ファッションとメイクの密接な関係。それが如実にわかるファッションショーのバックステージをレポート。2025年春夏コレクションを発表したファッションブランドのショーの裏側で、メイクアップを手掛けたアーティストたちに、見どころやアプローチについて聞いてみた。第1回は「ティート トウキョウ(tiit tokyo)」。ヘアスタイリストでメイクアップアーティストの豊田健治氏にインタビュー。
■豊田健治
ニューヨークやパリ、東京コレクションなどで活動。21年間在籍した資生堂では宣伝広告のヘアメイクを中心に携わり、資生堂トップヘアメイクアップアーティストを務めた。2023年に独立。
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⎯⎯ 今回のメイクアップ、ヘアメイクのイメージは何でしょうか?
コレクションの着想源が映画「胸騒ぎのシチリア」だと聞いたので、リゾート地であるシチリア島を思い浮かべ、“リラックス”を基本的なイメージにしました。映画のレトロな雰囲気を活かしつつ、今回のコレクションに落とし込まれた“愛憎の渦や交錯する感情の移ろい”といった、内面の複雑性をメイクでも表現しています。
⎯⎯ メイクアップ、ヘアの中で最初に決めた部分は?
ネイルです。ルックを見てすぐにネイルの色を決めて、全員同じ色で揃えました。「オサジ(OSAJI)」の「アップリフト ネイルカラー」から、「04 Shinden〈神殿〉」を使っています。まろやかなカーキにゴールドのパールが入っているカラーです。
今回のコレクションは、サテンのようにツヤ感のある素材が使われていたものもありますが、ニットのビスチェやセットアップ、コットンのパンツなど、全体的にマットな質感でナチュラルなカラーのアイテムが多かったことから、指先のツヤとラメで遊び心をプラスしながら差し色になりすぎないようなカーキ色で統一しました。メイクと合わせたというよりは、衣服やアクセサリーなどを含めた全体的なバランスや印象に合わせ、リゾート感と複雑性を演出する意味から、このカラーが合うと思いました。
OSAJI アップリフト ネイルカラー 04 Shinden〈神殿〉
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⎯⎯ メイクでいちばんのポイントとなる部分と、そこで使用したアイテムを教えてください。
下まぶたに塗った蛍光色のピンクとオレンジがポイントです。先ほども言ったように、今回のコレクションは全体的にマットな質感かつナチュラルなカラーのアイテムで構成されていたので、アイメイクまでナチュラルだとぼやけた印象になってしまう。だから目で意思の強さを演出し、“複雑な人間模様を描く”というコレクションのテーマをメイクにも落とし込みました。
使ったのは「アニヴェン(uneven)」のマルチスティック。「ms-08 ネリネ(Nerine、廃盤)」と「ms-01 フェイディット ピンク(faded pink)」がキモとなるカラーで、蛍光色のペイントと混ぜ合わせたり、それぞれ少しずつ色を調節しながら下まぶたを染めました。マルチスティックなので、唇にフェイディット ピンクを使っているモデルもいます。
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上まぶたは本人の血色感を生かしたカラーを採用し、可愛くなりすぎないように仕上げることを心がけました。あくまでも本人の「素のまま」を生かし、リゾート感のあるルックに合わせてリラックスしたムードも加えられるよう、なるべくプロの手が入っていないように見せています。
ベースメイクはそれぞれネガティブな部分をカバーしただけです。また、リゾート地での「日焼けしている感」を出すために、クリームタイプのチークを頬の高い位置にのせました。
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⎯⎯ ヘアはかなりナチュラルに見えますが、今回のヘアメイクのポイントは?
基本のテーマに沿ってリラクシーにしたかったので、モデルたちの“素の髪”を活かしながらかなりラフな仕上げに。今回豊富だったニットやレース、シアー素材のアイテムやそこから透けた肌が映えるよう「髪が主役にならないように」という意味もあります。
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ストレートアイロンをあてたり少し巻いたりしたモデルもいますが、大袈裟なセットはせず、“面”で美しい髪に仕上げています。ポイントとなるアイテムは「メイソンピアソン(MASON PEARSON)」のブラシで、髪質や状態を見て猪毛100%やナイロンとのミックスを使い分けながら、ただラフなだけではない自然なツヤ感を出すためにブラッシングを重ねました。
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⎯⎯ 前回の2024年AWコレクションでもティート トウキョウのバックステージでメイクとヘアメイクを担当されていました。2025年SSコレクションは前回と同じく“芯の強さ”は変わらないものの、春夏らしい提案だったと思います。
25SS「Their vacation」
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前回はモノトーンが中心のコレクションで、モデルにはライトブルーやラベンダー系のカラーを涙のようにペイントし、「ひとしきり泣いた後に、前を向いて歩く様子」をテーマにメイクアップとヘアメイクを構築。キャラクター作りはもちろんですが、メイクをファッションの差し色として仕上げたことがポイントでした。
今回は、メイクでの「差し色」という部分を踏襲しつつも、前回のメッシーさやグランジっぽさは取り払い、リゾート感と抜け感を明るく表現しています。「リゾート」「リラックス」をキーワードに、ヌーディなルックにポジティブな暖色の蛍光色で色を入れました。
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⎯⎯ 今回のメイクアップを日常に取り入れるためのアドバイスはありますか?
リゾートなどの場面で映えると思うので、アレンジせずに、すぐにでも挑戦してみてほしいですね。蛍光色が派手だと感じるのであれば、少しトーンダウンしたカラーを使用してみるといいでしょう。
⎯⎯ ショーでメイクをするときに、豊田さんが大事にしていることを教えてください。
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「その服を着る人に、メイクがきちんとなじんでいるか?」「キャラクターに合っているか?」ということを大事にしています。ひとつの作品の登場人物として、全員がその場に、着る服に、色や形になじんでいるかということを意識して、統一感よりもリアリティを重視してメイクする。“服を着る素敵な人たち”に、繊細かつ丁寧にメイクをなじませるため、キーとなるカラーも少しずつ調整しています。
⎯⎯ 最後に、豊田さんにとって“ファッションショー”とは何ですか?
僕にとってショーは、エネルギーであふれたお祭りです。入念に準備を重ね、その日に向けてみんなで作り上げていく。本番が良くなるよう“最後の一手”としてリハーサル後にメイクを変えることもありますが、オフラインで多くの人が携わり、裏方から観客までもが、最後までエネルギーに満ちていると感じています。
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(企画・編集:藤原野乃華)
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