Image by: FASHIONSNAP(Masayuki Shioda)
主演として、また時には作品に深みを与える脇役として、スクリーンからお茶の間まで日本中を虜にする俳優 滝藤賢一。演技力もさることながら、そのファッション感度の高さから世間の関心を集めている。2021年には毎日の私服姿を切り取ったスタイルブックを刊行。「結局、ジャージは無敵」「ショップスタッフのゴリ押しは買うべし」といった格言を残した。そんな芸能界きってのオシャレ俳優・滝藤賢一のファッション観とは? 彼の素顔とスタイルの核に迫るべく、自身がモデルを務める「アシックス(ASICS)」のファッションシューティングに密着した。
映画スターのファッションに夢中だった幼少期
ファッション好きのイメージが定着している滝藤さんだが、服を好きになった背景には、幼少期に見ていた映画の存在があった。「小学校の頃から、映画に出てくる登場人物を真似して、お小遣いをもらったら自分で服を買いに行っていましたね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でマイケル・J・フォックスがコンバースを履いていたら、地元の服屋で似たような靴を買ったり。そういうところからファッションにハマったような気がします」と当時を振り返る。
「当時は今ほど娯楽がなかったから、何をするにも映画の影響が大きかったんです。「この映画のこの人の真似したい」と、見よう見まねで形から入っていって。ファッションだけじゃなくて、俳優を志したのも、元を辿ればタランティーノや北野武さんみたいになりたいと思ったのが始まりです。なんでも形から入って、真似をしながら続けてきた。だから僕、今でもファッションの深いことは何も知らないんですよ。趣味の植物のことだって、なんなら芝居のことだってあんまりわかっていないんです。ただ、ずっと夢中なだけ。」
今のファッションのルーツとなっているのは、ジャッキー・チェンやエディ・マーフィーといった映画スター。「ジャッキー・チェンが『五福星』で被っていたキャスケットや、エディ・マーフィーが『ビバリーヒルズ・コップ』で着ていたスタジャンなど、そういうものを真似するところから始まりました。中学ではヤンキーブームだったので、短ランにボンタンが流行っていましたね。高校になると、友達もみんな服が好きだったから、暇さえあれば名古屋の街に繰り出して、買えない服を見て回っていたな。お金がないから制服でおしゃれをすることが多くて、学ランのズボンの裾の両サイドを切ってブーツカットにして履いたり、学ランの下に赤いタートルネックやネルシャツを着たり、とにかく制服を使っておしゃれをする工夫をしていましたね」。
「上京したての頃は服を買う余裕はなかったんですが、そんな中でも映画を見てファッションに憧れていましたね。『トレインスポッティング』とか『鮫肌男と桃尻女』とか、当時はかっこいい映画がいっぱいあったんです。若者がファッションや音楽、生き方に影響を受けまくるような映画。」
「服は難しい」歳を重ねて生まれた葛藤
この日の衣装は、ストライプシャツやドットのジャケット、軍パンにアシックスのワーキングシューズを合わせたスタイル。ハイセンスな私服で撮影に挑むこともある滝藤さんだが、最近のファッション事情ついて聞くと「服って難しいっすよね」とこぼす。「服って、歳を重ねれば重ねるほど似合うものだと思うんですよ。年輪に比例すると僕は勝手に思っています」。以前は柄物を好んで着ていたが、歳を重ねるにつれてシンプルなスタイリングが増えてきているといい、これからのファッションの方向性に迷いが生じているのだそうだ。「柄に柄を重ねたりするのが好きだったんですが、今は色の方が気になっています。パキッと目が覚めるような色。柄×柄から柄×色ですね。あんまり変わっていないか(笑)」。
そんな滝藤さんだが、今年に入ってから、新たに挑戦したのがシアサッカー素材のボトムス。「これまで、シアサッカーは歳を重ねた方が似合う素材だと思っていたんです。僕には早過ぎると。着られてしまう感覚ですね。なかなか挑戦できなかったんですが、なぜか今年に入って妙に欲するようになって、ワードローブの一つになりましたね」。
アシックスの撮影現場は、神奈川県横浜市に位置する植物農園「PLANTSEUM」。約4万平方メートルの広大な土地に広がる温室や農園、アトリエで炎天下の中、撮影が進む。普段から自宅で植物を育てているという滝藤さんが植物にハマったのは、約10年前。行きつけのショップ「ネペンテス」でエアプランツ「キセログラフィカ」を購入したことをきっかけに、観葉植物のコレクションを始めた。
