ファッションとメイクの密接な関係。それが如実にわかるファッションショーのバックステージをレポート。2025年春夏コレクションを発表したファッションブランドのショーの裏側で、メイクアップ、ヘアメイクを手掛けたアーティストたちに、見どころやアプローチについて聞いてみた。第2回は「カミヤ(KAMIYA)」。メイクアップアーティストのKanako Yoshida氏にインタビュー。
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Image by: FASHIONSNAP
⎯⎯ 今回のメイクアップのテーマやイメージは何でしょうか?
コレクションのテーマが「Mannish Boy(男らしい少年)」。メイクは、“背伸びしながら「大人になりたい」と思っているけれど、大人になりきれていない子ども”をイメージしています。熟成されておらずエレガントすぎない様子を、モデルが元々持っているパーツを誇張することで表現しました。
⎯⎯ 全体的にとてもナチュラルに見えます。メイクアップで最初に決めた部分やポイントとなる部分を教えてください。
目元からメイクを提案して構築していきました。ポイントになるパーツも目元です。コレクションのアイテムが“ワルっぽい”感じで構成されているので、メイクでもそのユースな雰囲気とストリート感を出すために、それぞれのモデルのクマやくすみ部分を誇張しました。
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モデルの実際の肌感を残しながら、観客が彼らを見た時に「このままの子なのかな?」と錯覚するように抑揚をつけたかったので、できるだけ“アイシャドウを塗られている感”が出ないように仕上げました。目周りはファンデーションやコンシーラーを使用せず、カバーしていません。
クマやくすみ感を足すために使ったのは「メイクアップフォーエバー(MAKE UP FOR EVER)」のプロ用のパレット。流動的にブレンドできるオイルベースの練り状のカラーパレットです。モデルによって赤やグレーなどの色と濃度を変えて混ぜながら、筆で少しづつ塗っていきました。
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⎯⎯ 目元以外で、“大人になりきれていないユースらしさ”を出すために工夫したことはありますか?
キッズ感のあるモデルたちがキャスティングされていたので、子どもらしさという部分では素材そのものをいかしています。若い子達の無邪気な感じを表すために、「走り回った後などは唇の血色が良くなる」ということを考えて、色付きのリップクリームやティントで唇に自然な血色を足しました。
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唇と同じく無邪気さを出すため、汗ばんでいることを表現する肌のツヤもプラスしました。ベースメイクは薄く見えるように、あえてしっかりと作っています。スキンケアでツヤを足してしまうとファンデーションがヨレてしまうので軽めに済ませ、肌をマットに仕上げた後にグリセリンを塗っています。グリセリンは肌を弾いたように光を反射するので、汗の粒感を演出できると思って使いました。必要なところはハイカバー、不必要なところは抜いて、ナチュラルに綺麗に見えるように作り込みました。
⎯⎯ 2024年秋冬コレクションでもKanakoさんがメイクを担当されていました。前回は“出来たばかりの傷”のようなメイクアップが特徴的で、今回とアプローチは異なりますが、カミヤが描く人物像は統一されていると感じました。
そうですね。カミヤの場合は「この素材や質感だからこうしよう」というアイテムフォーカスの感覚よりも、もう少し精神的だなと思っていて。ファッションアイテムに合わせるのはもちろん必要ですが、それよりも「こういう気持ちの男の子が着ているからこうしよう」と考えながらメイクを形作っています。
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私が参加したのは今回で2シーズン目ですが、カミヤの“男の子像”は変わらないので、ディレクターの神谷くん(神谷康司)の言葉を引っ張りながら、浮かんでいる人物像を具体的に引き出して表現しています。
KAMIYA 2024AW
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前回はバイオレンスを意識した傷を作って、ポイントに集中させたメイクを施しました。日焼けのようにチークを入れたモデルもいますが、今回は頬まで手をつけてしまうと可愛さが出すぎてしまうので、チークは採用していません。 2025年春夏では、同じブランドでシーズンが変わって“続いていく”というつながりをもメイクで表現しました。
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⎯⎯ 今回のメイクアップを日常に取り入れるためのアドバイスがあればおしえてください。
アイシャドウは肌に向かってかなりシームレスになじませているので、アイシャドウをまつげの“キワだけ”のようには塗らないことがポイントです。キワのみに塗ることでラインのように見えてしまうので、女性っぽさというか、可愛さが出てしまいます。今回のメイクでは“ぼかす”ことがポイント。境目がなくなるように指や筆でぼかすと自然に仕上がります。
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悔しさや感情的な部分の表現に振り切るために赤みを足しているモデルもいますが、くすみを足してくれるグレーやブラウンなど、彩度が低いカラーを使えば真似しやすいメイクだと思います。
⎯⎯ Kanakoさんにとって“ファッションショー”とは何ですか?
私の原点のようなものです。「メイクをやりたい」と思ったのはデザイナーと一緒に働きたいと思ったからで、ファッションショーでメイクアップができることは本望なんです。パリでも東京でも、何本もショーを担当させていただけるのは本当にありがたいことで、携われることが嬉しいです。
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⎯⎯ 最後に、ショーでメイクをするときに、Kanakoさんが大事にしていることを教えてください。
デザイナーからコンセプトなどをヒアリングして、頭の中のさらに奥にある具体的なものを引き出せるようにコミュニケーションを取ることを大事にしています。デザイン以上にぼやっとしたものをいかに具現化できるかが大切なので、私のメイクがそこに乗らないように、“その人そのものが服を着ている”ような、今回なら“カミヤを着ている”ような…。トータルコーディネートのように、メイクで顔を作りたい。デザイナーの意図やコンセプトを、メイクという“ツール”を使ってトレースできるのが、私が思うバックステージのメイクアップです。だからこそ私は「メイクアップで寄り添いながらも背中を押す」ような顔を作りたいと思っています。
(企画・編集:藤原野乃華)
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