化粧品の成分をひも解く連載、第5回は「アゼライン酸」にフォーカスします。ニキビや肌荒れにいいとSNSで話題を集め、アイテムも増えている注目の成分。そんなアゼライン酸について、「エトヴォス(ETVOS)」のアソシエイトサイエンティスト山崎瑠美子さんに教えてもらいました。
約15年に渡り、処方の開発や製品の有効性・安全性の評価など、幅広い業務に携わってきた化粧品研究開発のエキスパート。現在はその経験を生かし、「エトヴォス」の研究開発部門で活躍中。製品の裏支えとなるエビデンスの取得や、有効成分の探索などに日々邁進している。
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海外ではニキビ治療薬として知られるアゼライン酸
FASHIONSNAP
「アゼライン酸」って、最近SNSでもよく見かける成分です。
アゼライン酸はもともと自然界に存在する成分で、小麦やライ麦などの穀物や、酵母に含まれています。日常的に食事から摂取しており、安全性に優れることでも知られています。
山崎氏
FASHIONSNAP
海外では「ニキビのお薬」って、本当ですか?
本当です。現在世界約80ヶ国において、ニキビ治療薬として承認されています。アメリカではFDA(米国食品医薬品局)が2002年に15%のジェルを、その後20%のクリームを承認していて、世界においては30年以上も使用実績があるんです。
山崎氏
【アゼライン酸の化学式】
アゼライン酸は飽和ジカルボン酸という、有機化合物の1つ。出典:エトヴォス
FASHIONSNAP
日本でも、ニキビの治療に使われているんですか?
海外では治療薬として流通していますが、日本では未承認なんです。日本皮膚科学会のニキビ治療のガイドラインには、アゼライン酸に関する言及がありますが、保険適用外なこともあり「選択肢の1つとして推奨する」という形です。
山崎氏
アゼライン酸の主な働きは6つ
FASHIONSNAP
そもそも、アゼライン酸にはどんな働きがあるんですか?
主に6つの働きが認められています。①過剰な皮脂の分泌を抑える働き、②過剰な角化を防ぐ働き、③アクネ菌などに対する抗菌作用 ④肌の炎症や赤みを防ぐ抗炎症作用、⑤肌ダメージを防ぐ抗酸化作用、⑥メラニンの生成を防ぐ働き、です。
山崎氏
出典:エトヴォス
FASHIONSNAP
すごい、いろいろな働きがあるんですね!
よくアゼライン酸は「ニキビ生成のあらゆるステップに効く」と言われますが、このようにさまざまな機能があって、複合的にアプローチするためですね。
山崎氏
【複合的な働きにより、肌悩みにアプローチ】
FASHIONSNAP
ニキビだけじゃなくて、肌の赤みもケアしてくれるんですね。
炎症を抑制する働きがありますので、肌の赤みにも力を発揮してくれそうです。日本皮膚科学会のガイドラインにも、「酒さ」(「赤ら顔」と呼ばれる慢性的な炎症疾患)の治療に関しての言及があるんですね。ただし、全ての酒さに有効なわけではなく、特定の症状に対して「選択肢の1つとして推奨する」という形です。
山崎氏
他のニキビケア成分とは、どこが違う?
FASHIONSNAP
ニキビにいいとされる成分って、「ビタミンC」とか「シカ」とかいろいろありますよね。アゼライン酸は、他の成分とどこが違うのですか?
ビタミンCは抗酸化作用や抗炎症作用、シカは抗炎症作用を持ち、アゼライン酸と同じくニキビ生成の複数ステップに働きかけます。アゼライン酸がこれらの成分と最も違う点は、「酸」の一種で、穏やかなピーリング作用を持つことでしょう。
山崎氏
FASHIONSNAP
ピーリング効果があると、毛穴詰まりを防いでくれそうですね!
その通りです。特に大人のニキビは、乾燥やターンオーバーの乱れから起こる毛穴詰まりが原因の1つ。アゼライン酸は、毛穴詰まりはもちろん、肌のざらつきにも力を発揮してくれます。
山崎氏
FASHIONSNAP
ということは、毛穴の悪目立ちにも効果的?
