どんなに魅力的な商品も、それを見て買ってもらうための努力は欠かせない。商品を起点に、いかにして顧客に届けるかを各部署が考えて遂行する。その中で、本社と店舗の架け橋になるプレスとスーパーバイザー(SV)の仕事に迫った。
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販売スキル、マニュアルで底上げ SVが本部と店の調整役に
デサントジャパンは、複数の店舗を統括し、その運営をサポートするスーパーバイザー(SV)が、本部と店頭の橋渡し役となり、ヒット品を作り出している。好例は、「デサント」ブランドを代表する商品「水沢ダウン」に次ぐ人気品となったシェルジャケット「クレアス」。齊藤旭(デサントマーケティング部門デサントリテールビジネス部マネジメント課)さんらSVが軸となり、各店舗に眠る販売ノウハウを見える化・標準化することで、販売力の底上げに成功した。
得意の機能衣料で
水沢ダウンは年間3万着を販売するとはいえ、あくまで重衣料で、販売の中心シーズンはやはり秋冬。またブランディング上、販売数をこれ以上増やすことは会社としても選択肢にない。だからこそ、水沢ダウンに続くヒット品の開発・育成が急務になっていた。そこで本部が目を付けたのがクレアスだ。デサントが得意とする機能衣料であり、春夏含め通年で販売でき、もともと一定の支持を得ているモデルだったからだ。
「これからはクレアスで戦っていく」。クレアスの販売強化という本部からの大号令は、販売現場でも歓迎されたが、問題もあった。それは、店舗・スタッフごとの販売スキルの差。名古屋から西の4店を統括し、20年以上の販売経験を持つ齊藤SVはこう振り返る。「社歴、販売のキャリアなどは人によって様々で、また機能商品への理解度もスタッフにより異なっていたため、誰が対応しても同じレベルの接客をすることが課題になっていた」
ノウハウ見える化
そこで齊藤さんらSVが中心となって取り組んだのが、クレアスに限定した販売マニュアルの作成。東西の優秀な販売員・ベテラン販売員数人でオンラインミーティングを重ね、クレアスを売った時に客とどんな会話をしたか、客は商品のどこに引かれたかなどを聞き、成功事例としてまとめノウハウ化した。
例えば、クレアスのデザインはシンプルだが、ファスナーを開けても高い襟が立った状態を保持し、スタイリッシュに見えることや、ジャケットを着用したままでも襟部分に収納されたフードをすぐに出してかぶれることなどを紹介すると、高い確率で試着につながると示した。
スポーツ用品特有の専門用語は、できるだけ別の短いワードに置き換えた。衣服内にこもった熱を素早く換気できる「ベンチレーション」は、「通気性能のあるファスナー」と言い換え、袖口の大きさを調節できる「ブロックフィットアジャスター」は、「ブロック玩具のように調節できるもの」と紹介し、実際に触って試してもらうようにした。
目標共有し理解へ
マニュアル作りの肝は、現場の販売員がそれを読み、「やってみよう」と思えるかどうか。せっかくまとめたノウハウも、実行されなければ意味がないからだ。そのために齊藤SVが心掛けたのは、「とっつきやすい簡単な内容で、やってみた時のお客様の反応がリアルにイメージできること」だった。
こうした工夫もあり、マニュアルが完成した23年6月末以降、店頭では「(クレアス販売の)質が向上」。販売数量もみるみる増え、最終的には23年度(23年4月~24年3月)の、クレアスを軸としたシェルジャケットの売り上げは、前年度比2倍以上となった。
クレアスをヒットにつなげた経緯を齊藤SVは、「本部と販売現場の目指すイメージが一致し、やろうとしていることの理解度と浸透度を高められたこと、そして目標達成に向けてSVが調整役になれたことが大きかった」と話す。もちろんそのためには、販売現場側は日常的に店頭情報を本部にフィードバックし、本部側も「机上の空論」にならない方針を打ち出していることが前提となる。
デサントジャパンでは今後も、さらなる売れ筋の開発・育成に努める。既に「芽が出つつあるアイテムはある」(齊藤SV)という。クレアスに続くベストセラーの誕生も近い。
(繊研新聞本紙24年8月16日付)
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