装いに主張やステートメント(意見表明)を盛り込む動きが勢いづいています。2021年春夏シーズンに向けて目立つのは、女性の権利や女性へのリスペクトを織り込んだファッションです。女性初のアメリカ副大統領に就くカマラ・ハリス氏やテニスの大坂なおみ選手のような、自分の意見をはっきり示す、芯の強い女性が広く支持・共感を集めてきたことが背景にあります。
(文・ファッションジャーナリスト 宮田理江)
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凜々しくプラウドな生き方を、ファッションにも映し出す着こなし。男性と張り合うような1980年代風「パワーウーマン」の気張った装いではなく、もっとしなやかな自然体ムードが「ネオ・フェミニズム」の特長です。マニッシュやナチュラルテイストなどを融け合わせつつ、自分らしさを引き出すスタイリングがポイントです。
◆スリーブレスジャケットで硬軟を交わらせて
かつての「強い女」像とは異なり、新しいタフウーマンはしなやかさを兼ね備えています。仕事にプライベートにと、様々な「顔」を持つ現代女性にふさわしいマルチムードの組み立てがこなれ感を呼び込みます。以前のダンディーレディーに比べると、無理のない等身大のスタイリングです。
凛々しい装いの代名詞的な存在のトレンチコートも、両袖を裁ち落とせば、ライトでフェミニンなワンピースに様変わり。袖のないスリーブレスジャケットはトレンドアイテムとして有望視されています。紳士服仕様の硬質な表情に、リラクシングな雰囲気を添えるアレンジが広がりました。硬軟を交わらせて、自在にまとうコーディネートが2021年春夏流です。
◆ノースリーブトップス×ゆったりパンツでメリハリコーデ
素肌を透かし見せるシアー素材や、適度な肌見せもメンズテイストと交わり、インディペンデントな女性像を導いています。鳩目やメッシュなどのディテールが芯の強さを印象づけるパンクやストリートのディテールも持ち込まれました。レタリングやネオンカラーは、装いにパワーをもたらす表現です。
コンパクトなノースリーブのトップスに、ゆったりとしたパンツを引き合わせると、装いに量感のメリハリが生まれます。サスペンダーやハーネスなどのメンズ風味の小物使いでタフ感とスパイスを投入。着こなしのポイントは「型にはまらない」というイメージをまとわせた、適度なズレを醸し出すミックスコーデ。その人らしいバランスのくずし方が意志の強さを際立たせます。
◆「主張あり」のレタリングウエアを凛と着こなす
ファッション表現の新たな軸に位置づけられているのは「社会的な善」を意味する「ソーシャルグッド」です。これまでもサステナビリティやエシカル(倫理的)、エコがキーテーマとなっていましたが、それらをさらに大きな枠組みで包み込むような考え方。女性へのリスペクトやダイバーシティ(多様性)、格差、人権、平和など、広範な取り組みを含んだ「広い意味での正義」です。
2021年春夏はデザイン表現自体にメッセージを託す動きが広がりました。Tシャツにプリントされることが大半だったレタリングは、ワンピースやセットアップにも登場。しなやかに主張をまとう装いです。凜とした雰囲気を帯びさせることによって、内面の強さを印象づけるスタイルも増えてきました。
◆コートをドレスのように、ノンシャランの演出
これまでのジェンダーミックスは、たおやかなブラウスに紳士服風のテーラードジャケットを重ねるような「女×男」の組み合わせが主流でしたが、今の「ジェンダーフリュイド(流動的)」はより全体が調和しています。1枚のワンピースの中に、マニッシュなシルエットとレディライクな色使いが同居するような装い。ジェンダーが融け合うことで、違和感のないこなれ感が備わります。
LGBTQ+への共感を示すレインボーカラーのように、社会的な意味を帯びた色・柄が浮上。女性的なイメージを濃くするのは、ウエストリボンやスリットを生かして、コートをドレスのようにまとうフリュイド手法。ノンシャランとしながらクールさも演出できる仕掛けです。
◆セットアップ×スローガンTシャツでムード一新
正当な権利や扱いをロゴで訴えるステートメントのディテールが一段と勢いづく気配。突破口になった地球環境問題のほかにも、人種差別や格差、テロなどへの意見をまとう装いが打ち出されています。自分の意見を、はっきり表明するアクションが共感を広げてきました。
コロナの影響で、社会正義や人間愛が改めて重視されたことも、主張のトーンが上がった理由です。グラディエーターサンダルの復活は精悍なイメージをプラス。ジェンダーレスの流れを受けて、中性的なルックスのモデルも相次いで起用されています。きちんと感が売り物のセットアップに、メッセージTシャツを取り入れるような着こなしは、まとまり過ぎず個性引き出すことができます。
◆縦長シルエットで描き出す「ミニマル+α」ルック
余計なものをそぎ落とした「ミニマル」は、メンズテイストを薫らせることもあり、凜々しさを押し出す「ネオ・フェミニズム」になじみます。そこに、女性的な要素や正義の主張などを盛り込んで、インパクトを強める「ミニマル+α」が新潮流。ステートメントを打ち出す装いは、一種の哲学をデザインと融和させるクリエイションと言えます。
パンクやロックを思わせるインパクト柄のノースリーブTシャツに、しなやかなロングスカートを合わせるような「ずらし」のコーデを意識。スタイリングのポイントは縦長シルエットを描き出すこと。ノースリーブTシャツとナロースカート、ブーツのコーデは、「I」の字ラインにまとめ上げてくれます。
◆◆◆
「ネオ・フェミニズム」はありのままの自分を服で語るような着方です。これまでは周囲の視線を優先して、それぞれの場面ごとに異なる役割やキャラクターを服で示すところがありましたが、もっと本来の自分らしい装いを求める意識が高まってきました。強さも弱さも併せ持つ多面性を映し込んで、重層的なイメージをまとう着こなしです。自分のためのおしゃれとして、これからの「ニューベーシック」になっていくとみられます。
文・宮田理江
ファッションジャーナリスト・ファッションディレクター。多彩なメディアでコレクショントレンド情報、着こなし解説、映画×ファッションなどを幅広く発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かし、自らのTV通版ブランドもプロデュース。著書に「おしゃれの近道」(学研パブリッシング)ほかがある。
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