DIOR 2025-26年ウィンター メンズコレクション
Image by: DIOR
「キム・ジョーンズの最高傑作だ!」——「ディオール(DIOR)」2025-26年ウィンターメンズコレクションの終了直後から次々とポストされるSNSには、賞賛のコメントが並んでいた。その数時間後には、フランスの民間最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ(騎士)を受勲したキム・ジョーンズ(Kim Jones)。名実ともに、歴史に名を残すファッションデザイナーの栄誉に輝いた。
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変容するメンズウェア
メゾンの真髄に焦点を当てたという今シーズンは、1954年にムッシュ・ディオールが発表したオートクチュールコレクションの「Hライン」に着目。ファッションの歴史とメゾンのレガシーを落とし込みながら、現代のメンズウェアとして変化、あるいは進化させたという。
その試みは、ファーストルックから見ることができた。シンプルなハイネックのトップスに合わせたクラシカルなボトムは、ボリュームのあるワイドパンツかスカートに見えるが、実はコートを腰に巻いてドレッシーなスカートのように着用している。後ろと前を逆に身につけ、襟の部分がウエストになり、内側に折り込んだ袖の部分はポケットに。変容のアプローチは、クラシカルな衣服を再解釈したローブやオペラコート、ニットなど、多くのピースに反映された。
極上の素材と刺繍 モダンなメンズクチュール
ノーカラージャケットやコートの背中、そしてブルゾンの袖に施された、クチュールを象徴するボウのモチーフが目を引く。タイトなパンツとコーディネートしたシルクのギャザーブラウス、ネオプレン加工技術を取り入れたレザージャケットなどは、フェミニンなフォルムをモダンなバランスで取り入れている。
ショーの序盤とラストルックを飾ったメンズクチュールのオペラコートは、「Hライン」を象徴するシルエット。極上の素材と繊細な刺繍も今シーズンの特徴で、ピンストライプやヘリンボーンといったメンズウェアの典型的な柄を想起させる刺繍のほか、パウダーピンクのシルクサテンに施されたトワル ドゥ ジュイ刺繍は、より華やかさを演出した。
オーセンティックなテーラードジャケットやスーツは、ディオール オム時代を彷彿とさせるミニマルでソリッドなシルエット。片側だけショート丈を組み合わせた二重仕立てのロングジャケットなど、キム流のアレンジが効いている。一方でショート丈のジャケットは、やや丸みのあるフォルムでエレガントなブローチを合わせた。
ウィメンズのオートクチュールのアーカイヴを、マスキュリンなメンズウェアに進化させる。あるいは現代的なメンズウェアに、クチュールの要素を注入する。あらゆる時代の文化やテクニックをサンプリングし、深く掘り下げ、現代に向けた軽やかなファッションとして解釈するキムならではの手法が、鮮やかに体現されていた。
リボン、ボウ、淑女のアクセサリー
アクセサリーにも、クチュールのテクニックが見てとれる。クラシックなドレスシューズやブーツには、「ボウキャップ」と呼ばれる結び目のついたサテンのトゥキャップがあしらわれた。そしてスニーカーは、1961年のアーカイヴシューズから引用した手刺繍が施され、スペシャルオーダーとして展開される。
ミステリアスなムードを醸し出したリボンのアイマスクは、帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)がデザイン。リボンもムッシュが好んだモチーフのひとつで、細かいビーズを織り込んだデザインも制作された。
新しい提案として、19世紀ヴィクトリア朝の淑女が愛用していたウエストジュエリーである「シャトレーヌ」を、パンツに付けるメンズアクセサリーとしてアレンジ。シルバー製のブローチから5本のチェーンが垂れ下がり、その先にはボタンボックス、メジャーテープ、シンブル(指ぬき)、ムッシュ・ディオールが所有していたものを再現したという針ホルダー、そしてハサミといった、クチュリエに欠かせない5つの道具がモチーフとなって付けられている。
メンズウェアの概念を揺るがす
ショーの舞台となったのは、パリ7区のエコール・ミリテールに建てられた特設会場。純白の階段が設けられたミニマルな空間デザインで、英国の作曲家マイケル・ナイマンによる「McQueen: Time Lapse」(映画「マックイーン」の楽曲)の荘厳なサウンドがショーを演出した。メンズウェアの既成概念を揺るがし、贅沢さとシンプルさ、エレガンスと実用性を兼ね備えたキムの真骨頂とも言える美しいメンズクチュールの数々に、フィナーレは大きな拍手に包まれた。
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