デュア・リパの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】
まずは聴いておくべき10曲も紹介
Image by: Tyrone Lebon
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デュア・リパの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】
まずは聴いておくべき10曲も紹介
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全く異なるジャンルでありながら、古くから蜜月関係にあるファッションと音楽。ここ十数年でその結び付きはさらに強くなり、今やファッションメディアでなにがしのアーティスト名を見ない日は無いと言ってもいいほどである。だがアーティスト名は目にするものの、彼/彼女らがファッションシーンへと参画した経緯や与える影響力、そして何よりも楽曲に馴染みが薄く、有耶無耶の知識のまま名前だけを認知している人も少なくないだろう。
そこで本連載【いまさら聞けないあのアーティストについて】では、毎回1組のアーティストをピックアップし、押さえておくべき音楽キャリアとファッションシーンでの実績を振り返り、最後に独断と偏見で「まずは聴いておくべき10曲」を紹介。約1年ぶりの連載再開となる第14回は、特徴的な歌声と抜群のプロポーション、そしてコソボにルーツを持つUKの新世代ポップスター、デュア・リパ(Dua Lipa)についてお届けする。(文:Internet BoyFriends)
目次
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移民2世としての苦悩と葛藤
デュア・リパ(Dua Lipa)は、1995年8月22日に3人姉弟の長女としてイングランド・ロンドンで生まれたが、ルーツはバルカン半島のコソボ・プリシュティナにある。彼女が生まれる3年前の1992年、元ロックミュージシャンの父親は歯科医師を、母親は弁護士を目指してユーゴスラビア連邦共和国(当時)で生活していたものの、激化するボスニア・ヘルツェゴビナ紛争により故郷を追われ、難民としてイングランドに入国。2人がロンドン・カムデン地区でウエイターとして生計を立てる中、デュアは移民2世として生まれたのだ。
父親の影響もあり、デュアは5歳の時には歌手になることを夢見始め、10歳になる前に歌とチェロのレッスンに通うも、11歳で家族に連れられコソボに帰国。ロンドンでは時折、アルバニア語で“愛”を意味する「デュア」という名前をからかわれており、自宅での第一言語も英語ではなくアルバニア語であったため、コソボへの移住に胸を躍らせていたデュアだったが、コソボでも言語の壁にぶつかるなど孤独を強く感じることが多く、人生最大の多難な時期を過ごしたという。それでも音楽が心の支えで、学校では歌唱力でプロップスを集め、YouTubeには12歳の時に学校でアリシア・キーズ(Alicia Keys)の「No One」などを披露するデュアの映像が残っている。
年を経るごとにロンドンに戻りたい気持ちが強くなり、15歳の時にはロンドンの大学への進学を理由に両親を説得。家族の友人と共にロンドン北部に移り住んだが、実際の理由は、コソボよりもロンドンの方が歌手になるチャンスを掴める可能性が高かったためだ。ウェイトレスやバーテンダーなどのアルバイトを掛け持ちしながらファッションモデルとしても活動して生活費を稼ぎ、週末はエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)やエラ・パーネル(Ella Purnell)も在籍した演劇学校「シルヴィア ヤング シアター スクール(Sylvia Young Theatre School))」に通学。隙間時間にはジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)にならってカバーソングをYouTubeやSoundCloudに投稿する生活を続けていたある日、転機が訪れる。
ラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)らのマネージャーを務めていたベン・モーソン(Ben Mawson)の目に留まり、レーベルの支援のもとレコーディングの機会を獲得。2013年から音楽活動を本格的に開始し、20歳でワーナーミュージック(Warner Music)との契約を勝ち取ると、2015年8月21日に1stシングル「New Love」でデビューを果たしたのだ。
4年でイギリスを代表するポップスターに
