新しい生活様式はもはや日常へと移行しそれに伴い企業の舵取りも大きく変化している。ビジネスの拡大を見据えつつも、サステナブルな社会に向けた経営戦略も必須だ。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。今年から加わったビューティは若い世代が関心を寄せる「サステナビリティ」をテーマにトップ及び、キーマンにインタビュー。第21回は、アメリカを代表するスキンケア メイクアップ フラグランス ブランド「エスティ ローダー(ESTĒE LAUDER)」の日本事業の舵取りをする小幡元ブランド ジェネラル マネージャー。エスティ ローダー カンパニーズの本社、アメリカで直営店ビジネスやリテール マーケティングなどをけん引し、2021年2月に日本に着任した。事業の拡大はもちろん、1946年のブランド誕生以来続く、サステナビリティへの取り組みも確実に継承する小幡ブランド ジェネラル マネージャーに、エスティ ローダーの“精神”について聞いた。
■小幡元(おばた げん)
米・ニューヨークで、ファッションブランド「コーチ(COACH)」のストラテジー コンシューマー インサイトの部署に在籍。新カテゴリーの創出などでビジネス戦略を推進する。4年半従事後、エスティ ローダー カンパニーズに入社し、コーポレートのグローバル リテール チャネル部門で「エスティ ローダー」や「M・A・C」「クリニーク」などの直営店ビジネスの拡大を推進。リテール エクスペリエンスのバイス プレジデントとして、「エスティ ローダー」のリテール マーケティングや店頭周りのテクノロジーを担当するチームを4年統括。2021年2月に日本に着任、「エスティ ローダー」「トム フォード ビューティ」のブランド ジェネラル マネージャーに就任する。
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ー昨年2月にブランド ジェネラル マネージャーに着任しました。まずはどんなミッションを掲げましたか?
「エスティ ローダー」は世界中の多様なお客さまに愛されています。日本でも多くのお客さまにご愛用いただいていますが、さらに多くのお客さまの心に触れるように、世界で成功している戦略を日本マーケットにも落とし込むことが一つです。また創業者ミセス エスティ ローダーは当時から、「製品を売るためには、お客さまに触れ、肌の上で説明しなくてはならない」と確信していました。それが当社のパーソナルなハイタッチ サービスの始まりでもあります。とてもパーソナルで深いつながりを提供する接客体験を、「ハイタッチ体験」と呼んでいますが、そんなハイタッチな体験をオンラインでもいかに引き継げるかは、大きな課題でもあります。
ーそれを実現するためにどのようなことに着手したのでしょうか?
2つあります。まずはデジタル強化です。デジタル・オンラインチャネルと言ってもそれが公式ECや外部のEC、SNSなど、さまざまです。エスティ ローダーを検索して購入してくださる方、またはメールやLINE経由で製品を購入してくださる方など、カスタマージャーニーも多様化する中で、それぞれに合わせた形で情報発信を積極的に行います。同時に店頭などフィジカルな場もデジタルと連動させ、自然とオンラインを意識していただけるような導線をしっかり引きました。ミセス ローダーのDNA、そしてハイタッチな体験をデジタルでも感じてもらえるように今後もデジタルには一層力を入れていきます。
ーもう一つは何でしょうか?
ヒーロー製品の育成です。エスティ ローダーには、美容液「アドバンス ナイト リペア」や、ファンデーション「ダブル ウェア」といった、長きに渡り愛されてきた名品がいくつもあります。これらをヒーロー製品と呼んでいますが、ビジネスを支える柱として今後も強化していきます。
ー一般的には新製品に重きを置く戦略を取りがちですが、エスティ ローダーは以前からヒーロー製品にフォーカスしたテレビCMなど広告展開などが印象的でした。
そうですね。現在はデジタルの台頭などで多角的な発信が多いと思います。たとえば、アドバンス ナイト リペアは2020年9月にアップグレードしましたが、実際に使っていただいたお客さまの声を参考にして、日本のお客さまに共感いただけるコピーを作るなど、ブランドからの発信に加え、お客さまの声にも耳を傾けるようなコミュニケーションをとっています。また今春には化粧水「マイクロ エッセンス ローション」を2014年の誕生以来初めてアップグレードさせましたが、こちらも製品の裏にあるサイエンスをこれまで以上に踏み込んで丁寧に伝えていくことにも注力していますね。製品スペックだけではない、その製品がどういった背景で作られているのか、そのまた奥にある思いについても発信しています。
ーツイッターやインスタグラムなどSNSでは、そういった情報が発信されているように思います。こういった戦略はビジネスにも影響していますか?
グローバルの業績は発表済みですが2桁成長しています。日本の具体的な数字は出せませんが、好調に推移しています。
ー2022年の重点策を教えてください。
まずはやはりオンラインの拡充ですね。そしてヒーロー製品の注力は今後も続けています。アイコン製品をいかに多くの人に伝えるか、そこは大きなミッションです。そしてポストコロナの社会を見据えて、再びカウンターへお越しいただきショッピングの楽しみを思い出してもらえるように、未来に目を向けた戦略に力を入れていきます。
ー1946年のブランド誕生以来、サステナビリティの精神は根底にあると思います。近年は具体的な目標のもと、注力していますね。
エスティ ローダー カンパニーズのサステナビリティ
・気候と環境
気候変動に対する取り組み、持続可能な施設運営、廃棄物の削減、およびウォーター・スチュワードシップ。直接的・間接的な排出量を削減するための目標を設定し、環境への影響を最低限に抑える。これにより、サステイナブルなビル運営が実現し、自社施設から埋立地に送られる廃棄物がゼロになっただけでなく、効率的な水の使用も改善している。
・製品に関する責任
プレステージビューティのリーダーとして、世界で最も愛される製品の創出に焦点を当て、卓越した性能とラグジュアリーに、妥協のない安全性と品質を組み合わせて提供。市場に出すまでのプロセスについて透明性を確保し、製品バリューチェーン全体でサステナビリティを実践する方法を探求する。
・責任ある調達
原材料と素材を世界各国から調達する過程で、責任ある調達を行なうよう努め、人々や環境に対する潜在的な影響に注意を払う。
2021年度主な取り組み
・森林由来のカートンがFSC認証済み:89%
・CO2排出量実質ゼロ:100%
・パームオイル由来成分がRSPO認証:100%
(RSPO認証供給業者のサプライチェーンを通しての調達およびRSPOブックアンドクレームの購入。外部メーカーが調達した成分など、エスティ ローダー カンパニーズが直接調達していないパームオイル由来成分、および関連のELCシステムにまだ完全に統合されていない買収先一部ブランドは除く)
具体的に言うと、たとえばサステナブルなパッケージですね。ハイタッチな体験には、美容部員による丁寧な接客のみならず、製品のパッケージもその役割を担います。そのためラグジュアリーでエレガントな世界観は保ちながら、いかに地球環境への負担を減らせるか、さまざまな工夫を凝らしています。1月に発売したラグジュアリー コレクション「リニュートリィブ」の新美容液「リニュートリィブ ダイヤモンド ブリリアンス セラム」は、初めて同コレクションでレフィルを可能にしました。すでに、レフィルを購入いただくお客さまも増えています。またアイコン製品のアドバンス ナイト リペアもプラスチック削減のためにガラス瓶へ変更しました。
こういった、「リサイクル可能(Recycleable)」「レフィル可能(Refillable)」「リユース可能(Reusable)」「リサイクル(Recycled)」「リカバー/回収可能(Recoverable)」の5つの“R”に当てはまる製品の割合を、2025年までに75〜100%を目指していきます。
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