今や、日本を代表する輸出産業となったアニメ。その影響力の大きさと、世界に広がる熱気については、いまさら語るまでもないでしょう。ですが、アニメTシャツが最もクールなファッションアイテムになるなんて、10年前に予想できた人がいたでしょうか? さらに、昨今の古着人気も相まって、ヴィンテージとして価値が高い古着のアニメTシャツには数十万円の値段が付くことは珍しくありません。
現在、ファッションアイテムとしてかなり注目されているのにも関わらず、これまでアニメTシャツがファッションからの視点で語られることは、ほとんどありませんでした。今回はアニメTシャツに造詣の深い3氏をお招きし、アニメTシャツの過去、現在、未来を存分に語り合っていただきました。(聞き手:山田耕史)
※本記事では、アニメ、漫画、ゲームなどのいわゆるオタクカルチャーに関するTシャツを「アニメTシャツ」と呼称しています
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目次
アニメ好きになるきっかけはラブコメ
FASHIONSNAP(以下、F):A.B.さんとchillさんは古着屋オーナー、齋藤さんはウィゴーで古着のバイイングなどを担当と、現在みなさんは古着のお仕事をされていますが、もともとアニメはお好きだったんですか?
A.B.:好きとか嫌いとかいうレベルじゃないですね。
chill:気付いたら好きになってた、というパターンですよね。僕もそうでした。小学生のときに地元にある「まんが図書館」という、漫画が読み放題のところによく行っていたんですが、そこに唯一あるちょっとエッチな漫画が「A・Iが止まらない!」で、それをドキドキしながら借りていた思い出があります。
A.B.:「I’’s」「BOYS BE…」「ラブひな」とか。ちょっとオタクっぽい作品を小学生の頃にこっそり読み始める感じですね。
chill:そういったラブコメ作品から入ったと思います。
A.B.:僕は子どもの頃からアニメもファッションも好きでした。中学生のときに入っていた卓球部で一番強い人がアメカジで、その他全員がその人のファッションを真似ていましたが、その頃はまだ、アニメオタクがカミングアウトできない時代でしたね。
F:A.B.さんは40歳、齋藤さんは38歳、chillさんは33歳と、みなさんは世代が微妙に違いますが、アニメTシャツをいつ頃から着るようになったのでしょう?
chill:大学に入ってからですね。高校生の時も雑誌「ヤングエース」の「新世紀エヴァンゲリオン」の付録Tシャツを持っていましたが、着てはいなかった気がします。中学生の頃からバンドTシャツをよく着ていたのですが、大学生になったときにバンドTシャツが流行ってしまったんです。その時期に、偶然アニメTシャツを「誰も着ていないから着たいな」と思って集め始めました。
A.B.:アニメTシャツを買っている時点でみんな、ひねくれものなんだよな(笑)。
chill・ウィゴー齋藤純輝(以下、齋藤):そうですね(笑)。
齋藤:僕が一番遅咲きかもしれません。僕の場合は完全に「AKIRA」がきっかけでしたね。大友克洋先生の作品がずっと好きで。10年ぐらい前から「AKIRA」のTシャツにはある程度価値はあったんですが、なかなかお店で見つからないので探し始めたのがきっかけです。当時は「AKIRA」のTシャツがまだ2万円台で買えていました。
「ゴミ」だったアニメTシャツ
F:まだアニメTシャツがファッションとして認知されていない頃はどうやって入手されていたのでしょう?