そうですね。過剰な皮脂の分泌が原因の「開き毛穴」や、角化異常による「詰まり毛穴」には、効果が期待できるでしょう。また、抗酸化作用やメラニンの生成抑制作用は「黒ずみ毛穴」、抗炎症作用やメラニン生成抑制作用は、「ニキビ跡の色素沈着」を防ぐ働きも期待できます。
山崎氏
化粧品に配合されているのは、ピュアなアゼライン酸と誘導体
FASHIONSNAP
お薬は日本では未承認ですけど、化粧品にはアゼライン酸を配合できるんですよね?
配合できます。ただし「医薬部外品」の配合成分として承認されていないため、一般的な「化粧品」カテゴリーのアイテムに配合されています。
山崎氏
FASHIONSNAP
化粧品に配合されているアゼライン酸は、いくつか種類があるんですか?
まず「ピュアなアゼライン酸」そのものを配合しているケースと、肌に浸透してからアゼライン酸に変わる「誘導体」を配合しているケースがあります。
山崎氏
FASHIONSNAP
やはり、ピュアなアゼライン酸のほうが効果的ですか?
アゼライン酸本来の機能を発揮するという意味では、その通りですね。一方で、ピュアなアゼライン酸はpHが低い、つまり「酸性」に傾きやすいんです。人によっては一時的にピリピリ感やかゆみを感じることもあるでしょう。また、水に溶けにくい性質を持つため、化粧品に配合する際には技術が必要です。これらの弱点を克服するために、誕生したのが「アゼライン酸誘導体」です。
山崎氏
FASHIONSNAP
誘導体は、刺激を感じにくいのでしょうか?
どんな誘導体かにもよりますが、アゼライン酸とアミノ酸の一種であるグリシンを結合させた「アゼロイルジグリシンK」の場合、刺激が少なくて安定性に優れ、保湿作用も認められています。また、水への溶解性にも優れるため、色々なアイテムに配合しやすいのが利点です。
山崎氏
【アゼライン酸誘導体の効果実証データ】
「アゼロイルジグリシンK」原液を配合した水溶液を、1日2回3週間塗布した際の肌変化を計測。皮脂分泌量が減少する一方で、水分量は高まっていることが分かる。出典/エトヴォス
FASHIONSNAP
アゼライン酸の誘導体にも、いくつか種類があるんですね。
日本化粧品工業会の表示名称リストには、アゼライン酸の誘導体がいくつか登録されています。ただし、現時点で実際に使われている最もポピュラーな誘導体は「アゼロイルジグリシンK」という印象ですね。今後はさらに新しい誘導体が、開発されるかもしれません。
山崎氏
どんなアイテムを選ぶべき? 併用NG成分はある?
FASHIONSNAP
アゼライン酸を配合したコスメが続々登場していますが、やはり濃度が高いほうが効果的なのでしょうか?
先ほどお話しした通り、アゼライン酸は水に溶けにくく、肌に浸透しにくい性質を持ちます。特にピュアなアゼライン酸を配合したアイテムの場合、クリームや乳液など「乳化」の行程を経て、きちんと成分が溶け込んでいるものがおすすめです。
一方で、アゼライン酸の誘導体は水に溶けやすく、化粧水等にも配合しやすい成分です。ニキビに悩んでいる場合、クリームのベタつきが苦手な方もいるでしょうから、誘導体を配合した化粧水やジェル、シートマスクなどを選ぶといいでしょう。
山崎氏
FASHIONSNAP
アゼライン酸には、併用しないほうが良い成分やコスメはありますか?
マイルドなピーリング効果がありますので、サリチル酸など強めのピーリング効果を持つ成分と併用すると、刺激を感じやすいかもしれません。
本来は、脂性肌やニキビ肌に適した成分とされていますが一方で、誘導体を配合したアイテムの場合、乾燥しやすいデリケートな肌に使えるものもあります。毛穴やザラつきをケアしてくれる成分でもありますので、ご自身の肌状態と相談しながら、相性の良いものを見つけていただけたらと思います。
山崎氏
(編集:福崎明子)
日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、WEBなどで美容記事を執筆している。担当分野はスキンケア、メイク、ヘアケア、フレグランス、美容医療など幅広く、丹念な取材をもとにしたわかりやすい記事に定評がある。温泉や銭湯をこよなく愛する入浴Lover。
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