残念ながら華々しいデビューとはならなかった1stシングルだが、それから2ヶ月後の2015年10月には、早くも2ndシングル「Be the One」をリリース。全英シングルチャートでこそ振るわなかったものの、ベルギーやスロバキア、ポーランドといった国々でランキング1位を獲得し、早耳のファンの間では知られた存在に。実際、音楽データ分析サイト「ネクスト ビッグ サウンド(Next Big Sound)」はインターネット上での話題性の高さから、デュアを“次世代にヒットするアーティスト”に選出し、若手アーティストの登竜門「BBC」も期待の新人「Sound Of」の2016年版にノミネートしていた。
そして、2016年5月の4thシングル「Hotter Than Hell」が初の全英シングルチャート入り(15位)を、8月の5thシングル「Blow Your Mind (Mwah)」が初の全米シングルチャート入り(72位)を、11月のショーン・ポール(Sean Paul)とのコラボソング「No Lie」が初の全英トップ10入り(10位)。徐々に人気の下地が出来始め、2017年6月に自身の名前を冠したデビューアルバム「Dua Lipa」を満を持してリリース。すると、アルバム自体が全英トップ3入りするだけに留まらず、失恋した女性のルールをテーマにした収録曲「New Rules」が世界的ヒットソングとなり、全英シングルチャートで初の1位を獲得した。これは2015年にリリースされたアデル(Adele)の「Hello」以来となる女性ソロ・アーティストの全英シングルチャート1位作品であり、Spotifyでは22億回以上、YouTubeではミュージックビデオが30億回以上の再生数となっている(2024年11月現在)。
「New Rules」のヒットもあり、2017年のイギリス国内における“Spotifyで最もストリーミング再生された女性アーティスト”となったデュア。翌2018年にはイギリス最大級の音楽の祭典「ブリット・アワード(Brit Awards)」において女性アーティスト史上初の5部門でノミネートされ、最優秀ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞と最優秀ブリティッシュ・ブレイクスルー・アクト賞の2冠を達成した。さらに、同年リリースされたカルヴィン・ハリス(Calvin Harris)とのコラボソング「One Kiss」で2度目の全英シングルチャート1位を手にし、この曲が“2018年にUKでもっとも売れた楽曲”に認定されると、2019年のグラミー賞では主要部門の最優秀新人賞と最優秀ダンス・レコーディング賞を獲得。わずか4年でイギリスを代表するポップスターの1人となったのだ。
パンデミックを経て、イギリスのポップスターから世界的アーティストへ
瞬く間にスターダムを駆け上がる中、デュアは2019年初頭より2ndアルバムの制作に着手。同年終わりに「Future Nostalgia」というタトゥーを左腕に彫ったことを発表し、同名タイトルの2ndアルバムのリリースが近いことをアナウンスするも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが襲来してしまう。この時、社会情勢を鑑みてレディー・ガガ(Lady Gaga)らがリリース延期を選択する中、デュアは葛藤の末にリリースに踏み切った。というのも、ネット上に音源がリークされてしまったため、リリースする以外の選択肢が無かったのだ。「世界中がこんな情勢で多くの人々が苦しんでいるのに、作品をリリースすべきなのか。(煌びやかな作風が)『世の中の空気を読んでいない』と思われそうで葛藤していました」(当時のデュアのInstagramのライブより)。
しかし、デュアの懸念は杞憂に終わった。レトロで中毒性のあるポップサウンドがロックダウン中の人々の心に刺さり、「Future Nostalgia」は全英アルバムチャート初登場1位とはならなかったものの、次週で初の全英1位を獲得。さらに、3つの収録曲も同時に全英トップ10入りを果たし、“英国人女性アーティスト史上最も1日でストリーミング再生されたアルバム”という快挙を成し遂げる。また2020年11月には、延期となった欧州ツアーの代わりに有料のオンライン無観客ライブ「スタジオ2054(Studio 2045)」を配信。全世界で500万回を超える視聴回数を記録し、有料のライブストリーミング視聴回数の世界記録を更新したのだ。こうして、デュアは多くのアーティストが足踏みする中、“パンデミック中にアルバムをリリースしたゲームチェンジャー”として称賛され、名実共に世界的アーティストとしての地位を揺るぎないものに。当然、翌2021年の「ブリット・アワード」では最優秀ブリティッシュ・アルバム賞と最優秀ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト賞を手にした。
