“PP”がファッションの世界に華々しくカムバックした。PPこと、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)による「バレンシアガ(BALENCIAGA)」がパリ現地時間10月4日にベールを脱いだ。 デビューショーとなる2026年サマーコレクションはケリングの本社で開催された。
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ショー直前に届いたボックスにはカセットレコーダーと”Heartbeat”と書かれたカセットテープが収められており、懐かしさを感じながら再生ボタンを押すと、タイトル通り聞けども聞けども心臓の鼓動のような音がA面、B面ともに収録されていた。後から聞けば、これはピッチョーリ自身の鼓動の音だという。

Image by: FASHIONSNAP
オマージュではなく「リキャリブレーション」
創業デザイナー クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)が20世紀のファッション史にもたらした偉業として、パターンとカッティングと縫製でコクーンシルエットやバルーンスカートなど革新的なシルエットを世に送り出したことが挙げられる。立体的なシルエットは複雑で構造的な成形ではなく、布そのものの落ち感や張りを生かした技法から生まれ、身体と衣服の間に生まれる空間さえも美しい造形として取り入れた。
デビューコレクションにあたり、ピッチョーリはクリストバルの作品をオマージュしたのではなく、"リキャリブレーション(再定義)"したという。メゾンのアーカイヴを現代のコンテクストに沿って落とし込み、チューニングする――それこそがピッチョーリがデビューコレクションで試みた時間を超えた対話であり、創業者と自身の鼓動を重ね合わせて紡いでいった新たなバレンシアガの起点となった。
シルエットの美学

最初に登場したのは、クリストバルが1957年オートクチュールで発表したブラックのサックドレスを彷彿とさせるルック。「ディオール(DIOR)」のニュールックに対抗してウエストを強調しない直線的なラインのドレスとして登場し人気を得たこのサックドレスは、ショーのファーストルックであり、フィナーレの最後に再配置されていたことからも、コレクションを象徴するルックの一つであることは間違いなさそうだ。非常に軽い素材で仕立てられており、ビジューがびっしり取り付けられたバタフライシェイプの仮面のような巨大なアイウェアが強烈なインパクトを放つ。クリストバルがサックドレスを発表した当時、あまりにもシンプルな構造に街行く人たちは振り返り、驚きの表情を見せたという。人と違うことを恐れず、ルールに縛られないアティチュードはバレンシアガのベースに流れるDNAでもある。

Image by: ©Launchmetrics Spotlight

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レザーのジャケットやドレスは一枚の布を体で覆ったそのもののようなシルエットで、他にもカッティングに加えて素材そのものの特性や質感を生かしながら、ドレープやボリュームが形作られたルックが披露。布が体から浮いているのもクリストバルの身体と衣服の間に生まれる空間(コレクションノートでは"第三の次元"と記載)を意識したものだろう。バルーンシルエットとコクーンシルエットを組み合わせたり、正面からだけではなく、横や後ろから見るとさらにそのシルエットの美しさを感じ取ることができる。



シルエットもさることながら、ピッチョーリは日常的で着やすさを重視したといい、ほぼ全てのモデルがポケットに手を入れたポーズでランウェイを歩いていたのも印象的で、機能的ではあるものの型を崩すが故に女性服から排除されたポケットを、シルエットを重視するバレンシアガというメゾンの新たな節目となるコレクションであえてそのように見せたのは、現代社会を生きる女性への寄り添いの表れのようにも見え、ピッチョーリの強いメッセージにも感じる。






最後に登場したピンクのバルーンドレスは、クリストバルが考案したガザール生地をアップデートした"ネオガザール生地"で仕立てたもの。シルクとウールを混合した素材は軽やかさを実現しながら、ボリューム感のある彫刻的なシルエットを生み出すことのできる、伝統と革新を兼ね備えた素材だという。

バッグはニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)時の2000年代に一世を風靡し、リバイバルを遂げた「ル・シティ」の新素材を使用したデザインや、新型として封筒を立体的に形どった「MAIL」、アーカイヴからインスパイアされた「ボレロ」などが登場した。





大胆な色彩と音楽演出



シルエットの探求を試みながら、中盤にはイエローグリーンやパープルといった大胆な色彩使いも見てとれたほか、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」在籍時からドラマチックなショーの構成、演出に長けていたピッチョーリらしさを今回のデビューショーでも発揮。誰もが知っている「Can't Take My Eyes Off You(邦題:君の瞳に恋してる)」や「Feeling Good」のメローな旋律とともに、見るものをコレクションの世界観へとぐっと引き込んだ。
フィナーレで登場したピッチョーリが履いていたのは、1ヶ月ほどバレンシアガの本社でともに過ごし同じく新天地でのデビューシーズンを迎えたデムナ(Demna)が手掛けたスニーカー「3XL」だった。観客のスタンディングオベーションと拍手喝采で迎えられた彼の心臓の鼓動は脈打ち、早いビートを刻んでいたに違いない。

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