美容成分を深掘りする好評の連載、第6回のテーマは「トラネキサム酸」です。肝斑に効く「医薬品の成分」であり、美白※や肌荒れを防ぐ「薬用化粧品の成分」でもあるトラネキサム酸。シミや肌荒れを予防する詳しい働きを、第一三共ヘルスケア研究員、杉山大二朗さんに聞きました。
※メラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐ
第一三共ヘルスケア入社後、医薬品や化粧品の研究開発に携わる。体内に生じる慢性炎症と老化の関係や、トラネキサム酸の働きについて熟知するエキスパート。現在は研究センター 価値創出グループ長として、探索的な研究や異業種との協業開発など、幅広い領域で活躍している。
ADVERTISING
もともと止血剤として開発された「トラネキサム酸」

FASHIONSNAP
「トラネキサム酸」って、薬用化粧品にも配合されていますけど、お薬でもありますよね?
トラネキサム酸は、もともと1965年に止血剤として開発されたお薬です。薬剤としての歴史は長く、実に60年の使用実績があるんですね。1988年に肝斑の改善効果についての論文が発表されると、美容の分野でも注目を集めるようになりました。

杉山氏

出典/第一三共ヘルスケア

FASHIONSNAP
お薬から始まったんですね。今も風邪を引いたときに処方される気が….。
喉の炎症を抑える薬「トランサミン」も、トラネキサム酸です。

杉山氏

FASHIONSNAP
なんか、止血剤に、風邪薬に、肝斑改善薬って、効果が何だかバラバラですね。
一見そう思えますね。理由は、トラネキサム酸が「抗プラスミン作用」を持つ薬だからです。

杉山氏

FASHIONSNAP
プラスミンって何ですか?
体の中で炎症が発生すると、活性化する酵素の1つです。どの部位でプラスミンが活性化するかによって、現れる症状が違うんですね。血管で活性化すると血液が固まりにくくなり、喉で活性化すると痛みや腫れが生じます。

杉山氏

出典/第一三共ヘルスケア

FASHIONSNAP
肌でプラスミンが活性化すると、シミができてしまうということですか?
その通りです。プラスミンがメラノサイトを刺激して、メラニン生成のスイッチが入ります。トラネキサム酸はプラスミンを抑制して、症状を初期段階でブロックするんですね。

杉山氏
トラネキサム酸は、飲むのと塗るのとどっちが効く?

FASHIONSNAP
美肌という視点でいうと、トラネキサム酸は飲むのと塗るのと、どちらが効果的?
まず知っていただきたいのは、日本において「服用するトラネキサム酸」は全て内服薬、つまりお薬なんです。「肌に塗るトラネキサム酸」は、医薬部外品の薬用化粧品に配合されています。

杉山氏

FASHIONSNAP
えっ、知らなかった! 「顔に塗る薬」はないんですか?
ありません。反対に「飲むもの」の場合、サプリメント(健康食品)は存在せず、全て医薬品になります

杉山氏
ここでもう1つ知っていただきたいのは、医薬品は病気の診断や、治療または予防に使用されるもので、「美肌」や「美容」を目的としたものはないのです。一方で、医薬部外品の薬用化粧品はシミや肌荒れの予防などを目的としています。医薬品と医薬部外品では、目的も効能・効果も違います。

杉山氏

FASHIONSNAP
それも知らなかったです。
トラネキサム酸配合の内服薬は「肝斑」の改善の効能効果、医薬部外品の薬用化粧品は「シミ」や「肌荒れ」の予防などの効能効果があります。ご自身のシミが肝斑で気になっている方は「内服薬」、シミや肌荒れができるのを防ぎたい方は「薬用化粧品」を選ぶとよいでしょう。

杉山氏
トラネキサム酸は飲み続けて大丈夫?

