ー(9)から続く。
「キッカ(CHICCA)」では、「自分らしさを手に入れるためのメイク」を発信してきたが、実際10年の間、業界全体では美の価値観を一方的に押し付けてきたのでは?また、コンプレックスを改善することを目的に発展してきたのではないか?と疑問を持つ。そこでスタートさせた「アンミックス(UNMIX)」は、年齢や職業、ジェンダーなど関係なく、全ての人を勇気づけ、自分が美しいと思えるようになるプロダクトの制作に力を入れる。加えて、製品だけではなく、生きにくさも感じる現代社会の中で、自分流に生きている人にフォーカスするメディア「アンミックスラブ(unmixlove)」を立ち上げ、人の心にも寄り添う。第10回、最終話で語られる、人に対する思いと、アンミックスのその先にあるものとは?
ーアンミックスは、自分の良さを大切にするブランドだと思いますし、そう訴えているように思います。話は製品から少しズレますが、それは後輩や家族など、自分の周りの人にも同様の思いで接しているのでしょうか?
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いままで家族や人と生きていく中でいろんな問題が生じました。それは1年とか短い期間で終わることではなかったです。「自分の個性を大切に生きていこうよ」とこれまでキッカやアンミックスで言ってきたけど、ふと気がつくと、身近でたくさんそのような問題が。行き詰まって、アメリカでは一般的であるセラピーを家族みんなで受けたんですが、それである意味救われました。セラピーを通して、自分自身が強い人間だと思っていたことが実はそうではなく、たくさんの問題があったと気づかされたんです。それが人にどれだけ迷惑をかけてきたんだろうと強く考えさせられたんです。
ー家族や職場の後輩に対し、怒らずにどうやって接することが良いのか、いつも考えているんですが…。
たとえ自分の価値観を信じていても、人に教えることは何もないと思いました。誰もが「あなたは間違っている」と言われたくないわけで。それは本能だと思うから。そして何かのきっかけで気づいたときに自分で学ぶのだと思います。そう思うと、愛する心配な子どもでも、コントロールせずに、どんどん失敗させてあげるべきなんです。仕事でも、違うやり方がダメなんじゃなくて、自分のやり方がやりやすいから、それを押し付けているだけ。思ってもいない仕事の仕方をする人を否定すると、自分が新しい人と出会ったという、良い面を消してしまう事になる。できるだけ自由にしてもらって、いかにそこに合わせていけるかを考える、お互いが合わせていけるか。自分を認めようとするほど、他人のことをリスペクトしなければいけないと思えるんです。
ーなるほど。同じようにできないとついつい腹立ててしまいますが、それでは新しい出会いを無駄にしているということですよね。そういったリスペクトの思いが、吉川さんのアンミックスには宿っていて、“受け入れる”姿勢は製品にも反映されているように思います。
私が作るプロダクトは、強く発色するモノとは違って、正直色がついたのかわからないようなものばかりです。でもそれは色が薄いのではなく、質感がなじんでいるからです。肌の質感に限りなく近い、違和感がない仕上がりを意識して作っていて、誰でも簡単に使いこなせて肌になじむ。そんなプロダクトが特徴ですね。いろんな縛りやルール、難しいテクができやすいメイクアップが、もっと簡単で身近に感じて、より多くの人が自由な感覚で綺麗に仕上げられるようになったらいいなって思っています。
ーツイッターやインスタグラム、さらにはライブ配信などで、吉川さんの思いは発信されていますね。
時代的に消費者とコミュニケーション取りやすくなりましたからね。自分から製品について、ブランドの思いについて、直接話せるんですから、SNSは最高のツールだと思っています。昔はメイクアップアーティストとして消費者から少し遠い立場にいたかもしれません。でも僕にとって、今はそういう時代ではありませんよね。
4月に発売したアイシャドウ
4月に発売したアイシャドウペン
今までの仕事や日ごろの生活での気づきから製品を作っているので、そのストーリーをきちんと伝えたいんですよね。たくさんアイデアや思いがあるから、話したいんです。
ーSNSでは若い世代との交流もあると思いますが、注目している人はいますか?
特に「この人」というのはいませんが、僕もあと10年も15年も製品を作り続けるわけにはいかないと思っていますので、いつかは誰かに、アンミックスを継承したいとは思っています。最悪、見つからない場合は、きっと誰かがアンミックスからインスピレーションを得て、違う形でも同じ思いを継承してもらえれば、それでもいいと思っています。
ー次に構想している製品はありますか?
秋にまた新しい製品が出ますので、楽しみにしていてください。
ー最後に、今後の展望を教えてください。
僕の化粧品作りは、いままで既存化粧品を使ってメイクしてきて感じた不都合な思いが、そのままアイデアになっています。僕はメイクのプロですが、それでも使い勝手が簡単でメイクされる人が綺麗に仕上がるものが好きなんです。それを突き詰めると、化粧品と肌との親和性など、いままでの化粧品にはなかった、“深く考えされられること”が山ほど出てきたのです。
結果、既存の化粧品とは一味違ったものが出来上がっていますが、それはきっと一般ユーザーが触って使ったときに感じてもらえると信じて前に進んでいます。これからも、そんなプロダクトを作る思いとブランドを続ける思いは変わりませんので、みなさんの声と二人三脚で進んでいける新しい形の化粧品ブランドになっていくことが目標です。(おわり)
(文 エディター・ライター北坂映梨、聞き手・企画編集 福崎明子)
エディター・ライター
1992年生まれ。幼少期をアメリカ・ニュージャージー州およびマサチューセッツ州で過ごし、13年間在住。2015年にINFASパブリケーションズに入社し、「WWD JAPAN」でファッション・ビューティ双方の記事を執筆。2021年に副編集長に就任、同年に退社。エディター・ライター・翻訳者。
連載「美を伝える人」キッカやアンミックスでカリスマ的人気の吉川康雄氏(全10回)
(1)メイクとは無縁の学生時代に熱中したこととは?
(2)音楽への道が無くなったから、選んだ美容の道
(3)渡辺サブロウさんのメイクからの脱却、自分のメイクを見つけるまで
(4)“もがい”た日本でのメイクアップからたどり着いたNY生活
(5)モデルの全身にオリジナルファンデで痙攣しながら作った“ツヤ肌”
(6)肌にやさしいツヤ肌を作るアイテムを自分で開発したい
(7)60代をターゲットにしたキッカをスタート、その後のターニングポイントは?
(8)キッカ終了の時、「自分らしさを手に入れるメイク」を続けていく決意
(9)「アンミックス」のスタート、コンプレックスをカバーする製品では意味がない
(10)最終話で語られる“二人三脚”で作る新しい形のブランドとは?
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