BED j.w. FORD 2024年春夏コレクション
Image by: BED j.w. FORD
パリ・メンズファッションウィークの公式スケジュールにて、ランウェイ形式で2024年春夏コレクションを発表した「ベッドフォード(BED j.w. FORD)」。日本国外でコレクションを発表すること自体は初めてではない。2019年春夏はピッティ・ウオモで披露し、2019年秋冬はミラノ・メンズの公式スケジュールに初参加、そして2020年秋冬はパリ・メンズの「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」のショー会場でゲリラ・ショーを行っている。コロナ禍以降、展示会ベースでパリを訪れていたブランドだが、今回満を持して、パリでは初となる単独ランウェイショーに踏み切った。
会場となったのは、デジタルアートと現代音楽のカルチャーセンター「La Gaîté Lyrique」。かつては劇場だったこの建物は、2004年から2011 年にかけて、建物の一部をそのまま残して改修し、ヘリテージとモダニティの二面性を持ち合わせている。ランウェイは2つの部屋にまたがっており、ひとつはホワイトキューブ、もうひとつは装飾的で荘厳なパリの古い空間だ。
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ファーストルックとして飛び出してきたのは、くるぶし近くまであるロング丈のコート。これは今年2月に東京で開催された2023年秋冬ショーのファーストルックと、素材違いのもの。東京だろうが、パリだろうが、そのスタンスは変わらない。「デザイナーとして、この生活が続いていくことの幸せを感じている」と語るデザイナーの山岸慎平が、ブランド設立から13年で培った、ゆるやかだが確かな自信の表れである。
「last morning」と題されたコレクションノートには、「同じ朝はもう来ない」と綴られている。今日という日は、昨日とシームレスに繋がっていながら、決して同じではない。この過去・現在・未来の捉え方に、山岸がコロナ禍の葛藤の中でたどり着いたアティチュードがある。コートには素足のローファーが合わせられ、ギラついて棘のある、かつての「ベッドフォード」の影はもうないーーそこにあるのは、爽やかなパリの朝に、起き抜けで頭を掻きながらタバコを燻らすような、ノンシャランでセクシーな人物像だ。
それに続くのは、丈の長いジャケットに軽やかなショートパンツ、ミドル丈のブーツを履いたモデルたち。たるんだシルエットを描くタンクトップや、透けるタイガーカモといった繊細な素材使いからは、センシュアルな妖艶が滲みでる。中盤で見せるテーラードスタイルの連続は、ブランドのアイデンティティの在りどころを印象付けた。チェーンでパイピングされたノーカラーのシャネル風ニットジャケットや、きらきらと光るラメ入り素材など飛び道具を交えながら、最後には純白のルックが3体続き、ショーはフィナーレを迎えた。
現在の山岸が創造する、服を作る喜びを噛み締めた「嘘がない服」は、けっして華美なものではない。シンプルに削ぎ落とすからこそ、「ベッドフォード」のデザインコードが鮮明に浮かび上がる。軽やかながら、気の抜けたアイテムはひとつもなく、シルエットからカラーパレット、そして裾のしまつに至るまで、服を構成するすべてのタッチに愛情がこもり、山岸の信じるエレガンスが静かに匂い立つデビューショーとなった。
一方、ランウェイとしては、これからの課題も発見できるだろう。発表がコレクションウィークの最終日だったことは、ブランドに不利に働いたようだ。シャネル風ジャケット、ラメなど光沢のある素材、ジャケットにショーツを合わせたスタイリング……今季のトレンドを多く拾っているからこそ、コレクションウィークの最終日には、どうしても既視感を覚えてしまう。余分なものを削ぎ落とした服をシンプルに見せるとき、物足りなさは常に背後に潜む。実際のところ、パリの舞台では、人々の目にどのように映ったのだろうか。
パリはまだ「ベッドフォード」のHOMEではない……チャレンジャーとして、新たな歩みを始めたばかりだ。課題を多く持ち帰ることができるのは、一歩踏み出す勇気を持った者のみである。来季はどんな姿を見せてくれるのか、次の「明くる朝」を楽しみに待ちたい。
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