「私のメインの活動は服飾制作ですが、なるべく皆さんの日常を台無しにする服を作りたいと思っています」――そうSNSで発信したのはアーティストの22世紀ジェダイ。一風変わった名前を名乗る彼は、ファッション業界に従事する一方で、美術家としても活動している。彼の代表作は、アニメ「プリキュアシリーズ」や「おジャ魔女どれみ」「カードキャプターさくら」などをモチーフにしたネックレス。通称「プリキュアネックレス」は、「ネックレス」と呼ぶにはあまりにも大きく、その様相は祭壇のようにも見える。彼はなぜ、少女向けアニメをモチーフにした巨大なネックレスを作り続けるのか。「自由を確保するために表現を続ける」と話す22世紀ジェダイの自宅で話を聞いた。
22世紀ジェダイ
埼玉県生まれ。武蔵野美術大学空間デザイン学科ファッション専攻を卒業。ファッション業界に従事する傍ら、造形作家として活動。代表作にはアニメ「プリキュア」「おジャ魔女どれみ」などの少女向けアニメをモチーフとしたアクセサリーなどがある。2020年11月に自身初となる個展「自分を祝福する儀式」を新宿眼科画廊で開催し、話題を集めた。
公式ツイッター/公式インスタグラム
ーまずは、「22世紀ジェダイ」という少し変わった名前の由来について教えてください。
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あんまり面白い話ではないんですよ(笑)。ソフトドリンク飲料のおまけについてくる「ボトルキャップ」ってわかりますか?当時、スター・ウォーズに登場するキャラクターのボトルキャップが流行っていて。その流れで大学入学当初に、スター・ウォーズボトルキャップの自分バージョンを制作していたんです。その時に名乗っていたのが「ジェダイ」という作家名でした。僕もこんなに長く名乗る名前になるとは思っていなかったし、今更引っ込められなくてしまいここまで来てしまったという感じです(笑)。
ー「22世紀」というのは?
僕が好きな梨の品種「二十世紀梨」から取りました。かなり歴史のある品種らしいのですが、質の良さが認められたのは19世紀に入ってから。「未来である20世紀を代表する品種になって欲しい」という願いをこめて「二十世紀梨」と命名されたらしいんですよね。今は21世紀だから「未来のジェダイでありたいな」と思って組み合わせてみました。
ーご出身は?
埼玉県です。高校は都内に通っていたんですけど、何も文化的なものがない街で育って。学校には全然馴染めなかったですね。
ー大学では何を学んでいましたか?
武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科を卒業しています。専攻は「ファッション」です。
ー空デの「ファッション専攻」では具体的に何を学んだんですか?
ぼんやりしていて未だに僕もはっきり説明できない(笑)。でも、美術大学管轄ではあるので、美術作家になる人が多かったかな。僕も当時は美術作家になろうと思っていました。これは学生時代の作品です。
ー身体から服が拡張しているようにみえる不思議な作品ですね。
そうですね。学生の頃から「身体と物」という感覚に興味があって。身体という「隔てないもの」と、服という「隔てるもの」がどう関わっていくかを考えるのが好きだったんです。「何がオシャレか」というのもある部分ではファッション的だとは思うんだけど……。あくまで僕は「身体があって、それ以外のものがあって、そことの関わり方を思考する」みたいなことを作品にしていました。
ー大学進学の時に「ファッションを学べる学校に行こう」と思っていましたか?
全然(笑)。絵が得意だったから「これは活かしたほうがいいかな」って。受けた大学は全部デッサンで受験しましたね。
ーでは、服に興味を持ったのはいつ頃でしたか?
すごい遅かった。高校の修学旅行で僕は、母親が買って来てくれた服を着て行ったんです。でも、周りのみんなはすごくオシャレで。そこで初めて「あ、まずいんだ」「服って買うもんなんだ」と思ったのがきっかけ(笑)。おそらく同級生のみんなは、友達同士のコミュニケーションや、他人と関わっていく中でどんどん自分なりのおしゃれとか、「人から見られた時の自分」というものに自覚的になる最中だったと思うんですけど、僕は高校入学前までアスペルガー症候群の症状が酷くて。友達がいなくてもなんとも思わず育っちゃったんですよね。自意識が無い期間が長かったんです。今振り返ると、高校生までの僕は「虫みたいだったな」と思います(笑)。
ー好きな作家や影響を受けたデザイナーは?
