
左)永直樹 右)鈴木諭
Image by: FASHIONSNAP
ルームウエアとしてもタウンユースでも使える超重要アイテム「スウェット」。様々なブランドが日々、ブラッシュアップを続けているが、果たしてスウェットの理想系はどんなデザインになるのか。デビュー間もないブランドながらも業界関係者から高い評価を受けるスウェットを展開する「シテラ(CITERA)」ディレクター永直樹氏と、スウェットに人生をかけた「ループウィラー(LOOPWHEELER)」創業者 鈴木諭氏が、思い描く"究極のスウェット"について話した。
共通点は山下達郎?
―お二人はどこで出会ったんですか?
永:「ループウィラー(LOOPWHEELER)」のお店近くに「ネクサスセブン(NEXUSVII)」の事務所があって、2013〜2014年頃そこで僕が仕事をしていたんです。「ネクサスセブン」と鈴木さんが一緒にスウェットを作っていて、僕も途中から生産の仕事をすることになりお話させて頂けるようになったのがきっかけです。
鈴木:彼は音楽に詳しくて、何故かわからないですが山下達郎さんの話で盛り上がった記憶があります(笑)。
永:そうでしたね(笑)。
鈴木:僕はリアルタイムでファーストアルバムを聴いている世代。4枚目のアルバム「GO AHEAD!」の「BOMBER」というディスコ調の曲があるんですが、これが大阪のディスコで大ヒットしたんですよね。大阪で火がついて、その後東京でも流行りましたね。そういう話をして永君と盛り上がったんですよ。
永:当時は生産を担当しており、「ループウィラー」が「ネクサスセブン」とWネームを手掛けていたので日々やりとりがありました。ただ深い話をしたのは山下達郎さんの話からでしたね(笑)。

―鈴木さんの印象について教えてください。
永:今野君(「ネクサスセブン」デザイナー今野智弘)は物事を深く掘り下げ、素材とかディテールなどとても細かいところまで気にしてデザインをしている人なのですが、鈴木さんもおそらくそういう方なんだろうなと率直に思っていました。「この人は物作りに関して、信念を持ってやられているんだろうな」と一方的に思っていたので、正直商品のことや仕事の面でお話するのが恐れ多かったんです。挨拶をするのも気を遣ってしまうというか。
―鈴木さんは永さんについてどんな印象でしたか?
鈴木:当時永君は生産管理の仕事をしていたと思うんですが、たぶんそれ以外になにか違うものを持ってらっしゃるというか。クリエーティブなことをされてるんだろうなっていうのは会話の中から感じるものが多々ありましたね。なんとなくオタクのニオイがするというか(笑)。今はオタクの定義が複雑化してきているので一昔前の定義とはまたちょっと違うと思うんですけど、僕は探究心が旺盛で一つの事柄について深く調べて掘っていくというか、そういう作業ができる人がオタクだと思っていて、永君からはそういうところを感じることができました。自分で何かを作り上げる、クリエーションするっていうことをはじめたら、相当深みにハマっちゃうタイプなのかなって。退職時に「何するの?」と聞いたら「畑を耕します」と言われたときは「本当に農業するのか!?」と思いました(笑)。
永:湘南に家があって、実際に今も耕してもいるんですよ(笑)。
鈴木:そういうことを聞いていて「やっぱり面白いな人だな」と思いましたね。新しい農業の担い手になったらいいなと僕は勝手に解釈をしていましたが(笑)。

永:「ヘッド・ポーター(HEADPORTER)」さんの展示会でたまたま偶然会ったときに近況のお話をさせて頂いたのを覚えています。
鈴木:その後、梶原由景さんと会った時に永君と何かやろうとしているという話を小耳に挟みました。それから半年後にプロジェクトがローンチするのかと思っていたんですが、結局1年くらい経ってご連絡が頂きました。そこで初めて「シテラ(CITERA)」というブランドについて知りましたね。
永:かなり時間かけましたからね。
鈴木:彼のことだから深く掘り下げて、納得のいくところまでとことこん突き詰めているんだろうなと勝手に思っていました。そういった想いを胸に、BA-TSU ART GALLERYで行われた展示会にお邪魔したんです。
「シテラ」永が考える究極のスウェットとは?
―時間をかけてクリエーションをしているお二人ですが、素材選びでこだわっていることはありますか?
鈴木:永君には特にスウェットについて聞きたいですね。僕も裏毛と向き合って何十年経っているので、永君がどういう思いで今回の裏毛シリーズを作り上げて、どういうことをやりたかったのかとか、どういう苦労があったのか是非聞いてみたい。
永:スウェットはスリーレイヤーのものと、スウェットと呼んで言っていいのかわからないですがジャージー素材のアイテムがあります。全部で3種類作ったんですが、特に作りたかったものはスリーレイヤーのものです。僕はスウェットやスウェットパンツがとても好きなんですが、ただどうしても着る時期って涼しくなってからになってしまい、冬場だと寒くて、着用できるシーズンが限られてしまう。他社の防風商品を試してみたんですが着心地に納得がいかず、この問題を解消できないかということを「シテラ」を立ち上げる前からずっと考えていたんです。

