ショップから離れ、デザインの道へ
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ー脱サラからの大型店立ち上げを経てからはいかがでしたか?
立ち上げから1年くらいすると、お店もかなり軌道に乗ってきたこともあって僕は離れることにしたんです。東京から足を運んでくださるお客さんも多かったですし。品揃えやサービス、コンセプトとかいろいろな部分で注目していただいたお陰で、新しい相談をいただくことが増えていったんです。
そこでコンセプトからデザインのアウトプットまでを考えるようなクリエイティブ会社を、代表であるデザイナーと僕の2人でスタートしました。厳密には全く異なりますが、ある意味アナイスカンパニーの前身的な会社になります。
ーその会社ではどんなことをしたんですか?
最初はデザイン事務所としての実績が少ない状態だったので、自分たちで企画書を作り、提案するというとても泥臭い営業活動からのスタート。とある出版社に、媒体と連動させたカフェ事業をするのはどうかと持ちかけたんです。日常的に人が集まって、コミュニケーションの場となるカフェって、情報発信・収集の場でもあるんじゃなかろうかと。媒体属性的に飲食やアパレル、雑貨ブランドとコラボレーションできる可能性もあったので、お客さんにとっても面白い体験になるだろうと思ったんです。この企画を気に入ってもらえて、プランニングからクリエイティブを一括して提案する楽しさを知り、自信にもつながりました。3年ほどこの会社でさまざまなクライアントワークを経験した後、一緒にやっていたパートナーと挑戦したいことが別になってきたので、2人での会社は終わりにして、2012年にアナイスカンパニーをスタートしました。
ビューティのクリエイティブは“ファッション性のチューニング”がポイント
ー文字通り“独立”されてからは、いかがでしたか?
大きく取り組むことは変わらず、クリエイティブを含めたコンサルティング業務を粛々とさせていただきました。
ジョンマスターオーガニックは(以前の会社も含めて)ありがたいことに長くご一緒させていただき、当時の売上の大半を占めるほどブランドにコミットしていました。クリエイティブだけではなく、販促のプランニングやグループ会社を設立するに至るまで、幅広く携わらせていただき、僕にとってもまたとない機会になりました。
ー当初からファッションとビューティのクライアントワークをしていたんですね。
そういう意味では僕はずっとクライアントさんに恵まれていると思います。もちろん簡単なことはほとんどないですが、いろんな苦労もポジティブな刺激でしかなかったというか。一つずつが糧になっていったのを実感しています。
アナイスカンパニーが手掛けた「アイヴァン」のヴィジュアル
ーファッションとビューティのクライアントはどちらの方が多いですか?
ブランド数で言うと、現在はビューティの方が多いかな、という感じです。ただ、継続的にずっとお取り組みさせていただいているブランドさんも多いですし、海外展開も含めたビジュアルコンテンツ制作もあるので、一言でどちらの比重がというのも難しいです。
ーファッションとビューティって近いように見えて、実は全く異なる“習慣”があると思っているのですが、クリエイティブに関しても違いはありますか?
僕個人がこれまでの仕事を通じて感じたのは、ファッションは旬の色彩やシーズン毎のコレクションがあるので、その瞬間的なムードをどう取り入れて表現するかが重要かなと。一方で、ビューティはシーズンのコレクションもありますが、持続的に売っていく軸となるプロダクトがあるので、ブランドらしさを表現しながらどう時代の変化を加えて見せていくかという部分が違うなと思います。お客さまも同時に年齢を重ねていくので、そこに寄り添いながらブランドの持続的な進化を表現することを考えますね。また、クライアントさんから「ファッショナブルに見せたい」と相談されても、そこのニュアンスや感覚は相手によって結構幅があるので、どの程度のファッション性をプラスするかのチューニングも大切になってきます。
ーいつもどうやってチューニングしているんでしょうか。
経験則になってしまいますけど、「トレンド」という意味ではそこまで大きな違いがあるとは思っていなくて、ファッションで起こったトレンドが少ししてからビューティにも広がってくるようなイメージです。最近ではファッションブランドがビューティプロダクトをローンチすることも増えて、そのタイムラグも短くなってきているとも感じますが。僕たちの仕事は、最旬のファッショントレンドに適応しつつ、時代を超越した要素を維持して、普遍的な美を追求することだと思っています。
僕自身の方法としては、ブランドが好む光の表現や肌の輝き、色合い、質感など独自の美学をできる限り理解することから始めます。その上で、変わるべきもの、変わるべからざるものを整理、判断して旬なファッション性やムードをプラスしていくようにしています。振り返ると、ここはファッション業界での経験が活きていると思います。正しく最旬のトレンドを把握した上で、それを個別にどうフィットさせていくと良いんだろう、って考えるのは楽しい作業ですね。
シン ピュルテの香りのこだわりは幼少期の経験が礎に
ークリエイティブのクライアントワークが主軸だったアナイスカンパニーで、なぜ自社ブランドを展開しようと考えたんですか?