A.B.:僕は秋田のアニメイトで働いていたので、いわゆるグッズとしてのアニメTシャツは楽に入手できる状況でしたが、当時のアニメTシャツは古着屋においているものではありませんでしたから、古着で見つけるのは大変でした。その頃のアニメTシャツはファッションアイテムではなく、アニメファン向けのキャラクターグッズでしたから。古着屋で扱うものではなかったんです。
chill:僕の地元の古着屋に、アニメTシャツが普通にレギュラー(製造されてからあまり年月が経っていないため、ヴィンテージとしての価値が生まれておらず、安価で販売されている古着)として入ってくる時代だったので、古着屋に行ったら、月に1回ポロッと入ってくるような感じで「安いからとりあえず回収しとくか」という感じでした。USモノの2000年前後のアニメTシャツが5000〜6000円くらいでしたね。
齋藤:うちが古着を仕入れるときは大量にベール(大量の古着が圧縮されてランダムに入っている業者向けのパック)買いしていますが、20年くらい前はアニメTシャツは商品として店頭に出せるものではなかったので、捨てていたそうです。ゴミ扱いですね。
chill:10年くらい前からレギュラーとして古着屋にちらほら並ぶようになったので買っていると、古着屋のスタッフさんに「アニメTシャツを買う客だ」と覚えてもらえるようになり、入荷すると「アニメTシャツあるよ」と教えてくれるようになりました。
齋藤:ウィゴーでもアニメTシャツを価値があるものとして販売するようになったのは、10年くらい前からです。それまでも多少は価値があったのですが、ウィゴーでは扱っていなかったので、アメリカに買い付けに行くバイヤーに無理を言って買ってきてもらっていました。
2015年のシュプリーム×前田俊夫コラボの革新性
F:アニメTシャツがファッションの観点で注目を集めるきっかけになったと言われているのが、2017年の「シュプリーム(Supreme)」と「AKIRA」のコラボレーションです。
chill:スケートカルチャーが好きな人は、その前から「AKIRA」のTシャツを着ていましたね。「攻殻機動隊」を着ている人は見なかった。「AKIRA」だけでしたね。
齋藤:「AKIRA」は別格でしたね。
F:数あるアニメ作品のなかで、なぜ「AKIRA」がスケーターに好まれるのでしょう?
A.B.:当時は安かったから、ということはあるでしょうね。スケートしたらTシャツって破れてしまいますし。だから、当時のアイテムできれいな状態で残っているものが少ない。
chill:あの世界観がスケーターにウケたのかもしれません。スケートカルチャーも、「AKIRA」で描かれている世界も、同じ「アングラ」として通ずるものがあったのではないでしょうか。
A.B.:「AKIRA」より前の2015年にシュプリームが前田俊夫とのコラボをやったんですよ。これでアニメTシャツが市民権を得ましたね。それまではアニメTシャツを着ているヤツは「クレイジー」って扱いでしたから。
chill:「シュプリーム」があの時代に前田俊夫を取り上げたのは、革新的でした。かなり大きな転換点になったと思います。僕は今でも言ってますが、あの頃「こんなのどう着るの? というか着てもいいの?」っていう服でしたから。
A.B.:当時、周りでは俺以外誰も着ていなかったな(笑)。
chill:海外のアニメTシャツコレクターがその少し前から活動し始めたこともあり、アニメTシャツというカルチャー自体が、この頃に盛り上がってきた感覚がありました。
A.B.:日本とアメリカでは、オタクカルチャーの広がり方が全然違います。日本では地上波で様々な種類のアニメが毎日放送されていますが、当時のアメリカは表現規制が厳しかったので、キツい表現のアニメは放送されていませんでした。そこに、前田俊夫の「超神伝説うろつき童子」や「La☆BlueGirl」などの“エログロ”的な作品がやってきて、アメリカのオタクたちが「日本やべえ!」となったんです。
chill:アメリカの「オタクだけどイケてる」みたいなやつらの間で流行っている感じでしたね。
A.B.:日本でも、アニメTシャツは「逆張り」の極み、みたいな感じだったけどね。自分はアダルトアニメのTシャツを好んで集めていたときもありました(笑)。
F:それは今も着ているんですか?
