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【同世代対談】デザインは「こんなの誰も見てない」の精神で、ベッドフォード山岸慎平×プリーク芦沢佳澄

Video by: FASHIONSNAP

 山岸慎平が手掛ける「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」と芦沢佳澄の「プリーク(PREEK)」が、コラボレーションジュエリーを2月6日に発売した。同じ1984年生まれの同世代デザイナー2人は、若き日に出会い、十数年ぶりの再会を経て今回初めてプロジェクトを共にしたという。最前線で活躍する両者のクリエイションの真髄はどこにあるのか。2人の話は、出会いから日本のファッション業界が抱える課題までに及んだ。

山岸慎平
1984年に石川県出身。2010年7月に株式会社バースリーを設立。ブランド「BED j.w. FORD」を立ち上げる。2011年春夏コレクションから展示会形式でコレクションを発表。2017年春夏コレクションでAmazon Fashion Week TOKYOに参加し、ランウェイ型式でコレクションを発表。2016年にTOKYO FASHION AWARDを受賞した。2017年秋冬シーズンはパリで開催されるshowroom.tokyoでコレクションを発表。"着飾る"をコンセプトに毎シーズンテーマを設けコレクションを発表している。

芦沢佳澄
1984年東京都出身。ユナイテッドアローズで働きながらファッションスクール「ここのがっこう」に入学し、独学でジュエリー製作を始める。2012年に「ITS」Jewelry部門のファイナリストに選抜されイタリアへ。2018年に「ここのがっこう」主宰・山縣良和、「ミキオサカベ」デザイナー 坂部三樹郎のアドバイスを受け、ジュエリーの知識、技術、生産背景などを模索しながら自身のブランド「プリーク(PREEK)」を2018年に設立。デビュー以降、各シーズンのテーマを色濃く反映したウェアラブルなジュエリーを展開している。コンセプトは「日本でつくるジュエリーの新しい可能性」。

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2人の出会いは?コラボジュエリーが完成するまで

二人は同い年ということですが、出会いはいつ頃だったんですか?

ベッドフォード 山岸慎平(以下、山岸):それがあまり定かではなくて.....。

プリーク 芦沢佳澄(以下、芦沢):20代前半とか?二人ともまだ駆け出しだった時期だったと思います。

山岸:ベッドフォードをスタートする前だったのは確かです。前職で働いていた時、いや働き出す前かもしれません。

芦沢:中目黒のお店に遊びに行ったことは記憶していて。おそらくそこで出会ったのが最初だと思います。

山岸:ああ、僕が進路について悩んでいる時期に会ったんだと思うんですよね。学校を出ていないためか、同じ年の人と話すということがすごく新鮮だったと記憶しています。

芦沢:彼の最初の印象は「ファッションの人っぽいな、ふわふわしているな」でした(笑)。お互い漠然とやりたいことはあったけど、どうしたらいいかわからなかった。お金もなかったのでコンビニでお酒を買って、道端で飲みながら将来のことについて喋っていましたね。

Image by: FASHIONSNAP

それからも連絡は取っていたんですか?

芦沢:それが15年以上連絡を取っていなかったんですよ。私は子どもが2人いるんですけど、去年1人目の子を寝かしつけながらファッション誌を読んでいたら「デザイナー山岸慎平」と名前が出てきて、「え、山岸慎平?ぺいちゃん?デザイナーなの?」となりまして。そのあと、プリークでセールスをお願いしているON TOKYO SHOWROOMにベッドフォードのスタッフだった方がいらっしゃったので、確認したら本当にそうで。「あのワン缶していたぺいちゃんがデザイナーになってる!」っていうのを誰かに言いたくて、「ユナイテッドアローズ&サンズ(UNITED ARROWS & SONS)」のバイヤーをしていた増田晋作さんに「昔ワン缶していた仲で」と伝えたら、すぐその場で連絡先を教えてくれて、アトリエに遊びに行くことが決まったんです。そこで約15年ぶりに再会したという感じです。

山岸:久しぶりの再会で、アトリエでは2時間くらいただただ喋っていただけなんですが、その中でパールの話題になったよね。

芦沢:自然と制作の話になって、なんかやろうよみたいな話をどちらともなくしたような気がします。

山岸:なにか面白いことできたらいいなという。これまでジュエリーブランドと一緒に何かといったことはなかったので。

コラボジュエリー

Image by: FASHIONSNAP

今回コラボアイテムとして3型のジュエリーを展開しています。

芦沢:クリスタルネックレス(7万1500円)、リボンネックレス(7万1500円)、ブローチ(13万2000円/いずれも税込)の3型を製作しました。ブローチは宝石彫刻の同擦りという技術を使い、全部シルバー地金で作っています。商品はH BEAUTY&YOUTHなどで販売していますね。

どういうことを考えながらデザインに落とし込んでいったんですか?

