「アシックス スポーツスタイル」とコラボしたアップゼア、隈研吾、ダブレットのデザインの裏側に迫る
doublet 井野将之のインタビューも
セレクトショップ「UP THER」のジェイソン・パパローラス(Jason Paparoulas)、ブレンダン・ミッチェル(Brendan Mitchell)、ジェイムス・バレット(James Barrett)
Image by: Riku Ogawa
セレクトショップ「UP THER」のジェイソン・パパローラス(Jason Paparoulas)、ブレンダン・ミッチェル(Brendan Mitchell)、ジェイムス・バレット(James Barrett)
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「アシックス スポーツスタイル」とコラボしたアップゼア、隈研吾、ダブレットのデザインの裏側に迫る
doublet 井野将之のインタビューも
セレクトショップ「UP THER」のジェイソン・パパローラス(Jason Paparoulas)、ブレンダン・ミッチェル(Brendan Mitchell)、ジェイムス・バレット(James Barrett)
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6月のパリファッションウィーク期間中、「アシックス(ASICS)」の「アシックス スポーツスタイル(ASICS SportStyle)」は3日間限定のポップアップストアをオープン。会場では、オーストラリア・メルボルンのセレクトショップ「アップ ゼア(UP THERE)」、建築家の隈研吾氏、「ダブレット(doublet)」、デンマーク・コペンハーゲンのウィメンズブランド「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」とのコラボレーションモデルをインスタレーション形式で展示・販売していた。
今回オープンを記念して、「アップ ゼア」の3人の共同創業者、隈氏とのコラボを担当した「アシックス スポーツスタイル」統括部デザイン部デザインチームの竹井惇氏、「ダブレット」のデザイナー井野将之氏にインタビューを敢行。それぞれのデザインの裏側に迫った。
パリでのポップアップ会場の様子
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アシックス × アップ ゼアはどう生まれた?
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⎯⎯まずは、「アップ ゼア」と「アシックス」の関係性からお伺いできればと思います。
ジェイムス・バレット(以下、ジェイムス):2010年に「アップ ゼア」はオープンし、2015年から「アシックス」を取り扱うようになったのですが、正直に話すと昔から「アシックス」を履いていたわけではありません。ただ、モデルなどの知識も乏しいゼロスタートだったからこそ、ブランドへの興味が日に日に増して、今ではお気に入りのブランドです。そして、取り扱いを始めた頃からコラボしたいと思っていたところ、オーストラリアの「アシックス」チームが機会を与えてくれたんです。
ブレンダン・ミッチェル(以下、ブレンダン):現在、オーストラリア国内で「アシックス」は“誰にでも開かれたブランド”として急成長を見せていて、「アップ ゼア」でも売り上げのトップ3には入るし、ほとんどの顧客が1足は持っていますね。
⎯⎯コラボは、「アシックス」側からの提案だったのでしょうか?
ジェイムス:我々からコンタクトを取ったことがきっかけですね。2022年に初めてコラボ「GT-II」を製作したのですが、「GT-II」自体は1986年に誕生した歴史あるスニーカーではあるものの、当時はコラボモデルがあまり市場に出回っていなかったので返って興味を引いたんです。最近、「GT-II」のコラボモデルが増えた気がするので、リバイバルの一手を担えたと思っています。
ジェイソン・パパローラス(以下、ジェイソン):コラボする前から良い関係性が築けていたことで、スムーズに話を進めることができましたね。
ジェイムス:その後、2023年に「ゲルライト 3(GEL-LYTE III)」を発表したので、今回の「ゲルテレイン(GEL-TERRAIN)」が3作目になります。
⎯⎯なぜ、「ゲルテレイン」をベースモデルとしたのでしょうか?
ジェイムス:少し前に「ゲルテレイン」(2024年にデビュー)の初期の試作品を見せてもらった際、これまでにない新鮮な感覚を覚え、誰よりも先にコラボしたいと思ったのでお願いしたんです(笑)。
⎯⎯独特なカラーリングですが、着想源は?
ジェイムス:スタートは、葉脈(葉に通っている筋)ですね。
ジェイソン:オーストラリアの植物をテーマにしたいと考えて色や質感を探求した中で、今回はユーカリの葉に落ち着きました。あまりイメージがないかもしれないですが、木から落ちたユーカリの葉はパープルやオレンジ、ブラウンなど多様な色調に変化するんですよ。そこから着想して、アッパーの色の重なりで地面に重なった落ち葉を表現しています。
ジェイムス:コラボするにあたり、誰もが知るダイレクトな表現を避けながら“自分たちがどこから来たか”を世界に示すことが重要だと思ったので、「GT-II」では(メルボルンがある)ヴィクトリア州の州花ピンクヒースを、「ゲルライト 3」ではオーストラリアを代表する野鳥ワライカワセミを、そして今回はユーカリの葉をテーマに選んだんです。
⎯⎯スニーカーを通じて間接的にオーストラリアという国の魅力を届けるような?
ブレンダン:まさに!オーストラリアには、まだまだ世界に知られていない魅力や場所がたくさんありますし、出身地への感謝とリスペクトもありますね。やろうと思えば、緑と金(オーストラリアのナショナルカラー)を基調としたり、カンガルーがモチーフのスニーカーだって作れますから(笑)。
⎯⎯制作段階で苦慮した点はありましたか?
ジェイムス:さまざまなカラーを取り入れているため企画段階から前途多難は分かっていて、案の定カラーごとに適した素材を探し出すのが大変でしたが、「アシックス」が素晴らしい仕事をしてくださったおかげで、ファーストサンプルから最高の出来でしたね。
ジェイソン:ファーストサンプルの出来が良かったからこそ、ディテールをより洗練させることができました。というのも、デザインというのはサンプルの出来が良くなければ振り出しに戻ってしまうのですが、回を重ねても不満はなく予定通りスケジュールを進行することができたんです。
⎯⎯他のスニーカーブランドともコラボしているからこそ分かる「アシックス」の魅力とは?