FASHIONSNAP
肝斑改善のためにトラネキサム酸を服用しているときに、市販の風邪薬を一緒に飲んだりしても大丈夫なのでしょうか。
トラネキサム酸を配合している風邪薬とは、一緒に飲まないで下さい。トラネキサム酸が配合されていない風邪薬の場合、医師や薬剤師の指導に従い、用法・用量を守っていただければ問題ありません。市販の肝斑改善薬の場合は、2ヶ月まで続けて服用できます。ただし、一緒に飲んではいけない薬が添付文書に記されているので、それらの薬は飲まないようにしましょう。

杉山氏

FASHIONSNAP
「飲み合わせ」みたいなことですか?
そうですね。例えば、トラネキサム酸は止血剤でもありますから、血をサラサラにする薬を服用する場合、互いの作用を考慮しないといけません。習慣的に服用する場合は、使用上の注意や医師・薬剤師の指導を守って、気になることがあれば必ず医師や薬剤師に相談しましょう。自己判断での2ヶ月を超える長期服用はおすすめできません。

杉山氏

FASHIONSNAP
ちなみに、トラネキサム酸配合のコスメを使い続けると、トラネキサム酸が配合されている風邪薬が効かなくなったりしませんか?
薬を継続的に飲んでいると、代謝酵素などへの影響で、薬が効きにくくなることがあります。化粧品を肌に塗っても、体内の代謝酵素等への影響は少ないと考えられるので、風邪薬が効きにくくなる心配はしなくて大丈夫でしょう。

杉山氏
トラネキサム酸配合コスメは、どんなものを選ぶべき?

FASHIONSNAP
トラネキサム酸はいろいろなコスメに配合されていますが、何か違いはあるの?
化合物という意味では、いずれも同じです。

杉山氏
【トラネキサム酸の化学式】

出典/第一三共ヘルスケア

FASHIONSNAP
やはり濃度が高いほうが効くのでしょうか?
さきほどお話しした通り、トラネキサム酸は「医薬部外品」の有効成分で、一般的な化粧品には配合できません。医薬部外品は、成分の種類や配合量に厳しいルールがあるんですね。トラネキサム酸の場合も、配合量に上限があります。

杉山氏

FASHIONSNAP
高濃度のトラネキサム酸コスメは存在しないということ?
存在しません。逆に、「安全かつ効果が期待できる量が配合されている」とお考えいたけたらと思います。

杉山氏

FASHIONSNAP
濃度は関係ないとしたら、アイテム的に効率よくケアできるものはありますか?
トラネキサム酸は水に溶けやすい性質があり、我々の研究では適度な油分と組み合わせることで肌への浸透が促されることが分かっています。適度な水分と油分を含むアイテムが、力を発揮しやすいといえるでしょう。

杉山氏

FASHIONSNAP
どんな時に取り入れるのがベスト? やはり紫外線が気になる季節でしょうか。
肌内部では、常にシミなどのトラブルの引き金となる慢性炎症が発生しています。トラネキサム酸はこの慢性炎症を抑制する作用があるので、季節に関係なくコンスタントに取り入れるのがいいと思います。

杉山氏
【肌におけるトラネキサム酸の働き】



肌内部で「プラスミン」という炎症因子が発生すると、メラニン生成や肌荒れの引き金になります。トラネキサム酸はこのプラスミンの働きを抑制し、シミや肌荒れの連鎖を初期段階でブロックします。出典/第一三共ヘルスケア

FASHIONSNAP
ということは、毎日続けるベーシックアイテムがおすすめ?
そうですね。土台となるベーシックケアを行ったうえで、美容液を取り入れるのが効率的だと思います。

杉山氏

FASHIONSNAP
トラネキサム酸が合わない肌タイプや、併用を避けたほうがいい成分はありますか?
トラネキサム酸という成分自体は、比較的肌タイプを選ばない成分だと考えています。併用を避ける成分も特にありません。肌のさまざまなトラブルの要因となる炎症を抑える成分ですので、ぜひ毎日のお手入れに上手に取り入れていただけたらと思います。

杉山氏
(編集:福崎明子)
日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、WEBなどで美容記事を執筆している。担当分野はスキンケア、メイク、ヘアケア、フレグランス、美容医療など幅広く、丹念な取材をもとにしたわかりやすい記事に定評がある。温泉や銭湯をこよなく愛する入浴Lover。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【成分連載】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

DRIES VAN NOTEN -Women's- 2025 Autumn Winter

UNDERCOVER -Women's- 2025 Autumn Winter

Mame Kurogouchi 2025 Autumn Winter