服飾系専門学校には、専門分野に特化した教育内容にひかれ、目的意識の高い学生が集まっている。高校から服飾を専攻した人、海外からの留学生、社会人経験者など多様な学生が、知識や技術の修得、課題の制作に励んでいる。学内外のコンテストに意欲的に挑戦したり、学内イベントでまとめ役を務めたり、バイトなどで忙しい合間を縫って主体的に学び、活動の場を広げる精力的な学生も多い。自身の夢の実現や可能性を広げるために頑張っていて、各校が期待をかける専門学校生の思いや学生生活の一端を紹介する。
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得意のグラフィック取り入れ
大阪文化服装学院 スーパーデザイナー学科4年 長谷雪花さん
幼いころから絵を描くなど表現することが好きだった。表現したいことを服に落とし込めるファッションデザイナーに興味を持ち、服飾系の学科がある高校に進学し、服作りを学んだ。
卒展作品のクオリティーの高さにひかれて大阪文化服装学院に、スーパーデザイナー学科を目指して入学した。パターンを学び、「初めは分からなくてしんどいと思った」が、何事も前向きに取り組む姿勢で乗り越えてきた。
「言葉よりもビジュアルで伝えるのが得意」と言うように、普段から映像や画像を数多く見る。グラフィックを使い、独自の雰囲気を構築できる点が強みだ。
3年生になり、自身のユニセックスブランド「キヨカハセ」を立ち上げた。モードの中に機能性を加えたアクティブウェアを中心に、〝装備としての衣服〟を提案。幼少期から好きな黒、得意とするグラフィック、メンズ調の要素を取り入れる。
ファーストコレクションは23年、アジアの若手デザイナーを発掘・育成するプロジェクト「アジアファッションコレクション」で、ブランド立ち上げ1年足らずにもかかわらず、グランプリを受賞した。
審査日程と、伊ポリモーダ校への短期留学が重なり、タイトなスケジュールだったが、「ポリモーダ校の図書館で日本にはない資料をたくさんインプットし、すぐにアウトプットできたことも成果につながったのでは」と振り返る。
卒業後は「コレクションブランドに就職し、もっと学びたい。そして、自分でブランド活動をすることが最終的な目標」と、将来を思い描く。
行動力強みに視野広げる
上田安子服飾専門学校 ファッションクリエイター学科スポーツファッションデザインコース3年 矢津真鈴さん
おしゃれな父の影響で、ファッションが好きになった。中学生の時、劇のための衣装をミシンで制作。着た人が笑顔で喜んでくれたことをきっかけに、「服の作り手になりたい」と強く思った。
岡山南高校の服飾デザイン科で学んだ後、「先輩が多く進学し、海外研修が充実している」上田安子服飾専門学校に入学。2年次に「視野をもっと広げたい」とスポーツファッションデザインコースを選択し、「ここでしか学べない多くのことを学んだ」。
「明るくて負けず嫌い」と自身を振り返る。中学生の時に、バレーボール部のキャプテンを務めた経験があり、コミュニケーションも得意だ。作品や課題の制作では妥協せず、自分が納得するまでとことん打ち込んできた。
持ち前の行動力を発揮する形で、在学中に商品企画アシスタントのアルバイトも経験した。古着リメイクブランドの立ち上げに携わったが、縫製ではなく、あえてネットショップや会計の仕事を担当。いろんな角度からプロのファッションの仕事を学ぶ機会とした。
24年6月に開催した「第153回上田学園コレクションプレタポルテ2024」では、キャンプ×遊び心をテーマに、ユニークで工夫を盛り込んだ服を制作。テントから着想したトップは水に強く雨でも使用でき、デザインに変化も加えられる。キュートな形状でシルバー地を使った中わた入りショートパンツは、枕や座布団として使える取り外し可能な付属を加えた。
25年春の卒業後は、スポーツ系企業に就職が内定している。ブランドのターゲット層は自分よりも年上。ある程度、デザインに制約はあるが、デザイナーとして「いろいろとプレゼンし合える機会を増やし、若い世代からも愛されるブランドにしたい」と抱負を話す。
見る人に気付きを与える
名古屋ファッション専門学校 テクニカルクリエーション科3年 田中愛友さん
高校を卒業したら就職するつもりだった。高校3年になって不動産の営業職の内定をもらい、入社前に働いていた。一方で「合わないかな」とも感じていて、卒業間近になって就職辞退を決断。ファッションが好きだったこともあり、急きょ進路を変更して、母と姉、親戚が卒業した名古屋ファッション専門学校への入学を決めた。