毎日違うかも。そこに作品集が開いてあるけど、今日はサミュエル・メスキータが大好きな気分(笑)。他者のアウトプットを見るのが大好きなんです。学生の時は、他人のアウトプットとかよくわからなかったんですけどね。年々わかるようになって来ていて。今の方が「いいな」と思うし「わかるなあ」と思えるんですよね。
ー具体的に何がわかるようになってきたんですか?
みんな生きている間、何かしらを表現して残そうとしているんだな、と。しかも、そのアウトプットの形式は無数にあって、かつ全員が違う方法を選んで表現しているのって「やばいな」と思うようになりました。例えば画家やイラストレーターだって「絵を描こう」という欲望は一緒なのに、使う画材もモチーフも違うし、生み出すものも当然人それぞれ。特に、同世代の人たちのアウトプットは興味深いんですが、みんな日本で同じくらいの時に生まれて同じように育っているのに、こんなに違うのって冷静に考えるとすごいなって思うんです。きっと「何故それを描くに至ったのか」というそれぞれの人生があるんですよね。表現者のバックボーンとその表現方法に興味が出て来たのかも。
表現は何も「絵を描く」ということに限りませんよね。服を着て外に出歩くことも立派な表現だと僕は思います。服を着るということは「こう思われたい」という自意識が働くけど、「こう思われたい」という意識もきっと千差万別。だから街ゆく人を見て「素敵だな」と思えるんだろうなって。
ージェダイさんと言えば、やはり「プリキュアネックレス」。
「ポータブル祭壇」「ウェアラブル祭壇」と誰かが言ってくれたことがあって、「なるほど!」と思いました。
ーファッションとアートというのは、二項対立で語られがちですよね。「身に付けられるアート」と形容されることもあると思いますが、作り手としてどう思われていますか?
これに関しては販売しておらず、完全に自分のために作っています。たまに「著作権は大丈夫なのか?」とか言われるんですが、はっきり言って関係ない。僕が、「僕のために大切だと思うもの」を表現しているだけ。もし見たい人がいて、見てくれた人にとって何かしらの影響があるなら見ていただきたい。でも、基本的にはこれは誰に何と言われようと構わない作品なんですよね。確かに、いろんな所から怒られる作品ではあると思います。もしそれで偉い人から「表に出さないでください」と言われたら、僕は家で誰にも見せずにひたすらに作り続けるつもりです。だから、「アートなのか、ファッションなのか、アクセサリーなのか」という議論については本当にどうでもいいんです。
ー自分のために作っている、というのは具体的には?
プリキュアシリーズを1番最初に見たのは、随分と大人になってからなんですが、見終わった後に衝撃を受けたんです。「自分はなんて小さな世界に生きていたんだ」と。モブキャラが一人も登場しないプリキュアの世界に触れて、「自分以外の人にも気持ちがある」という当たり前のことをきちんと受け入れることができたんです。大袈裟かもしれませんが、「他人にも気持ちがある」と気づいた当時の自分は、生まれ変わったような気持ちになったし、何か素敵な事が始まる予感もしたんですよね。同時に、この世界観が好きな僕自身を自分で大切にしたいなと。その気持ちを忘れたくないから、プリキュアネックレスは永遠に増え続けるだろうし、最後は棺桶に入れるつもりです(笑)。
ー2020年11月に開催された個展は「自分を祝福する儀式」と銘打たれました。私自身、プリキュアネックレスの実物を見た時、「デコる」「盛る」ということを突き詰めていくと「おまじない」になるんだなと感じました。
「エネルギーを結晶化させる」みたいな意識はありますね。単体だとそこまでの力は出ないけど、集まってうまく組み合わさることで魅力が倍増するというか……。花束を作る感覚とちょっと近いですね。
ープリキュアネックレスはオブジェとして置いて眺めることもできますが、「身に付けられること」が素敵だなと感じます。
そう言ってもらえることは本当にありがたいし、同じ気持ちです。「着る」というのはモノの昇華方法としてやはり強力な魔法ですよね。さっきも少し話したけど、身体という「隔てないもの」と、服という「隔てるもの」を「着る」という行為で繋ぎ止めているんですよね。たまに「服に着られる」みたいな言い方をしている人を見かけますが、その感覚は僕にはまったくわからない。なんでも着たいし、「着ていいよな」って。
ージェダイさんはプリキュアネックレスのほかにも、釣具屋で販売されている疑似餌のカニを用いたネックレスや、使用済みのプロッター(PLOTTER)ボールペンを連ねたネックレスも制作されています。
これらはプリキュアネックレスと同じネックレスではあるんですけど、自分のために作っているという側面は無いですね。どちらかといえばデザインとして制作しています。ある程度ユーザーを想定して「きっとこれを好む人は世の中にいるだろうな」と思って作っていますね。
ー現在は完売しているということですが、再販売の予定は?
