

自己分析は転職活動において非常に重要なステップであり、「なぜ自分なのか(Why Me?)」を明確にすることが転職成功のカギとなる。 前編では、自己分析の目的や重要性について解説。 後編では、実践的な自己分析の手法と客観性を保つためのテクニックを紹介し、より戦略的な自己分析のアプローチ方法に迫る。
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堀 弘人さん(ホーリー先生)/H-7HOUSE LLC 代表 | ブランド・マーケティングコンサルタント
独立系マーケターやクリエイターと連携する H-7HOUSE (エイチセブンハウス)を創設し、企業の経営課題や社会課題に対するブランド・マーケティング戦略を推進する。 「PEOPLE BASED BRANDING®︎」 を提唱。 人的資本を活かしたブランド構築を実践し、「人」を軸にしたブランド価値の最大化を支援する。 外資系ブランドでマーケティングディレクターを経験し、日系上場企業の国際戦略部門にて、新規事業の立ち上げと短期間での収益化を実現した実績を持つ。 ブランド戦略を経営視点で捉え、事業成長とブランド価値の最大化を両立させるコンサルティングを強みとする。
マーケティング発想で差をつける—自己分析にSTP分析を活用
― ホーリー先生がおすすめする自己分析の方法を教えてください。
マーケティングのフレームワークを自己分析に応用すると、体系的に自分の市場価値を分析できます。特に私がおすすめするのが、STP分析です。
STPとは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字をとったフレームワークで、マーケティング戦略の基本的な分析手法です。これを自己分析に応用すると、以下のような問いに明確に答えることができます。
・自分にとって可能性のある市場(業界・職種)はどこか?(セグメンテーション)・その市場の中でどの企業やポジションを狙うべきか?(ターゲティング)・ポジション競争の中で、自分がどのような強みで差別化できるか?(ポジショニング)
それぞれ説明していきます。
1.セグメンテーション
セグメンテーションとは、自分にとって可能性がある市場や挑戦したい市場を洗い出し、整理する作業です。
例えば、私が転職活動を今から行うと仮定すると(私の場合は転職歴が多いので幅が出しやすいのですが)、飲料ブランドで働いていた経験から消費財(FMCG)業界、スポーツブランドでの経験からスポーツビジネス業界、時計ブランドでの経験からラグジュアリー・ファッション業界、IT企業での経験からテクノロジー&EC業界など、可能性のある業界をリストアップすることができます。同様に、ブランド戦略・マーケティング、ビジネスディベロップメント・新規事業開発、グローバルビジネス、経営・コンサルティングなどの職種についても考慮することができます。
自身が関わって来た業務内容を俯瞰で見ることによって、自分のキャリアの可能性を幅広く把握することができます。また、過去の経験だけに縛られず、「未経験だけれどチャレンジしてみたい領域」も含めて考えることが重要です。
2.ターゲティング
ターゲティングでは、セグメンテーションで洗い出した市場の中から、最も自分が価値を提供できる領域や具体的な企業を見極めていきます。
転職活動では、必ずしも自分が希望する企業とのご縁があるとは限りませんが、具体的な企業を頭に思い浮かべ、その企業の歴史、文化、サービス、プロダクトなどの情報を収集し業績が開示されている企業であれば決算情報なども頭にインプットします。それらの情報が果たして今転職すべき業界や企業なのかという判断にも大きく影響します。
3.ポジショニング
ポジショニングは、同じポジションを競う他候補者との差別化要因を明確にする作業です。他の候補者と比較して、「なぜ自分が選ばれるべきなのか」を明確にします。
私が実践してきた方法は、「自分の強みを3つのキーワードで表現する」というもので、キャリアの節目ごとに、その時点での自分の強みや特徴を3つの言葉で定義しています。これにより、自分の現在地と市場での立ち位置がクリアになります。
