今期は黒字転換へ
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―2021年2月期の売上高は「前年比で8割強になる」と予想していました。
706億円でしたので、予想通りに着地しました。
―足元の商況は?
春夏は結構厳しかったですけれども、秋冬はメンズのドレスなどが割と好調で回復しました。2019年ほどではないですけれども、来客数は戻っていますし、売り上げは2019年比で92%を超えてきています。プロパー消化率も上期は7%ぐらい上がったと思うんですが、下期はもっと改善されているはず。前期は赤字に転落してしまいましたが、今期は黒字は確定だと思っています。
―コロナ禍で物流網の混乱による影響が広がっています。
たしかに仕入れ品が予定していた到着日に間に合わなかったり、海外ではコロナでキャンセルということは多少はありましたけれども、ビームスの場合は自社流通でやっていて、昨年は関西物流センターも完成したので、輸出入含め物流関連のリスク回避は、現状ではできていると思います。
―ゴルフウェアブランド「ビームス ゴルフ」が売上に貢献しているそうですね。他社の市場参入も相次いでいますが、どのように受け止めていますか?
全体的に盛り上がってくれたら非常に良いなと思いますね。
―脅威はあまり感じていない?
あまり感じていないですね。ゴルフアパレルの市場は大きいものではないのでパイの奪い合いはあるかもしれないですけれども、こうしてある程度のノウハウができてますし、BtoBも含めたコラボのお話もいただいていますので、単純な小売だけではない可能性も見据えて頭を柔らかくしていきたいと思ってます。
―設楽社長もゴルフをやられている様子をよくSNSにアップしていますね。
スコアは書いていないけどね(笑)。
―ゴルフブームはこれからも続きそうです。
若い人たちが参加してきていますから、ある程度続くと思います。色々なゴルフウェアのスタイルが出てきて、市場も大きくなっていく可能性も十分にあります。あえてゴルフ用を買わなくても、ストリートっぽく「手袋と靴だけ」という流れも出てくるかもしれない。ゴルフの担当者は困るでしょうけど(笑)。
―2022年は「ウィズコロナ」「アフターコロナ」のどちらになりそうですか?
ウィズコロナです。それを想定しておかないと、ただただ能天気な計画になっちゃう。それでアフターコロナになれば万々歳です。
―2019年の売り上げに戻るのはいつ頃を想定していますか?
コロナが明けないと、というのはありますね。それからお客さまの心理がどう変化するか。コロナ禍の2年間は、この先5〜7年間で世の中に起こりうると思われていたことが一気に来ましたから、全てのことをゼロベースでリセッティングしていかなきゃいけないなと思います。
「ピンチはクイズだ」
―サステナビリティにおいては、新疆綿の使用有無をめぐり議論になりました。
我々も取引先各社と使用しない旨の合意を結んでいます。
―“ビームスの顔”だったオレンジのショッパーも廃止しました。
ショッパーの廃止は大きな決断でしたよ。これを廃止してでもサステナビリティを推進するんだというある種の運動を、業界の中に、あるいは社会の中に小石かもしれないけど投げることによって輪が広がるということを色々な側面からやっていかなければならないという風に思いますね。
―今後重点的に進めていきたいサステナの取り組みは?
安いコストで大量生産して、セールで売って、余ったら焼却という業界の常識を思い切り変えていくことですね。セレクトも仕入れ量をコントロールしながらプロパーで売っていく。それには一つ一つの商品をお客さまに伝えて売っていくことが大事になります。そのためにビームスは人から良さを伝えていく“ヒト政策”みたいなものをやっていて。実際に、うちの自社サイト売上の約7割はスタッフ投稿を経由したものです。この傾向はどんどん進んでいくと思いますし、それを進めていくことによって生産・仕入れ量にも反映されていくんじゃないでしょうか。
―ものづくりの面では再生素材を使ったりリメイク品の取り組みが広がっています。
我々も自社のいわゆる廃棄在庫を復活させたものづくりを進めています。それから、洋服の修理だけでなくリメイクやカスタムにも対応する「ビームス工房」を立ち上げたり。僕自身がいま実験しているところですが、アーティストと組んで古いものにアートを加えることによって新しい価値を生むといったプロジェクトもやっていきたいなと思っています。
(左)バーバリーのトレンチコートにカタヤマケンジが手を加えたもの。 (右)過去にビームスが手がけたジャケットに澤田友美のアートを組み合わせた。 自身が実験として作ったリメイク品は、社員に見せて率直な感想を聞くそう。
―アートを施すと雰囲気がだいぶ変わりますね。
型が古いスーツも、アーティストに加工してもらうことで、アップサイクルされて蘇るんです。僕自身これをよく着ていますよ。アーティストの方も新しい表現ができるのでとても協力的です。
在庫品はリメイクやアップサイクルだけではなく、未来のファッションの担い手にも活用してもらっています。文化服装学院には、ものづくりの勉強に活かしてもらうためにデッドストック品を資料として提供しています。我々もヨーロッパのスーツを分解して勉強しましたからね。
―こういった活動はポジティブである一方で、コストがかさんだり手間もかかる部分もあるかと思いますが。
もちろんそうです。ただ、自分たちが「ハッピーライフソリューションカンパニー」を掲げる以上、未来の地球や子ども達のためにできることを考えなくてはならない。
それで、今年のスローガンは「そこに愛はあるか」にしましたよ。
―某CMのキャッチコピーを彷彿とさせますね(笑)。
でもこれが意外と奥が深くて。コロナ禍でみんなが求めていることって、“体温のある商売”だと思うんです。商売をする上でテクニックよりも「そこに愛はあるのか」というのが今後の基本になっていくであろうと考えました。
―2022年はアパレル業界にとってどんな一年になりそうですか?
おそらくかつてのビジネスのやり方から大きく変えていないところは、なかなか存続が難しくなってくると思います。「コロナが終わればビジネスは戻ってくる」ことだけを考えている人は、足元をすくわれるんじゃないかな。次の時代のことを考えて、今までのノウハウを使ってビジネスの選択肢を広げることを考えていかないと。これまで国内のファッション小売市場はそれなりに大きいものがありましたが、少子高齢化して、なおかつ若い人たちがゲームやエンタメといったファッション以外の面白いものに目を向けるようになっている。未だにどんどん新しいファッションビルができて出店の誘致を受けることもありますが、僕としては「こんなに売り場はいらないよ」という。
―国内出店の余地は今後一切ないという考えですか?
いままでのファッション小売だけにとらわれない出店の可能性は探っています。“売らない店”とかも面白いかもしれませんね。
―国内のアパレル業界を盛り上げてきた設楽社長にとっては、市場がシュリンクしていくのは寂しいことでもあるのではないでしょうか。
逆に違うチャンスがすごい広がって面白いですけどね。方法論を引き当てるという意味で「ピンチはクイズだ」くらいに思っています。もちろんファッションは大好きですけど、僕自身は時代が変わる瞬間に立ち会っていることが好きで、ファッションはそのツールでした。それが今、ファッションだけではなくていろいろな側面で時代が大きく変わってきている。その中で自分たちが培ってきたファッションで何ができるか。もはやファッションは服だけじゃないですから。旬を捉え、お客さまの気持ちをアップさせることができるのがファッション。他の業態であってもそのノウハウは絶対使えると思いますね。
―最後に、設楽社長にとって必要な人材とは?
2種類あります。ひとつはものすごくこだわり、専門的に掘り下げていく人。もうひとつは、トレンドを広く捉えながらそれをプロデュースできる人。この両方がタッグを組んだときに物事が動くと思っているので。
(聞き手:伊藤真帆、福崎明子)
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