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「日本人はもっと海外で勝負できる」 “高待遇”なシンガポール勤務の実態

「日本人はもっと海外で勝負できる」 “高待遇”なシンガポール勤務の実態

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ラグジュアリーブランドの海外支社で働く――。そんな憧れを実際に叶えた、日本人男性・野﨑健太郎さん(ペンネーム)が綴るコラムです。日本人がグローバルで働く上で知っておきたいこと、海外のマーケット動向、キャリアアップしていくためのヒントとは……?これまでたくさんの挑戦と成功を重ねてきた野﨑さんだからこその視点や気づき、エピソードなどを交えながらお届けします!(Vol.1、Vol.2もぜひご覧ください)

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Vol.3  シンガポール勤務の実態

2025年に入り、トランプ大統領が就任したことで、世界経済は良くも悪くもやや不透明感が漂っています。日本で生活していると特に気になるのは、物価に影響する「円安」や「円高」などの為替のニュースかもしれません。トランプ政権下では円高に動くのではという人もいれば、インフレ再燃で円安に振れるのではと予想するアナリストもいます。

2021年、私がシンガポールで働き始めたとき、シンガポールドルは1ドル約80円から85円ほどで推移していました。その後、世界的なインフレと円安が進み、最大120円にまで上昇したときもありました。ドル建てで給料をもらって生活をしていますので、円安を感じるのは日本に一時帰国した時だけですが、仮に月1万ドルのお給料をもらっていると仮定し、それを円に換算すると、月に80万円もらっていたものが、120万円に変わることになり、円建ての金額とは非常に大きな差が生じています。

2025年2月現在、円はどの通貨に対しても(相対的に)非常に弱い状況が続いており、「日本は貧しくなった」というような声も聞こえてきます。それがきっかけで「海外転職をしたい」というモチベーションにつながり、この記事を読んでくださっている方もおられるのかなと思います。今回は海外勤務の実態と、海外勤務して感じたことを共有させていただきます。

メルボルンのコンビニのコーラの値段は、4.7ドル!(約450円)値段を確認しないで買い物するとレジでびっくりします。

モルディブ(4時間半)やバリ(2時間半)へは気軽に行けて、隔週でバリにサーフィンに行く友人もいます。

シンガポールの平均年収、生活にかかるお金事情

はじめに「お金とお給料」の話からしたいと思います。シンガポールの平均年収(2022年)は6.5万SGD(約750万円)、大卒初任給(4年制大学)は、ビジネス専攻で約47万円、ITデジタルの専攻で約62万円です。ドル高の影響もあるので、単純に「日本よりも給料が高い」とは言えませんが、現時点では「かなり高い」です。さらに税率や社会保険料が日本よりも低いため、同じ額面でも手取りの金額は日本よりも大幅に多くなります。

ただし生活費も高額となり、特に外国人にとっては家賃が大きな出費となります。シンガポール国籍の人はHDB(「Housing & Development Board」の略で、公共住宅、また公共住宅を供給する政府機関のことを指す)を安く購入できるため、そこに住んだり、住まなくても賃貸で運用することで豊かに生活していくことができます。HDBには食堂(ホーカー)が併設されているので、500円から1000円で夕飯を済ませることもできます。

シンガポールで最初に住んだコンドミニアムは5つのプール、サウナ、ジム付き。渡航前はプールなんて要らない、と思っていましたが、年中暑い国なのでプールがあると助かります。低層で都心部、約70平米で家賃は約40万円でしたが、2年後の更新時に家賃が値上がりし60万円を超えてしまい、引っ越しました。

レストランは日本よりもだいぶ割高な印象です。教育費もピンキリで、仮に子供をインターナショナルスクールに通わせた場合は、年間300万〜400万円、高い場合は600万円以上かかる場合もあります。シンガポールへの転職が決まった時、生活が成り立つのか不安で仕方ありませんでしたが、結果としてはかけがえのない経験が得られるとともに、裕福ではありませんが、十分に生活を成り立たせることができています。匿名でのコラムなので、もう少し突っ込んで書かせていただくと、約3年間で1000万円あまりの貯金を増やすことができました。もともと外貨を稼ぐ目的で海外勤務を目指していたわけではないのですが、これはうれしい誤算でした。

日本人はもっと海外で勝負できる!

