撮影できるマターポート(Matterport)を駆使した3Dポートレートショーが完成した。江角は隈のもとを再び訪れ、出来上がったコレクションを見せながら、ファッションと建築の融合について語り合った。
江角はこれまでもカルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)やサンティアゴ・カラトラバ(Santiago Calatrava)といった建築家の作品やデザイン思考をインスピレーション源にコレクションを制作してきた。今季は日本を代表する建築家の隈研吾の作品や、建築哲学に着想を得た。江角が特に惹かれたのは、隈が提唱する「負ける建築」の考え。負ける建築とは、建物の巨大さや構造的な主張を打ち出すのではなく自然や周囲の環境と調和するというものだ。「ファッションはデザインの強さを主張することが多いが、"負ける建築"に触れ、デザイン性だけではなく着る人と調和する心地よさを持つファッションについて考えるようになった」。
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コレクションでは、日本の伝統的な技法を取り入れる隈の建築から発想したデザインを散りばめた。竹細工技法の「やたら編み」は刺繍によって襟や袖に施し、「絡まる」が語源になっている「カラミ織り」をワンピースの首回りにあしらっている。コレクションのルックブックを見た隈は、江角のリサーチした資料を読み込みながら「やたら編みがこういう刺繍になるとは驚いた。工芸品や建築に落とし込むのとは異なる繊細さが服ならではだと思う」と言及。今シーズンのコレクションピースに取り入れたトレンチ素材の大・中・小のサイズが異なる襟を組み合わせるギミックについては「正解がなく、バリエーションが無限で面白い」と評した。
【全ルック】「エズミ」2021年春夏コレクション
3Dポートレートショーの制作に協力した徳永は、コロナ禍で建築を体験することが難しく、アーティストが作品を発表できなくなった状況下で美術や建築のアーカイヴを集約し、ダイナミックに体験できるドキュメンテーション・サービス「アーキハッチ(ARCHI HATCH)」を今年5月にスタート。江角のファッション×建築のデザイン思考や、今回のコレクションが隈の建築を起点にしている点などに共鳴し、共同制作が実現した。撮影場所に選んだのは隈が2013年に設計した「サニーヒルズ南青山」。日本の伝統的な木工技術のひとつで、釘を使わずに組み上げる「地獄組み」の手法を取り入れ、木材が建物を覆うデザインが特徴だ。
マターポートは元々住宅の内見用に開発されたツールのため、無人状態の建物内部を撮影するのが基本だが、今回は各所にモデルを配置して撮影。完成した動画は4Kの高画質で、モデルを画面上で拡大するとアイテムのディテールを確認できる。工芸品や木材といった隈の建築の要素を取り入れたエズミのコレクションを、3Dポートレートショーを通じてサニーヒルズ南青山で見ることで建築と服のデザインが混ざり合う体験となっている。「モデルがいることで建物内部のスケールが把握できるところが建築の視点から見た3Dポートレートショーの面白さ。通常の内観写真や、建築雑誌での紹介でも内部を空にして撮影することが多く、僕は普段からそれでは建築の情報量として不十分ではないかと感じていたため、新鮮だった」(隈)。そして服と建築についての考えを次のように話した。「19世紀の建築理論家のゴットフリート・ゼンパーが『建築は編むものだ』と話しているように、服を編み、仕立てることと、建築を建てることは通ずるものがある。サニーヒルズ南青山はまさに木材を編むイメージで作ったもので、これからもっと"編んだ建築"を作ってみたい」。
隈はさらに自身の経験についても語った。「ファッションは建築と比較して、より人の体と向き合ってデザインするところが特有の視点で面白い。若い頃、父親に連れられてワイシャツをオーダーした時に、袖の長さや襟の形など自分の体のサイズを把握しながら作った。今思うと、それが僕が初めて行った"建築"だったと思う」。最後に江角は「ファッションも建築も『編む』という点の繋がりがある。建築はかなり大きいスケールで、対するファッションは人サイズの小さなスケール。建築の大きなスケールでのデザインを、人が着る服のサイズでデザインし直すとどうなるのか、中間的な作品が見てみたい」と興味を示した。江角は今後も建築の要素を落とし込んだ作品をデザインし、隈との共同企画も行っていきたいという。
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