Image by: JO MALONE LONDON
世界中で愛される「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」の“洋梨の香り”「イングリッシュ ペアー & フリージア」が、香りの鍵を握る洋梨果実のエッセンスを天然素材にチェンジして進化した。さらに同日に、イングリッシュ ペアーから新たな香り「イングリッシュ ペアー & スイートピー」も誕生。長年愛され続ける名香のリニューアル背景や、新しい香りへの挑戦について、フレグランス開発責任者 セリーヌ・ルー(Celine Roux)氏に思いの丈を語ってもらった。
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■セリーヌ・ルー(Celine Roux)
ジョー マローン ロンドン フレグランス開発責任者。イギリス・ロンドン在住。
ーブランドを代表する香りイングリッシュ ペアー & フリージア(以下、フリージア)がリニューアルすると聞いて、お話を伺うのをとても楽しみにしてきました。まず最初に10年以上前、フリージアが誕生した背景を教えてください。
ジョー マローン ロンドンでは、新しいフレグランスを作るときはいつもストーリーからイメージを膨らませていきます。ロングセラーのフリージアは、イギリスの詩人 ジョン・キーツ(John Keats)の「秋に寄せて」というロマンティックな詩からインスパイアされたものなんです。
夏の終わりにかけて洋梨の実が徐々に熟れて褐色になっていくその情景や、農園に広がる洋梨のみずみずしい芳しさを表現した香りです。誕生から10年以上経ちますが、今もなお世界中で愛されているのはとても嬉しく、ブランドにとってもかけがえのない存在です。
ーその名香のリニューアル。具体的に何が変わったのでしょうか?
この香りは私たちのヒーロープロダクト。洋梨にかじりついた時のようなジューシーで豊かな香りをより濃く表現するために、洋梨果実のエッセンスを天然の素材へチェンジしました。生のフルーツからエキスを取ってフレグランスに入れることは、香水業界では前例がなかったことで、完成までに約2年半掛かったんですよ。
視点を食品業界に変更して導いた天然素材の使用
ー天然素材を入れることはそんなに難しいことなんですね。
フルーツは水分がかなり多いので、そこからエキスを取ってそのまま香水の原料にするというのはかなり難しいことなんです。そもそもそういう技術が香水業界にはなかったので、視点を変えて食品業界で探してみることにしました。フルーツはジュースやピュレを作る過程で潰して素材にしていくわけですが、その際に蒸発してしまう水分、そこに果実の1番良いエキスがたっぷり含まれています。そのエキスを取って凝縮することで生のフルーツからとった新しい洋梨果実のエッセンスを作ることができました。
ー最近世界的に問題になっている食品ロスという観点もあるのでしょうか。
単純に、フルーツは花と同じプロセスでは香料を作り出すことが難しいので食品業界に目を向けた、ということなのですが。でも確かに、本来ならば捨てられてしまうものだったので、それをアップサイクルすることで天然香料を叶えられたことはとても素晴らしいことだと思っています。
ー視野を広げることで、革新的なプロセスにたどり着いたのですね。現状で支持されているものを、さらに良くしていくためにチャンレンジを惜しまないということですね。
そうですね。その革新的なプロセスをとったおかげで、ひと瓶にペア1個分のエキスを凝縮させることができました。アイコニックな側面がより際立ち、とても満足しています。どんな業界であれ、常に挑戦することは大事ですよね。通常の香水の枠にとらわれることなく、そこから飛び出して新しいことを敢えて行う。うまくいかない時も当然ありますが、クリエイティブにおいて常にトライし続けることは忘れてはいけないと思っています。
スイート ピーは「パステルっぽい香りを作ってほしい」と要望
ー今回のリニューアルと同じタイミングで新しい香り「イングリッシュ ペアー & スイート ピー」が誕生しました。
はい。洋梨の香りの新たな可能性を探るため、フリージアではない花を使って、新しいイングリッシュ ペアーを作ることにしたんです。
ー今回はスイート ピーを使っているんですよね。新しい香りのイメージは?
フリージアは茎が長く白い花をつけますが、スイートピーは全くタイプが違って、パステルカラーで花びらもヒラヒラと風にそよぐような佇まいをしています。花の色も、ピーチ、ライトピンク、モーヴ、コーラル、ライラックととても多彩。そこでパフューマーには「パステルっぽい香りにしてほしい」とオーダーしました。
ーとても柔らかで優しい香りが印象的です。
ホワイトモスやムスクが香り全体をソフトにまとめています。ナチュラルローズも感じていただけるかと思いますが、ロージーな香りにはしたくなかったので、さりげなくフローラル感を感じられるよう調香にこだわりました。洋梨を育てることに情熱を注いでいる農家さんとじっくり話し合って、女性の体のような官能的なフォルムなど、洋梨のあらゆる魅力を香りの要素として取り入れています。
ー今後、イングリッシュ ペアーからまた新しい香りを作るとなったら、どんな花と組み合わせたいですか?
頭の中には常にいろんな構想があるのですが、残念ながらまだどれも実現できていません。アイデアのひとつとしてイメージしているのは、洋梨の果樹園に訪れたときのみずみずしさや木の温もりといった空気感。だからあえてフローラルではなく、土などの要素を感じられるものと組み合わせてみても面白いかもしれませんね。
夢は自分の子どもの香りの再現
ー最後に、フレグランス開発者として長いキャリアを持つセリーヌさんが、いつか実現してみたい香り、というのもあるのでしょうか?
個人的なことになりますが、自分の子どもの匂いを再現できないかなと考えています。香りは一瞬で感情に訴えかけて、エモーショナルに記憶を蘇らせてくれるものですよね。子どもの匂いを香ったときの安心感や気持ちの安らぎを表現できたらと。ジョー マローン ロンドンでいうとクリーンノートがイメージに近いでしょうか。ソープとは違うフレッシュでスッキリとした状態。それをフレグランスやホームプロダクトで作ることができたら嬉しいですね。
(文・ライターSAKAI NAOMI、聞き手・福崎明子)
美容ライター
美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。
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