A.B.:着ますよ。
chill:「なるべくキモいのがいい」みたいな感じで着ていましたよね。「人とカブらないからいい」という価値観で。
A.B.:僕らはずっとそんな感じでアニメTシャツを楽しんでいました。うちの店も田舎なので「120%売れないだろう」と思って、好き勝手やっていました。なので、今のようにアニメTシャツが人気になるなんて、考えもしませんでした。
chill:自分もここまで流行るとは思っていませんでした。初めてアニメTシャツのポップアップをやったときに東京は反応が良かったので「一部の人には刺さるみたいだからやってみよう」くらいの気持ちでお店を始めましたから。
A.B.:90年代のオタクショップみたいに、好きなヤツだけが来るお店を、細々とやるつもりだったのにまさか……。
chill:一般層にこれほどまで広がるとは、読めませんでした。
インバウンド客に売れるアニメTシャツは「ベルセルク」
F:近年のインバウンドの影響はいかがですか?
chill:代田橋にあった「chillweeb」が原宿に移転してからは、半分ぐらいが海外からのお客さんです。海外のリール動画でPOGGYさん(ファッションキュレーター小木“POGGY”基史氏)が僕のお店をおすすめしてくれて、それを見た外国人の方がかなり来てくれていますね。スペシャル(ヴィンテージとして非常に価値があり高価な古着)ではなく、お土産的な感じでアンダー2万円のアニメTシャツを買ってくれる人が多いです。あと、「このアニメ作品のTシャツはないか?」と聞かれることは非常に多いですね。
A.B.:「ベルセルク」はインバウンド客にめちゃくちゃ売れますね。外国人には絶対に聞かれます。
chill:「ベルセルク」は外国の方みんな大好きですよね。
齋藤:ウィゴーでは、「ベルセルク」よりも買いやすい価格の、少年漫画作品でプリントタグのレギュラーTシャツが若者に売れます。
chill:ウィゴーさんでは今いくらぐらいで90年代のアニメTシャツ売っていますか? 1万5000円くらい?
齋藤:もう少し高く値段を付けていますね。レギュラーTシャツは売れづらかったりするんですが、やはりアニメTシャツだけはかなり動きが良いです。
アニメTシャツに興味を持った若い子が買いに行こうとしても、A.B.さんやchillさんのお店に入るのって、ちょっと勇気が必要だと思うんですよ。かといって、気軽に入ることができる量販店的な古着屋さんだとあまり扱っていない。そんな若い子たちがうちでプリントタグ(ネック部分のタグがボディ裏に直接プリントされた、比較的年代が新しいTシャツ)を買っていくことはめちゃくちゃ多いですね。
A.B.:そんな子たちの10人にひとりが、こっちに流れてくる。
「コスパ」再評価は東南アジアから
A.B.:和モノのアニメTシャツのなかでも評価をしているのが、「コスパ」(※)です。
※コスパ:1995年創業にコスプレ衣装メーカーとして創業し、マンガやアニメ、ゲームコンテンツのアパレル、グッズの企画、開発、販売を行う株式会社コスパが展開するブランド。
chill:「コスパ」さんは海外モノと同じように、丸胴のボディにシルクスクリーンでプリントしているので、作りが良いですよね。でも、昔はコスパのTシャツに価値が付くなんて、考えもしませんでした。シュプリームと前田俊夫のコラボが出た後の2015、16年頃、原宿の古着屋でコスパを見つけて戦慄した記憶があります。
F:その当時はまだ「キャラクターグッズとしてのアニメTシャツ」だったんですよね。
A.B.:そうですね。でもコスパは1990年代に「ビューティービースト(beauty:beast)」とコラボをしたりと、ファッション的な打ち出しもしていました。当時、僕は高校生だったんですが、お金がなかったので、ビューティービーストの福袋をたくさん買って、友達と福袋の中身を交換したりしていました。その福袋にコスパとのコラボがめっちゃ入っていたんですよ。あまり売れなかったのでしょう。
chill:そのときにそんなの着てたら、それこそ人権なんてなかった(笑)。ビューティービーストとコスパ、それぞれの“中の人”が仲良しだからコラボが実現したそうですね。ビューティービーストとコスパのコラボでは「カードキャプターさくら」など色々なアニメのアイテムを出していました。今からすると宝の山ですけど、当時は売れていなかったようです。コスパに価値を見い出したのは、日本人より外国人が先でした。おそらく、東南アジアのベールにたまに混ざっていたりしたんでしょうね。ベールに入っている大量の古着のなかから、コスパだけをピックアップして集めている人がいました。
A.B.:海外のコレクターからはインスタグラムにDMがよく来てたなぁ。
chill:過去に、タイ人がコスパのTシャツを200枚くらいレビューしているブログを見つけたことがあって。僕が欲しかった「ラブひな」のTシャツもあったので、サイトに掲載されていたメールアドレスに「日本のオタクなんだけど、これ売ってくれ」ってメールをしたら、「売らねぇ」と返ってきて(笑)。「定価の3倍出す」とオファーしても「いや無理だわ」と返されて。タイにもヤバいオタクがいるもんだなぁと思いました(笑)。
A.B.:インスタグラムにアップした「ラブひな」Tシャツにオファーしてきた99%が外国人で、日本人で連絡してきたのはこいつ(chillさん)だけでした。
F:(笑)。そもそも御三方はどうやってお知り合いになったんですか?
