Image by: クレ・ド・ポー ボーテ
資生堂のグローバルラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ(Clé de Peau Beauté)」がこのほど、アメリカやイギリス、韓国、台湾など18の国と地域のKOLおよび、マスコミ約130人を招いた、グローバルサイエンスカンファレンスを、資生堂の最先端 研究施設であるグローバルイノベーションセンター「エスパーク(S/PARK)」で開催した。第1部では、資生堂が発見した「肌の知性(スキンインテリジェンス)」について、資生堂の研究員らによるパネルディスカッションが行われ、第2部では普段は開放していない、資生堂の“根幹”とも言える研究室が公開された。
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第1部:「肌の知性」を研究員が解説
資生堂が40年以上の肌細胞研究から見つけ出した神秘「肌の知性」。その前身として2011年に、肌が脳と同じように自ら考え、さまざまな情報を処理する能力を持つという「ブレインスキン理論」を発表。そして2019年に、肌は生まれながらに良い刺激と悪い刺激を見極める力「肌の知性」があることにたどり着いた。
“肌は生まれながらに、良い刺激と悪い刺激を見極める力がある”
とは? 一度聞いただけではにわかに信じられない、この「肌の知性」とはどういうことなのか?パネルディスカッションに登壇したクレ・ド・ポー ボーテ研究所 佐藤潔所長と「肌の知性」研究を担当する中西忍研究員が解説した。
皮膚は良い刺激と悪い刺激を感知する
温かさや冷たさに触れた時に、心情が変わるという科学的根拠は出ています。例えば、温かいものに触れたときに気持ちも温かくなりますが、これは温かいものに触れると、肌がリラックスして脳に伝わり優しいあったかい気持ちになるからですね。旅行で例えるなら、お寺を訪れると肌がピリピリし、深い畏敬の念を感じます。これは簡単に説明できない感覚ですが、肌の知性かもしれないと考えています。(中西研究員)
この感覚がなぜ、肌の知性と言えるのか?
脳は外界から隔離されていて、外部環境の情報を直接得ることはできないが一方で、皮膚は環境の最前線にあり、環境情報を受け取っていると理解できます。それはなぜか?以前は、皮膚とは身体の中と外を隔てる単なる膜だと考えられていましたが、それにはわれわれは疑問を感じていました。そもそも世界には多くの微生物や単細胞生物がいますが、これらの生物には脳がありません。しかし、彼らは彼らの皮膚である膜を通じて環境を感じ、それに応じて行動し生活しています。そしてその環境情報を元に進化してきました。一方で皮膚を持たない生物は存在しません。皮膚が環境を感じ取りその情報を処理している、これが肌の知性だと考えます。(中西研究員)
皮膚細胞には五感に関する受容体があるという。これも肌の知性なのか?
目は視覚、鼻は嗅覚、耳は聴覚に関係します。脳にある五感に関係するセンサーが皮膚にも存在することが次々と明らかになっています。視覚を例にすると、私たちの皮膚には、肉眼では見えない紫外線を感知することができます。皮膚が紫外線を浴びると、即座に反応してメラニンを形成し、肌を守ります。これは、皮膚が“見る”ことができる証拠ではないでしょうか。さらには、肌は良い刺激と悪い刺激を識別していることも分かっています。良い刺激は受け取ろうとし、それを使おうともします。例えば、心地良い湿度を取り入れようとする一方、乾燥など悪い刺激を見極めて退けるといった能力です。(佐藤所長)
なぜ、良い刺激と悪い刺激に違った反応を示すことがわかったか?
細胞をさまざまな刺激にさらす実験を行いました。違った刺激に対して細胞がどのように反応するのかを注意深く観察することで、刺激の種類によって細胞の反応が異なることを深く理解することができました。表皮細胞に良い刺激を与えると適度に細胞が反応しますが、逆に悪い刺激を与えると多くの細胞が過剰な反応を示します。(中西研究員)
表皮細胞は隣接する細胞に情報を伝達する
皮膚の表皮細胞は自分で刺激を受けて情報を処理するだけでなく、隣接する細胞に情報を伝達することも分かったのです。(佐藤所長)
細胞同士で情報を伝達するとは?
われわれは、数理科学と分子生物学を駆使することで、皮膚細胞間のコミュニケーションを可視化することに成功し、このコミュニケーションの形を「皮膚遺伝子ネットワーク」と名付けました。皮膚の表皮細胞が外部から刺激を受けると、皮膚の中でネットワークが活性化します。このネットワークは、目で見ることはできません。このネットワークは肌の知性と密接な関係があるように思います。今後さらに研究を進めていきます(中西研究員)
研究段階の肌の知性の理解において、最も魅力的な発見は?
細胞が独立して考え、行動していることは興味深い。細胞同士がコミュニティを形成し、互いにコミュニケーションする能力を持っていることもです。(佐藤所長)
皮膚細胞内の遺伝子がコミュニティを形成するように組み立てられていることを発見したことです。ある種の集合体(遺伝子クラスター)は、実は皮膚に特有なのです。仮定の話ですが、これらの遺伝子クラスターは皮膚の特徴を形成する源であり、肌の知性に大きく関係している可能性があると考えます。(中西研究員)
今後、肌の知性、細胞間コミュニケーションの研究を、より美しい肌を作るためにどう生かしていくのか?
肌の特徴の形成に関与しているこれらの遺伝子クラスターの特性を明らかにすることで、どの遺伝子が肌の知性を高めるカギを握っているか解明されるかもしれません。そうなれば、肌の知性の研究は、細胞レベルから遺伝子レベルにまで発展する可能性があります。(佐藤所長)
第2部:研究施設を公開
今回のグローバルサイエンスカンファレンスが行われた横浜の資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)は、2019年4月にオープンした美の複合体験施設。“美のひらめきと出会う場所”をテーマに、1階にカフェや、アクティブビューティを体感できる「S/PARK Studio」、研究員が肌を測定・解析して化粧水・乳液を作るパーソナライズスキンケアサービスなどが楽しめる「S/PARK Beauty Bar」があり、2階には最先端技術を知ることができる入場無料の体験型ミュージアム「S/PARK Museum」がある。上階は未来のビューティイノベーションや新しい価値を生み出す「都市型オープンラボ」として多くの研究員が勤務する資生堂最先端の研究施設となっていて、今回この施設の一部が公開され、研究員によるレクチャーが行われた。
細胞研究(暗室)
暗室の中での細胞研究。何万とあるエキスを1つずつ添加し細胞の変化を追うことで、細胞間にコミュニケーションが行われていることにたどり着いたという。「さまざまなエキスがある中で、研究者が語るのは『答えは1つだとして、そこへたどり着くには3本あり、その3本の道に行くには1万通りの入口がある。1万通りを1つずつ確認していくのは現実的ではない。良い勘、センスを持って1つの答えにたどり着くのが研究者。という教えの下、センスを持って1つの答えに辿り着けるのが賢い研究者だ』と。そこで日々、戦い答えを導き出しました」。(中西研究員)
細胞培養研究
細胞培養室で育てた表皮細胞を使って、肌の知性について研究。培養室で育てた細胞には、均一に揃った細胞と不均一で整っていない細胞細胞があり、そのような細胞の見た目が肌の知性に関連があることも分かっているという。
香料研究
クレ・ド・ポー ボーテで使用する香料などを研究。希少な花や草木を研究し香りの再現や、その香りが持つ肌への効果などを研究する。肌のバリア効果やリラックス効果が期待できる香りを製品に落とし込んだり、希少性のある花々や樹木から気品のある香りを表現できるよう研究を続けている。
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