市場分析から商品企画、生産管理、販売プロモーション、売上分析までを一貫して担うマーチャンダイザー(MD)。その業務範囲は多岐にわたり、様々な部署と連携を取りながらブランドを運営していく仕事だ。今回は、外資系ラグジュアリーブランドのイタリア本社にて約15年間MD職に従事したKJさんにMDの仕事内容、必要なスキル&マインド、やりがいなどについて解説いただいた。これからMD職を目指す方はもちろん、今後キャリアアップを図りたい方もぜひ参考にしていただきたい。
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KJさん
東京都出身。幼少期を欧州で過ごす。大学卒業後はアメリカへ留学。帰国後は、外資系証券会社のセールストレーダーやラグジュアリーブランドのホールセール営業に従事。その後、イタリアへ渡り現地の大学院でブランド経営の修士号を取得。以降、イタリアのラグジュアリーブランドの本社(2社)でトータル約15年間にわたってMD職務に従事。
外資系ラグジュアリーブランドのMD職とは
ー 外資系ラグジュアリーブランドにおけるMDの仕事内容を教えてください。
外資系ラグジュアリーブランドの場合、MDは大きく以下の2つに分かれます。
・コレクションマーチャンダイザー(CMD)
ブランド本社にのみ存在するポジションで、デザイナーとともにコレクションの製作領域から関わります。私が長年従事していたのも、このCMDの仕事です。
・リテールマーチャンダイザ―(RMD)
売り上げや在庫消化の向上のために戦略を立て、状況に合わせて調整し、結果を分析しながら次の計画に反映する仕事です。本社でRMDを経験後、CMDへ異動する方も多いです。
簡潔に言えば、CMDはコレクションの製作を主導する役割、RMDは完成したコレクションの選択と販売を主導する役割です。
ー 本社のMD職と日本をはじめ各国の支社では、MDの業務に違いはありますか。
大前提として、CMDは本社にのみ存在します。一方、RMDは本社にある場合と支社にある場合、あるいは双方にある場合の3つのパターンがあります。ブランドのイメージを正しく伝え、売り上げに貢献するためにはCMDとRMD、どちらの仕事も深く理解しておく必要があります。
ー ではまず、CMDの仕事内容について詳しく教えてください。
CMDは、コレクションのアーキテクチャを設計する、建築士のようなポジションです。具体的な仕事の流れとしてはデザイナーやプロダクトマネージャーらと次のシーズンに向けてブリーフィングを行い、どのようなコレクションをどういったチーム、組織で製作するのかについて会議で話し合います。
そして商品のポジショニングやプライスレンジ(売値の上限と下限の幅)などについてデザイナーに共有します。
ー デザイナーからの了承が得られた後は、どのような工程に移るのでしょうか。
デザイナーから上がってきた試作モデルに対して、必要な際は改良を加えていきます。そうして出来上がったサンプルは、プライシングや受注会に用いられます。受注会に関してはセレクトショップなどへ向けたホールセールと、自社RMDに向けたマスターセレクションがあります。
前者ではクライアントからの各アイテムに対するコメントを本社へ共有、後者ではセレクトに対するレビューを行います。それらを終えたら商品の製造を工場へ発注し、各店舗への配送準備を行います。そして、次のコレクションの製作に入る前ににRMDから売り上げを共有してもらい、フィードバックをする。ここまでがCMDの主な仕事です。
ー 次に、RMDの仕事について教えてください。
リテールに関するすべての業務を担うのがRMDですが、その中でも核となるのがマスターセレクションです。サンプルが出来上がり、本社のMDのエディティング終了後、RMDはショールームへ足を運び、店舗で販売する商品や数を決めるマスターセレクションを本社のRMDと共に行います。
その際、どのようなルックで店舗展開していくのかを話し合うことはもちろん、本社のマーケティング部門やファイナンス部門からの売り上げ予算およびそれに対するOTB管理なども考慮しながら選びます。その際に重要なのが、本社が定めた方針と支社のあるマーケットのニーズが合致していることです。
このほか、キャリー品(シーズンや販売期間は過ぎているが、引き続き販売を行う商品)の管理、リニューアルや新店舗に関してなどをテクニカルチームと共に決めていきます。
大前提として、売上を確保する役割があるので、セールスレビューやアクションプランなどについて本社と頻繁に話し合いを重ね、売上計画を立てることも大切な業務のひとつです。
ブランドの心臓部として、あらゆる工程に多角的に関わる
ー 外資系ラグジュアリーブランドにおけるMDの魅力について教えてください。