A.B.:齋藤さんは「VCM(Vintage Collection Mall)※」じゃないですか?
※VCM:ヴィンテージ総合プラットフォーム。日本全国からヴィンテージショップが参加し、販売するイベント「VCM VINTAGE MARKET」を開催。
齋藤:そうですね。インスタグラムで見たことあるな、みたいな感じで行ったのがきっかけです。
chill:僕とA.B.さんは結構長くて。7、8年前からコレクターとして繋がってました。
F:コレクター同士はどうやって繋がるんですか?
chill:インスタグラムにアニメTシャツをアップしていたら「こいつ、同士だな」って感じで繋がるようになりました。
A.B.:コレクターの数が少ない分野なので、すぐに繋がれます。その頃、純粋にアニメTシャツのコレクターをやっていたのは3人くらいじゃないかな。我々ともうひとり、北海道に化け物級のコレクターがいます(笑)。
価値はどこで決まる?
F:作品、生産国、作られた年代、デザインなど様々な要素がありますが、アニメTシャツの価値はどこで決まるのでしょう?
chill:いや、これは難しい!
A.B.:やっぱり作品愛じゃないですか。
chill:作品の人気も大きいですね。サイズも関係します。サイズは大きいほうが着られる人が多くなるので、圧倒的に需要も大きくなる。Tシャツのコレクターってデカさが正義なので。同じツラでも、MとXLだったら倍違います。あと、価格を決めるときに大きな判断基準となるのが「出づらさ」ですね。
A.B.:我々はアニメTシャツに関わっている年月が長いので、どのアニメTシャツがどれくらい出づらいのかは、わかっています。なので、この年代のこのアイテムならこれくらい出ていないから、この値段だろう、というような決め方になります。
chill:和モノ(日本製のアイテム)だと、生地が薄いものが多いですね。もし、シングルステッチであっても、横に継ぎ目があって生地が薄いとなると、個人的には高値は付けづらいですね。
A.B.:90年代は、アメリカのメーカーのTシャツでもUSフィットとアジアンフィットがありました。アジアンフィットってサイズが小さいし、肌着ボディで乳首が透けるくらい薄い生地だから、いま着るのは難しいかもしれません。
chill:僕らはずっとそんな価値観でしたけど、最近だとそういうのでも2万円くらいで動くみたいです。週刊少年ジャンプや週刊少年マガジンの景品、例えば桂正和先生のTシャツなんかは、2万円以上、3万円とか付くものもありますね。
A.B.:ボディだけでなく、プリントの方法も日本とアメリカでは違うんだよね。日本のTシャツで主流だったアイロンプリントは、洗濯をしたらプリントが剥がれてバラバラになってしまう場合もあるので、ちょっと避け気味です(笑)。
chill:やはりプリントのクオリティはアメリカのもののほうが高い。日本の古着屋としては、しっかり着られてサイズもでっかい海外製に軍配が上がってしまいますね。お店で付ける値段も、和モノとアメリカモノだと、5倍くらい違ってきます。
齋藤:絶対にUSコットンが良いです。
chill:若い子はそういったこと、あまり気にしてませんけどね。ボディとかネックの厚みとかを気にするのは、我々ぐらいです(笑)。
アニメTシャツ愛好家が着るTシャツ
齋藤:今、僕が着ている「ぷよぷよ」のTシャツも、普通の古着としての感覚で年代とツラだけでみたら5000〜6000円くらいでしょう。