余談だが、この頃にアメリカの公共放送NPRが主催するライブコンサートシリーズ「タイニー デスク コンサート(Tiny Desk Concerts)」に主演すると、現在までに数百本を超えるシリーズの中で歴代最多再生数の1億3000万回を記録(2024年11月現在)。好評を受け、2024年11月に2度目の出演を果たしている。
その後、2021年8月にエルトン・ジョン(Elton John)とのコラボソング「Cold Heart (Pnau remix)」で3度目の全英シングルチャート1位を獲得するなど順風満帆だったが、彼女を発見したベン・モーソンとの決別や、延期を重ねていた「Future Nostalgia」の大規模ツアーもあり、ソロ楽曲の発表は落ち着きを見せる。2023年11月に「Future Nostalgia」以来の楽曲「Houdini」が配信されると、2024年5月には日本語で「過激派楽観主義」を意味するアルバム「Radical Optimism」をリリース。3rdアルバムにして待望の全英アルバムチャート初登場1位を記録しただけでなく、全11ヶ国のチャートでトップとなり、全米アルバムチャートでも2位に。その勢いのまま、2024年6月には世界最大級の音楽フェス「グラストンベリー・フェスティバル(Glastonbury Festival)」にヘッドライナーとして出演し、現在は約1年間の世界ツアーを巡業中だ。日本では11月16~17日の2日間の公演が予定されており、約6年ぶりの来日公演を記念してアートワークに空山基を起用した来日記念盤がリリースされた。
「ヴェルサーチェ」と懇意なスタイルアイコン
冒頭で軽く触れたが、デュアは173cmという恵まれたプロポーションと整った顔立ちを武器に、デビュー前はモデル活動でも生計を立てていた。また、本人いわく多感な時期をコソボとロンドンで過ごしたことで、自身のファッションスタイルは折衷主義的な“ごちゃ混ぜ”となり、10代の頃はそのオリジナリティを活かしてファッションブロガーとしても活動。デビュー後は、同じくロンドンを拠点とするファッションエディターで人気スタイリストのロレンゾ・ポスコ(Lorenzo Poscocco)の助けもあり、デビューアルバムのリリース前から複数のファッション誌の表紙を飾ったほか、アメリカの大手スニーカーショップ「フットロッカー(Foot Locker)」のグローバルアンバサダーに就任するなど、すぐにスタイルアイコンの1人に。
その後も、「プーマ(PUMA)」や「ペペ ジーンズ ロンドン(Pepe Jeans London)」のグローバル・アンバサダーを務めたほか、2021年9月に発表された「ヴェルサーチェ(VERSACE)」2022年春夏コレクションでは楽曲「Physical」がランウェイのオープニングBGMに起用されただけでなく、自身がファーストルックのモデルとして登場。さらに2023年5月には、ドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)とのコラボコレクション「ラ ヴァカンツァ(La Vacanza)」を製作してランウェイショーを開催するなど、「ヴェルサーチェ」とは懇意な関係を築いている。ちなみに、2022年7月に発表された「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の51stクチュールコレクションではパリコレデビューも果たした。
「Radical Optimism」の制作期間に入ると、スタイリストがロレンゾ・ポスコから、リアーナ(Rihanna)のスタイリングを10年近く担当していたジャリール・ウェイバー(Jahleel Weaver)にバトンタッチ。つい先日、髪色を変更してしまったが、デュアがここ1年レッドヘアーにしていたのは彼のアイデアで、ニーナ・ハーゲン(Nina Hagen)やザ・クランプス(The Cramps)のポイズン・アイビー(Poison Ivy)らに着想した“自由な女性アーティスト”をイメージしたものだという。また、「グラストンベリー・フェスティバル」のスタイリングも全てウェイバーが手掛け、1ヶ月以上の制作期間を費やして「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」、「ヴェルサーチェ」、ヴィンテージのバンドTシャツ、「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」、「ロエベ(LOEWE)」といった5つのカスタムメイドルックを作り上げ、デュアの大舞台をサポートした。
コソボへの愛
