いま、障がい者支援にさまざまなカタチが生まれている。東京・渋谷区を拠点に活動するNPOのホープワールドワイド・ジャパンは、単に支援を行うのではなく、地域・学校・企業などとコラボしながら皆が笑顔になれる取り組みや活動の場づくりを行っている。例えば、東京・原宿で開催したファッションショー、渋谷にある一流ホテルのパン・焼菓子からの注文生産、渋谷区公認のパブリックデータ「シブヤフォント」など。すべて障がいを持つ方が中心となって行う活動だ。こうした活動に至った経緯や、障がいを持つ方にとっていま必要なこととは何か。同団体の理事長・加藤敦さんと理事・宮川公一さんのおふたりに伺った。
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ホープワールドワイド・ジャパン
1999年6月に東京都から特定非営利活動法人(NPO)として登録された慈善活動団体。現在は、障がい者の就労継続支援事業(就労継続支援A型・B型)をはじめ、障がい者の共同生活援助事業(グループホーム事業)の活動を主に行っている。
味わいが評価され、ホテルや企業で販売
― ホープワールドワイド・ジャパン立ち上げの経緯を教えていただけますか。
加藤敦さん(以下、加藤):ホープワールドワイドは国際協力団体で、世界60カ国に活動拠点があります。ホープワールドワイド・ジャパンは、その日本法人で、1999年にNPOとして認定されました。ボランティアや慈善事業からスタートし、チャリティーコンサートなどで集まった募金を海外に送る活動や、東日本大震災の復興支援などを行ってきました。2013年に東京・渋谷区と宮城県に「ホープ就労支援センター」を開設、以降は障がいを持つ方の就労支援事業を行っています。2015年に、渋谷のセンターは笹塚に移転し、「ホープ就労支援センター渋谷」としてリニューアルオープンしました。
― 「ホープ就労支援センター渋谷」内には、パン・焼菓子店の「渋谷まる福」があり、とても人気のようですね。
加藤:「渋谷まる福」には、約20名の障がいを持つ方が登録していてパンや焼菓子をすべて手づくりしています。月曜から土曜まで毎日出勤して仕事をする方もいれば、週に数日という方もいます。
お店のコンセプトは、「身体に優しい 社会に優しいパンと焼菓子のお店。そのため、特に材料にこだわっていて安心・安全な国産小麦、アルミフリーのベーキングパウダーを使用し、マーガリンやショートニングは使用していません。もちろん、販売するからには売上も伸ばさないといけませんが、一般のパン屋さんと競争してもなかなか勝てません。かといって、「障がい者施設のパンだから、品質はそこそこでも買ってあげよう」というお客様のご厚意だけを頼りにしていては長続きしません。地元の方々に継続的にご購入いただくには、美味しくて、しかも安心して食べていただけるものを作るべきだと考えています。
― お店には美味しそうなパンや焼菓子が種類豊富に並んでいますね。
加藤:おかげさまで地元の方々に多くリピートしていただいています。頻繁に限定商品などを出して、お客様が飽きない工夫もしていますね。受託生産や注文生産も行っていて、今ではそれらが売上の9割ほどを占めています。
― 渋谷のラグジュアリーホテルのパンや焼菓子も作っているそうですね。
加藤:今の渋谷区役所ができる前、仮庁舎でパンの出張販売をしていたところ、そのホテルの従業員の方がたまたまパンを買ってくださったんです。渋谷区内で作っていることにも興味を持っていただき、ご連絡をいただいたことがきっかけです。
また、別の大手企業内のカフェでも「渋谷まる福」の焼菓子を販売していただいています。こちらも「渋谷まる福」で焼菓子をご購入いただいた企業の方から、ぜひうちのカフェでも販売したいとお声がけいただいて実現しました。
どちらも、「障がい者の施設で作っているから」という理由ではなく、「商品として美味しい」という評価がお取り引きに繋がっています。とても嬉しく思います。
個々のセンスが活かされている「シブヤフォント」
― 「ホープ就労支援センター」の1階には、「渋谷まる福」があり、2階には「アトリエ福花(atelier Fucca)」がありますね。