chill:このTシャツ、ヤバくないですか? なんなんすか、このタグは。
齋藤:今日、これを着てここ(取材場所)に来るまで、2回職質されたんですけど(笑)。これ、コンパイル(ぷよぷよを開発したゲーム会社)のものなんですよ。触ってみて下さい。
chill:生地はUSコットンだ。我々はタグを確認しなくても、Tシャツの質感と仕様を見るだけで「フルーツ(フルーツオブザルーム)」とわかります。
A.B.:でも、プリントは国内だね。
chill:おそらくですが、当時コンパイルに和モノのボディを入手するツテがなかったので、USボディを使ったんじゃないでしょうか。
A.B.:当時の「ときめきメモリアル」のTシャツも、USボディを使っているものがあるよね。
齋藤:このTシャツは前回のVCMで手に入れました。6000〜7000円ぐらいでした。
chill:それはヤバいっすね! サイズも良いし。
F:ちなみに、もしA.B.さんとchillさんのお店で売るとしたら、おいくらになりますか?
A.B.:僕は3万円は付けますよ。
chill:僕もです。
齋藤:汚れがあったりしますが、このコンディションでもですか?
chill:それでも3万円ですね。
F:chillさんが着ているのは、どういう作品のTシャツですか?
chill:「バイパー」という日本のアダルトゲームのTシャツです。海外で人気のある作品で、このTシャツが面白いのはイタリア製ということ。「カイルア」という、カルト的なアニメTシャツを出しているブランドです。
A.B.:イタリアなのに、ハワイみたいな名前だ。
chill:検索しても「カイルア」というハワイの地名しか出てこない(笑)。このカイルアは我々が最初に評価し始めたブランドなんですが、アメリカで言うところの「ファッションヴィクティ(Fashion Victim)」のようなTシャツデザインの会社で、「マーベル(MARVEL)」のTシャツも作っています。このTシャツで謎なのが、キャラクターの横の「東京」「パリ」の文字。そして腕には「初期作品集」と書いてありますが、このプリントがなかったり、裾のパッチが付いていなかったりと、個体差が色々あるようです。後ろにプリントされている「映」も謎です。ユーロのアニメTシャツは情報が少なく魔境のような存在なので、掘ると面白いです。
A.B.:コスパでも「バイパー」のTシャツはいくつかありますが、どれも高くなっていますね。
chill:海外のコレクターが凄いのは、Tシャツ以外にもVHSやタペストリーなど、全ての関連商品を買い揃えているヤツが多いことです。
F:作品愛が深いんですね。A.B.さんのTシャツはどういった作品のものですか?
A.B.:「ARIA」というアニメですね。悪いやつがひとりも出て来ない。音楽もめちゃくちゃ良くて、大好きな作品です。が、導入の5分で、8割の人が寝てしまいます(笑)。
chill:ストーリーというストーリーは特にないんですよね、ゴンドラに乗った女の子がみんなを案内する、みたいな。僕は寝ました(笑)。
F:A.B.さんの首にかけていらっしゃるのはネックレスですか?
A.B.:最近のお気に入りです。「JDMツアーズ(JDMTOURS)」というブランドのもので、POGGYさんのプロジェクト「POGGY’S BOX」で販売されていました。シルバーでめちゃくちゃ重いので、首が凝ります(笑)。
Image by: FASHIONSNAP
F:このゲームボーイソフト、使えるんですか?