個人的な考えとして「再販はあまり意味がないかな」と思っているんですよね。僕はお金目的ではなくて、新しいものを作るということに重きを置いているので「過去のものをもう一度作って販売する」というのはなるべく避けたいなと考えています。
ー新作のドローイング作品を展示する個展「デパートの中の花の中のガールズ」が5月14日から5月24日まで、渋谷西武百貨店で開催されます。学生時代からドローイングは精力的に行っていたんですか?
学生時代は描いてないですね。大学受験のために通っていた予備校が、すごいスパルタ教育でデッサンを描かされまくっていたんですよ。「絵は日本で1番うまいでしょ」くらいの気持ちで予備校に入ったのに、周りのみんなはもっと上手で。それで嫌になっちゃって、大学に入ってからは遠ざけていたんですよね。ただ確かに、昔は絵を描くのが好きだったから。最近になってそれをようやく思い出して、再開したというのが1番適切かも。
ー心境に変化があったんですね。
今の家に引っ越す前のアパートに「掲示板」ができた時があって。そこにドローイングを貼ったら案外反応が良かったんです。「みんな、僕の絵をいいと思ってくれるんだな」と思えたことが大きかったかな。
ージェダイさんは度々「私は皆さんの日常が少しでも台無しにする服が作りたい」と仰っていますよね。
日常を脅かしたいんですよね。ちょうどその宣言をし始めた頃、ずっと自分が何をやっていいかわからなかったんですけど少しずつ分かり始めた時期だったんですよ。
ー何かきっかけがあったんですか?
どうやって辿り着いたのかは忘れてしまったんですが、インドネシアのお祭りの動画を見たんです。怖いお面と衣装を身につけた大人が子どもを追いかけている15秒くらいの映像だったと記憶しています。それにえらい感動しまして。「僕がやるべきことはこれだ」って思えたんですよね。インドネシアのお祭りで子どもを襲っていた得体の知れない生き物は、日本で言うところのナマハゲ。僕がやるべきことはナマハゲ役なんじゃないかなって。
ーたしかに、怖い仮面を被った神の使いが街を練り歩く行事が各地に「お祭り」として残っているのはおもしろいですね。
それも重要な行事として残っているんですよね。日常を脅かす存在って必要なんだ!とハッとしたんです。そういう意味ではファッションショーも年に数回、日常と異世界、内と外を繋ぐ「幕」が突然現れて、幕の奥から得体の知れない何かがやって来る「日常を脅かす重要な行事」だな、と。どこからともなくやって来た「異世界のもの」がランウェイを練り歩いて、観客を驚かして帰っていく。ファッションショーとインドネシアのお祭りが、自分の中でリンクして「そうか、僕はこれをやっていたんだな」と思えたんです。
子どもの頃、コミュニケーション能力に難があった僕は「この世界は自分用にできていないな」と感じていました。日常生活を送っていく中で「なんのために僕はいるんだ」「役割は?」「なんでこんなに生きづらいの」と。でもそのインドネシアのお祭りを見て「みんなの日常を脅かすのが役割なんじゃないかな」と思えたんですよね。プリキュアネックレスは、そういう異様さの結晶体なんだと思います。「なんでこれを作ったの?」とよく聞かれますが、そうやってどうか皆さんに混乱していただこう、と。
ー最後に、ジェダイさんが様々な活動を通して表現したいことを教えてください。
「自由」は1番にあるかな。どちらかと言えば「自由でいるためにはどうしたらいいんだろう」ってことを考えてますね。最近は「自由を勝ち取るための人生だな」と思うようにもなってきました。プリキュアネックレスも「自由を確保するために身につけるもの」なんだと思います。
(聞き手:古堅明日香)
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