ジェイソン:とにかく新しいことに挑戦させてくれる、クリエイティブなブランドですね。
ジェイムス:ファブリックの開発、特注のディテール、カラビナなどのアクセサリーといった具合に、ここまで親切に対応してくださるブランドは多くありません。コラボの新作も単なる色違いを展開するわけではない。クリエイティブな存在だからこそ、コラボパートナーである我々も挑戦的になれるんです。
ジェイソン:いつかCEOにお会いしたり、本社でアーカイヴを拝見したりしてみたいですね。あとは、開発チームにクレイジーなアイデアを出したことを直接謝りたいです(笑)。
アシックス × 隈研吾コラボに込めた想い
⎯⎯ 隈研吾さんとのコラボは2019年から続いていますが、「アーキサイト オル(Archisite ORU)」のプロジェクトはいつスタートしたのでしょうか?
竹井惇(以下、竹井):2020年頃からですね。第1・2弾は共に即完売で、購入したお客様を中心に第3弾を望む声を多くいただいていました。その中で、「建築現場からホテルなどのリラックスシーンまで、履き変える必要のないスニーカーを作りたい」という隈さんのアイデアから開発がスタートしました。
⎯⎯過去2作に続き、第3弾もインラインをベースとしない完全オリジナルモデルですが、この理由は?
竹井:“過去2作と親和性がありながら快適な足入れを担保”という考えをベースにサンプルを製作していたところ、「(過去2作でアッパーを構築していた)“やたら編み”をインナーの構造に採用すれば、リラックスかつ快適な履き心地を提供できるかもしれない」(隈)という逆転の発想が生まれたので、結果として自然とオリジナルモデルの開発に行き着いたんです。
アシックス × 隈研吾「アーキサイト オル(Archisite ORU)」
Image by: Riku Ogawa
⎯⎯プロジェクトで苦慮した点はありましたか?
竹井:モデル名にもなっている“折る”ですね。折り方次第で自由な履き方と快適性のコントロールができるよう、素材選びではトライ&エラーを繰り返し、折り紙をはじめとした折り方の研究もしました。また、隈さんはデザインポリシーとして、“1つのサーフェスを1つのマテリアルで作り上げる”を大切にされています。しかし、アッパーの外側に使用しているダイニーマという素材が、防水性や引裂強度に優れた高機能材ゆえにソールとの接着用の糊まで弾いてしまい、ダイニーマだけではソールと接着できない問題が生まれてしまったんです。最終的に、ダイニーマのキワに別生地を縫い付けることで接着できたのですが、解決に至るまでには紆余曲折がありましたね。
アシックス × 隈研吾「アーキサイト オル(Archisite ORU)」
Image by: Riku Ogawa
⎯⎯そこまでダイニーマにこだわった理由とは?
竹井:外と中の境界が曖昧な建築を理想とされているようで、「人と人や、人と環境の関係性がシームレスになり、いろいろな意味で風通しがよくなる」とおっしゃられていました。ダイニーマは、そんな隈さんの理想を体現するかのような素材で、妥協しなかったからこそ「建築の未来を暗示するようなスニーカー」とまで評してくださいましたね。
⎯⎯すでに第4弾モデルは着手されていますか?
竹井:「また作りたいよね」とおっしゃってくださいましたが、具体的な話は進んでいません。隈さんをはじめ、ファッション業界以外のパートナーの方々とコラボさせていただくことで、「アシックス」のスニーカーをより幅広いお客様に届けることができるので、私自身はぜひ続けていきたいと思っています。
「モノ作りが好きな人たちが集まってのアシックス」ダブレット 井野将之
⎯⎯ 「アシックス」との初コラボのきっかけは?
井野将之(以下、井野):久しぶりに「アシックス」のスニーカーを履いた際、その履き心地がたまらなかったのですが、そのタイミングで人伝てにご縁がありスタートしました。
⎯⎯ 「ダブレット」2024-25年秋冬コレクションのランウェイで登場した「ゲルカヤノ 20(GEL-KAYANO 20)」の着想源を教えてください。
井野:靴箱から靴箱柄の靴が出てくる、というアイデアがベースです。「ゲルカヤノ 20」は構成するパーツが多く、そこに複合的なグラフィックを入れていくイメージでデザインしました。発表時のリアクションはとても良く、流石の「アシックス」さんです。
アシックス × ダブレット「ゲルカヤノ 20」
Image by: Riku Ogawa
⎯⎯ スニーカーを手掛けるプロセスと、服をデザインするプロセスに違いはありましたか?
井野:スニーカーと服だけでなく、家具でも、インスタレーションでも、アイデアを形にするモノ作りの考え方は、どれも全く同じですね。
⎯⎯ 今回のパリでのポップアップを記念して、20足限定のスニーカー「ゲルニンバス 10.1(GEL-NIMBUS 10.1)」を発売されていましたが、製作背景を教えていただけますか?
井野:コラボスニーカーに近い見え方を模索した結果、もともと多色・多素材使いである「ゲルニンバス 10.1」を単色で見せることにしたんです。その処理を、フロッキー加工を施すことで表現しています。
アシックス × ダブレット「ゲルカヤノ 20」
Image by: Riku Ogawa
⎯⎯ 最後に、コラボ前後で「アシックス」の印象は変わりましたか?
井野:モノ作りが好きな人たちが集まっての「アシックス」なんだ、と再認識しましたね。熱い気持ちを持った人ばかりで、一緒にスニーカーを作っていく過程はとても刺激的で楽しかったです。
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