A.B.:普通に遊んでますよ。「幽遊白書」、好きなんです。レトロゲームも好きで、パソコンでデスクワークばかりしていると疲れるので、携帯ゲームを修理してストレス解消をしています。基盤を直したり、液晶を交換したりして、売ったりもしています。
「全部掘り尽くした」仕入れ方法
F:A.B.さんとchillさんが着られているTシャツはそれぞれどこで買われたんですか?
chill:お店を始める前の頃、海外のコレクターからトレードで手に入れたものです。当時はお金で払うよりもトレードして手に入れることが多かったかもしれません。 他にはアメリカのアニメ系サイトがあって、VHSなどの作品やグッズなどが販売されているんですが、そこでTシャツも売っていたんですよ。20〜25ドルとか、売れ残りが当時の定価で残っていて。
A.B.:アメリカには個人でやっているオタクショップみたいなのもあるんですよ。ネット検索とかでは出ないようなサイトがたくさんあるのですが、そういったところに「オマケにアニメTシャツが付いているDVDの在庫をリスト化して欲しい」と連絡をして、片っ端から買っていました。今はもうこの方法ではアニメTシャツは絶対に出て来ないですね。僕らがブルドーザーみたいに全部掘り尽くしました。
F:他にどういったアニメTシャツの買い付け方法があるんですか?
齋藤:多分どこも同じだと思うんですが、基本的にはディーラーやフリマですね。うちだとベール買いもするので、その中からポロッと出てくるって感じです。スヌーピーとかミッキーマウスとかが多いんですが、本当に稀に「風の谷のナウシカ」みたいな作品が出てくることがあります。一般的な古着の買い付けで行くような、アメリカのフリマではまず出ないです。
chill:アメリカのフリマでもし出たとしても、かなり高いですね。僕はTシャツは主に海外に行って買い付けしているのですが、ディーラーや倉庫に入る際は前もってアニメTシャツを寄せておいて貰ったり、仲の良いコレクターの家に直接行ったりしています。
アニメTシャツ人気のこれから
F:アニメTシャツが大ブームになっている現在の状況と、今後についてはどうお考えですか?
chill:今はアニメTシャツが流行りすぎた弊害が出てきています。これまでアニメTシャツを扱っていなかったり、知識が十分ではない古着屋さんが「売れるから」という理由で最近新たに取り扱い始めたりしています。そんな古着屋さんの広告が「アニメTシャツスペシャル大量入荷!」みたいな感じでSNSで流れてきたりするんですが、掲載されている商品をよく見てみると、中国のオンラインストアで大量に売られているフェイク品だったり、タイで現在作られているインクジェットのブートレグだったりします。それを売るなとは言わないのですが、大々的にスペシャルと煽って高額で売ったりするのは色んな意味で危ないなあと。
A.B.:何をどんな価格で売っても構わないけど、ちゃんとしたものを売って欲しいですね。
齋藤:知らないで売っている、ってこともあるんですかね。
chill:どうなんでしょうね。でも、古着屋のオーナーだったらわかるだろう、とは思うのですが。
A.B.:難しいんですよ。アニメTシャツというジャンルは。そもそも古着屋さんにガチなアニメオタクはあまりいませんし、アニメオタクでファッションを好きな人も少ない。なので、ファッションとアニメ、両方の視点から見られる人はかなり少ない。
chill:お客さんはそういう裏側のことはわからないでしょうから、「ちゃんとした古着屋さんが出しているんだから、ちゃんとしたモノだろう」ということで、高い値段で買ってしまっているという現状はちょっと、と思ってしまいます。
A.B.:いわゆる偽物って、「フェイク」とか「ブート」とか、色々な表現がありますが、我々が嫌いなのは「コピー」。「こんなTシャツが欲しいけど、公式では販売されていないから自分で楽しむ用に作る」っていうのは全然アリだと思うんです。
齋藤:バンドTシャツにもありますよね。「パーキングロット」と呼ばれる、フェスの駐車場とかでファンが作って売ってるTシャツ。
A.B.:愛のあるブート作品はいいんですが、当時のヴィンテージTシャツのコピーを作って、2万円とかで売っているという現状はヤバいと思います。ひどいところだと、そういうアニメTシャツを数十万円で売っていることもありますから。カルチャーが終わろうとしている空気が半端ない。
F:アニメTシャツというカルチャーが消費されてしまっている、ってことですか?
