サラ・グレスティ
Image by: FASHIONSNAP
イギリスの芸術大学であるセントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)は、世界屈指のファッションの名門校だ。通称”セントマ”と呼ばれる同校は、世界中から集まる学生たちの個性と向き合い、独自性を育む教育で数多くの著名デザイナーを輩出してきた。
セントラル・セント・マーチンズで2016年から、学士課程のファッションコースでリーダーを務めるサラ・グレスティ(Sarah Gresty)教授が8月末に来日。「リトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)」を手掛ける山縣良和が主催するファッションスクール「ここのがっこう(coconogacco)」を訪れ、生徒たちの作品を見ながらコミュニケーションを図った。
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グレスティ教授は、現在「バーバリー(BURBERRY)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーであるダニエル・リー(Daniel Lee)をはじめ、キコ・コスタディノフ(Kiko Kostadinov)やモリー ゴダード(Molly Goddard)、チャールズ・ジェフリー(Charles Jeffrey)ら業界からも注目を集める人気デザイナーを指導してきたという。教え子であるマティ・ボヴァン(Matty Bovan)によるワンピースをまとった彼女に、大事にしている教育方針や、現在の教育現場での課題などを聞いた。
メッセージを発信するプラットフォーム作り
-セントラル・セント・マーチンズの教育方針を教えてください。
セントラル・セント・マーチンズの精神は、学生が自分たちにまつわるストーリーや世界に伝えたいメッセージを発信するプラットフォーム作りにあります。私の教えているBAファッションでは、ニット、ウィメンズウェア、メンズウェア、プリント、コミュニケーションの5つのコースがあり、パターン作りや素材を理解するトレーニングを行いながらも、単に服作りをするのではなく、それぞれが自分に向き合って制作を行っています。ここのがっこうでも、同じような方針を取られていますね。
-学生の特徴は?
世界中の学生が集まることでしょうね。イギリス全土からはもちろん、ヨーロッパ諸国、アジアなどそれぞれのルーツを持つ学生たちに出会うことができるのが魅力です。そのような環境で、必然的に他国のカルチャーに触れることができるので、学生同士が刺激を与え合っていますね。例えば、ロシア人の学生が祖母から教わったニットの技術を見せてくれたり、中国の学生が母国の伝統的な文化を題材にしたりと、みんなそれぞれのアイデアを持ち寄っているのが面白いと思います。
ブレクジットとコロナ禍の影響
-ブレクジット(イギリスの欧州連合離脱)の影響はありますか?
はい、大きく状況が変わってきました。これまでEU加盟国の学生たちはイギリス人と同じ学費で通うことができましたが、現在は高額なインターナショナルの学生と同じ扱いに。学費が上がってしまったことやビザの取得などが留学のハードルになっていますね。またブレクジットによって、イギリスの学生たちが卒業後にフランスやイタリアで就職する際にも、ビザ取得が必要になるようになったのも課題です。加えてイギリスの経済状況も良いとは言えないので、学生たちがロンドンで暮らすことも容易ではないとも感じますね。その他にも、学生をサポートするチューターの国外からの雇用や、素材の調達などあらゆる面でもブレクジットの影響が見られます。
-コロナ禍を経て、学生に変化を感じられますか?
コロナ禍や社会問題の影響で、傷つきやすい学生も増えているように見受けられますね。これはファッションの学生だけではありませんが、学生のメンタルヘルスは問題視されています。これまでチューターたちは学生のベストを追求するために、背中を押す役割を果たしてきましたが、今はプッシュしすぎると追い込みすぎてしまうことにもなってしまうので、各学生に合わせて接し方を考えています。
-その影響は作品にもあらわれていますか?
この数年は保守的になる学生も多く、以前よりコンセプチュアルな作品は減ったように思います。また、ダークな内容を題材にした作品が出てくる学生も増えました。作品をプラットフォームに、学生たちが考えていることや思いを伝えることは大切にしていることですが、本当に悩んでいる学生はカウンセラーがつくこともあります。
注力するリジェネラティブデザインの教育
-現在、セントラル・セント・マーチンズではリジェネラティブデザイン(再生型デザイン)の教育を推進しているそうですね。
入学したばかりの1年生は、白い布を使って服を作り、ファッションショーを開く「ホワイトプロジェクト」に取り組みます。25年以上前から続く、伝統的な授業プログラムですが、今年から循環型に切り替わりました。学生たちが使った白い布は、スウェーデンに送られて繊維に戻り、ポルトガルで糸になり、イタリアで生地として再生されます。そうして翌年もその生地を用いて、「ホワイトプロジェクト」を行う仕組みができました。また学校には、企業からのデッドストック生地やリサイクル素材の寄付も増えており、学生たちにそれらを使用するように推奨しています。実は日本の東レからも植物由来の原料を使用したウルトラスエード(Ultrasuede)を提供してもらい、学生たちの制作に活用しているんですよ。
-サステナビリティとリジェネラティブはどう異なるのでしょうか?
現在はもうサステナブルデザインという言葉は使えなくなっています。完全にサステナブル(持続可能)なものは存在しないので、循環させることを基本としたリジェネラティブデザインの方が適切だからです。今年に入り、スペイン出身のニットウェアの学生が生分解性のニット作品を発表しました。長い道にはなりますが、将来はこういったデザインが自然に生まれていく、環境にしたいですね。リジェネラティブデザインを学べるコースの開発も視野に入れています。
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