入学してから初めにパターンやデザイン画、マップ作りなど基礎をしっかりと学び、2年生の時、第98回装苑賞に応募し、ポートフォリオの1次審査を通過した。作品審査は通らなかったものの、手応えを感じた。
並行して制作を進めていた学内最大のファッションフェスティバルNFファッションフェスティバル2024では、グランプリに輝いた。テーマは「歪(ゆが)み」。バングラデシュ・ラナプラザの崩落事故の悲劇を題材に、パターン自体を歪ませたドレスの中に、風船を三つ忍ばせて舞台上で割るという演出で、社会のひずみを表現した。
「見ている人に気付きを与える制作をする」。田中さんが決めていることだ。制作時は、装苑賞の選考過程でコシノジュンコさんから「服としての美しさを追求して」とアドバイスをもらったことも生きた。
後輩には「興味を持ったことには、とことん突き進んでほしい」と話す。田中さんは「いつも何かを聞きに職員室に来ている」と先生が話すほど貪欲。3Dモデリングソフト「CLO」を習得するための授業でも、積極的な姿勢が光る。グランプリに輝いた学内コンテストではCLOを活用した。変化を恐れず、新しいテクノロジーや発想を取り入れ、成長を目指している。
アニメ風など新たな表現に挑戦
文化服装学院 ファッション工科専門課程ファッション高度専門士科4年 辻野伽凜さん
小さいころから絵や工作が好きで、高校時代は手作りアクセサリーを販売していた。服作りやデザインの道に進もうと文化服装学院に入学。服作りの勉強は初めてながら、教科書を見て創作意欲が高まり、「明日、着る服も作ろう」と課題の合間に週に何着か私服を制作。教科書や図書館で借りた本を見て、1年の時から50点以上の服を作り、改善点などをノートに書き、意欲的に学んできた。
2年生になって外部コンテストにも挑戦を開始。デザイン画の1次審査の壁に悩みつつ、1年の時から始めたインスタグラムでの作品の見せ方、撮影技術の向上に力を注いだ。プロ志望のモデルや照明、カメラマンとの協業により「表現力が磨かれ、服作りの発想も広がった」時期を経て、審査で結果が出始める。
2年次の3月に渋谷ファッションウィークで、「アニメルック」をテーマに制作した作品が好評。オーガンディや蛍光色の透ける素材を多用し、アニメの変身の場面効果風の動きのあるパーツで飾ったワンピースで注目された。「水曜日のカンパネラ」の詩羽さんほか、音楽ビデオやイベント、国内外の雑誌への衣装提供の依頼が相次ぎ、「アニメ風ファッションも、新しい分野の日本文化の一つとして需要があると気付き、方向性が見えてきた」。
アパレルデザイン科3年次は、学内外のショーやコンテスト、展示会で出品作品に選ばれるようになった。様々な分野のプロや企業から得た助言を制作に生かしつつ、レベルアップの必要を感じて今春、ファッション高度専門士科4年に編入した。10体から成る独自ブランド作りで、スタイリングの幅を出し、メイクや音楽、照明まで考えた表現を追求する。廃棄予定のテニス服を使い、テニス選手のイベント用などのリアル服作りに挑戦する予定。将来は独立し、服や映像で表現を続けたいと意欲を燃やす。
向上心絶やさず服作り磨く
マロニエファッションデザイン専門学校 ファッションマスター学科4年 杉浦美咲さん
母の影響で、中学生のころから編み物やぬいぐるみなどの服作りを始めた。「着て楽しむよりも作る側としての興味が強かった」ため、服作りが学べる高校に進学。マロニエファッションデザイン専門学校のオープンキャンパスに参加したことをきっかけに、4年次に好きなことを掘り下げられる同校のファッションマスター学科に入学した。
得意分野の縫製は、「まだ知らない技術を知ることができ、とてもいい経験になった」。イラストを描くことが苦手だったが、「悔しくて1年の夏休みに、1日1枚描き続けた。2年の時は出された課題よりも多く描くようにした」。こうした努力が実り、描いたものに対する評価も高くなった。自身の強みを「向上心」と振り返る。
「苦手なことを克服し、得意なことはさらに伸ばしたい」と努力を続ける。授業以外にも、手本にしたい服を買って、自分なりに再現し、同じ作り手の目線から多くのことをコツコツと学ぶようにしている。
3年次の「マロニエファッショングランプリ2024」では、アンノウンをテーマに、覆い隠した内面を感じさせるような作品を制作。ピンタックを駆使して凹凸感を出すなど、独自の表現力を見せてグランプリを受賞した。