chill:かなり消費されていますね。そんな感じでコピー商品が売られるようになったら、流行の最終局面という気がします。僕は2024年がアニメTシャツのピークではないかと思っています。今のTシャツ人気って、バンドTシャツが流行り、その後にムービーTシャツなどに移行してきましたが、今はバンドTシャツは一般層にもかなり浸透しているじゃないですか。アニメTシャツも、そうなって来つつある。今年はバンドTシャツの売り上げをアニメTシャツのほうが抜くんじゃないかと思ってます。
齋藤:ただ、アニメTシャツはバンドTシャツよりも数を集めづらいんですよね。もしバンドTシャツくらい集められるのなら、本当に逆転すると思います。
chill:元々僕らぐらいしかやってなかったアニメTシャツが、今こんなにもたくさんのお店でいきなりプッシュされて売れていることは本来はおかしい状況なんですよ。もちろんアニメカルチャーが広まることは嬉しいですが、仮にブームが去って周りの古着屋がやらなくなったとしても、当然自分のお店では置き続けますし、本当にアニメが好きな人は買い続けると思います。バンドが好きな人はブームなど関係なくバンドTシャツを着続けていますしね。ただアニメTシャツもここまで広まってくると一過性のトレンドではなく、今後はバンドTシャツのように一般的なものとして定番化する気がしますね。日本に住んでいる以上、誰しもが何かしらのアニメには触れていますし、今の若い子は普通にアニメを見て育っているので、我々の頃と違ってアニメに対してマイナスイメージを持っていませんから。我々のときは、着られたモノじゃなかったアニメTシャツをわざと着る、という感覚が好きだったんですが、アニメTシャツを着て普通に街を歩けるという今も、なかなかいい世界線だと思いますよ(笑)。
番外編:お気に入りの私物アニメTシャツ紹介
F:今回は齋藤さんとchillさんに私物のアニメTシャツをお持ちいただきました。
齋藤さんのお気に入り1:「GTO」Tシャツ
齋藤:まず、僕から。お気に入りの「GTO」のTシャツです。
A.B.:これ、「週刊少年マガジン」の周年記念の袖プリントが入ったやつですね。「ラブひな」のピンクのもありましたね。ワンサイズしかないんでしたっけ、これ。
齋藤:40周年でワンサイズ展開でしたね。「コータローまかりとおる!」はボディが水色でした。
Image by: FASHIONSNAP
齋藤さんのお気に入り2:「うる星やつら」ラムちゃんTシャツ
齋藤:次は「うる星やつら」のラムちゃん。これは僕が初めてヨーロッパに買い付けに行ったときに購入したものです。2017、18年くらいだったと思います。
chill:僕も同じものを私物で持ってますが、売りたくない(笑)。
齋藤さんのお気に入り3:「La☆BlueGirl」Tシャツ
齋藤:もうひとつは先程も出ていた、前田俊夫先生の「La☆BlueGirl」のTシャツで、「セントラルパークメディア(Central Park Media)」(北米でアジアのアニメや映画、漫画などを配信していたメディア企業)のもの。これは数年前にメルカリで買いました。
chill:わかった! これ、メルカリで安かったやつだ。僕も買おうか、悩んでいました。今これ探しているんですが、アメリカではヤバい値段が付きますよ。
齋藤さんのお気に入り4:「AKIRA」Tシャツ
齋藤:最後は「AKIRA」。この同情するようなシーンが好きなんですよ。4、5年前に下北沢の古着屋さんで6〜7万円で買いました。
chill:これはいいですね。前に海外のディーラーがお店に来たときこれを持ってたので買うって言ったら、50万円だと言われてビビりました。
F:ちなみにみなさんのアニメTシャツはかなりお値段が張りますが、着られるんですか? それとも飾られるんですか?
齋藤:僕は結構着ます。
F:汚したらどうしよう、とか思いませんか?
