Image by: Hiroyuki Ozawa
今年1月に開催された2024-25年秋冬シーズンのパリ・メンズファッションウィーク。その中日で、NIGO®が「ケンゾー(KENZO)」のショーのフィナーレで「ナイキ(NIKE)」とのコラボを示唆するTシャツを着用し、「ディオール(DIOR)」が初のメンズクチュールを発表した1月19日の深夜、ハイファッションの喧騒から離れた13区のセーヌ川沿いでとあるパーティーが開催された。主宰は、パリを拠点に活動するクリエイティブ・コレクティブ「99ジンジャー(99GINGER)」だ。
99ジンジャーとは?
ADVERTISING
ここ数年、パリのカルチャーシーンに旋風を巻き起こしているこのコレクティブは、同地の電子音楽レーベル「ロッシュ ミュージック(Roche Musique)」でアートディレクターを務めながらヨーロッパでDJとして活動していたキルウ(Kirou)が中心となり、2018年に結成された。
「99ジンジャーの始まりは、パリで溜まったフラストレーションなんだ。ハウスミュージックが大好きだけど、ハウスミュージックだけが流れるパーティーに行きたいわけではなくて、ロンドンやアムステルダムのように、テクノもヒップホップも、R&Bもアフロビートも、クロスオーバーで楽しめるパーティーを探していた。でも、パリには無かったから自分で開催することにしたんだ」(キルウ)
人種的・民族的多様性に富むパリ本来のパーティーを憧憬したキルウ。彼の意思に賛同する者は自然と集まり、今やDJ、デザイナー、アーティスト、詩人らを擁する7人組のコレクティブに成長した。キルウ、アヴァ・アンドレアニ(Ava Andreani)、ヴァンナ(Vanna)、ガブリエル(Gabriel)、クラリス・プレヴォー(Clarisse Prevost)、ナディア・ケイラ(Nadia Keira)、KCIVの7人はみな、エチオピア、ブラジル、カンボジア、アルジェリアなど、出自は異なるが同様の“文化的共通言語”を持つ移民二世。この多彩なアイデンティティと多才なスキルが集ったことで、99ジンジャーは単なるパーティー・オーガナイザーを超える存在となったのだ。
現在、彼らはパリを中心に活動しつつ、昨年4月に東京・渋谷でもパーティーを開催したように、世界各国の街へ直接出向いてサウンドを届けている。その一方、イングランドのインターネットラジオ局「NTS ラジオ(NTS Radio)」からレギュラー枠で配信も行っているので、ぜひ聴いていただきたい。
ニューバランスとの異色のコラボが実現
そんな99ジンジャーが2024年の1発目に仕掛けた催事こそが、1月19日のパーティーだった。実はこのパーティー、「ニューバランス(New Balance)」とのコラボスニーカー「1906R」の制作を記念したもので、開催9日前に突如としてアナウンス(両者は以前から懇意の仲)。にもかかわらず、1時間と経たずチケットがソールドアウトしていたことからも、彼らの注目度の高さが伺える。
なお、クロコダイル柄が型押しされた艶やかなグリーンの「1906R」は220足限定のフレンズ&ファミリーモデルであることが公言され、一般販売モデルの有無は明かされていない。しかし2024年中にブラックバージョンが登場するという噂もある。
極寒の夜、熱狂のパーティー
今回、99ジンジャーの素顔と魅力に迫るべく本パーティーに潜入。1月19日23時から4時間のみ開催された熱狂の一夜をレポートする。
会場は、パリ13区のセーヌ川沿いにある文化施設「シテ・ド・ラ・モード・エ・デザイン(Cite de la Mode et du Design)」の地下1階に昨年オープンしたばかりのナイトクラブ「FVTVR」。入り口まで伸びる数百メートルの地下通路は、左手に川面を眺めつつ、ありとあらゆる壁面にグラフィティがボムされており、いかにもなアンダーグラウンドの雰囲気を漂わせる。
歩みを進めた先では、ショッキングピンクのファーコートを着用したスタッフと屈強なセキュリティーたちが待ち構え、3度のチケット確認および入念な手荷物検査を経てようやく入場。この日は、ヨーロッパ全土を襲った強烈な寒気の影響で朝は数センチの雪が積もり、夜間も氷点下5度の厳しい冷え込みとなっていたが、半屋外空間のエントランスは寒さを微塵も感じさせない熱気に包まれていた。
「ニューバランス」が絡んでいるパーティーなので当然と言えば当然であるが、来場者の足元の大半は「ニューバランス」。これに「サロモン(Salomon)」や「アディダス(adidas)」、「ティンバーランド(Timberland)」などのブーツ類が続き、スウッシュの着用率は1%にも満たなかったように思える。
そして、エントランス奥のビニールカーテンを潜った先にあるのがラウンジエリア。いわゆる談笑スペースだが、我々からすると感度の高い"パリっ子"たちのリアルな姿を捉えることができる絶好のシューティングスポットだ。何人かに話を聞けば、数時間前にランウェイを歩き終わったモデル、某アウトドアブランドのスタッフ、人気古着屋の店員、建築専門のフォトグラファーだという。
このラウンジエリアを抜けると前方に広がるのが、最大1000人を収容するメインフロアだ。99ジンジャーと友人の面々は、当然の如くキャパオーバーしたフロアなどお構いなしに、アフロビートからハードテクノ、ドラムンベース、ジャズファンク、USヒップホップまで、多様なジャンルを大胆かつ軽快によどみなく繋げ、来場者たちにスマホを掲げる隙も与えないほど踊らせる。そのエネルギーに満ち溢れた様子は、以下の写真に目を通すだけで伝わるはずだが、「フォトグラファーのカメラのレンズに結露が生じていた」と聞けば、ヒートアップ具合がより想像しやすいだろう。
新しいトレンドがファッションシーンから生まれてくるとは限らず、新しいムーブメントは値踏みできないコミュニティとエネルギーから生み出される。それを肌身で感じられた一夜となった。もし、近くで99ジンジャーのパーティーが開催されるのであれば、好奇心の暴走に身を任せて迷わず足を運べばいい。理由なんていらない。最適化されたスマホの画面をスワイプしてばかりの世界から抜け出して、自身の身体で血の通ったムーブメントを味わおう。
Photo:Hiroyuki Ozawa
ADVERTISING
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境