AKIKOAOKI 2025年秋冬コレクション
Image by: AKIKOAOKI
とある朝、近代美術館を横切ると、ヒルマ・アフ・クリント(Hilma af Klint)という女性アーティストとフェミニズム映像作品の展示と書かれていた。個人的にフェミニズム作品に関心がある私は、後ろ髪を引かれながらもショー会場に向かった。ファッションウィーク最中に目を引くワードとの出会いは、運命を感じファッションと絡める傾向にある。フェミニズムアート、もしくはフェミニズムと呼ばれる作品から自分は何を感じとっているのか思考を巡らせていた。現代を生きる女性アーティストたちに共通する表現は、当事者の日常を言葉、映像、彫刻、写真とあらゆる手法を使って社会へ発信していることだ。中には家父長制や男性中心主義に対して強く反発し、女性の生存意義を激しい描写で訴えるものもあるが、最近は柔らかい表現の中に透けて見える男性またはマジョリティが気づかなかった差別やマイノリティの生きづらさが内包されており、男性として生きる私も共感できる作品が増えてきた。
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ファッション界隈ではどうだろうか。デザイナーからは「女性の強さを表現した」とよく聞く。男性中心主義の根強い社会で対等するために強さが求められることは理解できる。ただ、いつも強くなければならないのか。そんないち男性としての疑問を聞き入れてくれたのはデザイナー・青木明子氏だった。

AKIKOAOKI 2025年秋冬コレクション
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展示会に入ると、統一感のないスタイリングの組み合わせと視覚的に違和感のあるルックたちが目を引く。「なぜ?どうして?」とこちらの関心を引き立たせ、ブランドが表現する「現代を生きる女性の精神性とは?」と自然と対話が進んだ。早朝から私の頭を巡らせているフェミニズムアートについて実直に伝えると、「フィメールガイズ(female gaze)」という言葉を教えてくれた(「女性の眼差し」という意味を指し、女性や少女が世界をどのように見ているのか、まなざしから作品を捉えること。)。青木氏からの眼差しは男性と「対等」せず「共存」の姿勢を示し、女性像は、何気ないパーソナルな生活の積み重ねから見えてくるソフトで流動的な人間性を、社会にアウトプットしたとき、その装いから現代を生きる人の精神性が浮き上がってくるという。

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私の疑問である「女性の強さを表現」に対して、青木氏は「強さよりも女性の矛盾をコレクションに反映している」と答えた。アキコアオキの2025年秋冬は「社会も人も、特に女性の方が言葉や行動に矛盾が生じる。否定するのではなく矛盾する生き物として認めることが現代に生きるためのエンパワーメントになる」というメッセージを込めていた。

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今季はフォトグラファー、ロビ・ロドリゲス(Robi Rodriguez)にルック撮影を依頼したことからコレクションが始まったそうだ。ロビの作風はドキュメンタリー要素が強く、対象者のリアリティを映し出す。青木氏は自身のブランドイメージとロビのドキュメンタリー性やリアリティ性のある描写と対峙した結果、これまでのアイテム一点一点に女性的な色気をデザインに込める工程から少し距離を置き、スタイリングで醸し出される生活感、リアリティに秘めた色気に視点をあてコレクションを展開した。

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青木氏は、展示のためパリに行った際に目撃した、街中を闊歩する生活感漂う女性たちの雰囲気をここ数シーズン、コレクションに反映している。髪は乱れていても高級な毛皮を羽織る女性、道が汚くても引き摺るほど長いドレスを纏った女性、ラフなジーンズにジャケットスタイルに綺麗なメイクと真っ赤なネイル。スタイルは一貫していないものの、個々が大切にしてる装いやアイデンティティを強く感じたそうだ。それは頭からつま先までしっかり整える日本の装いと全く違う価値観である。すなわち、スタイルは作るものではなく、生活習慣そのものにスタイルがあるのだ。

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「矛盾」という普遍的な日常でも感情が変わる人間の業と、多面的な性格の複合体が人間であることを重ね合わせ、各ルックごとの雰囲気を変える。初見で感じたヴィジュアルルックの違和感はあえて統一感を無くすことでモンタージュのようにチグハグな人間が醸すリアリティであった。パリで出会った「淫ら」と「セクシー」の間にある女性的な魅力をリアリティの投影を得意とするロビの手によって、ブランドとして新たな人間像を提案した。アキコアオキには特定のミューズがいるわけではない。現代を生きる女性のリアリティであり、矛盾の肯定と普遍的な生活の中で共感できる人間らしい視点の集合体である。
矛盾とは女性特有のものではなく、“ロジカル思考な男性”にも、そして時に人間の集合体である社会にも内包する。矛盾した自分や相手を許せる関係性、曖昧な人間性を許せる社会が「豊かさ」と直結するのだと、別のショーに向かいながら考えに耽ったのだが、そんな豊かさに魅力を感じるのは世の中が矛盾を許さない傾向にあるからだ。身近のSNSも然り、他国では性別は男女しか認めないという条令にサインをしている。人間は元来矛盾や曖昧な生き物であるのに、それを認めない状況は新たな分断を作ってしまっている。このような世界情勢の中で、この瞬間を生きづらいと感じている人にとって、たかが装いではあるけれど、矛盾の肯定という社会へ向けた小さな抗いが個人をエンパワーメントできるのではないだろうか。
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