例えば、私がある時点で自身を表現していた3つのキーワードは「ブランド」「スポーツ」「国際ビジネス」でした。例えば、マーケティング関連のポジションに応募する場合、多くの候補者は宣伝や広報活動の実績をアピールするでしょう。しかし私の場合は、マーケティングだけでなく事業戦略にも携わってきた経験があるため、「広告宣伝ではなく、事業戦略と一緒にブランド戦略を立案できる」という差別化ポイントをアピールできます。また、日本と海外の両方でのビジネス経験があることから、「グローバル本社の意向を理解しながらも、日本市場に適した戦略を提案できる」ということを自身の強みとして定義していました。
このような、他の候補者にはない独自の強みを明確にすることで、競争優位性を確立し「Why Me?」を答えることができるのです。
自己分析でやってしまいがちな3つの誤り
― 自己分析をする際に、多くの人がしてしまう誤りはありますか。
特に気をつけるべき落とし穴が3つあります。
1つ目は、「自己分析=過去の棚卸し」と考えてしまうことです。「A社で〇〇を担当し、売上を××%アップさせました」といった経験や実績のみで自己分析を終えてしまう方も少なくありません。もちろん過去の整理は大切ですが、それだけでは「次に何をするべきか」というキャリア設計にはつながりにくいのです。
重要なのは、過去ではなく未来にフォーカスすることです。これからどうなりたいのか、自分のスキルをどう発展させたいのか。この視点があって初めて、戦略的な自己分析と言えるでしょう。
2つ目は、「やりたいこと」だけにフォーカスしてしまうことです。「スポーツが好きだからスポーツ業界に行きたい」といった希望は大切ですが、それだけでは転職市場での競争力を考慮できていません。
成功する自己分析では、「自分のやりたいこと」「市場のニーズ」「自分の強み」という3つの要素を掛け合わせて考える必要があります。この3つが重なる部分こそ、あなたが目指すべきポジションです。
― どれもやってしまいそうな誤りですね。3つ目についても教えてください。
3つ目は、主観的すぎる自己評価です。自分のスキルや強みを過大評価したり、逆に過小評価したりする傾向があります。特に日本人は謙虚さを美徳とする文化があるため、「自分はまだまだです」「そこまでの実力はありません」と過小評価しがちですので正しい自己評価というのがそもそも難しいのかもしれませんね。
しかし外資系企業の面接では、自分の価値を適切に、時にはおおげさにアピールすることが求められます。もちろん、実際にはそうではないのに「自分は業界トップクラスの実力がある」などと過大評価してしまうと、入社後のギャップに苦しむことになりますのでバランスの取れた自己評価は前提です。
こうした主観的な評価を避けるためには、客観的なフィードバックを得ることが重要です。信頼できる上司や同僚、メンターからの評価を参考にしたり、市場データ(給与相場や求人傾向)を調査したりすることで、バランスの取れた自己評価が可能になります。
自己分析の精度を高める — 客観性を保つための最新手法
― 自己分析を進める中で、意識すべき点があれば教えてください。
自己分析において最も難しいのは、客観性を保つことです。私たちは自分自身を評価する際、無意識のうちに主観的な判断を行っています。自分では「私の強みは〇〇だ」と確信していても、周囲の評価はまったく異なることがよくあります。このギャップは、自己認識(セルフ・パーセプション)と他者が見る自分(ソーシャル・パーセプション)の違いから生じるものです。
さらに、私たちはさまざまな「認知バイアス」に影響されやすく、ポジティブ・バイアスで自分の強みを過大評価したり、逆にネガティブ・バイアスで過小評価したり、あるいは確証バイアスによって自分の考えに都合のいい情報だけを信じてしまったりします。こうしたバイアスを排除し、より客観的な自己分析をするための方法をいくつかご紹介します。
1.「ジョハリの窓」を活用する
心理学の分野で知られる「ジョハリの窓」というフレームワークを使うと、自己認識と他者認識のギャップを理解できます。これは4つの窓に分けて自分を見つめ直すものです。

・開放の窓:自分も他者も知っている自分
例:「マーケティングの専門家として評価されている」
・盲点の窓:自分は気づいていないが、他者は知っている自分
例:「実はリーダーシップがあると言われるが、自分では意識していない」
・秘密の窓:自分は知っているが、他者は知らない自分