コロナ以前から自社ブランドの話は構想していましたが、いざ突入した時に会社のバランスシートを見ながら、この先クライアントワークだけでは社員を守りながら健康的に成長し続けるには限界があると感じて、何か自分たちで責任を持って川上から川下まで見ていくものがあってもいいんじゃないかと考え覚悟ができました。クライアントに対しても、うまくいけば「こういうこともできます」といういい事例になりますし、ブランドの立ち上げやリブランディングに関わるような仕事を増やしたいという狙いもありました。もちろんその逆の場合のプレッシャーもありました。
ジョンマスターオーガニックの当時の代表からシン ピュルテのことを聞いて、元々深く関係があり思い入れもあるブランドだったので、じゃあ僕たちに譲渡して欲しいとお願いしました。2021年から弊社でブランドを展開させていただいています。
ー事業を譲り受けてから、まず何から始めましたか?
日本においてオーガニックスキンケア業界をけん引するブランドの一つでしたが、長く展開している分、少し古く感じられるようになっていたので、これからの時代をけん引していくことができるようなコンセプトや処方、デザインに再編集し、ラインナップを一新しました。化粧品を使う理由って人それぞれだと思いますが、根底には肌に良い影響があってほしい、きれいになりたいという欲求は変わらないと思うんです。その機能面をもっとしっかり伝えていく一方で、そうなるための時間で毎日その日の自分と向き合い心地よくなれるようにと、「マインドフルビューティ」というコンセプトを提案していこうと考えました。
ーとはいえ、いきなりビューティブランドを手掛けることに苦労はありませんでしたか?
苦労はもちろんありました。ただ、新しい挑戦である以上、そういったことはつきもので、僕自身そういう経験を刺激的だと思える人間なので、むしろ興味深く進めることができました。オタク気質な性分なので、ハマれば早いし表現の細かい部分まで気になる(笑)。製品開発においても良いチームができているので、世界中から新しい原料を探しながらトレンドだけに左右されることなく、長く愛される商品開発を目指しています。
ーシン ピュルテは香りも人気の理由のひとつだと思いますが。香りやフレグランスにも興味があったのでしょうか。
遡ると、子どもの頃から香りに興味があったというか、僕にとっては生活の中になじんでいました。呉服屋という家業の関係もあって、お香が身近だったというが大きいですね。小学生の時から家に帰るとお香を焚き、正座して目を閉じながら1日を振り返る瞑想のような時間がルーティーン化されていました。母の実家も京都だったので、行くと友達へのお土産にお香を買っていっていたくらい、僕にとっては普通のことでした。日本的な文化・生活の中で、香りをこうやって取り入れると心地よいとか、ギフト需要にも良いのではないかという感覚は育っていたので、シン ピュルテのリブランディングの構想の際には大きく影響したかと思います。
これからの時代、ビューティのクリエイティブに必要な視点とは?
ーリブランディング後、ファンデーションや美容液などでベストコスメを受賞し、着々と成長しているイメージですが、近年のヒットはヘアオイル「トゥーグッド マルチベネフィットオイル」じゃないでしょうか。人気の理由はなんだと思いますか?
