新しい生活様式はもはや日常へと移行し、それに伴い企業の舵取りも大きく変化している。FASHIONSNAPは経営展望を聞く「トップに聞く 2022」を今年も敢行。第17回はビームスの設楽洋社長。国内のファッション小売市場縮小が懸念されている中、業界の第一線で牽引してきたビームスは今、「店持ち小売」だけではないビジネスを追求している。「新たな種を撒く」――設楽洋社長が見据える“第2創業期”に向けた施策を聞いた。
■設楽洋
1951年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1975年に電通に入社。翌1976年に「ビームス」の設立に参加し、原宿に1号店を出店。セレクトショップ、コラボレーションの先鞭をつけた。1982年に株式会社ビームスを設立。1983年に電通を退社後、株式会社ビームスの専務取締役就任。1987年に代表取締役に就任。
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「店持ち小売」だけではない企業に
―昨年のインタビューでは2021年のスローガンに「四方よし」を掲げていましたが、どんな一年になりましたか?
新型コロナウイルスの感染拡大によって、サステナビリティを含めて「未来に良し」を根差した流れが強くなった一年だと感じましたね。
※2021年のスローガンに掲げた「四方よし」には「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の3つに、「未来に良し(未来の子どもたちにとって良し)」を加え、サステナビリティの推進を目指した。
―たしかにサステナブルな取り組みが多かったです。
サステナビリティに関しては、サステナブルファッションを訴求する「つづく服。」というプロジェクトを始めて、9月29日を「つづく服。の日」と制定しました。また、デッドストック品をアップサイクルさせるプロジェクト「リ・ビームス(ReBEAMS)」を発足したりですとか、アップサイクルブランド「ビームス クチュール(BEAMS COUTURE)」からも新作アイテムを企画したり。セールの日程も、従来からずらして極力プロパーで売る期間を長く設けました。
―アパレル業界としても、大量生産・大量廃棄のシステムを見直す動きが広まっています。
我々も昨年はオリジナル商品の生産量とセレクトの仕入れ量をコロナ前の2019年比で7割に抑制しました。元々セレクトショップという業態ですから、取り扱うアイテム数もものすごくあるんですよね。これは以前から課題として感じていたことではありましたが、コロナが見直すきっかけになりました。
―生産や仕入れ量を減らすことはリスクも伴います。例えば、ネットフリックスとのコラボは即完売になったことで販売機会ロスにつながってしまったと聞きましたが。
仰る通りで、全体で適正在庫を目指すことは重要ですが、やはり“押しと引き”は絶対必要。昨年9月に新たな組織改編を行い、それが今軌道に乗りつつあるところです。商品開発や生産管理においても成果が出てくるのではないかと思っています。
―組織改編の具体的な内容は?
今までは、各レーベルを運営する事業単位に分かれた縦軸の組織になっていましたが、これを機能別の横軸に改編することで、今後の社会変化により柔軟に対応できる体制としました。僕から出したリクエストは、本部の人を増やさないこと。あと会議を多くするな、と(笑)。新体制は社員たちがボトムアップでつくりあげたので準備に1年以上かかっています。
―本部の人員数を増やさないというのは、今後採用活動は積極的に行わない方針ですか?
いえ、そんなことはないです。今後はBtoBやグローバルといった部分に力を入れ、「店持ち小売」から「オペレーション機能を持った企画集団」を目指していきますので、こういった領域などは本部の人材も必要です。
―新規事業に積極投資をしていくんですね。
今までだと「店舗を増やさなければお客さまは増えない」というのが我々の業界の考え方でしたけれども、少なくとも日本国内での主要地域には店舗を出し尽くしています。今後は少子高齢化などもありますし、新たな種を撒いていかなきゃいけないですから。
“第2創業期”へ 重点はBtoB、グローバル、バーチャル
―BtoBでは2021年もさまざまな取り組みで話題を集めました。
年間500に及ぶ異業種からのコラボの話が届いています。一昨年は「カップ麺から宇宙まで」でしたが、最近は「GAFAから世界遺産まで」と言っています(笑)。
―また発想が大胆になりましたね(笑)。
そうなんですよ。アップルとは過去に仕事をしましたが、今回アマゾンと子ども服を始めましたし、GAFAだけに括らず“未来を牽引する企業”で言えばネットフリックスとのコラボもBtoBの取り組みに含まれます。
世界遺産では、伊勢神宮前や宮島に「ビームス ジャパン(BEAMS JAPAN)」のポップアップを出店しました。これ以外にもさまざまな国内の世界遺産からのお話が来ていて。1000年規模の歴史を持つ世界遺産から未来を創造する企業まで、ブランディングの面で認められたということですごく自信になっています。
他にも色々ありますよ。うちのスタッフが名前を出さずに他社のブランドを手掛けていたり。
―何も気にせず手に取ったものも実はビームスが手掛けていた、という商品は今後増えていく?