例:「過去に苦労した経験があり、それが今の強みになっている」
・未知の窓:自分も他者もまだ知らない自分
例:「新しい業界で予想外の才能を発揮できる可能性」
「未知の窓」を知るのは難しいのですが、「開放の窓」「盲点の窓」「秘密の窓」の3つまでは知っておくことが重要です。
2.360度フィードバックを活用する「自分の評価」をさまざまな立場の人から集める方法です。上司だけでなく、同僚、部下、クライアントなど、複数の視点を取り入れることで、より客観的な評価を得ることができます。
例えば、こんな質問を投げかけてみるとよいでしょう。
・上司に:「あなたが評価する私の強みと、今後伸ばすべき点は?」
・同僚に:「一緒に働く中で、私の長所・短所はどこにある?」
・部下に:「私のリーダーシップやマネジメントスタイルはどう映っている?」
外資系企業では360度フィードバックが人事評価の一環として導入されているケースも多いので、そのデータがあれば活用するのもひとつの手です。
3.データを活用して市場価値を数値化する感覚だけで自己分析をするのではなく、データを用いることで客観的な視点を得ることができます。
・給与市場データをチェック:自分の年収が業界の標準と比べて適正かを調査
・LinkedInのスキル評価やエンゲージメントを分析:どういった投稿が反響を得やすいか
・転職エージェントと定期的に面談:客観的な市場価値の評価を得る
特に給与水準については、正確な情報を把握しておくことが重要です。外資系企業の場合、公開されている情報が少ないこともあり、自分の市場価値を正しく理解していないと、年収交渉で不利な立場に立たされてしまう可能性もあります。そのため、人材コンサルティング会社やLinkedInの給与レポートを活用したり、転職エージェントから情報を得たりすることで、適切な年収交渉の準備をしておくことが大切です。
4.メタ認知(自分を俯瞰する視点)を鍛えるメタ認知とは、「自分がどう考え、どう判断しているのかを客観的に観察する能力」です。例えば面接やプレゼンの際に、「自分はどんな印象を与えているのか?」を一歩引いて考える力がメタ認知です。
・面接やプレゼンの録画を見直す:自分の話し方や表情をチェックし、改善点を見つける
・日記やキャリアログをつける:定期的に振り返り、「その時の判断が正しかったか」を検証する
・シミュレーション思考をする:「もし別の人が私の立場だったらどうするか?」を考える
メタ認知を鍛えることで、「自分がどう見られているか?」を客観的に分析し、より効果的な自己ブランディングが可能になります。
― 最近はAIの活用も注目されていますが、自己分析に活用できる部分はありますか。
AIを活用するのもいいですね。例えば、自分の職務経歴書や実績をAIに入力し、「私の強みを分析してください」と依頼することで、自分だけでは気づかなかった強みやパターンを見つけ出してくれることもあり、自己認識の幅を広げる効果的なアプローチとなるでしょう。
ただし、非認知スキルやコミュニケーション力、人間関係構築能力などはAIでは判別できません。AIを活用しつつも、最終的な判断は、自分自身や信頼できる人からのフィードバックをもとに行う必要があります。
これらの方法を組み合わせることで、より客観的で精度の高い自己分析が可能になり、「Why Me?」という問いへの説得力ある答えにつながると考えています。
― 最後に、外資系企業への転職を考えている方へメッセージをお願いします。
外資系企業への転職で成功するためには、「なぜ自分なのか(Why Me?)」という問いに明確に答えられることが不可欠です。そのためには、STP分析などのフレームワークを活用した戦略的な自己分析と、ジョハリの窓や360度フィードバックなどを通じた客観的な視点が重要となります。
自分をブランドとして捉え、市場の中でどうポジショニングするか。そして、他の候補者との差別化要因をどう明確にするか。これらを意識した自己分析を行うことで、転職活動の成功確率は格段に高まります。
転職は単なる「会社の移動」ではなく、自分のキャリアを戦略的に構築するための重要なステップです。だからこそしっかり自己分析を行い、次の一歩を踏み出してください。
文:金井みほ
最終更新日:
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