齋藤:Tシャツは汚れちゃうもんなんで。
chillさんのお気に入り1:「天元突破グレンラガン」Tシャツ
chill:僕が最近買ったお気に入りはこれです。「ガンズ・アンド・ローゼズ(GUNS N' ROSES)」のパロディの「天元突破グレンラガン」Tシャツです。乾燥機にかけたので、しわくちゃになってしまいました(笑)。
F:これはブートレグですか?
chill:わかんないんですよ。デザインはブートっぽいんですが、プリントはシルクスクリーンで、ファンブートにしては出来が良いんで、ちゃんとした会社が作ってるんじゃないかと思います。「グレンラガン」自体がまず出ない上に、「ガンズ」パロディってとこに惹かれて買いました。
chillさんのお気に入り2:「ああっ女神さまっ」Tシャツ
chill:次は「ああっ女神さまっ」。お店で何回か売ったことがありますが、色の出方とかが凄く好きなので、私物としても愛用しています。シングルステッチで「ファッションヴィクティム」製の部分も評価したいです。
齋藤:凄く綺麗ですね。
chillさんのお気に入り3:「インターステラ5555」Tシャツ
chill:これはダフト・パンクと、「銀河鉄道999」の松本零士先生がコラボしたアニメ作品「インターステラ5555」のもの。これはかなり珍しくて、この1枚しか見たことがありません。
A.B. :当時加入してたアニマックスは、放送の合間にダフト・パンクのPVが毎回フル尺で流れるんですよ。そこで散々見させられたから、バンド自体が嫌いになっちゃった(笑)
F:(笑)。でも、とてもおしゃれなTシャツですね。
Image by: FASHIONSNAP
chillさんのお気に入り4:「ときメモ」Tシャツ
chill:これは「ときメモ(ときめきメモリアル)」ですね。
A.B.:これ、めちゃくちゃデカい。パジャマとしてリリースされたんだよね。
chill:コピーライトの文字もデカい。ゲームかなにかの特典だったと思います。2種類あってとあるイベントのときに販売したんですが、もうひとつのほうをA.B.さんが買ってくれました。
chillさんのお気に入り5:「あずまんが大王」Tシャツ
chill:最後は超珍しい「あずまんが大王」。これは外国人から売ってくれって相当言われますね。フロントにプリントが入っているのは結構見るんですが、この両面は本当に出ないです。僕もこの1枚しか見たことがありません。
F:お店で売るとしたらいくらくらいになりますか?
chill:これは値段は付けられないですね。10万円を出すって言われても、余裕で断ります。「あずまんが大王」は漫画も読んでいましたし、あずまきよひこ先生も大好きなので、大事にしています。
Image by: FASHIONSNAP
編集後記:今回の取材では、一般的なファッション関連のインタビューではまず耳にしない、オタクカルチャー特有の用語や表現が飛び交いました。
最初に話題になったのは、アニメにハマったきっかけ。動画配信サービスなどが普及した現在では世界中のどこにいても気軽にたくさんのアニメが観られますが、御三方が青春時代を過ごした1990年代は、住んでいる地域によって観られるアニメの数が大きく違っていました。秋田県出身のA.B.さん、広島県出身のchillさんに対し、群馬県出身の齋藤さんが「テレ東が映るのがデカかった」と仰ったのは、数多くのアニメ作品を放映していたテレビ東京系列が観られるかどうかが、当時のアニメオタクにとって超重要問題だったからです。かくいう兵庫県出身の筆者も、テレビ東京系列のテレビ大阪で再放送されていた「新世紀エヴァンゲリオン」を観てアニメにハマったクチです。
また、ジーンズやスウェットなどの一般的な古着の年代判定にはメーカーのカタログや「シアーズ」などの通販カタログなどが参考にされますが、アニメTシャツの場合は資料としてアニメ雑誌を使う、というエピソードもこの界隈ならでは。
自分の好きなファッションを好きに楽しめる時代の象徴とも言えそうな、このアニメTシャツ人気。日本が世界に誇るファッションカルチャーとして、根付いてくれればと願っています。
1980年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学社会学部在学中にファッションデザイナーを志し、大学卒業後にエスモードジャポン大阪校に入学。のちに、エスモードパリに留学。帰国後はファッションデザインコンサルティング会社、ファッション系ITベンチャーを経て、現在フリーランスとして活動中。
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