加藤:パン製造は力仕事でもあるので、体力的にきつい方もいるんです。そのため、体力的な負荷が少なく、デザインやものづくりなどに興味がある方が活動できるように始めたのが「アトリエ福花」です。現在、25名ほどの方が登録されていて、毎日12名くらいが、デザインの専門学校やデザイナーさんたちのサポートを受けながら、こちらで作業をしています。
― そこから誕生したのが「シブヤフォント」なのですね。
加藤:そうです。渋谷にはご当地のお土産がないので、渋谷ならではのお土産を作れたらいいよね、というアイデアからスタートしました。障がい者施設の利用者さんが描いた文字や絵が個性的で素敵というお声をいただき、これをフォントやパターンとしてデータにする事によって、商品化しようという動きになったのです。
そして、バッグやポーチ、Tシャツ、スカーフ、アクセサリー、ステーショナリーなどのファッションアイテムやアート作品が次々と誕生しました。これはいくつかの団体や法人が合同でやっているプロジェクトで、「アトリエ福花」もその一員なんです。作ったアイテムは、「ホープ就労支援センター渋谷」のほか、都内数か所、藤沢、青森、長野、愛知、京都などでも販売されていますし、ネット販売も人気です。
障がいを持つ方が主役のファッションショー
― 「アトリエ福花」は、2024年5月にファッションショー「しょうがいはへんしんできる」も行いましたね。
宮川公一さん(以下、宮川):2024年5月5日、東急プラザ原宿内のギャラリー兼イベントスペース「シブヤフォントラボ」にて、ファッションショー「しょうがいはへんしんできる」を開催しました。シブヤフォントの拠点が原宿に移転するにあたって、そこで何ができるかを関係者で話し合い、そこでたどり着いたひとつがファッションショーでした。そこに賛同してくださったプロのクリエイターの方々と一緒に作り上げることができました。
― 開催されてみていかがでしたか。
宮川:本人たちもとても感動していましたが、親御さんたちは泣いて喜ぶほどでした。障がいがあると、なかなか社会と接点が持てなかったり、社会参画が限られていたりという現状があります。でも今回のファッションショーは、そのような方たちが主役です。しかも、原宿のど真ん中という晴れやかな場所ですから。障がい者の支援に携わる方々にとっても、自分たちの仕事や取り組みを誇りに感じられるイベントだったと思います。
初回となる今回は、資金集めをクラウドファンディングで行いました。資金の問題もあり、まだ次の予定は決まっていません。毎年定期的にとはいかないかもしれませんが、スポンサーとして手を挙げて下さる企業様がいらしたら、ぜひ続けていきたいですね。
― 今後、ホープワールドワイド・ジャパンは今後どのような取り組みに注力されていくのでしょうか。
宮川:障がいを持つ方々、スタッフ、我々の取り組みに関わるすべての人々が仕事や活動を通して幸せを感じてほしいですし、それを通じて周囲のお客様にもその幸せ感が伝わっていけばいいなと思っています。
一方、障がいを持つ方々には、自己肯定感が低い方が少なからずいらっしゃいます。そういった方々が活動をきっかけに、自分たちも社会で輝くことができるんだという気持ちを持てるようにサポートし続けていきたいです。社会にもっと出て活躍して欲しい、と心から思います。
加藤:「ホープ就労支援センター渋谷」は、障がいを持つ方を支援する場ですが、地域にも開かれている場です。一般の方々が障がいを持つ方と接することによって、価値観や人生が変わることもあると思います。
いま、従業員数が一定数以上いる企業では障がい者雇用が義務づけられています。「ホープ就労支援センター渋谷」でいきいきと働き、活動する障がい者を見ていただくことで、障がいを持つ方を「法律で決まっているから雇わなければいけない」ではなく、「必要な人材だから採用する」という考え方に変化させていけたらいいなと思っています。
文:伊藤郁世
撮影:加藤千雅
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