展示会場に並ぶのはニットだけ。ユニセックスではなくジェンダーフリー、ソフィスティケートだけどイージーケア、再生繊維を取り入れた「現代生活のための服」——イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)を約6年にわたり率いた高橋悠介が、独立して新たに立ち上げた「CFCL(シーエフシーエル)」が作るのは、器のような"Knit Ware"だ。自身の原点でもある3Dコンピューター・ニッティングに特化したブランドだという。コロナの過渡期から後にどんな価値観を投げかけるのか、デビューコレクションの展示会後に行ったインタビューで聞いた。
—先日、前職でデザイナーを務めていた「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」のブランド休止のニュースが流れました。今の気持ちは?
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僕もニュースを見て初めて知りました。約6年担当したので、気持ちをお答えするのは難しいですね。
—文化ファッション大学院大学(BFGU)を卒業後、三宅デザイン事務所に在籍した10年間で何を学びましたか?
服だけではなくて文化を作ることなど「何のためにデザインするか」、学校のように一から勉強させてもらいました。それこそ、「世の中のために服を作る」という意識は自分の中に根付きましたし、そこはずっと変わらないんじゃないかなと思うくらい染み込んでいます。服を作ることについては、技術以外にも本当に考えさせられました。
—今年2月に退社した理由は?
これです、とはっきりと答えるのは難しいです。ただファッションデザイナーを目指していた学生のころから、いつか自分でブランドを持ちたいという思いはありました。タイミングが来たからというのはあるかもしれません。会社とは関係がないんですが自分の家族のことも影響していたかと思います。
—家庭を持ったことでしょうか。
そうですね、自分が結婚して子どもを授かる経験したことで、次の世代のためにということを考えるきっかけになりました。その前に僕の母が亡くなったことも大きくて、本当にやりたいことをやらなければという思いも強くなって。そのタイミングが「今」だったんだと思います。
—「本当にやりたいこと」を叶えるために独立した。
はい、起業する事が唯一の選択だと考えました。庇護を受けず、ストックも自分で保有して、コントロールする自由と責任を持つことが大事だと。最初からできることは少ないかもしれませんが、それが独立だという認識でした。
ー起業するにあたり、どんなことを考えましたか?
いろいろと考えましたが、大きくは2つ。1つは次の世代を担う子どもたちに対して「責任ある行動をとっている」と自信を持って答えられるかが重要だと感じたんです。生前の母は社会問題を取り上げるジャーナリストだったのもあって、そういう姿を見て育った事も影響していると思います。服のデザインだけじゃなくて、社会のシステムにどうやって参画し、未来に対して責任を果たしていくか。
もう一つは、自分を見つめ直し、自己ブランディングすること。何が一番やりたいのか。最初はアレもコレもと手を出すことはできない。なのでまず、自分のクリエイションの強みを捉え直しました。それで行き着いたのが、僕のルーツの一つであるコンピューター・ニッティングでした。
ー学生時代に「装苑賞」を受賞した時の作品もコンピュータープログラミングのニット。その作品をウェアラブルに作り変えて三宅デザイン事務所の面接にも持っていったとか。
当時からコンピューター・ニッティングにはこだわりがあって折を見て知見を広げていました。10年前よりも技術進化がかなりあって、今だからこそ自分が出来る領域があるんじゃないかと感じました。無縫製のホールガーメント(※)は作り方が特殊で、基本的にパターンや裁断、ドレーピングなども無い。糸を少し変えるだけで違ったものになるので、それをコントロールしてデザインできるデザイナーって少ないんじゃないかなと。それに糸から企画することが出来るので、領域の広さは無限大だなと思うんですよね。
※ホールガーメント とは?
島精機製作所が独自に開発したホールガーメント横編機によって編成された無縫製ニットウェア、またはその技術。
ーそういった自身の強みを活かしていこうと。
あとは、僕が学生だった頃よりも時代がスポーティーにカジュアルになってきているので、ニットが活躍する範囲がかなり拡張している。牧歌的でクラフトのイメージじゃない、もっとシャープでソフィスティケートされたニットが作れるんじゃないかなと思いました。
ーそれで立ち上げたのが「CFCL」。社名でありブランド名ですね。
名前はすごく考えました。「ユウスケタカハシ」とか自分の名前をブランド名にする事も一つの選択肢でしたが、シグニチャーとは対局的な名前にしたかったので。社会のために服を作るという方針で、一人のデザイナーの意思決定によってコレクションが構成されるべきではないと考えているんです。クリエイターだけではなくて、ブランドに関わる多くの人の意見を吸収する基盤としてありたいという感覚。なので、コーポレート名のようにアルファベットで「CFCL」としました。「Clothing For Contemporary Life」の略。「MoMA(Museum of Modern Art)」とか「OMA(Office for Metropolitan Architecture)」のように、この会社が社会の中で何をやっていくべきかとかというスローガンがそのまま企業やブランド名になる、ということを重視したんです。
ー「Clothing For Contemporary Life」の意味は?
そのまま訳すと「現代生活のための服」で、ダイバーシティーそれぞれの生活にフィットし、サポートするための服という意味です。服で生活を定義したり押し付けることはありません。服自体がフォーカスされるべきではないという考えで、一部の人だけに届くファッションを作るというよりも、一人でも多くの共感者を増やすジェネラルなものを作りたいと思っています。
ーCFCLのコンセプトは?
3つの要素を併せ持っています。1つ目はソフィスティケート。1つのドレスやセットアップで1日のあらゆるオケージョンに対応できる上品さとリラックスを併せ持つこと。朝起きてその服を着て、家で仕事をしたり、ソファでくつろいだり、家事や育児をこなして、その服でドレスコードのあるレストランにも着ていけるデザインです。2つ目はコンフォート&イージーケア。家庭の洗濯機で洗えて速乾性に優れ、アイロン掛けをほとんど必要としません。3つ目は、すべての服に再生繊維を使い、生産工程での廃棄物をなくしています。
ーファーストシーズンのテーマは「KNIT WARE」とありますが、普通だとニットウェアは「WARE」 ではなく「WEAR」と書きますよね。
「WARE」は器という意味で、着るという意味の「WEAR」と掛けています。日常に溶け込み、「体を包む器」という服を作りたくて。またホールガーメントによって作られるシームレスで立体的なシルエットが陶器のような表情に重なり、花瓶や壺からのインスピレーションも取り入れています。マルチカラーのドレスは釉薬を塗るようなボーダーのカラーリングになっています。
次のページは>>デビューコレクションで発表された22型の詳細を知る
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