鈴木:現段階の技術では機能面を向上させるとどうしても着心地が悪くなってしまいますからね。
永:着心地を追求しながらも、一枚で冬場を過ごせるスウェットパンツをどうしても「シテラ」でやろうと思っていたんです。僕は洋服の専門学校を出ていないので、アプローチの仕方が正しいのか正しくないのかわからなかったんですが、「シテラ」では表地裏地の間にシートを挟んだスリーレイヤーの素材を開発しました。できるだけ薄くなるようにして、もたつく感じがなくなるよう意識しましたね。
鈴木:ボンディングで接着しているんですか?
永:そうですね。何回も洗って表と裏の生地がボンディングに耐えられるかなどを何度も繰り返しました。生地も縫製も全て日本の工場にお願いしました。

―「ループウィラー」とは違ったアプローチのスウェットですよね?
鈴木:どうしてもレイヤーを挟むと吊り編み機で編んだ生地の柔らかさが消えてしまいますから、「ループウィラー」ではやる意味があまりないですがね。無理してそこに費用をかけてやるよりも、最新の高速機で編んだものを使ったほうが適していると僕は思っているので、吊り編みを使う「ループウィラー」には不向きだと思っています。
ただ「ループウィラー」も実はハイテク系のスウェットを出しているんです。「Number Plus Japan」という会社が群馬にあるんですけど、そこが撥水加工の技術を持っていて、6、7年前から商品開発に取り組んできました。以前は製品加工しかできなかったのですが、最近は生地で撥水加工ができるようになったので水を弾くスウェットを作れるようになりました。ちょっとした雨であれば傘がいらないぐらいの機能性は持っていて、触り心地は少し硬いですが、許容範囲の硬さなので、「ループウィラー」として商品展開しているというところです。ちなみにGORE-TEXもそうですけど撥水加工は着ていくうちに経年変化で落ちてきます。意外と知られていないことなんですが、熱をかけてやると機能が復活するので、家庭で洗濯してもその後にドライヤーで熱を与えてると8〜9割までは元の状態に復元するんです。

―「ループウィラー」もより良いスウェットを日々追求している。
鈴木:永君がおっしゃる通り、普通のスウェットで風が通らなくて、水も通らなかったら最高です。スウェット好きの僕にとってはそれが理想系だと考えています。流石に豪雪の環境にまで対応させることは現実的ではないですが、都会の中での移動の時に傘がなくてもスウェット一枚あれば大丈夫となれば最高だと思います。ただ「ループウィラー」としては、レイヤーを入れてハリ感を持ってしまうことにまだまだ納得できない部分があるんです。今の繊維業界の技術力では、この問題を解決できないのですが、永君たちがこういったことをやられているので非常に面白いなと思っています。何事もそうかもしれませんが、誰かが取り組まないと先に進みませんからね。
―デザイナーが問題解決に向けて、企業を動かして行くことが必要ということでしょうか?
鈴木:理想のスウェットを作るためには、しなやかで薄くて高機能な素材が必要で、最終的には科学の範疇になってきます。東レさんや帝人さんといったトップレベルの技術力を持つ企業の開発を待たないと不可能です。これを推し進めるためには需要が必要。だから、僕らが吊り裏毛をやり始めた志と同じように、永君がこういうものがあったらいいなと思って、チャレンジしていく姿勢が世界を変えていくと思うんですよね。彼はまだ今回のスウェットの出来には満足してないでしょうから、今後もっといいものを作ってくれるという期待を持っています。
―着心地と機能性のバランスがとても難しいんですね。
鈴木:なんとなく包まれている安心感があるのがスウェットのいいところなんじゃないかなと考えています。着心地を保ちながら、機能性を付け足すといのは二律背反なので、正直闘っていくしかないですよね。もちろんパターンや細かなディテールを詰めていくことも必要になってきますが。そこができたら本当にすごいですよね。大げさでもなく世界中の人がビックリするはずです。
永:そうなれるよう努力します(笑)。今回出したスウェットもまだまだ改良できると思っていますから、僕がやるべきことを「シテラ」でやっていくだけです。
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