シンガポールの企業からすると、日本人であっても、最低限英語が話せて、その企業が探している専門性や経歴がある人がいれば、欲しい人材なのではないかなと思います。特に円安の今なら、良い人材を比較的安価で雇えて、企業にとって有難い存在になり得るからです。

ただ、残念ながらシンガポールの人材の雇用を守るために、ビザの発給は年々難しくなっており、現在は月に約100万円前後の給料を払うポジション(年齢によって金額に差があります)、かつシンガポールの人材だと務まらないという条件の職種のみに限り、労働ビザ(EP)が発行されます。こう書くとビザを得るのは難しそうに聞こえますが、私の勤めるヨーロッパ系のラグジュアリーブランドの場合、CEOやマネジメントはほとんどが外国人で、まだまだシンガポールの人材では務まらないポジションがたくさんあります。MDはベトナム系オーストラリア人、ジェネラルマネージャーはイタリア人、イベントチームはインド人、VMDは韓国人が率いています。また、フラッグシップストア(旗艦店)のストアディレクター(店長職)は香港出身です。日本のラグジュアリーブランドに勤務する人材にも、彼らのような能力を持つ人材はたくさんいます。国が変わってもやる事は同じ、話す言語が英語に変わるだけで、収入と経験に大きな差が生じます。

日本の高級ブランド市場は世界3位(かつては2位)の規模で、シンガポールや他の国々よりも歴史が長く、お客様から求められるサービスレベルも非常に高く、業務の難易度は東南アジアや他の国々よりもはるかに高いです。

大型旗艦店の店長職でも外国人に頼っているのですから、東京や大阪などの大きなお店のマネジメント経験者なら、海外で働けるチャンスは十分にありますし、MDやリテールのオフィス職でも同じです

一方、求められるのが「英語」と「コミュニケーション力」です。「英語」に関しては今後このコラムで詳しく書く予定なのでここでは書きませんが、ひとことで言うと、完璧でなくても全く問題はありません。ここで言う「コミュニケーション力」は、様々なバックグラウンドの同僚や顧客との対話をいかにスムーズに進めてビジネスをドライブできるか、というスキルです。

例えば、シドニーのダブルベイでヨットハーバー付きの家に住む白人富裕層がどんな生活をして、どんな会話をしているのか。インド人の部下がどうしたら高いモチベーションを持って業務を遂行してくれるのか。こうしたことは、イメージが湧きにくいのではないでしょうか。

売上や数字の管理だけではなく「顧客の顔」や「スタッフのバックグラウンド」を想像できないと、コミュニケーションを取るのは難しくなってくるでしょう。「英語力」というよりも、そういった多様な人々への理解力、想像力が問われますし、ときに場を和ませ、相手との距離を縮めるジョークを言えるのかがとても重要なのです。こういうと難しそうに聞こえますが、基本的に海外の方々は日本人に尊敬の念があり、信頼もされていますので、実際にはそこまで心配する必要はありません。しかし、「コミュニケーション力」は最初に乗り越えなくてはならない壁であることは念頭に置いた方がいいでしょう。実際に海外で働いてみると、「日本国内だけで自分に合う仕事やポジションを探しているのはもったいない」、「日本以外の国でも日本人が活躍できるチャンスはある」と強く感じます。

私が海外で働いていることを話すと、よく日本の方から「スゴイ」と言われますが、実際は日本での仕事の方がすべてにおいてレベルが高く、日本で活躍する方がはるかに難易度が高いです。アジアの中で最も進んでいるシンガポールでさえも、都心部のエスカレーターは頻繁に壊れているし、エレベーターで上階のボタンを押しているのに、突然下に行ったりするし、アマゾンの配達にも数日かかるし、ラグジュアリーブランドの販売スタッフが壁に寄りかかって待機していたり……(一番ストレスが溜まるのがサランラップが上手く切れなくて使い物にならないことです!)。日本では当たり前のようにできていることが、こちらでは遠い未来のサービスのように感じることもあるほどです。ですので、日本人がもっと海外に出て行って、これらのサービスのレベルを押し上げることは、その国の発展に寄与することになるでしょうし、世界をより良くする可能性に満ちていると思います。ある意味、使命感のようにすら感じます。

そのような高い志を持っていれば、世界のどこに行っても通用し、今なら高いお給料という“おまけ”までついてきますので、ぜひたくさんの方々に、海外転職、海外勤務に挑戦していただきたいと感じます。

■著者プロフィール
野﨑健太郎
大学卒業後はモデルとして活動し、国内外のショーや広告などに出演。28歳のとき、大手量販店で販売のアルバイトを始める。その後、いくつかのラグジュアリーブランドでのストア、オフィス勤務を経て、2021年12月より某ブランドのシンガポール支社に勤務。趣味は高校時代から続けているサーフィン。

■ペンネームへ込めた想い
野﨑健太郎はペンネームで、尊敬する祖父の名前です。祖父は明治生まれで、西郷隆盛を思わせるような大きな体と味海苔をおでこに張り付けたような太い眉の持ち主でした。東京・五反田を拠点に京浜工業地帯で鉄を拾って歩き回り、町工場を営んでいた祖父。信条は「上天丼を食べたいなら、人の倍働け!」でした。残念ながら50代で亡くなり、直接会うことは叶いませんでしたが、この言葉は親戚を通じて私の耳に届き、私の心に深く刻まれています。祖父のハードワーク魂が自分に宿ることをこのペンネームに込めました。

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