クリストとジャンヌクロードの構想約60年の超大作「包まれた凱旋門」ができるまで
「クリストとジャンヌ= クロード “包まれた凱旋門” 」展示作品 Image by Photo: Benjamin Loysea ©2021 Christo and Jeanne-Claude Foundation
「クリストとジャンヌ= クロード “包まれた凱旋門” 」展示作品 Image by Photo: Benjamin Loysea ©2021 Christo and Jeanne-Claude Foundation
クリストとジャンヌクロードの構想約60年の超大作「包まれた凱旋門」ができるまで
「クリストとジャンヌ= クロード “包まれた凱旋門” 」展示作品 Image by Photo: Benjamin Loysea ©2021 Christo and Jeanne-Claude Foundation
2021年9月。パリを象徴するモニュメントである「エトワール凱旋門」通称パリの凱旋門が、銀色のコーティングが施された再生可能な青い布と赤いロープで16日間に渡って包まれた。「包まれた凱旋門」と銘打たれた同プロジェクトは現代美術作家であるクリスト(Christo)とその妻であるジャンヌ=クロード(Jeanne Claude)による現代アート作品である。同プロジェクトが発案されたのは1961年。構想から約60年を経てようやく形になった作品であり、クリストとジャンヌ=クロードの最後の作品でもある。現在、21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「クリストとジャンヌ= クロード "包まれた凱旋門"」は、そんな超大作である「包まれた凱旋門」の製作背景と実現に向けた長い道のりに焦点を当てた展覧会となっている。同展の開催を記念して催されたオープニングトーク「『包まれた凱旋門』の実現とこれから」では、クリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団ディレクターであり、クリストの甥でもあるヴラディミール・ヤヴァチェフ氏と、同財団ディレクターのロレンツァ・ジョヴァネッリ氏、展覧会ディレクターのパスカル・ルラン氏が登壇。包まれた凱旋門の舞台裏と苦労、そして2人の魅力について語られた。
クリストとジャンヌ=クロードは、1935年6月13日、同じ年の同じ日に別々の場所で生まれ、1958年の秋にパリで運命的な出会いを果たしてから生涯を通して共に活動をしてきた。歴史的な建造物などを布で覆い隠す大規模なアートプロジェクトで知られている2人の作品は、展示が終われば肉眼で鑑賞することは二度とできない。不可能と思われることを可能にし、それでいて実現した作品自体は刹那的。その限りある一瞬の美しさで世界中の人々を魅了してきた。2009年に妻であるジャンヌ= クロードが逝去した後もクリストは創作活動を続けたが、新型コロナウイルス感染拡大のため延期となった「包まれた凱旋門」の完成を見ることなく2020年5月に他界。その後、賛同者の協力のもと構想から約60年をかけて2021年9月についに実現した。ヴラディミール・ヤヴァチェフ氏は同プロジェクトを実現する上で最も困難だったことは「途中からクリストが私たちと一緒にいなかったこと」と回顧。「そこに構想者であるクリストがいないという不在の意識は強烈なものであり、喪失感や悲しみの中で同じ志を持ったチームで実現を目指した」と振り返った。
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21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「クリストとジャンヌ= クロード "包まれた凱旋門"」は、約60年間という長い道のりを、構想、準備、設置、実現の段階に沿って展示。プロジェクトのために制作された布とロープを展示するだけではなく、プロジェクトの実現に奔走した裏方にも注目しており、プロジェクトに携わった14人のインタビュー映像や、多くの記録画像を用いりながらその裏側を詳らかにする構成となっている。同展のディレクションを務めたパスカル・ルランは「視覚的に2人の作品に迫りたかった」とし、作品のキャプションを排除している会場構成を特徴として挙げた。