それでも、植物にのめり込んだ当初は枯らしてしまうことが多かったという。「乾燥地帯の植物を育てるとなると、日本の気候には合わなくて僕の勉強不足もあり、すぐにダメにしてしまっていました。『そういうものだ、仕方ない』と諦めていたんですが、去年、仕事で南アフリカに行った時に過酷な環境の中で生き延びる植物を見て、『彼らは生きたいんだ!生きるために必死なんだ!』と責任の重大さを痛感しました」。
「元々はファッション感覚で、現地から輸入される根付いていない植物を、見た目がかっこいいという理由だけでオブジェのように買い集めていました。でも、南アフリカでの経験を経て、植物との付き合い方が大きく変わりました。植物から学ぶことが多いですね。もはや人生の師匠です」。
人がやりたがらないことをやる
この日の着用シューズは、アシックスワーキングシューズの「WINJOB CP604 G-TX BOA」。安全靴のシルエットをベースに、ゴアテックスを搭載した日常遣いもできるモデルだ。最近、私服でも足元はアシックスのワーキングシューズばかりだという滝藤さん。「過去に買ったスニーカーの山は、今は自分の子どもたちが履いて、それこそ穴が開くまで履き潰しています。息子はアシックスのワーキングシューズも履いているんですが、履き潰れることがないのでずっと愛用していますね」。安全靴でありながらシーンを選ばないデザインであることから、「ニードルズ」のジャージーやブラックデニムなど、さまざまなボトムスと組み合わせて履いているという。
滝藤さんがアシックス ワーキングのモデルを務めるのは、一昨年に続き今年で2年目。滝藤さんにとって、アシックスはどんなブランドなのかを尋ねると「僕が学生の頃からみんな履いていて、部活用のシューズとしても浸透しています。パリオリンピックを見ても、活躍している多くの選手の足元はアシックスでした。実績のあるブランドなので、積み上げてきたものによる安心感を感じます」。
撮影を終えると、颯爽と私服に着替える滝藤さん。この日は、バイオレットカラーのTシャツにブラックデニム、オーダーメイドのベルトに、パナマハットという、滝藤さんが最近ハマっているというシンプルなスタイリングだ。
「今年はもっぱら白Tにブラックデニムの組み合わせをよく着ましたね。『結局、行き着くところは白Tにデニム』なんてよく言われますが、まさか自分にそんな日が来るとは思っていなかったです。最近『オヤジがピチピチのTシャツを着るのはNG』という記事をネットで見かけたんですが、僕は元々ピチピチのTシャツをさらに乾燥機にかけて縮めてますからね。真逆を行っています(笑)。」
ファッションと植物に共通する、滝藤さんのもの選びの基準について尋ねると、「人と被らないもの」というキーワードが浮かび上がった。その考え方は趣味に留まらず、芝居の原動力にもなっているという。
「自分のやっていることを疑い模索し葛藤し続けること。追求し続けることで自分らしさが出るのかもしれません。これだけ歴史がある中で、『こんなの観たことない』と思われるような作品、そういう役、芝居をできたらいいなと思います。洋服の世界もそうですけど、俳優だって山のようにいる中で選んでいただくわけですから。常に危機感を持ち生き残りをかけてサバイブし続けなければならないですね。」
今年の11月で48歳を迎える滝藤さんだが、「120歳まで生きるつもりで、今は人生の3分の1」だと話す。自身がこれまで積み重ねてきた歴史を土台に、俳優業はもちろん、独自のファッションへの道を突き進んでいく。
「外面はどんなに着飾って歌舞いても、白のふんどしを履き続けるような、花の慶次(漫画「花の慶次」で描かれる主人公の戦国武将・前田慶次)のような少し尖った男のかっこよさを追い求めたいですね。たとえ派手でも『頑張っちゃったね』と思われるのではなく、『なんだかよくわからないけど成立しているよね』というスタイルを、これからも追求していきたいです」
滝藤賢一
1976年生まれ、愛知県出身。映画「クライマーズ・ハイ」(08)で脚光を浴び、以降、ドラマ、映画、CMなどで幅広く活躍。近年の出演作に「グレースの履歴」、連続テレビ小説「虎に翼」、映画に「若き見知らぬ者たち」(10月11日公開)、「私にふさわしいホテル」(12月27日公開)などがある。
photography: Masayuki Shioda | text & edit: Miki Harigae, creative direction: Hideya Yokoi, project management: Ryota Tsuji (FASHIONSNAP)
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