

普段は岡山県を中心に取材している本連載ですが、今回は瀬戸内圏の一角、愛媛・松山市で17年に開業したセレクト店「IAAAM」(アム)を紹介します。アバンギャルドな国内ブランドを軸にしつつ、リアルクローズや一点物を織り交ぜる個性的なセレクトと、そのスタイリング提案に強みを発揮。店主の網谷大器さんは、服と人を結びつけるリアルな関わりの中にこそ販売があるという信念を持ち、対面販売を主軸に据えています。そこから発展したのが「全国を巡るポップアップ」の開催や「ゲリラファッションショー」の敢行といった個性的な取り組み。本稿では、アムの事例から対面とオンラインの位置付け、地方セレクト店の存在意義について拙考を記します。
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店が生む価値、体験
アムが期間限定店で販売するようになったきっかけは、コロナ禍でした。外出や来店が制限される状況下、「ただ待つだけではなく、自分たちから動く」という判断で始まったと言います。
これまでに期間限定店を開催した地域は岡山、高知、香川、名古屋、東京などで今も定期的に継続中。網谷氏自身が現地に赴き、接客します。最初は環境変化への対応策として始まった企画でしたが、現在では各地に「アムラー」と自称するファンが生まれ、開催ごとにその数が増えている実感があるとのこと。こうした現象は、スタイル提案のセンスや関係性の築き方によってもたらされたものであり、取り扱いブランドやアイテム単体の力とはまた別の価値だと言えます。
松山市内で不定期に開催するファッションショーも、こうしたアプローチの延長線上にあリます。松山大街道商店街や松山銀天街といった身近な生活空間にファッションを持ち出し、顧客や店主の友人たちがアムの商品を着てランウェーを闊歩(かっぽ)する姿は、突然現れる非日常の光景。地元のファッションアディクトにとってはローカルを肯定できる体験であり、ファッションに関心の薄い人にも「着ること」の楽しさを知ってもらえるきっかけとなっています。

21年に商店街で敢行したファッションショー

モデルとして歩くアムの顧客や店主の友人たち
「地元にしっかりと根を張りながら、期間限定店による対面販売で県外にもファン作りをするのが今の方向性です。商品だけ送っても意味がなくて、僕が自分で買い付けたものを直接説明できる状況がセットになって初めて価値が伝わると感じています。買い付ける理由や背景、熱量などを自分で伝えたい。ファッションショーは、こうした思いの表れかもしれません」(網谷さん)
どう伝えるか模索
越境ECやSNS販売、無店舗型の古着店などが増える中で、セレクト店の存在意義はどこにあるのか。私は実店舗かオンラインかという形式の話ではなく、どのように服と出合い、誰と共有するかが本質だと思います。消費者も、そういった関係性の中で服を選ぶ体験を求めているのではないでしょうか。
こうしたニーズに応えるには、店舗を持たずに売り歩く〝行商〟よりも、実店舗を構えて各地へ赴く〝巡商〟の方が信頼が得られると感じます。アムが実践しているのは「売り方」ではなく、「伝え方」の形を探る地方セレクト店のあり方。自店ならではの工夫を凝らしながら「地元に深く、地域は広く」が、これからのスタンダードになるのかもしれません。

山本佑輔(やまもと・ゆうすけ) 04年に創刊した岡山県発のファッション・カルチャー誌『プラグマガジン』編集長。プラグナイトやオカヤマアワードといった地方発のイベントや企画もディレクションしている。24年度グッドデザイン賞で雑誌として史上初めての金賞(経済産業大臣賞)を受賞。通り名はYAMAMON(やまもん)。https://lit.link/yamamon
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