同展が、他のどの館でもない21_21 DESIGN SIGHTで開催されている意味についても触れておきたい。同会場はディレクターに三宅一生が名を連ね、多くの企画展で三宅一生デザイン文化財団が主催をしていることでも知られているが、クリストとジャンヌ=クロードの甥でもあるヴラディミール・ヤヴァチェフ氏は「三宅一生氏とクリスト、ジャンヌ=クロードは非常に親しい友人関係にあり、互いに影響を与えあっていた」と明かした。同会場ではジャンヌ=クロードが亡くなった数ヶ月後に特別展として「クリストとジャンヌ=クロード展 LIFE=WORKS=PROJECT」を開催。クリストも来日し、トークイベントに出演するなどその親交の深さが伺える。
コロナ禍でありながら16日間で約600万人が鑑賞した「包まれた凱旋門」のフォトモンタージュが最初に登場したのは1961年。しかし、それ以降2人が同プロジェクトについて動きを見せるのは56年後の2017年までなかったそうだ。ラディミール氏は「壮大なプロジェクトであり、難局があったことも事実だが、2人が手掛けてきたプロジェクトの中でも最もスムーズに実現したと言って良いだろう」と話す。
「というのも、パリのジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センターで開催される回顧展の準備中だったクリストに、同会場の所長であるセルジュ・ラヴィーニュ氏が『展覧会に合わせてポンピドゥーセンターの建物や広場などの町並みを作品として発表したらどうだ』という提案をした所、クリストは『今パリで何かをやるとしたら、唯一興味を持っているのは凱旋門を包むことだ』と答えたそうです。それを受けてポンピドゥーセンターは、国の文化財や建造物を統括している組織へ打診。翌年2018年にはフランス大統領エマニュエル・マクロン氏に同プロジェクトを紹介する機会を得て、大統領の承認を受けました。2019年4月には、凱旋門を管理する、フランス国立モニュメントセンターの許可を得たことでプロジェクトの実現が可能となったのです」(ラディミール・ヤヴァチェフ)
実現までスムーズだった、と言っても国際的に有名なモニュメントを包むという前代未聞のプロジェクトには、もちろん苦労もあった。1つ目は、同プロジェクトで対象としているものが国家的な意味合いを持つ記念建造物であるという点だ。文化財の性質上、傷を付けたり、破損をすることはもちろん厳禁である。ラディミール氏は「保険を掛けておくべきだと思い、保険会社に見積もりをお願いしたところ『到底価値が付けることができない』と言われた」と明かしたことからもわかるように、凱旋門はナショナル・モニュメントの中でも一線を画すものである。そのため工学的な研究を行い、表面の彫刻を守る形で鉄骨を組み上げたという。続けて「凱旋門が丘の上にあり、風の影響を受けやすく、風が布と凱旋門にどのような影響をもたらすことがわからなかった」とし、解決方法として化学反応でネジや異形棒鋼を固定する「ケミカルアンカー」を、樽のたがのような形で部分的に用いたという。2つ目の難局はパリの凱旋門が、世界中の文化財の中でも圧倒的な人気を誇っており、日夜ひと目見ようと訪れる観光客が絶えないという点だ。パリの中心地に大量の資材を持ち込むだけではなく、常に人が自由に出入りできる状況を保ちながら作業をする必要があったという。主な作業時間は夜間、もしくは早朝の観光客が訪れない時間のみに絞られていたが、実際に手掛けた施工会社やエンジニアが優秀だったことから安全面と納期が守られる形で完成に至った。
つかの間の美しさに焦点を当て続けたクリストとジャンヌ=クロードの仕事に迫る「クリストとジャンヌ= クロード "包まれた凱旋門"」は2023年2月12日まで。
■「クリストとジャンヌ= クロード “包まれた凱旋門”」
会期:2022年6月13日(月)〜2023年2月12日(日)
開館時間:10:00〜19:00 ※入場は18:30まで ※6月13日(月)〜6月17日(金)は13:00開館
休館日:火曜日、年末年始(2022年12月27日〜2023年1月3日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT
住所:東京都港区赤坂 9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
入館料:一般 1200円、大学生 800円、高校生 500円、中学生以下無料
電話番号:03-3475-2121
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