美を伝える人 ニコラ・ドゥジェンヌ
Image by: Nicolas Degennes
(中)から続くー
「ジバンシイ(GIVENCHY)」のメイクアップ・アンド・カラー・アーティスティック・ディレクターに抜擢されたことは「信じられなかった」と語るニコラ・ドゥジェンヌ。アイデンティティとシグネチャーを取り戻すことから始め、その後、他にはない革新的なアイテムを次々と発表し話題を集めたが、それらアイテムはスタジオでの気づきから生まれたという。コロナ禍に20年以上務めたジバンシイからの“卒業”を発表したときは、業界に大きな衝撃が走った。退任後、自身の名前を冠にしたフレグランスブランドを立ち上げた、その思いとはーー。連載「美を伝える人」メイクアップアーティスト ニコラ・ドゥジェンヌ(下)。
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「誰の意見にも左右されず、私のシグネチャーを作りたかった」
ーなぜメイクアップではなく、フレグランスだったのでしょう?
フレグランスの道を選んだからといって、メイクアップアーティストを辞めたわけではありません。私は一生メイクアップアーティストであり続けるでしょう。それは変わらない。
ただ今はフレグランスに情熱を注ぎたいんです。フレグランスこそ、内面に働きかけるパワーを持っていると思っていて、それはメイクアップと通ずることですよね。
ーではなぜ個人で立ち上げようと思ったのでしょうか?メゾンの中でも良かったのでは?
先ほども話しましたが、ジバンシイでも香水を手がけていました。ただ大手企業のために製品を作っていると、マーケティングチームをはじめ、社内のいろいろな意見に耳を傾けなければなりません。それはとても重要なことです。
今はクリエイターとして誰の意見にも左右されず、私のシグネチャーを作りたかったんです。そして自分の思いが詰まったストーリーを、製品を通して世の中の人に共有したかった。大きなところで動くと、ときに自己を見失うことがありますが、今回は自分の気持ちに正直になり、自己を表現しました。
ーフレグランスブランド「ニコラ・ドゥジェンヌ」を立ち上げ、キャンドルやディフューザーを発売しました。「嗅ぐ人の想像力に委ねる」というコンセプトがユニークですね。
香りは記憶と強く結びつくものです。例えば森の中に入ると木の香りが強く印象に残るでしょうし、着物のお店に行けば絹の香りが記憶を形作るでしょう。それをフレグランスで表現しようと思うと、香料を集めればいいというものではありません。その場所のさまざまな匂いが混ざっているからです。そしてその人の感情や状況も重なり、一人ひとり異なる香りの記憶が生まれるのです。
五行説や五大元素に着想を得た立ち上げた「Nicolas Degennes」Image by ノーズショップ
ー確かに、ふと昔の香りに出合ったとき、そのときの感情があふれますよね。楽しいときは、楽しい香りの印象ですし、悲しいときはまたそうです。
だから今回のキャンドルやディフューザーにはあえて文字や名前をつけませんでした。もちろんコンセプトとして、五行説や五大元素に着想を得て“木・土・水・空気・火・金属”といったユニバースにカテゴライズはしているものの、それぞれを自由に解釈して、自分なりに楽しんでほしいんです。キャンドルやディフューザーは使った瞬間から、私のクリエイションから、あなたのものに変わります。例えば自宅でキャンドルを焚くと、訪れた友人はあなたを思うとき、その香りを思い出すでしょう。もう私のクリエイションではなくなるんです。それくらい、香りとはパーソナルなものなんです。
ノーズショップの「本当に良質なモノだけを選ぶ」コンセプトに共感
ー日本ではノーズショップとパートナーシップを組み展開しています。その理由を教えてください。
まず、ノーズショップはすぐに私のブランドのコンセプトや思いを理解してくれました。あまりたくさん説明しなくとも、心が通じ合ったのがうれしかったですね。またノーズショップは誰もが自由に香りを発見できる場です。先入観に縛られることなく、自由自在に香りを楽しめるお店です。まさに鼻に“自由”を与える場所ですね。またニッチフレグランスを中心に扱っているだけあって、大手企業の戦略に左右されず、自分たちが本当に良質だと思うものだけを扱っています。そういったフィロソフィーに共感し、パートナーシップを組むことになりました。これからも共に素晴らしい未来を描けることを楽しみにしています。
ーキャンドルやディフューザーでデビューしましたが、次の製品は何でしょうか?
今、インセンス(お香)を京都で作っています。全て日本製で、伝統的な製法を用いることにこだわっています。4月にプレス発表し、9月に発売する予定です。
ーここまで仕事の話をたくさん聞きました。自ら“働き者”と表現していますが、どのように息抜きをしていますか?
ガーデニングが大好きで、自分の庭はとても大切にしています。今はローズをたくさん植えていますね。そして愛犬が2匹いるので、彼らにも癒やされています。休みの日は絵を描くことが好きですね。
ー最後に、フレグランスという新しいチャレンジに踏み出したばかりですが、今後の展望について教えてください。
まだ詳細は明かせないのですが、今フレグランスの新たなプロジェクトを準備しています。アルコールを使わない新しい形のフレグランスで、とてもフェミニンでデリケートなものになる予定です。日本からもインスピレーションを得ています。(コロナが落ち着いたら)早く日本に戻りたいですね。京都のお寺にも行きたいですし、日本の皆さまに会いたいです。
(文 エディター・ライター北坂映梨、聞き手・企画編集 福崎明子)
■北坂映梨
エディター・ライター 1992年生まれ。幼少期をアメリカ・ニュージャージー州およびマサチューセッツ州で過ごし、13年間在住。2015年にINFASパブリケーションズに入社し、「WWDJAPAN」でファッション・ビューティ双方の記事を執筆。2021年に副編集長に就任。現在はフリーランスとしてエディター、ライター、翻訳者を務める。
連載「美を伝える人」(全3回)
(上)写真家目指して渡米、そこで見つけた夢
(中)ジバンシイで始めた朝鮮は「4G」の復活
(下)ただ今はフレグランスに情熱を注ぎたい
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