MDは、いわばブランドの心臓部。商品のあらゆる工程に関わる仕事です。PRやマーケティング、ファイナンス、VMDなどと連携し、多角的に商品やブランドと向き合うダイナミズムがあります。忙しく大変な仕事ですが、やりがいが大きく楽しい仕事だと個人的には思いますね。
私が携わっていたブランドでは、MDを特に尊重するブランドだったこともあり、社長とのミーティングが頻繁にありました。ブランドのトップから直接ビジョンを聞けること、ときには自分の考えを多少なりとも伝えられる環境は大変魅力的でした。
ー 外資系ラグジュアリーブランドのMD職に必要なスキルを教えてください。
CMDにおいては、主に「交渉力」「バランス感覚」が挙げられます。
・交渉力
特に、デザイナーとのコミュニケーションにおいて交渉力は必須です。私の場合、デザイナーにどういった資料であればすぐ理解できるかを尋ね、寄り添う気持ちを大切にしました。そして、最低限必要な数字と画像を1つのドキュメントにまとめ、細かな要望については、都度話し合いを行っていました。
・洞察力や分析力
コレクションにおけるファッションとベーシックの比率の最適解を見出し、生産性の高いアーキテクチャを作れるかが重要です。そのためにはグローバル市場とローカル市場を正確に見定める洞察力や分析力が必要です。デザインやクリエイティブへの知見があることも大事ですね。
一方、RMDにおいては、主に「語学力」「情報処理能力」が挙げられます。
・語学力
語学力(ビジネス英語)が弱いと、コミュニケーション力、交渉力を持ち合わせていないのと同じことです。そのブランドの母国語を話せれば、さらに強いと思いますが、基本的にはビジネス英語をマスターしておけば問題ないでしょう。
・情報処理能力
業務の幅が広いため、効率良くタスクをこなしていくことが求められます。ドキュメントやプレゼン資料の作成スキルは必要不可欠です。
ー MDに必要なマインドセットは何でしょうか。
業界への関心を持ち続け、市場動向や世の中の動きを常にインプットしておくこと。そうしておけば、ブランド本社から日本の市場について聞かれたときにもすぐに答えられますし、より有意義な話し合いに繋がるはずです。また、特にこの業界ではファッションを理解した着こなし、自分自身のスタイルを確立することも組織の人間からリスペクトを持たれるために意識すべきですね。仕事を円滑に進めていく上できっと役立つでしょう。
自分の強みや持ち味を磨き続けることが大切
ー 外資系ラグジュアリーブランドのMDは、どのようなキャリアパスを歩むのでしょうか。
携わるブランドや個人の特性によってさまざまなケースがあるので、一概に申し上げるのは難しいですね。あくまで私個人の考えですが、ハウツーやノウハウを参考にするのではなく、自分の強みや長所を見つけ、その部分を磨いていくのが良いのではないでしょうか。コミュニケーション力、分析力などきっと個人それぞれで得意な部分があるはずですから。
ー では、昇進を目指す上で心がけるべきことはありますか。
店舗への理解、店舗との良好な関係づくりは決して疎かにしてはいけません。私の優秀な元ローカルチームは、どんなに多忙でも、頻繁に店舗へ足を運び、販売員と会話を重ねるようにしていました。現場の情報とネットワークは仕事を進める上でも強力な武器になります。組織の中でステップアップしていくには、ジェネラルスキルと成果を出すことも求められます。ただ、このあたりのことは各ブランドによって大きく異なりますが。
ー ブランドのMDとしてステップアップを目指す方、これからMDを志す方へアドバイスをお願いします。
MDの仕事はとてもハードですが、ブランドの行く先を左右する重要なポジションであることは確かです。それぐらい大きな仕事を任せられていると考えると、むしろ仕事が楽しくなるのではないでしょうか。次第に「自分がやりたいことだからやっている」という感覚にもなるはず。その意識がパフォーマンス向上にも繋がり、最終的には昇進にも影響してくると私は思います。
イタリアで長く働いていた私から見ると、日本人は「自分は仕事でこういうことを成し遂げるんだ」というビジョンを持っている人が少ないように感じます。日本のマーケットでどうブランドを展開していきたいのか、自分は何をやりたいのか、そこを突き詰められる人は強いと思いますね。
そして、そのビジョンや取り組みたいことを諦めないのが大事です。最初の提案が採用されなかったとしても、上司の異動やマーケットの動向によって突然OKになることがあります。くじけることなく機会を伺い、提案していくこと。粘り強さを大切に頑張ってほしいです。
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