芦沢:プリークで歪みを帯びたパールを用いたバロックパールというシリーズを展開しているんですけど、たまたま山岸君に会うちょっと前に、仕入れ先さん経由で養殖場のおじさんが形が歪んでしまったあこやパールを色ごとに分けて保管していると聞いて。真珠は正円で艶のあるものほど高価なので、歪んだものは使い道がなかったそうなんです。それでなにかで使えないかと言われて、ずっと預かっていたんですが、山岸君に会って話していた時に、彼の作る服が持つエレガンスさや流れるようなイメージと歪んだパールが結びついたんです。そこから二人でイメージを膨らませて、お互いデザインを持ち寄ったりして、とんとん拍子でデザインが決まっていきました。

山岸:僕自身、あまり話し合ってモノを作る経験がなかったんですよ。もちろん色々なブランドさんと一緒にモノを作ることはあるんですが、投げられたものをこっちが打ち返すという作業だったので。一から一緒に考えましょうと始まるケースは中々ないんですよね。だからすごく面白かった。

コラボジュエリー

PREEKxBed J.W Ford AKOYA BAROQUExCHRISTAL NECKLACE 7万1500円(税込)

それぞれデザインの志向性に違いがあると思いますが、相手の提案で印象に残っていることはありますか?

山岸:彼女からはベッドフォードの服と合わせるイメージで、ブランドの象徴的なバラのコサージュの延長線上にあるようなデザイン、という提案を頂きました。デザインに理由は特にないんですが、単純に可愛いしムードもあるから、良い意味で女性らしい感性だなと。

芦沢:私自身、メンズに合わせるジュエリーを一緒に考えるという行為自体が初めてで。それでハンギングされているベッドフォードの服から着想を得て、服に合わせながら長さを調整したり。山岸君からはカラーのクリスタルをパールと組み合わせたいというアイデアをもらったんですが、私一人だったら出なかった発想だったので、とても新鮮でした。

コラボジュエリー

Image by: FASHIONSNAP

製作を通して互いの印象が変わったということは?

山岸:モノを作る以前に、生活の変化を聞いてびっくりしましたかね(笑)。プリークという素敵なブランドをしっかり運営していることもびっくりなんですけど、それ以上に結婚、出産をされたことに時の流れをすごく感じて。当たり前のことなんですけど、不思議な気持ちになりました(笑)。

芦沢:再会時に、お互いの家庭に子どもが産まれるっていう(笑)。製作を通しての私の気付きとしては、彼が仕様書をとても綺麗に書いてくれたことが挙げられます。細部にこだわっているから生まれるクリエイションなんだなと、その時実感できた。ノリでデザインしていないというか、例えばポケット一つに込めたストーリーとかも笑いながら語ってくれたんですけど、ファッションの精神的な部分も考えて作っているんだと思えて。同じデザイナーとして感銘を受けましたし、本当にコラボできてよかったです。

大事にしていることは「こんなの誰も見てない」という自由度

そういえば、[Alexandros]の川上さんが山岸さんのことを度を超えた服オタクだと言っていましたね。

山岸:いやいや、ほどほどにですよ(笑)。僕らはほんと隅っこの隅っこでひっそりやっているインディーズブランドなので。

すでに東京を代表するメンズブランドの一つと言えると思いますが。

山岸:全く自覚はないです。うちの社員全員に聞いても「いやいやめっそうもないです」と答えると思います。自信がないからとか謙遜しているからとかではなく、本当に「誰も知らないだろうベッドフォードなんて」と思っているからで。評価して頂けることはもちろんすごくありがたいんですが、自分たちには全くわからない。わからなくいいとも思っていますし、僕らはただ日々丁寧に目の前の事をやっているだけで。

山岸さんがクリエイションする上で大事にすることってなんですか?

山岸:一番精神的な部分でいうと、「こんなの誰も見てない」という自由度です。結局、細部にこだわったところで誰も見ていないし、誰も気にしない。細部に神が宿ることはもちろんある、でもそんなものは正直どうでも良い。大事なのは、いかに自分の理想に近づけるかだと思うんです。そこに結局その人なりのクオリティや細部への探究が付随してくる。蘊蓄ではなく、目の前の物と向き合った上での。端的にクオリティや細部の良し悪しよりも自分がどう見えていてほしいのかを優先順位の上に持っていき、その最善をチョイスしていく感じです。

コラボジュエリーも細部までこだわっていますが、別に多くを伝える必要性はない?

山岸:モノそのものが良ければ、他はどうだっていいんじゃないかなって。ジュエリーの接続部分を仮にセロハンテープでくっつけていようが、ボンドでくっついていようが、それが理想的な見え方で、良い表情になっていれば、それこそが僕はファッションだと思うので。テクニックや技術というのは、こちら側の話で、興味があれば話しますが、こちらからあまり話すことではない思うんです。

芦沢:らしくていいと思う。

芦沢さんはクリエイションで大事にしていることはありますか?

