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バレンシアガ 2025年ウィンターコレクション

デムナがスーツを着ていた意味 バレンシアガ流の"スタンダード"に立ち返った最後のプレタポルテ

2025年ウィンターコレクション

バレンシアガ 2025年ウィンターコレクション

バレンシアガ 2025年ウィンターコレクション

Image by: BALENCIAGA

 パリで発表された「バレンシアガ(BALENCIAGA)」2025年ウィンターコレクションは、デムナ(Demna)が手掛ける最後のプレタポルテコレクションとなった。アーティスティック・ディレクターに就任してから約10年。そして今年1月にフランスの芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受章したばかり。改めて服の本質を見つめ、既存の定義を再考し、デムナ流の"スタンダード"に立ち返った今回のコレクションを振り返っていく。

バラと香水の招待状

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 ショーの招待状として届いたのは、一輪の赤いバラと小さな封筒。その中にはフレグランスのアトマイザーが入っていた。バレンシアガはフレグランスやコスメを展開していないため、新展開の予告ではないかとビューティ界隈で話題を集めたが、赤いバラとフローラル系の香りは、いわゆる典型的なもの。今回のコレクションテーマである"スタンダード"に関連するものだったようだ。

 パリ7区のアンヴァリッドに設置されたショー会場は、まるで迷路だった。ランウェイとなる通路は狭く、VIPもセレブリティも全てのゲストがフロントロウ。この入り口と出口が複数存在する迷路を、デムナはクリエイティブプロセスの比喩と表現していた。そして「始まる場所」という意味でのバックステージを、ランウェイに見立てた。

 遠くから、力強く床を踏む音が聞こえてくる。その足音が徐々に近づき、一体目のモデルが現れた。それに続いて、まるでフィナーレかのごとく早いペースでモデルたちが目の前を歩き去っていく。手を伸ばせば生地の端が触れそうなほどの距離感だ。

ビジネスウェアからデイリーウェアまで

 意表をついたのが、ショーの序盤が典型的なビジネスウェアでスタートしたこと。ブラックのジャケット、スラックス、白シャツにネクタイ。オーバーサイズでもなく、極端にタイトなわけでもない。ただ、よく見るとラペルのゴージラインが通常よりも下がっており、ショルダーは前肩で、独特のバランスとなっている。そして徐々に、"普通"ではなくなっていく。シワだらけだったり、ボタンが割れていたり、ブリーフケースは口が開きっぱなし。穴だらけのスーツは、まるで虫に食われたかのよう。

 続くデイリーウェアも、デムナが得意とするツイストが効いている。デニムジャケットはシュリンクして縮み、シャツはコルセットの構造を取り入れて極端にタイト。厚手のニットは前後が逆に作られ、ダブルフェイスのカシミアコートは襟がマフラーと一体化。ネイビーのカーディガンはマキシ丈まで伸ばされ、襟は16世紀の貴婦人の装いに見られるメディチカラーに変形していた。

最高級のフーディーと袖がちぎられたシャツ

 典型的な日常着の代表格であるジップアップフーディーは、極細カシミアの裏地が付いたドライモルトン生地を用いて手縫いで仕立てられている。「Luxury」とプリントされている通り、実は今回のコレクションで最も高価なアイテムのひとつだそうだ。一方でTシャツは、バレンシアガが得意とするウォーンアウト(=使い古した)加工がさらに進み、両袖が引きちぎられてシャビーな様相。両極端の表現がデイリーウェアに混在する。

 デムナはメゾンの"スタンダード"を探求し、今シーズンもシルエットに着目。シアリングのアウターは1951年のセミフィットライン、マキシ丈のドレスのようなフーディーは1967年に発表されたウエディングドレスを参照している。後半に登場したスイムドレスは、ウォータースポーツ用のスパンデックス素材を使用。そしてラストはブラックのナイロンパファーで作られたオペラコートで締めくくられた。日常的な素材をクチュール風に仕立て、あるいは見慣れたアイテムをラグジュアリーな素材で昇華するなど、逆転の手法が随所に散りばめられていた。

プーマのロゴが逆転、「スピードキャット」を破壊

 ショーの前日に公式インスタグラムで告知された通り、「プーマ(PUMA)」とのコラボレーションアイテムが注目を浴びた。サッカーやモータースポーツにおける、プーマの先駆的なイノベーションからインスピレーションを得てデザインされたという。

 人気のスニーカー「スピードキャット」をベースとしたコラボモデル「Balenciaga | PUMA Speedcat Ultrasoft」は、しなやかなスエードを用いてアッパーの構造的要素を取り除き、激しいウォーンアウト加工が施された。プーマを象徴する流線型ライン「フォームストライプ」さえも破壊されている。

 既存のイメージを壊す手法は、豊富なウェアにも見てとれた。サッカーのウォームアップスーツを彷彿とさせるエクストラドライモルトンの機能的なスウェットスーツをはじめ、1990年代のアーカイヴを参照したという色あせたナイロンや、高級感を漂わせるシアリングといった、さまざまな素材のトラックスーツ、そしてバレンシアガならではのバスローブコートはスエード製。キャップやグローブといったアクセサリーにいたるまで、プーマにおける"スタンダード"を引っくり返すように再文脈化する。プーマのロゴマークも左右が逆転し、そのデザインアプローチを示していた。

 もうひとつのコラボレーションは、イタリアを拠点とする「アルパインスターズ(Alpinestars)」。レーシングスーツを専門とするメーカーで、2024年サマーコレクションでのコラボから2度目となり、今回初めて協業のカーボンファイバー製フルフェイスヘルメット「スーパーテックR10」と、グローブがランウェイに登場した。

ただ"マイ・スタンダード"を作りたかった

 フランス最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエの式典さえも破れたTシャツを着て出席していたデムナだが、ショーのこの日はブラックのシャツとスーツをまとっていたことも驚きだった。「スーツの基準とは何か。ただ"マイ・スタンダード"を作りたかった」とデムナは話している。アーティスティック・ディレクターの退任が発表された今となっては、最後を飾る正装のようにも思えるが、10年にわたりあらゆる方向からクリエイションと向き合ってきたデムナ自身が最後に行き着いたのがスーツというのは考え深い。

 デムナの本当のラストは、7月9日に発表が予定されている54thクチュールコレクションとなる。革新性、実験性、ファッションの再定義といった、迷路のような探求の集大成となるのか、あるいは極限までピュアなコレクションになることも考えられる。有終の美を見届けたい。

BALENCIAGA 2025年秋冬

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BALENCIAGA 2025年ウィンターコレクション

2025 AUTUMN WINTERファッションショー

FASHIONSNAP ファッションディレクター

小湊千恵美

Chiemi Kominato

山梨県出身。文化服装学院卒業後、アパレルデザイン会社で企画、生産、デザイナーのアシスタントを経験。出産を経て、育児中にウェブデザインを学びFASHIONSNAPに参加。レコオーランドの社員1人目となる。編集記者、編集長を経て、2018年よりラグジュアリー領域/海外コレクションを統括するファッションディレクターに就任。年間60日以上が出張で海外を飛び回る日々だが、気力と体力には自信あり。

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