そうですね。とあるメーカーが出しているアパレルブランドにビームスのチームが全面的に関わっているんですけれども、それを他社の運営するセレクトショップが販売してくださっているんですよ。
―今まででは考えられなかった取り組みですね。
クライアントにとっては新しい販路が開けることにつながりますし、我々にとっても“名前を出さないBtoB”が新しいビジネスモデルになりつつあります。
ただ、BtoBでお問い合わせをいただいている案件を全てを形にできているわけではないので、それだけの人材を育てていくことも課題です。うちの場合は、一芸に秀でたクリエイターは沢山いるんですけど、プロジェクトチームを作ったときにそれを回していけるプロデューサーが少ないんでね。
―次にグローバルの展開について。海外市場の出店計画は?
海外は卸販売を強化するほか、台湾では台中に2店舗を出店して5店舗体制になりました。
―台湾市場のポテンシャルをどのように捉えていますか?
台湾の皆さんは日本を好きでいてくれていますし、ファッションの感度もどんどん上がってきている。それに、台湾のスタッフたちは「本人がスターになってファンに売っていく」という体制が日本以上にできつつあるんですよ。新規出店した店舗にはステージを作って、店内からライブ配信やポップアップを行うという、いわゆるエンターテインメント性を高めた店作りをしています。AKB48じゃないですけど、お店が“会いにくる劇場”になるようなイメージです。うまくいけば最終的に国内に持っていこうと思っています。
―台湾以外の市場については?
中国はフランチャイズでポップアップを積極的に展開していまして、かなり好評ですね。欧米に関しては卸に力を入れていますし、ヨーロッパにおいては「ミスターポーター(MR PORTER)」と協業しています。卸は「ビームス プラス(BEAMS PLUS)」や「ビームス ボーイ(BEAMS BOY)」を中心に卸先が増えてきていて。この1月もパリで展示会をするはずだったんですけど、残念なことにコロナでリモートでの展示会になってしまったんですが。でもビームスのブランドが海外で受け入れられてきているなとは思っています。コロナが明けたら上手く回転し始めるんじゃないかなという予感はしてますね。
―新しい施策としては、バーチャル領域にもいち早く取り組んでいる印象があります。
「バーチャルマーケット」へは継続出店しています。100万人以上のお客さまが全世界から入ってきますけれども、やっぱりギークの方達が中心。VRゴーグルを持っているお客さまはまだ少ないですね。バーチャルの世界に入るための技術やツールが一般層にも浸透した時のことを想定して、今は知見を蓄えている段階です。ビームスが先進的にトライアルしているということが、BtoB事業にもつながってきたりしますし。
※バーチャルマーケット:VR空間上にある会場で、出展者と来場者がアバターなどのさまざまな3Dアイテムや、リアル商品を売り買いできる世界最大のバーチャルイベント。
―「メタバース」という言葉が広まりつつありますが、日本のアパレルで着手する企業はまだ多くはありません。
僕としては、今後数年でバーチャルの世界はもっと身近なものになると思いますよ。我々の世代で言うならパソコンが登場した時は操作に慣れるのに大変でしたけど、今では当たり前のようにありますよね。スマートフォンも同様です。Z世代以降の世代はデジタルが生活にあるのが当たり前になっていますから、メタバースといったものも楽々乗り越えてくるんじゃないかなと感じますね。これからの世代の動きは、極論を言うならリアルとバーチャルの2つの人生を送るぐらいのことになっちゃうんじゃないかと思いますよ。ならなかったとしても、その知見を持っておくのはすごく大事なことです。
―昨年2月にはアブストラクトエンジン(旧ライゾマティクス)から派生したフロウプラトウと共同で「ビーアット」という会社を設立しました。
フロウプラトウが得意とする新しいテクノロジーの実装力とビームスの企画力をかけ合わせて、ものづくりやBtoBの案件でいろいろ取り組んでいきたいと思っています。今少しずつ色々な実験を始めていて、NFTなんかも着手したいと考えていますよ。
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