ありがたいことに、好評いただいています。お客さまの声を聞いていると、香りと使用感のどちらも支持いただいています。それから、販売戦略として覚悟は必要でしたが、あえてヘアサロン専売にこだわったことが結果として良い形になりました。スキンケアブランドがヘアケアラインを出して、サロン流通で成功したブランドは稀です。香りはもちろん、髪の補修や仕上がり、使用感の良さを、その道のプロの方に満足いただき、たくさんシェアいただいたおかげで、初めから多くの方に興味を持っていただけました。
ーこの商品で、シン ピュルテに「いい香りのブランド」のイメージを抱く人が増えたのではないでしょうか。
そうですね、3種類の香りのラインナップは人気のフレグランスとリンクさせています。また、このオイルはマルチオイルなので、ヘアはもちろんボディに使えるので、口コミを見ていると、寝る前のマッサージとして利用する人もいて、良い香りが”自分時間の充実”につながっているなという実感も増えました。
ー昨年は、より香りに特化した新ライン「シグネチャーライン(SIGNATURE LINE)」を立ち上げています。
マルチオイル(トゥーグッド マルチベネフィットオイル)の人気は自信につながりましたし、これからは「個性の解放」をキーに、香りで自己表現を楽しんでもらうような提案がしたかったんです。長らく日本は香水が売れないと言われていましたが、別事業ではファッションブランドやアーティストとコラボレーションで香りの開発をするなど、10年に渡って十分な種まきをしてきました。それに僕自身、子どもの頃から香りのある日常の素晴らしさを体験していたので、もっと多くの人にもその体験をシェアしたいと思っていました。
■シグネチャーライン
香りをまとうことで自由な自己表現を楽しむための新ラインとして2023年11月に誕生。シン ピュルテならではの、脳波解析のエビデンスに基づいた香りで展開する。ラインナップは以下。
・シグネチャーパフューム
・スキンパフューム
・マインドフル ハンドセラム
・マインドフル ハンドウォッシュ
・マインドフル シャンプー
・マインドフル トリートメント
ーシグネチャーラインはこれまでの製品の中でも、特にデザインへのこだわりが感じられるなと思っていました。
香りをファッションやアートのように、自己表現の一つに捉えてもらうために、プロダクト自体のムードも、より一層研ぎ澄ませる必要がありました。ブランディングとしても既存のスキンケアラインと全く別の見せ方をしたかったのもありました。僕は化粧品容器のメーカーとしての仕事もしていますので、なかなか国内生産では実現することが難しい自由度の高い容器を製造しています。とはいえ、工場からはいつも「面倒なデザインだ」とは言われますが(笑)。
ー以前お話を伺った際、今後は海外も見据えているとおっしゃっていましたね。
韓国や中国、東南アジアからの問い合わせが増えているので、将来的に進出したいと考えています。少し前からアナイスカンパニーとしても中国進出していて、クリエイティブやマーケティング関連のお仕事をいただいてます。なので自社ブランドとしても、タイミングを見計らって本格的に進出できればと考えています。
ー国内はいかがですか?
シン ピュルテは数年のうちに直営店を出せたらと構想しています。タイミングが重要かと思うので、すぐにはいきませんが、スキンケア、ヘアケア、フレグランスラインを融合させたブランドの世界観を上手に表現することができれば、一段とステージを押し上げることができると信じています。
ーでは最後に、時代のニーズや価値観が変化する中で、ビューティのクリエイティブにはどういった視点が必要だと思いますか?
冷静に俯瞰視しながら、情熱的な視点は欠かせないと思います。男性的でも女性的でもある視点や、ひいてはインターセクショナリティな視点も必要になってくる。もちろんマイノリティの存在にも目を向けたクリエイティブであるべきです。そういう意味でも、日本だけにとどまらず海外のクライアントとのワークは、単なる挑戦ではなく、僕たちにとって学ぶべきことが多いです。引き続き日本内外のクライアントワークを通して、意味のありクリエイティブを生み出すことに力を注ぎたいと思っています。
(聞き手・編集:平原麻菜実)
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