「シャネル(CHANEL)」が溌剌としたフレッシュな香りとして「チャンス(CHANCE)」を発表したのは、2003年のこと。ガブリエル・ シャネルのように“直感を信じ、チャンスをつかむことができる女性”をイメージし、その後バリエーションを増やしてきたこのフレグランスに、今年新しい香調が加わる。明るく、弾けるようなフルーティ フローラルなノートを神秘的なセダー アコードが締める「チャンス オー スプランディド」だ。シャネルの専属調香師、オリヴィエ・ポルジュ(Olivier Polge)が、そのノート、調香秘話、そして“チャンス”と言う概念について語ってくれた。

◾️オリヴィエ・ポルジュ(Olivier Polge ) 南仏の香水作りの聖地、グラースに生まれる。アート史を学んだものの、35年あまりの間、シャネルの専属調香師を務めた父ジャック・ポルジュの影響で、香水作りの成り立ちに興味を持ち始める。地元グラースやジュネーヴでノウハウを学んだ後、ニューヨークのIFF(INTERNATIONAL FLAVORS AND FRAGRANCES)で経験を積む。2013年にシャネルのフレグランス研究所の一員となり、2015年からメゾンの専属調香師に。これまで「シャネル N°5 ロー」、「ブルー ドゥ シャネル」、「チャンス オー ヴィーヴ」を手がけた。©CHANEL
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⎯⎯メゾンにとってアイコニックなチャンスの新作には、どのように取り組みましたか?
チャンスは最初、単独のフレグランスでした。それ以来3つの香りが登場して、今度が5つ目。それぞれフォーミュラはまったく違いますが、エスプリは共通です。トップノートがフルーティと言う構造も。これは大事なポイントです。ピンク ペッパーコーンを含む「チャンス」(2003年)、シトラスから始まる「チャンス オー フレッシュ」(2007年)、そしてグレープフルーツをアクセントとした「チャンス オー タンドゥル」(2010年)。私はチャンス オー スプランディドでそれらと同じくらい、曖昧さのないストレートな香りを思い描きました。チャンスの新作の調香は特別な仕事です。特定の世界観に叶い、それでいて違うものを提案しないといけませんから。つまり、定義を見失わずに新しい香りを作ること。 “違い”のための糸口を探しつつ、チャンス ファミリーにおけるバランス感を求めたのです。

手前「チャンス オー スプランディド オードゥ パルファム」(50mL 1万7600円、100mL 2万4200円)4月15日発売 。左奥から、「チャンス」、「チャンス オー タンドゥル」、「チャンス オー フレッシュ」、「チャンス オー ヴィーヴ」 ©CHANEL
⎯⎯ガブリエル・シャネルの伝説を物語るフレグランス コレクション「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」の「コメット」の調香にあたっては、先入観に左右されないよう敢えてガブリエル・シャネルの生涯初のハイジュエリー コレクション「コメット」のネックレスとは距離を置いた、と言っていましたね。今回向き合った、また逆に避けた要素はありますか?
インスピレーションは、香り自体に限ります。充実した歴史を持つシャネルのフレグランスを出発点とし、既に存在する香りに向き合って新作のアイデンティティをつくるのです。香りは強さともろさを伴いますが、他の感覚に左右されることもしばしば。ですから調香師は常に目に見えるものを抽象化することに努めています。視覚を封じ込め、自分たちの戦力である嗅覚に集中できるように。
⎯⎯チャンス オー スプランディドはどんな言葉で表現されますか ?
フレッシュ、フルーティ、オプティミスト、陽気…そして魅惑的。
⎯⎯鍵となった原料やアコードについて教えてください。
主役は、ヴァイオレットやローズが香るラズベリー アコード。一方フローラルなゼラニウム(の葉)も、私たちにとって大切な、興味深い原料です。シャネルのフレグランスではフローラルが重要な位置を占めますから。ローズ ゼラニウムは私たち自身がグラースで栽培する5種の花のひとつです。ゼラニウムはとても多様なので品種のリサーチにも労力を注ぎ込みましたが、一方ではグラースの気候がもたらす特性、そして蒸留の方法による香りの違いも研究しました。











シャネルがグラースで栽培する5種の花のひとつ、ローズ ゼラニウム ©CHANEL
⎯⎯“フルーティ フローラル”からウッディへのノート展開はどう構成しましたか?
曖昧さのないストレートなノートに根ざした香りほど、調香は難しいものです。すべての原料は一丸となって“フレッシュで溌剌とした”チャンス オー スプランディドを語るわけですが、ノートの展開はある程度複雑です。たとえばラズベリーに潜む一種のローズの香りは、ローズ ゼラニウムのおかげで引き立ちます。実際のローズよりはもう少しシンプル、私が求めていた雰囲気にぴったりでどこかリラックスした香りです。そしてラストノートには、大切なセダーのノート。香りの基盤を支える、ムスク調のセダーアコードです。ここでも原料の特性とそれが与える印象にこだわり、再蒸留したセダーを使いました。
⎯⎯ ”スプランディド“と言うネーミングからは、チャンス ファミリーの軽やかさよりも壮大な印象を受けますが。
名前は香りが完成してから決まりましたが、“スプランディド”は前向きなチャンスのエスプリを象徴していると思います。
⎯⎯すみれ色にはどんな意味合いがありますか?
チャンスの世界観はカラフルです。この色を加えて、パステルトーンが揃いました。ラズベリーがヴァイオレットのアクセントを持つことも意味深いです。

「チャンス オー スプランディド オードゥ パルファム」(50mL 1万7600円、100mL 2万4200円)4月15日発売 ©CHANEL
⎯⎯シャネルでは、チャンスは唯一丸い形のボトルです。パッケージは香りづくりに影響を与えますか?
最初、私のボトルへの眼差しは、調香師のアプローチとは違うものでした。しかし四角と丸と言うベーシックな形をよくよく見ると、フレグランスとの接点が見えてきたのです。極めて多面的なシグネチャーに基づき、複雑な原料である“フローラル”を好むシャネルのフレグランスも、最終的にはピュアなフォルムに収まるのだ、と。実際、シンプルさは行き着くまでの道のりが複雑ですが、その目的地ははっきりしています。
⎯⎯香りは、チャンスをつかもうとする人をどう助けられると思いますか?
チャンスは自信と関係があると思います。香りがもたらす気分の高揚は、自身の直感、つまり自分自身を信じることにつながります。“チャンス”はそれ自体がエスプリなのです。
⎯⎯“エスプリ”はどうやって香りに解釈されるのでしょう?
私にとって、香りは知性的な構造より直感が弾き出すもの。何かのシンボルを、何としてでも香りに置き換えなければ、と思うこともあります。実に主観的なやり方で。
(文:Minako Norimatsu)
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