最後に、デュアのルーツであるコソボでの活動を紹介したい。彼女は、祖父セイト・リパ(Seit Lipa)がコソボ歴史研究所の所長も務めた歴史家だったこともあり、母国での慈善活動に熱心に取り組んでいる。「コソボがどこにあるか、知らない人がほとんど。知っていたとしても、紛争で荒廃した国のままだと思われている。そのイメージを払拭したい」と、デビュー直後の2016年にコソボで経済的に困窮している人々を支援する「サニー ヒル財団(Sunny Hill Foundation)」を父親と共に設立。さらに、待機児童のために幼稚園「サニー ヒル幼稚園(Sunny Hill Kindergarten)」を新設したほか、次世代アーティストの育成と資金調達を兼ねて年に一度の音楽フェス「サニー ヒル フェスティバル(Sunny Hill Festival)」を主催するなど、母国のために尽力している。これを受け、2022年にデュアはコソボ共和国の名誉大使に任命され、アルバニアからは国籍取得を認められたのだ。
まずは聴いておくべき10曲
1曲目:No Lie
ショーン・ポール(Sean Paul)とのコラボソング(2016年)で、初めて全英シングルチャートのトップ10入りを果たした楽曲。現在、ショーン・ポール史上もっともストリーミング再生された楽曲となっている。
2曲目:Be The One
2015年10月にリリースされた2ndシングルで、1stアルバム「Dua Lipa」(2017年)収録曲。当初はヒットしなかったが、2017年に再注目されて自身初のチャートイン曲に。
3曲目:New Rules
1stアルバム「Dua Lipa」(2017年)収録曲。彼女が初めて全英シングルチャート1位を獲得した曲であり、現在までにSpotifyで22億回以上、YouTubeでミュージックビデオが30億回以上の再生数を記録した世界的大ヒットソング。別れた元恋人から立ち直るための新ルールを歌った内容から、女性のエンパワーメントソングとしても捉えられている。
4曲目:One Kiss
カルヴィン・ハリスとのコラボソング(2018年)。2度目の全英シングルチャート1位を手にし、全米シングル・ダンスチャートでは年間第1位に。また、“2018年にUKでもっとも売れた楽曲”に認定された。
5曲目:Don't Start Now
2ndアルバム「Future Nostalgia」(2020年)収録曲。1990年代初頭のユーロダンスをモダンに仕上げたディスコサウンドが特徴で、この曲で第63回グラミー賞の最優秀楽曲賞など3つの賞にノミネートされ、全米シングルチャートの年間第4位を記録。
6曲目:Levitating (feat. DaBaby)
2ndアルバム「Future Nostalgia」(2020年)収録曲。オリジナル曲「Levitating」に、デュアが若手アーティストの1人として注目していたラッパーのダベイビー(DaBaby)が参加。2021年の全米シングルチャートの年間第1位となるも、のちにダベイビーが差別発言を行ったことで、公の舞台で披露されることはほぼなくなった。
7曲目:Good in Bed (Gen Hoshino Remix)
アルバム未収録曲(2020年)で、デュアの制作チームが星野源に直接オファーする形で実現。星野が他アーティスト楽曲のリミックスを手掛けたのはこれが初めてだった。なお、星野源と共にザ・ブレスド・マドンナ(The Blessed Madonna)とザック・ウィットネス(Zach Witness)が携わったバージョンが、リミックスアルバム「Club Future Nostalgia」に収録されている。
8曲目:Cold Heart (Pnau Remix)
エルトン・ジョン(Elton John)とプナウ(PNAU)とのコラボソング(2021年)で、エルトンの4つの名曲を組み合わせた内容。全英1位を記録したことで、エルトンは全英シングルチャート史上唯一となる、過去60年の全年代においてシングルがTOP10入りを果たしたアーティストになった。
9曲目:Dance the Night
映画「バービー」のサウンドトラック「Barbie the Album」(2023年)収録曲。プロデューサーの1人だったマーク・ロンソン(Mark Ronson)がInstagramのDMで彼女にオファーする形で実現した。デュア本人も映画に出演し、第66回グラミー賞では最優秀楽曲賞と最優秀映像作品楽曲賞にノミネート。
10曲目:Illusion
3rdアルバム「Radical Optimism」(2024年)収録曲で、全英シングルチャートでは9位だったが、全米ダンス/エレクトロニック・チャートでは見事1位を獲得。デュアの制作チームがCreepy Nutsに直接オファーしたリミックス版も存在する。
■いまさら聞けないあのアーティストについて:連載ページ
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