芦沢:私も結構モノありきというか。私がジュエリーを作り始めたきっかけは食品サンプルのジュエリーだったんですが、CADなどを用いて直線的にデザインされた冷たい印象があるジュエリーではなく、自分の感情や気持ちを乗せて温かみのあるジュエリーを作っていきたいという思いがあります。そのために、ジュエリーブランドなんですけど、服のブランドのように春夏、秋冬シーズン毎に新作を出して、その時々の気分や感情を反映するようにしています。クリエイションとはって聞かれると、答えるのが難しいですね(笑)。

プリークのブランドコンセプトは「ジュエリーの新しい可能性」。これは更新していくという意味ですか?

芦沢:ずっと何かを超え続けていきたいとは思っています。それはファッションとジュエリーの境界線だったり。ジュエリーってファッションよりもすごくルールが多い気がしていて、例えば18金だと価値が上がるとか、ダイアモンドのカットはブリリアンカットが良いとか、パールも正円であるものが美しいとか、人が決めたルールが多いんと思うんですよ。勿論、18金は腐敗する事がなく価値の下がらない絶対安定の素材で、ダイアモンドは希少価値が高くてカットの仕方で輝きが全然変わる。そういった先輩方の蓄積を基に、一般的に価値が有るとされ、美しいとされている、ということは十分理解しているんですけど、私は、何かそういった色々なルールを超えながら新しいジュエリーを作りたい。でも、それがエゴになりすぎるのも良くないかなと思い、モノによっては世に出すことを自粛したり......。

一方で山岸さんはデザインでエゴを出し続けています。

山岸:そうですね。僕はどちらかというと主観勝負というデザインが多いので。でも、佳澄ちゃんが言っていることもすごくわかる。違ったらごめんだけど、エゴが強すぎたモノを省くんじゃなくて、エゴが乗らなかったモノを省いているんじゃないかな、もしかしたら。実際のプロダクトが、自分の思い描いているエゴに追いつかなかったというか。頭の中にあるイメージと出来上がったモノの差が生まれた時に、ボツにしているんじゃないかなって。

芦沢:確かにそうかも。私は「モノの圧力」と言う言葉をよく使うんですが、行き届いてないなと思う時にボツにしていることはあるような気がします。

作品としての強度があるかないか。

芦沢:そうですね。それも主観での判断にはなってしまいますが。

お二人はデザインする上でリサーチをしますか?

山岸:割とします。ただ他ブランドを見るというより、もうちょっと広い視点で、例えば今アメリカの古着を買い付けに行くような人たちに、今アメリカではどんなものが溢れているのかを聞いたり。紡績の世界を聞いたりと、割と半分趣味的な要素もあり見たり調べたり産地に行ったりしています。

 僕の持論ですが、それが頭に入っていると今の世の中の動向がなんとなく感じ取れるんです。現在、日本の古着屋さんに行くと「ラルフ ローレン(Ralph Lauren)」の新品でオックスフォードシャツが割と並んでいて。改めて新鮮に映り、手が止まるのですが、なぜ物量が多いかというと、買い付け先の国でラルフ ローレン等のオックスフォードシャツが大量に流れてしまった。じゃあ、それはなぜかと考えていくと、コロナ禍での事情がきっと背景にあり需要のバランスが崩れたからで。そうなると、紡績の世界では今何が起きているか......というふうに予想をたて読み解いていくとなかなか面白いんですよ。役に立っているかは分からないですが、ただオックスフォードのシャツを見て改めて新鮮と感じている自分と、世界の流れとのギャップを発見できます。それを詰める、離す、その時に一つめの主観や持論が考えられるわけです。

掘り下げているものはいわゆる時代感のようなものですか?

山岸:そうですね。自分は今こういうスタイルが気になっているけど、その理由はどこにあり、何が起きているかというのをコレクション製作前から調べ、考え、ヒントにしています。

芦沢:私はどこまで自分が本気でやるかっていうのがすごく大事だなと思っていて。やろうと思えばどこまででもできるし、ジュエリーの分野は幸いにも日本国内で作る能力が残っている。しかも、甲府という近場で作れるのも恵まれているなと思いますし。

地の利は確かにありますね。一方で、縫製など服の生産背景は厳しい状況になってきています。

山岸:うちはまだ幸いうまく立ち回れているほうだとは思いますが、でも、先の未来では無理でしょうね。「メイドインジャパン」という言葉が死語にならないように、と思っています。大手企業さんの色々な取り組みを否定するつもりはありませんが、僕は僕のやり方でできることが有ると今考えていて、これから少しずつ準備を始めていこうかといったタイミングです。大きな大義名分ではなく、自分達のクオリティやスケジュール感的なものを、これからも守る為にだけですが。

芦沢:その点私はツイているかも。デザインから相談できる工房が都内にあって、宝石彫刻は山梨でお願いしていて、特殊技術のエレクトロフォーミングも近場でできます。近場で全ての物作りを製作する人の顔が見えて完結できる環境があるというのは、恵まれているなと思いますし、そのおかげで子育てにも専念できます。もちろん地金の高騰にすごく打撃を受けてはいるんですが、その分しっかりクリエイションに反映できたらと考えています。

(聞き手:芳之内史也)

■F/STOREでは「プリーク(PREEK)」のアイテムを販売中
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