Image by: © Adrien Dirand
「NOT HER(=彼女ではない)」。「ディオール(DIOR)」2024年春夏コレクションのショー開始とともに全方位に渡るデジタルスクリーンにフューシャピンクにイエローのフォントで映し出されたこの二文字。イタリア人アーティストのエレナ・ベラントーニ(Elena Bellantoni)がショーのために制作したビデオインスタレーションは、性差別的な女性像にNOを突きつけるステイトメントとしてコレクションルックとともに観客の脳裏に鮮明に焼きついた。
映し出されたのは、洗剤や食器に囲まれて笑顔を見せる"典型的"な主婦や、男性パイロットを囲む女性のフライトアテンダントといったどこかで見たことのあるヴィジュアル。これはベラントーニ自身がリサーチを行い、自ら「性差別主義の広告主」になりきり、自身を被写体に再現した「不快な気持ちを呼び起こす」イコノグラフィーだ。写真とスローガンがセットとして構成された24の広告は、女性の身体とその商品化、そして擬物化を表現しており、「NOT HER」は長い間、社会で蔓延ってきた女性にまつわるステレオタイプを拒絶する、ベラントーニの主張を表明するためのアンサーワードとなっている。
ADVERTISING
Image by: Elena Bellantoni
そんな実験的なプロジェクトを背に登場してきたのは、色こそ派手な主張はないものの、男性中心の社会において、その体制に異議を唱えてきた"反逆者たち"にインスパイアされたルック。魔女に代表されるようなダークなムードはコレクションのベースに流れ、裂け目や焦げ、ほつれ、傷み、ぼやかしといった表現を取り込むことで神秘的で、腐敗的な美を感じさせる。
ジャケットや大きなカフのついたシャツはマスキュリンなオーバーシルエットで登場。半肩が露出し、もう半肩は長袖のアシンメトリックで建築的なシャツは、マスキュリンとフェミニンなエッセンスがドッキングしたようなデザイン。シャツドレスやパンツ、スカートルックに合わせられた。
肌が透ける繊細なレースやニットは幻想的な世界観を強めた一方で、ワークウェアを感じさせるタフなアウターやブーツとも合わせられ、相反する実用的な一面も覗かせた。首元のチョーカーや膝下までストラップがついたシューズ、モデルの唇に施されたダークリップもゴシックな雰囲気を演出するのに一役買った。
ポップな世界観のステージ演出にダークなムードが漂うコレクション。この対極する2つのコンセプトを結びつけるものは何なのか。それはクリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)が複数にまたがる時間軸の文脈から語る、体と衣服の関係性であり、過去から現在に至るまで、社会の根底に根づくステレオタイプと戦ってきた、そして今なお戦い続ける女性たちの姿なのだろう。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【注目コレクション】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境