卒業後は、第一志望の婦人服メーカーへのパタンナーとしての就職が内定している。上質で丁寧な物作りを掲げる会社で、「自分が好きな服を作っていて商品に一目ぼれした」と笑顔を見せる。
パタンナーで就職活動をしたのは、「デザインも楽しいけれど、パターンをもっと深めたい」と考えたから。「パターンを知ることで、デザインの幅も広がるはず。これまで以上に自分らしい物作りも実現したい」と目標を話す。
渡欧、料理人の経験生かす
エスモード・東京校 メタウェア専攻 飯島もゑさん
幼少期から服へのこだわりが強く、小学校ではデザイナーを夢見て、友達とブランドや服、店の内装を考え、ノートに書いて遊んでいた。高校卒業前の進路選びで「将来は海外でクリエイティブな仕事がしたい」と渡欧。イタリアのレストランで料理人として1年働き、「生活する大変さと楽しさ、物が少ない中である物を組み合わせたり自分で工夫して作ること、人とのコミュニケーションの大切さを知り、10年分の人生を経験した」と話す。
コロナを機に帰国し、二つ星のフレンチレストランで2年半働いた。様々な物を融合させ、日々クリエイティブを追求する姿勢をシェフの下で学ぶ中で「感性が豊かな若いうちに、ファッションデザインも勉強したい」と考えて昨春、英語で服作りを学べるエスモードに入学した。
フランス人の先生と約10カ国から集まった同級生と日本語通訳付きで学んでいる。育った文化や考えの違う人と話すと刺激を受け、視野も表現の幅も広がる。本格的な服作りの勉強は初めてで複雑な工程に驚いたが手を動かす作業は好き。周りの意見も聞き、物作りの核となる自分を掘り下げる授業も新鮮。料理の経験を生かし、ソースのような透明感のある服など独自の表現を探している。
2年に進級し、今年から始まったメタウェアの授業を専攻。3Dモデリングソフト「CLO」を使った服作りは、普通は使えない素材や形を試せ、環境問題などの制約もなく、「クリエイションを最大限に発揮し、やりたいことをやれる。現実では着る勇気がない服も、体形を気にせず誰もが楽しめる新たな表現の場」と可能性の広がりを感じている。
3Dとリアルの両方で服作りの技術と、英会話力を磨き、将来は海外を拠点に、「人生は楽しみながら自ら作ることが大切」と伝えられる服を作ることが夢だ。
校長推薦・ウチの逸材
“面白い服”で元気に
中部ファッション専門学校 スペシャリスト学科デザインコース3年 林咲良さん
24年2月の校内ファッションコンテストで、装苑編集部賞とKAZUKO賞をダブル受賞した。「フロム・ザ・グリーティング」と題し、あいさつを通じ、明るい気持ちになってほしいという思いを込めた作品だ。あいさつの文言があしらわれたスカート、ふわふわとした橙(だいだい)色のフリルや、ハリのあるキルティングのリボンが生み出すシルエットで、強さと優しさを表現した。
糧となったのは自分で研究し、服作りを実践する授業だ。アイデアを形にするために、先輩の作品やネットで集めた情報を血肉とし、思い描くシルエットを目指して何度もトワルを組み直した。アイデアをまとめ上げる力は、この試行錯誤で身につき、コンテストでも生かされた。作品の完成度の高さは審査員、教員の間でも評判だ。
現在、就職活動の真っ最中。目指すのは「一癖ある服作り」だ。様々な社会問題がある中でも、「日常に取り入れられる」独創性に富んだ〝面白い〟服作りで、人を元気にしたいと話す。
誰かのために行動したい
愛知文化服装専門学校 ファッションデザイン専攻科3年 谷平美和さん
「誰かのために行動すること」がモットーで、「記憶にないぐらい昔から服が好き」。ファッションの仕事に携わりたいと思い、オープンキャンパスで「ここだ!」と感じ、選んだのが、アットホームな雰囲気の愛知文化服装専門学校だ。
2年生の時、文化服装学院の連鎖校協会ファッションデザイン画コンクールで入賞した。デザインのモチーフは当時の自分を励ますような女神。「自分の気持ちをデザインにし、洋服にする」ことが、自らにとって大切だと実感した。
3年生では、デザイン能力向上に重きを置いたファッションデザイン専攻科に進んだ。今は創立記念ファッションショーの実行委員長を務めつつ、企画の授業でブランド立ち上げのクリエイティブディレクターも担当する。多忙ななか、メンバーとの対話を何より大切にする谷平さんの人柄について、稲葉美奈子先生は「優しく穏やか。芯も強い」と語る。
いま関心があるのは、ファッションと環境問題。学びながら、自分にできることを模索していく。
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